無職転生-魔術を極める-   作:魔術師見習いa

8 / 15
異世界人と龍神

 アリエル王女と会った日から数か月経ち、私の卒業の日が近づいて来た。

 正直、卒業してもこれまでと何も変わらず、研究の日々が続くだけなのでそこまで興味はない。

 いつも通り研究の日々を過ごしていたある日、校長に呼び出された。

 校長に呼ばれるようなことは、龍神オルステッドから呼び出された時以来かな。

 卒業後に関することかなっと予想しながら、校長室に行けば手紙を渡された。

 

 予想とは違ったけど、前と同じようにオルステッドに呼び出されたようだ。

 手紙の中を確認すると、話したい事があるので前回と同じ場所で待つとのこと。

 わざわざ郊外まで行かないといけないのは面倒だけど、彼の呪いを考えれば仕方が無い。

 私は小さくため息をついて前回と同じ場所に向かう。

 遠目にオルステッドが見えた時、傍にもう一人を見て目を見開く。

 見間違いかと思い魔眼を凝らして見てみるが、結果は変わらなかった。

 

 魔力を全く持たない人間が実在するなんて……

 まさか、彼女について何か聞きに来たのかしら?

 

 オルステッドの傍にいる少女について考えながらオルステッドに近づく。

 

「久しぶりね。話って言うのはその子の事?」

「ああ、そのこともあるが、お前の弟についてだ」

「ルディについてということは、会ったの?」

「ああ、赤竜の下顎で会った」

「いつ頃会ったの?」

「数か月前だ」

 

 ということは、アスラ王国の辺りには居るのね。

 ん?それだとオルステッドの移動が早すぎるような?

 何か特殊な移動手段があるのかしら?

 まあ、今はそれはいいわ。

 

「それで、ルディがどうしたの?」

「少し事情があって、殺した……」

 

 オルステッドが「殺した」と言い終えたのと同時に、氷撃、衝撃波、火球弾、岩砲弾、雷撃の五つの魔法を叩きこむ。

 魔力を込める時間を短くして一瞬で五つも放ったのに、ほぼ全てに対処された。

 傍にいた少女が巻き込まれないように、氷撃、火球弾、岩砲弾ははじかれた。

 雷撃を受けて動きが一瞬鈍ったせいで、衝撃波は受け流せなかったようで森の中に吹っ飛んでいったが、ダメージはなさそうね。

 ギリギリ帝級あるか程度の威力とは言え、五つの魔術を撃ちこんで無傷って嘘でしょ……

 こんな化け物が二位って、一位はとんでもない化け物ね。

 

「どんな事情か知らないけど、弟を殺されて私が怒らないと思ったの?」

「待て、話を最後まで聞け」

 

 木々をへし折りながら飛ばされたはずのオルステッドは、何でもないように立ち上がり私に声を掛けて来る。

 攻撃されてなお、戦う気が無いのか構えてすらいない。

 

「話って言うのは、ルディを殺した理由について?」

「ああ、ルーデウスはヒトガミの使徒だった」

「ヒトガミ?」

 

 そういえば、前に会った時もヒトガミがどうのって言ってたわね。

 ヒトガミの使徒だからなんだっていうの?

 

「ヒトガミの使徒だか、何だか知らないけど、家族が殺されて納得する理由なんてあるわけないでしょ!」

 

 先ほどとは違い、魔力をしっかりと込めた帝級の魔術を十発撃つ。

 使った魔術は一種類で、私が作り出した特殊な魔術。

 オルステッドは、先ほどと同じように素手で魔術をはじこうとする。

 しかし、両手が魔術に触れた瞬間に手が凍り付いたことで、動きが止まり十発の魔術が当たった場所が凍る。

 魔力を見る限り、骨までは凍ってないのね。

 複雑な術式と大量の魔力を使う割に、大した威力が出ないわね。

 

「何をした?」

「貴方の魔力を使って凍らせたのよ」

「何!?」

「闘気で防御力を上げてる相手には有効だと思ったんだけどね。相手の制御された魔力を奪って魔術を発動させるのは、簡単じゃないわね。魔力が少ない相手には意味がないし、貴方ほど魔力制御が優れてると、効果が薄いみたいだし」

 

 使い勝手が悪いわね。

 普通に魔力を込めて撃ち込んだ方が効率が良さそうね。

 威力を上げても手数が少ないとはじかれるか、避けられるだけよね。

 手数を増やせば、直撃してもダメージが入らない。

 

 周りへの被害を考えなければ、やりようはあるけど……

 アリシアとエミリーも巻き込みかねないし……

 シャリーアにはルディの友達もいるし……

 

「待って!貴女の弟は生きているわ!」

 

 オルステッドと一緒に居た少女が仲裁に入って来たので土の鎖で拘束する。

 オルステッドを警戒しながら少女に問いかける。

 

「オルステッドはルディを殺したって言ったわよ。それなのに生きてるってどういう意味?命乞いならしなくていいわよ。貴方を殺す気は最初から無いから」

「命乞いじゃないわ。オルステッドが貴女の弟を殺そうとしたのは事実だけど、殺してはいないわ」

 

 彼女が言っていることが本当の可能性もあるけど、オルステッドがわざわざ殺したという意味が分からない。

 それに彼女がわざわざ嘘をつく理由も分からない。

 ああ、腹の探り合いは苦手なのよ……

 

 少女の首に金属の首輪と作り出し、少女の頭上に大木のような土の大剣を作る。

 オルステッドが大剣を破壊しないように神級の結界で私達の周りを守る。

 オルステッドなら破ることは出来るだろうけど、大剣が落ちるまでの時間稼ぎくらいにはなるでしょう。

 

「その首輪は私が作った魔術で嘘を判別出来るわ。もし、貴女が嘘をつけば頭上の剣が落ちるようになってるわ。慎重に答えなさい、ルディは生きているの?」

「……生きているわ」

「……」

 

 少女が答えたを聞いてオルステッドが動く様子もないし、少女も死んでいないことを驚いてるようにも見えない。

 嘘を判別する魔術が無いってバレているのかな?

 ルディが本当は死んだと言った場合、私がやっぱり嘘じゃないかと怒って殺すと思っている可能性もある。 

 オルステッドが何とかすると思っている可能性もあるかな。

 けど、そのオルステッドは動こうとしなかった。

 ん~、分からない。

 

 はあ、いくら考えても分からないし、彼女の言葉を信じるしかないか。

 

 少女を拘束していた鎖と首輪と頭上の大剣を消す。

 

「詳しく説明してくれる?」

「ああ、最初からそのつもりだ」

 

 オルステッドに声を掛けると、ゆっくりと近づいて来た。

 先ほどの魔術で凍った傷はすでに治されているわね。

 大した傷では無かったけど、無詠唱で治療魔術も扱えるのね

 

 土魔術で作った椅子に座り、ゆっくりと話を聞く。

 結局二人とも言ってることは間違いではないそうで、ルディは確かに殺したがすぐに治療したらしい。

 ルディを治療した理由は、少女・ナナホシの方にあるみたいで、オルステッドは治す気はなかったみたいだし。

 話を聞いた限り、ルディがヒトガミの使徒だということだけで殺している。

 

「なんで使徒ってだけで殺すのよ」

「ヒトガミの使徒はほうっておくと強大になるから、早めに叩いておく必要がある」

「ヒトガミの関係者ってだけで、敵確定なのね……。ヒトガミに何をされたのよ?」

「ヒトガミは……父の仇だ」

「……そう、ヒトガミを恨む理由は分かったわ」

 

 ヒトガミを恨むせいで、自分も恨まれてたら意味がないでしょうに……

 まあ、私も人のことは言えないんだけどね…………

 

「これ以降、ルーデウスが何かして来ない限り、俺がルーデウスを狙うことは無い」

「そう」

「ルーデウスがこれからどうなるか分からないが、ヒトガミが利用していることは確かだろう」

「その結果、ルディが不幸になると?」

「それは分からんが、ロクな結果にはならないだろうな」

「……分かったわ。私に何か出来るか分からないけど、気にかけておくわ」

 

 取り敢えず、ルディの話は終わった。

 次は、ナナホシの話ね。

 

「それで、彼女は何なの?」

「フィットア領で起きた転移事件の際に召喚された異世界の人間だ」

「なるほどね」

 

 やっぱり、あれは召喚術であっていたわけね。

 違和感があったのは、通常の召喚術とは違う異世界から召喚するからだったからかしら?

 まあ、何となく転移事件のことは理解出来た。

 真実が何だったのか分からないけど、大体の仮説は立てられそうね。

 

「それで私に何を聞きたいの?」

「異世界から人間を召喚する魔術やそれを扱う人に心辺りはない?」

「残念ながら無いわね。異世界があることも初めて知ったわ」

「そう……異世界に人を送り返す魔術は作れる?」

 

 ナナホシはあまり期待してないような声で問いかけて来る。

 これまで、いろんな人に聞いてダメだったのでしょうね。

 

「作れるわよ」

「そ、え?つ、作れるの?」

「すぐには無理だけど、時間があれば作れるわよ」

「お願い!私に出来ることなら何でもするから、協力してください!」

 

 やっと見つかった元の世界に帰れる可能性だからか、必死に頭を下げて頼み込んでくる。

 

「……悪いけど、協力してあげられないわ」

「ど、どうして……」

 

 縋るように、私に理由を問いかけて来る彼女には悪いけど、今は無理なのだ。

 二人の話が本当であれば、彼女はルディの命の恩人だけれど、協力は出来ない。

 

「転移事件に巻き込まれた私の家族は、まだ見つかっていないわ。私は、家族を見つけるための魔術の研究で忙しいのよ」

「その魔術は、いつ出来るの?」

「どんなに遅くても一年くらいで出来るわ。その後は、どうなるか分からないわ」

「じゃあ、二、三年後には、協力してくれるの?」

「……約束は出来ないわ」

 

 私の言葉にナナホシは俯く。

 ルディの恩人でも、私は彼女を元の世界に返す魔術を作ることは出来ない。

 私の仮説が正しければ、私が作っては意味がない。

 彼女が何かしなければ、彼女が帰ることは無理でしょう。

 

「ただ、異世界転移魔術の研究に必要な知識も提供してあげるわ」

「それって、私が自分で研究しろってこと?」

「ええ、私が研究した魔術の理論を理解出来れば、貴女にも作れるはずよ。それと貴方はルディの恩人だから、身の安全は私が保証するわ」

「分かったわ」

 

 ごめんなさいね。

 ナナホシには本当に申し訳ないが、私がどうにか出来ることではない。

 彼女に私の仮説を話したところで納得なんてしないでしょう。

 むしろ、話してしまえば、心が折れる可能性もある。

 

 召喚魔術で紙とペンを召喚し、土魔術で机を作る。

 紙に校長宛に手紙を書く。

 彼女の特別生待遇での入学させ、彼女の研究に必要な資料を用意し、魔術ギルドにも資料を提供するように伝えるよう書いて、ナナホシに渡す。

 

「この手紙を持って魔法大学に行けば、研究の環境を整えてくれるわ」

「貴女は一緒に来ないの?」

「少し、オルステッドと二人で話すことがあるのよ」

「そう」

 

 ナナホシは少し不思議そうに首を傾げ、オルステッドに少し話した後、シャリーアの方へ歩いて行った。

 ナナホシの後ろ姿を見送り、声が聞こえないくらい離れたのを確認してオルステッドに視線を向ける。

 

「それで、話とはなんだ?」

「ナナホシと転移事件についてよ」

「なぜ、ナナホシに話さなかった?」

「彼女が絶望するかもしれないからよ」

「どういうことだ?」

 

 ナナホシの歩いて行った方を一瞥し、ほとんど見えないことを確認して説明する。

 

「私の仮説が正しければ、彼女は帰れない可能性が高いわ」

「転移事件について何か知っているのか?」

「特別な情報は持ってないわ。知っている情報は貴方より少ないかもね」

「なら、どうしてナナホシが帰れないと思うんだ?」

 

 オルステッドも少し考える素振りを見せたけど、分からないようで説明を求めて来た。

 目つきが悪いせいで、睨んでいるようにも見える顔で問いかけて来る。

 呪いが無くても怖がられそうな顔してるわよね。

 まあ、今は転移事件について説明した方が良いわね。

 

「まず、転移事件についてだけど、原因はナナホシを召喚する魔力の確保でしょうね」

「魔力を周囲から集めて発動させたわけか。お前も似たような魔術を使っていたが、可能なのか?」

「人には無理でしょうね。そもそもあれは人が起こした魔術ではないわよ」

「ん?召喚術の権威は『何者かの手によって、この世界に召喚されたのではないか』と言っていたが」

 

 誰がそんなことを言ったのかしら?

 

「まあ、間違いではないでしょうね。何者かの影響で召喚されたのは間違いないわけだし」

「だが、人が起こしたものではないのだろ」

「ええ。分かりやすいように、人が起こしてない根拠から話していきましょうか」

 

 オルステッドに視線を向ければ、頷いて続きを促してくる。

 

「まず、人が起こしたと仮定した場合、術者はとんでもない化け物ね」

「お前がそこまで言うほどか……」

「ええ。あれを人が起こす場合、無詠唱で神級魔術を扱えることが最低条件ね。その上で、術者を特定させない隠蔽力、自然界の魔力を緻密に扱う制御力、フィットア領が消滅するほどの範囲外から制御する遠隔制御力、それだけの能力が揃っても出来るか分からないわ」

「なるほど。確かに、異常だな」

「一番異常なのは、魔術との繋がりを完全に断ち切っていることよ」

「どういう意味だ?」

「魔力が枯渇した状態で、魔術を使えば髪が白くなるでしょう」

「ああ」

「あれは、髪の色素を魔力に変換してるのよ。人体の必要のないものから削られていき、最終的には重要な臓器が削られて死ぬことになるでしょうね」

 

 私の説明にオルステッドが考え始めた。

 少し待っていると、私が言いたいことを理解したようで目を見開いて私を見る。

 

「つまり、足りない魔力を自分から奪われないように、繋がりを断ち切ったということか」

「ええ。魔力が足りなくても、何の代償も無く好き放題魔術が使えることになるわ」

「お前の言う通りなら、人が起こせるとは思えないな。だが、術者が転移事件に巻き込まれて消滅しているとすれば、不可能とは思えないが」

「そうね。術者が巻き込まれていれば、必要な条件はかなり減るわ」

 

 まあ、それでも異常な技術が居るのは確かだけれどね。

 オルステッドが言うように、術者が巻き込まれないということは不可能としか思えないけど、巻き込まれていいのなら、出来そうにも思える。

 

「巻き込まれていたなら、おかしなところがまた出て来るわ」

「おかしなところ?」

「場所よ」

「……なるほど、魔力量か」

「ええ。周囲の魔力を利用するのなら、アスラ王国は魔力量が少なすぎるわ」

「周囲の魔力を利用するのであれば、魔大陸かベガリット大陸で行っているという訳だな」

「自分が巻き込まれない自信があるのなら、アスラ王国でもおかしくはないけど、魔力を集めきれなければ自分が巻き込まれる以上、少しでも魔力が多い土地を選ぶでしょうね。最適なのはベガリット大陸かしらね。魔力量も高いし、魔力結晶も手に入りやすいでしょうしね」

 

 そもそもアスラ王国であれだけの魔力が集まったのがおかしいのよ。

 それだけの技術があるのなら、もっと魔力が多い土地で魔石や魔力結晶を利用すれば楽に行えたはずだし。

 

「なら、転移事件はなぜ起きた?」

「ここからは根拠がない私の予想だけど、構わないかしら?」

「ああ、問題ない」

「おそらく、運命を捻じ曲げたことによって起こされた災害だと思うわ」

「どういうことだ?」

「何らかの結果を起こすために、過去を捻じ曲げているのよ」

「過去を捻じ曲げるということは、未来から干渉しているということか?」

「私の仮説ではね。あれほどの災害が起きたということは、元の魔術はそれ以上に強力でなければならない。あの規模の魔術を完全に隠蔽することは不可能でしょう。だから、未来で発動した魔術である可能性が高いわ」

「確かに、あの規模の魔術に心当たりはないな」

 

 分からないのは、異世界から人を呼ばなければならない程、強い運命。

 それって、この世界だけでは絶対に起きると決められているってことよね。

 気に食わないわね……

 どんなに努力しても変わらないなんて、酷すぎる。

 

「ナナホシは、強い運命を覆すために召喚されたんでしょうから、運命が覆らない限り戻れないでしょうね」

「お前の力でもか?」

「分からないわ。膨大な魔力で無理矢理にナナホシを元の世界に送り返せば、どんな反動があるか予想できない以上、下手なことはするべきではないでしょうね」

「異世界転移魔術が完成しても帰れるわけではないのだな」

「彼女が独力で異世界転移魔術を作成する間に運命が覆ればいいんだけどね」

 

 最悪でも彼女が絶望して死を選ばないことを祈るしかないわね。

 

「全部私の仮説でしかないから、私の予想を遥かに超える術者が居れば話は変わるのだけどね」

「お前が想定した以上の魔術師には俺も心当たりがない」

「……そう。なら、今の仮説を基に有力そうな情報を集めてくれる?家族が見つかれば、私も彼女が帰れるように協力するから」

「分かった。有力そうな情報が集まれば、また来る」

「それと、私の家族が見つかれば保護してくれると助かるわ」

「分かった」

 

 座っていた土の椅子を砂に変えながら立ち上がり、オルステッドに視線を向ける。

 

「後、私の家族がヒトガミの使徒になった場合も殺さないでくれる。貴方と戦うのは勘弁してほしいわ」

「ああ、俺もお前と戦うのは避けたい。穏便に解決できそうならそうしよう」

「はあ、無事は約束してくれないんですね。まあ、よろしくお願いします」

「ナナホシを頼む」

「ええ、出来る限りのことはします」

「じゃあ、またな」

「ええ、また」

 

 オルステッドに背中を向けてシャリーアに戻る。

  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. よみあげ
  11. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。