無職転生-魔術を極める- 作:魔術師見習いa
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魔法大学に戻って来た私をアリシアとエミリーが迎えてくれた。
「ただいま」
「「おかえりなさいませ」」
荷物を二人に預けてソファに座り、二人が戻って来たところで問いかける。
「二人とも読み書きと算術は出来るようになった」
「はい、私もエミリーも出来るようになりました」
「そう。じゃあ……次は、聖級魔術を教えましょうか」
取り敢えず、攻撃魔術と治療魔術の聖級を教えて後は自力で習得させましょうか。
魔法大学でも教えるのは聖級までだしね。
解毒に関しては教える量が多いから面倒だし、結界と神撃は教えられないからね。
召喚術に関しても彼女達が習得したいなら自分で習得するでしょう。
「とは言っても、貴方達が半年の間練習をサボってないなら、すぐに終わるわね」
「エルシア様、聖級を簡単に習得できる者はごく一部ですよ」
「エルシア様にはもう少し常識を学んで欲しいですね」
「知っているわよ。貴方達の実力を考えて言ってるの」
この二人、たまに失礼なことを言うわよね。
まあ、崇拝してとか、尊敬して欲しいわけではないからいいけどね。
「明日の内に全部教えるから、しばらくはシャリーア郊外で無詠唱での練習しなさい」
「分かりました」
二人の今後の予定を決めたので、私は魔術の練習をして眠る。
翌日の午前中に二人に聖級を詠唱してお手本を見せる。
その後、二人に詠唱で一度やらせた後、無詠唱で発動させる。
二人とも無事に無詠唱で聖級魔術を発動させることが出来た。
「じゃあ、魔力が無くなるまで練習ね」
「分かりました」
「エルシア様は帰られるのですか?」
二人の練習を見ずに帰ろうとしたところをエミリーに問いかけられた。
私は二人に視線を向けて返す。
「ええ、私もやることがあるから」
「やることですか?」
「私、初心者用の杖しか持ってないし、ローブも購買で売ってる奴だから、そろそろ本格的な装備作ろうかなって」
「……その杖とローブに拘りがあるのかと思ってました」
「杖はともかく、ローブは身近で手に入るから買ってただけよ」
「お金はあるのですから、いくらでも良いものが買えるでしょうに……」
確かにお金はあるけれど、別にローブとか興味なかったのよ。
基本的に研究室に引きこもって研究してるだけだしね。
杖もロキシー先生に貰ったものがあったし、魔力を増幅させなくても神級を一万以上連発出来る魔力があるから必要なかったしね。
「それにしても、どうして作ろうと思われたのですか?」
「そうですね。興味が無かったのですよね」
「最近、成長の限界が近いのか魔力の伸びが悪いのよ。そろそろ魔力を効率化するために、杖を作ろうかなって」
「初心者用の杖ではだめなのですか?」
私は掌に拳大の魔石を作る。
適当に作ったから透明度はそこまで高くないけど、杖に使うなら十分効果が高い魔石。
それを二人に見えるように手に持った状態で、私の全力の魔力を込めて水球を作って見せる。
莫大な量の魔力を込められた魔石は私の手の上で粉々に砕け散る。
「このサイズの魔石で砕けるのに、初心者用の杖で耐えられるわけないでしょ」
「……杖は分かりましたが、ローブは?」
「ついでよ」
「まあ、エルシア様ならそうですよね」
二人は呆れた顔をして私がシャリーアに帰るのを見送る。
二人が聖級を使いこなすのに、それほど時間は掛からないでしょう。
私の杖もそうだけど、あの二人にも杖を作ってあげないとね。
従者として仕えて貰っているし、良い杖を送らないとね。
私が普段借りている研究室に戻り、杖を作るのに万が一失敗した時に大変なことにならないように全力で結界を張る。
結界が機能しているのを確認して杖作りを始める。
魔石を生成する魔術に膨大な魔力を注いでいく。
魔力を注ぎながら魔術を通して複数に分割し、それぞれに属性を持たせていく。
様々な属性を持たせた魔力を反発しないように丁寧に混ぜて調和させる。
複数の属性を混ぜて調和させた魔力を極限まで圧縮して魔石化して杖を形作っていく。
少しでも制御を誤れば魔力が反発して大事故になりかねない。
全神経を集中させて慎重に魔力を制御する。
杖の柄を作り終え、杖の核となる魔石には属性を持たせず、ただひたすらに魔力を圧縮して作る。
柄の部分とは比較にならない量の魔力を圧縮して人の頭くらいの球状の魔石を作り出す。
柄に三割、核に五割の魔力を使ったことで疲労感に襲われながらも魔術に集中する。
残った魔力を使い、柄と同じように属性を持たせて核を柄に固定する。
核を三つの輪で固定し、六つある交点の一つと柄を繋げて固定する。
魔石化が終わり、杖が完成したと同時に魔力切れにより気絶した。
杖作成の前に張っておいた結界が解けた後、聖級魔術の練習から戻ったアリシアとエミリーに見つけられて寮まで運ばれた。
私の全魔力を使った高純度の魔石だけで作られた杖を見て二人は呆れていた。
「拳大の魔石でダメなのは見せてもらいましたが、魔石で杖を作るとは思いませんでした」
「それに、その白い魔石は何属性なんですか?」
「ああ、これは複数の属性を混ぜ合わせてるのよ。こんな綺麗に真っ白になるとは思わなかったけどね」
「核の魔石は透明なのに、柄や固定部には属性を持たせたんですね」
「魔力が足りないから仕方ないのよ。柄とかに属性を持たせなかったら、さらに大量の魔力がないと性能が落ちるから、制御が格段に難しくなるけど、複数の属性を混ぜることで全属性を強化出来るようにしたの」
「……そうですか」
「杖のことは分かりました。ただ、次からは倒れそうなら前もって言っておいてください。寮に戻ってもエルシア様が居ないので、探しましたよ」
「ああ、そういえば、言ってなかったわね」
まあ、本当は気絶する予定は無かったしね。
いつも魔力切れしてるから魔力切れても多少は動けるから大丈夫だと思ったんだけど、予想以上に精神的に疲れたのが原因よね。
魔力の限界が近いなら、制御を意識して鍛えて魔力と出力はついでくらいにしようかな……
まあ、今後の練習内容は置いておいて、今日はローブを作りましょう。
朝食を食べて外出の準備を整える。
「じゃあ、私はローブを買いに行ってくるわ」
「ローブは買うんですか?」
「ええ、買ったローブを魔道具にするのよ」
「そういうことですか」
「そう。じゃあ、行ってくるわね」
「「いってらっしゃいませ」」
二人に見送られて私は商業区で高級な服屋に入り、店主に魔術師用のローブを見せてもらう。
細かい刺繍が入っているものが多いな。
あまり刺繍の入っていない、シンプルなデザインの黒色のローブを選んだ。
ついでに、ローブの下に着るスカートの丈が膝下まである白を基調とした服を三着くらい買っておく。
服を寮に置いて買って来たローブを持って研究室に移動する。
杖の時とは違い、ローブの内側に見えないように魔法陣を描き込むだけだから簡単なんだけどね。
書き込むのは、私のオリジナルの結界魔術の魔法陣。
小さな正六角形状の結界を隙間なく並べた物理、魔術、熱を遮断する結界を張る魔術。
小さな正六角形状の結界は特殊な結界魔術で強く繋げられ、物理、魔術、熱を伝達させて分散させて力が一点に加わらないようにすることで結界の強度を高めている。
普段は周囲の魔力や私の余分な魔力を使って結界を張り、攻撃を受けた際には受けきるのに必要な魔力を自動的に吸い上げる。
魔道具の作り方は頭の中に入っているけど、時間は掛かるのよね。
魔道具を作り終えた頃には日が暮れ始めていた。
私が寮に戻って少しすると、アリシアとエミリーの二人が戻って来た。
ローブの説明をすると、エミリーが問いかけて来る。
「ローブで守れないところはどうするんですか?」
「戦闘時は、これと同じ結界を球状と身体を覆う形で二枚張るから、ローブで守れない場所でも二枚破られない限り大丈夫」
「本当にローブ必要だったんですか?」
「戦闘する機会があるかは分からないけど、準備しておくに越したことはないわ」
「何と戦うつもりなんですか?」
いつものように呆れた顔をする二人に私は少し考える。
神級魔術師になったとはいえ、私は戦闘技術が高いわけではない。
剣術で神級になった者と比べれば、確実に弱い。
準備する理由としてはおかしくないはずだよね。
「私から戦いを仕掛けることはなくても神級の相手に襲われる可能性はあるのだから、準備は必要でしょう」
「神級なんて世界でも数えるほどしかいませんよ。そこまで警戒する必要性はないでしょう」
「まあ、戦いにならないなら、それで良いのよ」
戦わないといけない理由があるならともかく、基本的には研究して過ごしたいしね。
次は魔力付与品の作り方でも研究しようかしら、それとも闘気の研究がいいかな。
まあ、その前にアリシアとエミリーの杖を作らないといけないわね。
翌日、二人が練習に出た後、商業区で最も良い木材を購入して研究室に向かう。
アリシアは風、エミリーは水の魔石を作り、杖を作る。
私の杖と違って魔力に余裕はあるけど、凝ったデザインの杖なんて作れないからシンプルなので許してもらおう。
その代わり、性能はかなり高いものにしておくからね。
杖のデザインに拘らずに急いで作ったこともあり、一日で作成することが出来た。
寮に戻り、二人がしばらくして二人が帰って来た。
「二人とも、おかえり」
「「ただいま戻りました」」
「二人に渡すものがあるわ」
私の言葉に二人は顔を合わせて首を傾げる。
不思議そうな顔をしながらも私の前に来る。
私が作った杖を取り出すと、二人とも少し驚いたような顔になる。
「師匠の話では、初級魔術が使える弟子に杖を作るものだそうですが、忘れていました。なので、今回私の杖も作ったので、貴方達の杖も作りました。私の杖と比べれば性能は低いけど、一般的な杖と比べればかなり高い性能があるわよ」
二人は私が渡した杖をじっと見つめる。
少し杖を見つめた後、二人は一度顔を合わせて私に頭を下げて来る。
「「ありがとうございます、師匠」」
「大切に使ってね」
翌日は三人でそれぞれの杖の性能を調べる。
私の杖は、魔術の効率化は全魔術三十倍くらいかな。
ただ、最大出力は神級魔術の三倍くらいが限界かな。
魔術の効率化は出来たけど、出力を上げるのは簡単じゃないわね。
アリシア達の杖は相性が良い魔術が五倍、悪い魔術が二倍、それ以外が三倍くらいかな。
二人の杖もっと強化しても良かったかな?
まあ、二人は嬉しそうだし良いか。
杖を作ってから一年近く、私は魔力付与品の研究を進めた。
研究の結果としてはある程度の魔道具は作成が可能というくらいの成果は出た。
作り方は持たせたい能力の魔術を生成し、発動させてない状態の魔力を物品に馴染ませる。
馴染ませるのに魔力の密度が高いほど短い時間で済む。
ただし、効果は普通に魔術を発動させたものと比べれば低い。
効果を高めるには高密度の魔力に長時間馴染ませる必要がある。
馴染ませた魔力がすぐに霧散することはないけど、魔力付与品として安定するまでは少しずつ霧散していく。
一日置いたくらいではほとんど霧散しないからいいけど、何日も魔術を発動前の状態で何時間も維持し続けないといけない。
試しに神級魔術の魔力付与品を作ろうとしたけど、一ヶ月かけて漸く帝級が限界だった。
私の使っている神級の結界と治癒魔術を所有者の危機など魔力付与品専用の発動条件を設定して作った。
時間が掛かる上に効果が弱い、その上、作れる人間は魔術の生成プロセスを熟知している上に、膨大な魔力を持っている必要がある。
これはどうしても必要な物以外は作る価値無いわね。
魔力付与品の研究を切り上げて数日後、魔法大学の校長に呼ばれて会いに行くと、手紙を渡された。
何でも七大列強の二位龍神オルステッドが私に会いたいそうだが、向こう側の事情により郊外で話したいとのことらしい。
場所はシャリーアの北に少し行ったところにある森の入り口で待っているそうだ。
校長の話と手紙の内容を確認して間違いなさそうだ。
七大列強の二位が私に何の用があるのだろうか?
手紙によれば確認したいことがあるそうだから、戦闘にはならないと思うけど……
念のために多少は警戒して行こうかな。
一応、シャリーアから出た後は闘気を纏い結界も身に纏うように張って、手紙で書かれていた場所を目指す。
目的の場所が見えてくると、明らかに強い魔力を持つ何かがいることだけは分かった。
魔力を持つ何かに近づいていくと、向こうも私のことに気づいているようでこちらを見ている。
銀髪に金色の三白眼の男が私のことを警戒して見ている。
ただ、私が気になったのはそんなことではなく、彼が纏う闘気だ。
通常の闘気ではない、明らかに特殊な闘気を纏っている。
呼び出された理由などこの際どうでもいいから、闘気について教えてくれないだろうか。
まあ、先に彼の用事を終わらせて聞いてみよう。
「貴方が龍神オルステッドですか?」
「ああ、何人か仲間を引き連れて来るかと思っていたが、一人か」
「ええ、変な誘い出しで警戒はしましたが、もし七大列強の二位と本気で戦うことになれば、神級以下は連れて来るだけ意味がないでしょう」
「ふん、まあいいか。目を逸らさないな」
目を逸らさない?なるほど、恐怖か何かを与える呪いでも持っているんでしょうね。
「呪いのことを言っているなら、私には効いてないみたいね。効かない理由は分からないけど、色々と研究させてくれるなら効かない理由を突き止められるわよ」
「いや、いい」
「そう。それで、手紙に書いてあった確認したいことって言うのは何?」
「まず、名を聞きたい」
「私の名前知らないの?」
「魔導神エルシアと呼ばれる神級魔術師ということしか知らない」
私に聞きたいことがあるって言うから、魔術関連だと思ったけど、違うかな?
「エルシア・グレイラットよ」
「ふむ、グレイラットか。親の名は?」
「パウロとゼニス」
「ふむ?パウロには娘が二人きりのはず……」
それは一体どこの情報よ。
仮にアイシャを覗いてノルンと私だとしてもルディが入ってないじゃない。
「どこで聞いた情報か知らないけど、ルーデウスっていう私と双子の弟も居るわよ」
「……人神という単語に聞き覚えはあるか?」
「人神?…………ん~」
私と同じような神級魔術師とかかな?
けど、そんな人知らないし、聞いたことない。
剣術の場合は剣神、水神、北神よね。
種族の長ということなら、聞いたことが無いのがおかしい。
「知らないわね。その人の居場所を探して私の所に来たの?」
「いや、関りがないのならいい。呼び出して悪かったな」
人神とかいう人を知っているかの確認のためだけに来たのは本当のようね。
帰ろうとする彼を呼び止める。
「ちょっと待って」
「なんだ?」
「貴方の闘気、普通の闘気ではないわよね」
「それがどうした?」
「研究したいから闘気の詳細教えてくれない」
「……悪いが、手の内を明かすほど信用していない」
「そう、引き留めて悪かったわね」
教えてくれないなら仕方ない。
いつも通り自分で研究して調べればいいよね。
彼も少し私のことを見ていたけど、すぐに去っていった。
私も研究をするためにシャリーアに少し急いで戻る。
目標は闘気でも神級の結界に近い防御力と最高効率の身体強化ね。
龍神が来てから数か月で闘気の研究は格段に進んだ。
体の表面を覆う魔力量を増やし、結界と同じ構造を作ることで防御力を高められるようになった。
身体強化に関しては使わない場所の魔力を減らし、使う場所の魔力を増やすことで効率を上げた。
使っている魔力量もあって神級の結界並みの防御力はあるでしょう。
ただ、研究に夢中で気づいたら十歳。
三か月前に十歳の誕生日に帰れないと手紙を出したが、次に帰った時に怒られそうね。
まあ、ルディも十歳で帰らないらしいから、もしかしたら怒られないかも……
まあ、研究を優先したのだから、大人しく怒られよう。
「エルシア様、アスラ王国の方の様子がおかしいです」
「ん?」
研究室の扉を開けてアリシアが慌てた様子で入って来た。
よく分からないまま、アリシアにつられて外に出る。
外ではエミリーがアスラ王国の方角を見ていた。
私もアスラ王国の方角を見ると、空の色が明かにおかしい。
「凄い魔力。あれは召喚術?けど、あの規模の魔力で何を召喚する気なのかしら……」
「エルシア様はアスラ王国の出身ですよね。何か事件が起きている可能性もありますし、急いで向かわれた方が良いのでは」
確かに、何が召喚されるか分からないけど、アスラ王国を滅亡させるために危険な魔獣を召喚しようとしている可能性もある。
けど、馬車で向かったんじゃ、急いでも三か月はかかる。
「二人とも商業区で一人分の旅の準備をしてきて、私は半年間の休校申請と魔術ギルドでお金を少し下ろしてくる」
「一人分ですか?」
「私達もついて行きますよ」
「悪いけど最短距離でいくから、貴方達は連れて行けないわ」
「最短距離ということは……」
「ええ、赤竜山脈を超えるわ」
「……分かりました」
「後、向こうについて必要な物が出来たら手紙を召喚魔術を使って送るから、私が用意した魔法陣に手紙が来ていたら用意して魔法陣に置くのよ。手紙を送った次の日に召喚魔術で回収するから、なるべく魔法陣を監視しておくように」
「分かりました」
「じゃあ、準備よろしくね」
「「はい」」
二人は私の言葉に頷いて商業区へ向かう。
二人を見送り、視線をアスラ王国の方角に向けると、空が白く染まる。
私も急いで校長に会いに行く。