「帰ってきたー!」
寮の扉を開いた瞬間透ちゃんがそう言い、皆の緊張が一気に解けたのが伝わってきた。
三奈ちゃんとかソファに飛び込もうとすらしてるし。
「みんな!疲れているのは分かるが、先に入浴した方がいいだろう!お湯の準備をしよう!」
「確かに……もうどろどろのべとべと……」
「ねー。私もお風呂入りたい」
あの後、避難民の誘導とかを手伝った私たちは、最低限の治療をしてもらってから寮に帰ってきた。
一応リカバリーガールが直してくれたから、そこまで重傷だった人もいなかったのもあってもう皆怪我はなくなっている。
ゴリーニ・ファミリーは皆逮捕された。
最初のクルーザー上で観測された一部の構成員が見つからないとかで逃げてないか確認するために必死で探したけど、結局2名は遺体で見つかった。
穴に落とされるところを緑谷くんや爆豪くんが見ていたらしく、恐らくバルド・ゴリーニ自身が罰として殺したのだろうと結論付けられた。
ジュリオさんとアンナさんは警察に保護されて今後のことを考えるとかなんとか。
帰国するにしてもこのまま日本にいるにしても、今の状況だと動くに動けないはずだし納得だ。
帰国するってなった場合飛行機は飛んでないしどうすることになるんだろう。謎だ。
まぁそういう細かいことは専門の人に任せればいいだろう。
ジュリオさんもアンナさんも私たちに丁寧にお礼を言ってくれた。
笑い方なんて忘れたって言ってた人とは思えないような穏やかな笑顔を浮かべて。
……まぁお礼以外の部分の内心では、ガキ様とかいう言葉がチラついたりしてたんだけど。
ガキ様って本当になんなんだろう。
「そういえばさぁ、瑠璃ちゃんなんであんなに怒ってたの?お姉ちゃんを騙ったとか言ってたけど」
「デボラ・ゴリーニが……お姉ちゃんの幻を使って私を騙そうとしたから……あんなの……許せるはずない……」
「あー……」
女子皆でお風呂につかっていたら、透ちゃんにそう切り出された。
「幻覚催眠ヴィランだっけ?やばいよねーあれ」
「そういえば、芦戸さんはかかっていませんでしたか」
「逆に私以外皆かかったんだよね?楽しい夢とか聞いたけど、どんなの見てたの?」
きょとんとした様子の三奈ちゃんがそう尋ねてくる。
……正直思い出すのも腹立たしいんだけど、まぁいいか。
「私はお気に入りの紅茶を嗜んでいる夢でしたわね」
「ウチはライブハウスみたいなところでギター演奏してた」
「私は雨の橋の上で家族や蛙たちと歌ってたわね」
「私は雲の上でお昼寝~。ふわふわしてて気持ちよかったよ」
「私は……いろんな服が飾ってある部屋でお洒落三昧だったかな」
……透ちゃんのは、正確にいうと「自分の容姿が見える状況でお洒落を楽しむ」夢だったはず。
轟くんや飯田くんほどではないけど、結構残酷なのは間違いなかった。
自分にはできないお洒落の楽しみ方をしている夢ってことだし。
「波動は?」
「私は……お姉ちゃんのフィギュアとか……ポスターとか……写真で埋め尽くされた部屋……」
「あー……まぁ、容易に想像できるね」
「瑠璃ちゃんらしいよね」
「……?まぁ、お姉ちゃんの偽物出てきて……すぐに幻だってわかって……冷めちゃったけど……」
「それは……すごいですわね。私はあの状況で偽物だと気づける自信がありません」
百ちゃんの言葉に三奈ちゃん以外の皆が頷いている。
「……だって、だって……!私がお姉ちゃんを見上げる角度が合わないんだよ……!!あんなのおかしい!!あんな世界間違ってる!!あんなのに騙されたらお姉ちゃんを馬鹿にしてるのと同じだよ!!」
「いつもの波動だー。なんかこれはこれで安心する」
「いや、まぁ、あれを自力で偽物だって気づいてるのはすごいんだけど……正直、こわ——」
「響香ちゃん!」
お茶子ちゃんが響香ちゃんの口を塞いでいる。
まぁ、あの幻を見抜くのは難しいから仕方ないか。
それはそれとして……
「お茶子ちゃんの見せられた幻……雲でお昼寝だったの……?」
「え?うん。そうだけど——え、なに。皆どうしたの」
皆の思考が大体同じ内容になっていた。
まぁ、デボラ・ゴリーニ本人が楽しい夢って言うくらいだから、本人の願望とか欲求に沿ったものにされていると思われる。
それで見せられたのが、それなのか。
緑谷くんじゃないんだ。そっか。恋って難しい。
「つまりこういうことだよ。波動が言いたいのは——なんで緑谷との夢じゃないの!?」
「なんっ!?だからしもうとくって言うとるやん!!」
「いやぁ、でもしまっておくって言っても、願望とかは別じゃない?というわけで、そういう夢は見なかったの?全く?欠片も?」
「ほらほら~、キリキリ吐いちゃおうよ麗日~」
三奈ちゃんと透ちゃんがいつものモードに入ってしまった。
……話題出したの私だしちょっと申し訳ない。
まぁ、もう見慣れた光景だから響香ちゃんや百ちゃんとかは苦笑して流しちゃってるわけだけど。
お風呂を上がったら、既に出ていたらしい男子たちが賑わっていた。
……さて、私は私で忘れてはならない大事なことがあるのだ。
「砂藤くん……」
「ん?」
キッチンへ向かおうとしていた砂藤くんを呼び止める。
「約束……!」
「……覚えてたのか」
「忘れるわけない……ケーキ……!食べたい……!」
ケーキだ。
あんな大変なことがあったからって、約束が消えるわけじゃない。
これだけ疲れたのだ。
甘いものが食べたい。とても食べたい。
砂藤くん作のケーキを、とても、食べたい。
砂藤くんは少し悩むように私を見た後、ため息を吐いた。
「今から焼くとなると流石に時間かかるんだが……まぁでも、どのみち夕食もこの後だしなぁ……分かった、今から焼く。約束だしな」
「やった……!」
「なになに!?ケーキ作るの!?私も食べたーい!」
「私も私もー!」
三奈ちゃんも透ちゃんも乗り気だ。
なんなら、女子全員が内心で期待している。
やっぱり甘いものは正義なのだ。
特に最近はあんまり食べられてなかったし。
「もうやけくそだ!!全員分作るか!!」
「おお!」
「まじか砂藤!」
男子たちも乗り気みたいだ。
材料大丈夫なのだろうか。
いや、まぁ砂藤くんが心配してない辺り大丈夫っぽいけど。
「んで、まぁ流石に今から全員分は時間かかり過ぎるから、料理できるやつには手伝ってもらいたいんだが」
「ん……!問題なし……!」
「私も手伝うわよ。お茶子ちゃんも——」
「もちろん、私も手伝うよ!」
手伝うこと自体は全く問題ない。
砂藤くんが主体で作ってくれるなら安心だし。
いつもの料理組のメンバーは全員即座に協力を申し出ていた。
「ついでに……味見なんかもさせてもらえると……嬉しいなって……」
「味見!味見なら私もしたい!」
「味見なら俺もしたいぞ砂藤!」
「それ許すと際限なくなるからダメだ!できるまで待て!」
「「えー」」
味見、禁止……だと……!?
そんな……
……砂藤くんにそう言われてしまったら、仕方ない。
完成を心待ちにするしか選択肢はなかった。
……こっそり食べたりしたらバレないで済むかな。
クリームとかなら、少しくらいは……私の感知があれば完全犯罪も……
「波動」
「な、なに……砂藤くん……」
「ダメだからな」
「な、なんのことか……私にはさっぱり……」
「ダメだからな」
「……ハイ」
終わった。
やろうと思えばできるけどここまで言われてやるほど私は馬鹿じゃない。
素直に手伝いながら完成を待とう。
「……僕までもらってしまうのは申し訳ないんだけど」
「気にすんな青山!お前はお前で大変だっただろ!」
「大変とは言っても、心操くんと練習と打ち合わせをしていただけなんだけどね。むしろ、そんなことをしていたらあんなオールマイトの偽物の放送が入って驚いてしまったよ」
ケーキが完成する頃に帰ってきた青山くんにも、完成したケーキを切り分けて皆で食卓を囲んでいる。
甘くておいしい……やっぱり砂藤くんのケーキは絶品だ。
それはそれとして……
「青山くん……AFOに連絡しないといけない日も近いんでしょ……あんなのが出てきても……そっちの計画を止めるわけにはいかない……仕方ないよ……」
「そうだよ!青山くんも大変なんだから遠慮する必要ないって!」
「まぁ、貰えるのは嬉しいけどね」
先生たちの作戦の組み立ての思考を見る限り、青山くんがAFOに連絡を取る日取りは近い。
打ち合わせも佳境だろう。
むしろ、そんな中で青山くんにあんなヴィランの対応をさせて何かある方が困る。
青山くんがいないと誘き出し作戦が成立しなくなるし。
この感じだと、もう私たちのダツゴク確保への協力とかなくなるんじゃないだろうか。
初回からこれってだいぶヤバイ。
作戦の要にされてる人も多いのに、ここで消耗して何かあったらそれこそことだ。
とはいえ、緑谷くんとかがいないとバルド・ゴリーニを被害最小限で倒せるような人はいなかっただろうということを考えるとなんとも言えないのか……?
そんなことを考えていると、青山くんが私の方を見て口を開いた。
「ところで……波動さんはなんでそんなにケーキを並べて……?」
「これ……?砂藤くんからの計らい……!いろんな味作ったけど味見禁止したからって……!全部一切れずつくれた……!」
「作ってる最中の瑠璃ちゃん、全部食べたそうな感じで顔が蕩けてすごいことになってたしね……そりゃ砂藤くんも折れるよね」
「……俺は悪くねぇぞ。あんな欲しそうな目で頼まれたら普通折れるだろ。俺の作ったケーキ食べたいってのも悪い気しねぇし」
「……甘いものの魅力には……抗えない……」
本当においしい。
これならいくらでも食べられる。
青山くんはそんなにこっちを見てどうしたんだろうか。
……思考的に私を見てた?
まぁいっか。悪意とかは感じないし。
美味しいのに集中しよ。
そこからはなんだかんだで祝勝会みたいな雰囲気で皆で盛り上がりながらケーキを食べていった。
結構な数を作ったはずのケーキも、20人で食べたらあっという間になくなってしまった。
AFOや超常解放戦線との決戦も近いし、いい景気づけにはなったかもしれない。
皆も決戦が近いのを感じて、気合を入れなおしていた。
これにてユアネクスト編終了となります。
ある程度期間が経ったら本編時系列内の位置に移動させると思います。
ここまでお読みいただきありがとうございました!
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一次創作ハイファンタジー、箱入り巫女が幽霊となんやかんやしながら死に戻りする物語です。
今作と同様、最後までプロットを詰めに詰めてから書き始めているので、積み上げた伏線やそれまでの流れが中盤~終盤にかけて一気に意味を持つ構造になってます。
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天青の巫女 ~箱入り少女とおちゃらけ幽霊の死に戻り救済譚~