無職転生-魔術を極める- 作:魔術師見習いa
いつものように研究室に引きこもっていると、ルディが訪ねてきた。
「それで、私に聞きたい事って言うのは?」
「その魔法大学で召喚魔術を習おうとしたのですが、専門的に教えている教師がおらず、魔術ギルドにも中級が使える程度の人しかいないと言われまして」
「つまり、私に召喚魔術を教えて欲しいってわけね」
「はい。姉様なら召喚魔術も使えますよね」
「まあね」
四年もかけて解析したからね。
私以上に召喚魔術に詳しい人はいないでしょうね。
「けど、どうして召喚魔術を習おうと思ったの?」
「転移と召喚が似通っていることが分かったので、召喚魔術を学べば転移事件について何か分かるかと思いまして」
「なるほどね……」
さて、どうしようかな。
正直、ナナホシのこともあるから下手なことを教えられないのよね。
それにナナホシが魔力結晶を買い集めているらしいし、魔力がないから研究が思ったように進んでないみたいなのよね。
うん、ちょうどいいわね。
「悪いけど、ルディ。ちょっと事情があって私から教えることは出来ないわ」
「そうですか」
「代わりに、魔法大学で召喚魔術を専門的に研究している子を知ってるから、その子に教えて貰いなさい。あの子、魔力が無くて困ってるそうだから、ルディが魔力を貸してあげれば教えてくれると思うわよ」
「そんな人がいるんですね」
「ええ、特別生だからルディも知ってるんじゃない。サイレントっていう子よ。教員の誰かに聞けば場所を教えてくれると思うわ」
「分かりました。ありがとうございます」
「まあ、私が教えて上げられれば良かったんだけどね」
「何か事情があるなら仕方ないですよ。それでは、僕はこれで」
用事が終わると、ルディはさっさと帰って行ってしまった。
なんだか、私から魔術を教われないと聞いても残念そうに見えなかったんだけど、どうしてかしら?
「良かったんですか?」
「まあね。下手に私が干渉してナナホシに迷惑かけるのも悪いからね」
ルディが部屋から出ていった後、話しかけてきたアリシアに返して気になったことを聞いてみる。
「ねえ、なんでルディは残念そうじゃなかったのか、わかる?」
「エルシア様のきつい授業を受けなくて良かったからじゃないですか」
「私の教え方ってそんなにきついかな?」
「きついですよ。とてつもなく」
「……そ、そうなんだ」
無表情でジッと睨みながら言ってくるアリシアから目を逸らして研究室に逃げる。
今度誰かに教えることがあれば、もっとゆるく教えた方がいいかも。
ルーデウスside
姉様に断られた後、姉様が紹介してくれたサイレントのことをフィッツ先輩に話し、ジーナス教頭に居場所を聞いて向かった。
研究棟の三階、最奥の三つの部屋へ一人で行き、サイレントの予想外の正体に色々あって気絶した。
そして気が付けば、フィッツ先輩とサイレントと一緒に医務室に居た。
サイレントはオルステッドと一緒に居た仮面を付けた女だった。
オルステッドがここに居ないと言われて多少落ち着いた。
それからサイレントと少し話、サイレントの名前がナナホシ・シズカだと聞いた。
ナナホシは転移者で、元の世界に戻るために研究しているらしい。
召喚魔術の研究。
それには、まず魔法陣の基礎について習う必要があった。
この世界の召喚魔術は、基本的に魔法陣を利用して行われる。
攻撃や治癒といった動的な魔術を詠唱主体とするなら、召喚や結界といった静的な魔術は魔法陣が主体なのだそうだ。
姉様の研究資料から魔法陣とはどういうものかを学び、知識を得たらしい。
「あなたの姉、絶対におかしいよ。元の世界に帰るために研究資料を見たけど、彼女の魔術に関する知識や技術は、確実にこの世界の常識を超えてるわ。あなたの姉も転生者なんじゃないの?」
「姉様は転生者じゃないと思いますよ」
「どうして?」
「昔、僕も姉様が転生者じゃないとか疑ったことがあります。けど、姉様は幼少の頃に算術の勉強をいやいややっていました。転生者なら算術は問題なく出来るはずなのに、小学生レベルの計算も出来てませんでした。魔術の勉強を食事や睡眠より優先したがっていた姉様が、計算が出来ないふりをするとは思えないので、転生者の可能性は低いでしょう」
「つまり、ただの天才ってこと?」
「ええ、転生者だとおかしな点が他にもあるので、転生者の可能性はないと思います」
姉様が転生者である可能性はまずない。
それからナナホシと話し、ナナホシは魔力が全くないことや歳を取らないこと、姉様の研究資料から魔法陣の法則性を学び独自魔術の開発に成功した話を聞いた。
そしてナナホシは取引を持ち掛けてきた。
「あなたには、私の実験を手伝ってもらう。そしてあなたが知りたいことを、私が教える。知らないことなら、調べるわ。あなたの姉ほどじゃないけど、私も顔が広いし、調べ物には自信があるのよ。他にも、何かあったら手伝うわ」
「分かりました。というより、もともと実験に協力するつもりで来たんですよ」
「どういうこと?」
俺の言葉にナナホシは首を傾げて問いかける。
「姉様に召喚魔術を教えて欲しいと頼んだら、ナナホシを紹介されました。魔力が無くて困ってるから協力してあげて欲しいと言われてきたんです。協力すれば、召喚魔術に関しても教えてくれるだろうからと」
「そう……あの人がね……」
ナナホシは何か思うところがあるのか俯いて何か呟く。
姉様と何かあったのかな?
ナナホシは椅子に座り直し、ポケットから指輪を三つ取り出して身に着ける。
コホンと咳ばらいをして、問いかけてきた。
「じゃあ、さしあたって、何か知りたいことはある?転移事件について調べていると聞いたのだけど」
「えっと、誰から聞いたんですか?」
ちらりと目線を送ると、俺達の会話に混じれず、ちょっとムッとしているフィッツ先輩。
なるほど、俺が気絶している間に、彼と少し話をしたのか。
いきなり視線を向けられて、彼は不安そうに首を傾げる。
ナナホシに人間語で話すようにお願いして、事件について問いかける。
「例の事件の仕組みについてはわからないわ。けど、五年前、ちょうど私がこの世界に来た時と合致するわね」
ナナホシはやや言いにくそうにしていた。
この時点で、いくら鈍い俺でも、予想はつく。
「つまり?」
「おそらくあの事件は、私がこの世界にきた時の反動で起こったものね。つまり……」
ナナホシはそこで一旦、言葉を切った。
「つまり、私が原因という事になるのかしらね」
やはりか。
半ば予想していた答えだった。
召喚と転移がよく似ていること。
そして、ナナホシが召喚されたこと。
いくら俺がバカでも、これだけ条件が揃えばわかる。
むしろ、俺が原因じゃなくてほっとしているぐらいだ。
が、フィッツ先輩はそうではなかった。
「おまえがぁぁぁ!!」
普段聞いたことのないような大声で叫ぶと、ナナホシに向かって手を振り上げた。
「そっち!?」
ナナホシが指輪をつけた手を上げる。
指輪が光ると、フィッツ先輩の魔術が発動しない。
「ボクが、ボク達がどれだけあの災害で!お父さんも、お母さんも……お前のせいかぁ!!」
魔術が発動できないと分かった瞬間、フィッツ先輩はナナホシに飛び掛かった。
しかし、二つ目の指輪が光ると、その拳が空中でガツンと何かにぶち当たる。
「ちょっと、ルーデウス・グレイラット。見てないで助けなさいよ!」
ナナホシの焦る声を聞いて、フィッツ先輩を止めて落ち着かせる。
ナナホシも被害者であると告げれば、フィッツ先輩も止まった。
「ごめんなさい。ちょっと配慮に欠ける言い方だったわね。謝罪するわ」
「いや、いいよ。ボクの方こそ、いきなりごめん」
フィッツ先輩が落ち着いたところで、ナナホシが話を続ける。
「とにかく、例の事件については、私もよく分かっていないわ。あの事件によって私が召喚されたわけだけど、誰が、どんな目的で、そしてどうしてあんな災害になったのか。そのへんは、誰もわかっていないのよ」
「オルステッド……さんは、何も言ってなかったんですか?」
「ええ、こんなことは初めてだ、としか言ってなかったわね」
そうか、わからないか。
まあ、神と名の付く連中がわからないのなら、そう簡単には解明しないだろう。
「いや、一人だけ知っていそうな人に心辺りはあるわ……」
「そうなの!?」
「ええ、確証はないけど、何か知っているのは間違いないと思うわ」
「それは誰ですか?」
ナナホシの呟きにフィッツ先輩が食いつき、俺が問いかけると、ナナホシが俺を見ながら言いにくそうに答える。
「魔導神エルシア。あなたの姉よ」
「!?」
「姉様が……本当なんですか?」
「ええ、転移事件を起こした犯人ではないみたいだけど、私達が知らない何かを知っているのは間違いないと思うわ」
姉様が何か知っている可能性があるわけですか。
そういえば、転移事件について聞いた時や召喚魔術を教わりに行った時、何か言いにくそうにしてたな。
「何かあるんですね」
「ええ。あの人、私が転移事件で召喚されたと聞いても驚かなかったのわ。それにあの人、私を元の世界に戻す魔術を作れるって断言したのよ」
「え?」
それならなぜ、ナナホシは自分で召喚魔術の研究をしているのだろう?
「けど、協力は出来ないと断られたわ。代わりに、元の世界に帰るための魔術の研究に必要な物を提供してくれたけど、協力してくれない理由を教えてくれないのよね」
「そういえば、召喚魔術を教えられない事情があると言ってました」
「え?エルシア様が転移事件に関わってる可能性があるってこと?」
「分からないわ。彼女がどこまで転移事件について知っているのかも、教えてくれないから」
「……そうですか。わかりました。僕から姉様に聞いてみます」
「ええ、お願い」
「それじゃあ、今日のところは帰ります。具体的な手伝いの内容は後日伺います」
「分かったわ。それじゃ」
最後に短く言葉を交わし、俺はフィッツ先輩を連れて、その場を離れた。
ナナホシと話した次の日、姉様に話を聞くために家を訪れる。
「それで今日はどうしたの?」
いつも通り、リビングでソファに座り向かい合う。
「転移事件について聞きたいことがあります」
「そう。ナナホシに何か言われたのね」
姉様は一般常識をほとんど知らないとは言え馬鹿ではない。
俺が転移事件のことで姉様を疑っていることくらい分かっているはずだ。
なのに、全く表情が変わらない。
「姉様が転移事件について何か知っていると聞きました」
「はぁ……困ったわね」
ため息を吐き、年相応の困った表情で呟く。
あの事件の容疑者になってるにしては、あまりにも反応が薄い。
ナナホシの言っていた通り、犯人ではないから焦る必要が無いからか?
だとしたら、何を隠している?何を隠す必要がある?
姉様も直接的ではないにしろ転移事件の被害者のはずだ。
転移事件について知られて困ることなんてあるのか?
「一体、姉様は何を知っているんですか?」
「……前にも言ったでしょ。転移事件に関して知っていることは、ルディとたいして変わらないわよ」
「……本当なんですね」
「ええ、本当よ」
こんな明らかに疑われている状態で嘘をつく必要性が姉様にあるのか?
姉様が本当に俺以上のことを知らないのだとしたら、何か他に事情があるのか?
そもそも姉様はどうしてナナホシの研究に協力しない。
姉様なら異世界転移の魔術に興味が無いわけがない。
なのに、協力していない。
なぜだ?
「では、どうしてナナホシが召喚されていたことに驚かなかったんですか?どうしてナナホシに協力しないんですか?」
「……ルディ。私が転移事件について知っているのは、ナナホシが召喚された事とフィットア領が消滅し、住民が世界の各地に放り出されたことだけよ」
「……それが何だって言うんですか?」
確かに、姉様の言っている通りなら、俺の知っていることとほとんど変わらない。
「けどね。ルディは冒険者だけど、私は魔術の研究者よ。それだけの情報があれば、転移事件の真相を予想することは出来るわ」
「なっ!?」
たったそれだけの情報で、転移事件の真相を予想する?
そんなこと無理だ。
オルステッドと一緒に一年かけて世界を回ったナナホシも真相を全く知らなかった。
召喚術の世界的な権威にも話を聞いているナナホシが、全く分からないと言ってたのに、そんな少ない情報で真相を突き止めるなんて不可能だ。
「言っておくけど、真相が予想出来るだけで、真相の解明をするには情報が足りないから出来ないわよ」
「いえ、真相の予想に関しても情報が少なすぎる気がするのですが……」
「ただ、私の仮説に関しては話せないわ。これからナナホシの傍で研究を手伝うルディにはね」
「どうしてですか?」
「あの子の為よ」
あの子の為って、真相を知るとナナホシに良くないことでもあるのか?
もし良くないことがあるのなら、早く教えてあげた方が良いんじゃ。
「ナナホシのことを思うなら、教えてあげた方が良いんじゃないですか?」
「教えたところでどうにもならないわよ。どうにか出来るなら私とオルステッドがどうにかしてるわ」
姉様とオルステッドの二人でもどうにもならない問題。
確かに、知ったところでどうにもならないかもしれない。
「こっちの問題は、私が何とかするわ。だから、ルディはナナホシを支えてあげて」
「支えてと言われても、僕は大したことできませんよ」
「ルディなら出来るわよ」
「まあ、出来るだけのことはしてみます」
「ええ、よろしくね」
姉様の言っていることが、どこまで本当か分からない。
けど、優しい口調で、ナナホシを気遣うような態度を信じてみよう。
姉様が人を騙して陥れるような人だとは思えないし、余程の事情があるんだろう。
しかし、そうなるとかなり複雑な事情をナナホシが抱えているということになるのか。
あいつも大変そうだな。
やっぱり、エルシア以外の視点って難しい。
エルとオルステッドの二人が、どうにもならないものをどうにか出来る人なんてあの世界にいるのだろうか?