ブラック・ブレット -弱者と強者の境界線-   作:緑餅 +上新粉

2 / 61
 最初はオリ主が暴れるので、暫くれんたろー出てきません。
 また、本編は原作初回(影胤サンがケースパクるやつ)より更に過去から始まりますので、あしからず。

 上記にようにオリ要素が結構ありますので、嫌な方は舌打ちしながら引き返してくれて構いません。


一 弱者・美ヶ月樹万
00.プロローグ


 

 喰われた。みんな喰われて、いなくなってしまった。

 かくいう自分も、身体についていた『それ』がない。

 

 痛みに耐え、逃げるために『それ』があった場所へ鉄の棒を刺した。

 痛い、痛い、痛い。肉が抉れる。意識が霞んで倒れそうになる。

 

 それでも、前へ進む。生きる為に。

 

 だが、必死に逃げ続けた俺を嘲笑うかのように、終わりはあっさりと追い抜いて行った。

 

 ...おかしい。何で、何で歩けない?

 足を動かしている筈なのに、歩いている筈なのに。何故視界は地面ばかりを映すのか。

 

 背後から、粘着質な音がする。いや、それに混じって固い何かを砕くような音も。

 

 よく見ると、自分の腹から『下』が無くて。後ろでひたすら咀嚼を繰り返す化物の口内には、己が身に着けていた衣服の一部があって。

 

 

「あ、あ」

 

 

 だが、その時は自らの一部を食している化物にも、周りへ集まってくる新たな化物にも、視線は向けていなかった。

 見つめ続けたのは、突如目の前に踊り出た、己に似たカタチを持つ何か。

 

 ....俺の意識は、そこで情報の受信を絶った。

 

 

 

          ***

 

 

 

「ん...」

 

 

 視界が、光を捉える。

 思わず顔を(しか)めるが、明るい世界へ順応するため瞳孔が急速に縮小し、周りの光景を浮き彫りにする。

 何とか慣れてきたところで、ようやく自分がベッドの上で寝ている事に気付いた。

 

 

「な、何....一体、どうなったんだ」

 

 

 半ば無意識に身体を起こし、周囲へ目を向ける...が、此処で遅まきながら、己が身は絶望的な状況下にあった事実を思いだした。

 片腕は飛んできた破砕物によって切り離され、下半身は化物に喰われて、内に収まる内容物を余すところなく地にぶちまけた。

 

 

「ぅぐっ!げぼっ!」

 

 

 余りにも克明な凄惨たる記憶がフラッシュバックし、胃液が逆流したか、起き上がって激しく嘔吐する。暫くして吐き出すものが底をついてきた頃、ふと自分の行動に違和感を覚えた。

 ...下半身を丸ごと喰われたのなら、胃は勿論、命すらあの化物の腹中にあるのでは...?

 と、ここで勢いよく扉を開ける音が響き、それに混じって怒声が木霊(こだま)した。

 

 

「げぇッ!あーあ、何となくこうなるんじゃないかと思っていたが、神にも祈ってねぇことを叶えんなよ!ゲロ吐き小僧が!」

 

 

「あ.....?あぁ!!」

 

「っだー、煩ぇなァ!狭いんだから声絞っても聞こえるっての!」

 

「アンタは、あの時の....!」

 

「!...へェ、あんな状態でもちゃんと意識があったのか」

 

 

 己が死を悟ったあの時、霞んだ視界が最後に映したのは、紛れもなく目の前でせせら笑う男の姿だった。普通であればここまでの確信をもって言えないが、死に際だったからこそ、より印象的に映ったのかもしれない。

 それにしても、まさかこんなにも粗暴な言葉遣いで、血濡れた神父服を着込んでいるとは思わなかったが。極め付けに、その手に持つのは巨大なガトリングときた。

 

 

「オッサンは...神父、なのか?」

 

「がはは、んなわきゃねぇだろ...と言いたい所だが、確かに俺の『表側』は神父だ」

 

「表側...?」

 

 

 妙な言い回しに疑問を覚え、その部分を復唱して問いかける。だが、神父は問いに答えずケラケラと喉を震わせて言った。

 

 

「ガキのテメェにゃ早い話だよ。.....さァて、実は俺の方も聞きたい事があるんだけどな」

 

 

 そう言うと、自称偽物の神父は物騒なガトリングを脇に置き、埃を被った回転椅子の上へ腰を下ろす。途端にぼふりと音を立てて白煙が吹きあがるが、慣れているのか表情一つ変えない。

 ────直後、今までのふざけた態度は鳴りを潜め、彼は真剣な顔つきで俺の瞳を射抜いた。

 

 

「俺ァお前をあの場に放っぽっていくつもりだったんだが、見て分かる通りここにいるよなァ。ってぇことは、俺がテメェを抱えて此処まで来たことになる。....モチロン、なんの理由もないわけじゃねぇ」

 

 

 偽神父はタバコをくわえ、火をつけて一息吐く。すると、吐き出された白煙を追うように、暫く彼の視線は虚空へと向けられた。

 言葉を選んでいるのか、彼は煙が完全に空気へ溶けたのを見計らい、椅子ごと此方へ向き直って話を続ける。

 

 

「...死にかけてた、というより半身喰われてんだから即死するはずのテメェは、どういうわけか息があった。ってことは常考、奴等になりかけてんだろうなと思ってよ。コイツで綺麗さっぱり始末しようとしたんだよ」

 

 

 偽神父はガトリングを片手で乱暴に叩き、もう片方の手でタバコを口の端に移動させてから椅子を立つ。そのまま俺の元へ来ると、座る目線に合わせて屈んだ。

 

 

「ところがどっこい、傷が猛烈な勢いで塞がり始めてよ。丁度弾切れだったからヤベェヤベェってな感じで急いでコイツに補充してた訳だ。...だがな、肝心のテメェはいつまで経っても奴等みてぇにはならなかった」

 

「ちょ、ちょっと待ってくれ。オッサンがさっきから言う『奴等』ってなんの事なんだよ」

 

「あぁ?『ガストレア』に決まってんだろうがよォ」

 

 

 偽神父は他人様の顔に煙を吐きつけながら、至極当然であるかのように答える。だが、俺はそんな名前の生き物は全く知らなかった。

 ...ただ、偽神父の言うガストレアなるものが、俺の住んでいた場所を破壊し尽くし、逃げ惑う人々を貪り喰った、あの化物である事は分かる。しかし、まるで周知の事実であるように言うとなると、あんな奴等がもうここら一帯に蔓延(はびこ)っているとでも言うのか。

 

 

「ハァ...どうやら、此処辺りでは情報の循環が滞ってるみてぇだな。......いや、上が意図的に伝えなかった線もあるか」

 

「循環?伝えなかった?...それって」

 

「ああ、お前ら子供の混乱を避ける為に、この村の住民は分かってて隠してたんだろうよ。...その結果がこれだけどな」

 

 

 自嘲気味に鼻を鳴らす神父は、大きく煙を吐き出しながら椅子を回す。一方の俺は、その言葉を聞いてもなお、あの現実離れした状況を信じられずにいた。

 故に、必死になって『あれ』が現実ではないと否定できる材料を頭の中から絞り出そうと足掻く。

 

 

「っ....でも、こんな山奥の中にまで来るとは思って無かったんじゃ...!」

 

 

「残念だが、もう世界の半分は奴等...ガストレアにヤられてる。この国も..言わずもがな、だ」

 

 

 偽神父は苛立たしげに、もう一度肺に溜め込んだ煙を吐き出す。それは勝負に負けて、しかし結果に納得がいかなかった同年代の友人の顔と酷似しており、何故か不思議な気分になった。

 そんな俺の心中を知る筈もない偽神父は、何やら思いついたような声を出したかと思いきや、突然一枚の写真らしきモノを取り出して俺へ投げ寄越してくる。唐突だったので焦ったものの、何とか背伸びをして二本の指で挟み取り、何の気なく眺めてみる。

 

 ...そこには、身体の大部分が肥大化してしまっている、かつて人間だったであろうと推測できる生物が映っていた。

 

 

「うっ、ぷ」

 

「ほう、よく吐かなかったな。で、それが何だか分かるか?」

 

「ッ、....分からない」

 

「そこに写ってんのは、ガストレアになっちまった奴等が総じて血液中に持っていた、ガストレアウイルスっつうモンの第一感染者だ」

 

「ウイルス...?」

 

 

 確かに、あれらが何の原因もなくして人では無くなってしまった訳ではないだろう。だが、それがウイルスだったとは...

 偽神父は返した写真を乱雑に懐へ仕舞い、代わりに新しいタバコを取り出しながら俺のした質問に答える。

 

 

「アレは人の遺伝情報を書き換えてあんな化物にしちまう。ウイルスはガストレアのみが媒介するが、奴等はとんでもねぇ再生力と性能を持ちやがるから増えていく一方だ。...一応躍起になって対策を考えてはいるが、今の所バラニウムっつう金属を嫌う事ぐらいしか分かってねぇ」

 

「そんな...じゃあ」

 

 

「ああ。現状、止める手立ては無いに等しい。このままだと日本は.....世界は滅ぶ」

 

 

 震えが止まらない。そんな馬鹿な、世界が滅ぶなどアニメや映画の中でしか有り得ない話だろう。そもそも実感がないのだ。現実には有り得ない、そういう話としか思えない。

 

 ────ならば、これは何か悪い夢に違いない。

 

 事実、喰われた筈の下半身はしっかりと此処にある。もしも、あれが現実だったとしたらとうの昔に死んでいるだろう。

 そうだ、ここにいる自分と、目覚める前の自分とに決定的な差があるじゃないか。それも、現実に起きていたら到底埋められない、誤魔化しようのない差が。ならどうせ、この状況もなんらかの悪戯に違いない。

 

 

「そうだ。あれは...夢だ。そうに決まってる」

 

「.....ふん!」

 

 

 バチィン!!

 

 

「あだぁ?!」

 

 

 埃が溜まった工場のような場所へ、頬を張った痛快な音が響く。

 俺は暫く状況が飲み込めず、ぐらぐら揺れる頭を左右に振っていたが、目の前で軽薄な笑みを浮かべる偽神父の顔を見た瞬間、一気に頭へ血が昇った。

 

 

「てめっ...!?」

 

 

 怒りに任せて掴みかかろうと手を伸ばしかけたが、逆にその腕を取られて引き寄せられ、胸ぐらを持ち上げられる。

 ...気がつけば、先ほどの揺れる視界で見えた表情が嘘のように消えており、偽神父の目は冷たく輝いていた。

 

 

「逃避したトコで逃げ場はねぇ。..いいか?この地獄を夢物語にしちまうのもいいかもしれんがな、ソコで語られるテメェの自殺譚に俺を巻き込むんじゃねぇよ」

 

 

 犬歯を剥き出しにし、その地獄を生きた神父は俺を糾弾する。逃げるな、と。

 彼は直ぐに鼻を鳴らして服を掴んでいた手を引っ込めると、新しいタバコを歯に挟む。

 

 

「お前がどんなイキモンなのか気にはなるが、どういう訳かガストレア並みの再生力を持ってやがる。...なら、戦え。テメェとおんなじ場に立たされて、下半身食いちぎられて死んでる奴はうじゃうじゃいるんだ」

 

「........今、生きているから、だから地獄の中でも戦って、これからも生きろっていうのか」

 

「あぁ、その通りだ。何もかも失くしたと絶望するにゃまだ早いぜ。本当に絶望するのは、あの化物どものはらわたン中に納まってからでいい。....興味が湧いたからな、お前が絶望するまでに辿る生き方を俺に見せてくれや」

 

 

 何とも不穏な事を(のたま)ったエセ神父は、しかし何処か嬉しそうだった。それが気に入らなかった俺は、ベッドから身を乗り出して反論する。

 

 

「自分は巻き込むなって言っておいて、俺はオッサンに巻き込まれるのかよ」

 

「カカカ、俺はテメェと違って英雄譚だ。これなら文句はないだろ?....安心しろよ、最初は幾らか助けてやるからな」

 

「ああ、そりゃいい。俺より先に死なないでくれよ」

 

「たりめーだ、ガキが」

 

 

 首に十字を下げてもいない、血にまみれた偽物神父。

 

 取り柄など何もなく、少し頑丈なだけの少年、美ヶ月(みかづき)樹万(たつま)

 

 数奇な巡り合わせにより出会った俺たちは、世界の存亡すら除外し、ただ己が生き延びるという名目で、二人だけのガストレア戦争を始める。

 

 

 

 

────────────────────────────

 

 

 

 

 

 西暦2021年。人類はガストレアへ屈した。

 

 だが、膝を着き(こうべ)を垂れる我らの姿は、彼らの紅き目には映らなかった。

 

 モノリス。

 

 バラニウムと呼ばれる、ガストレアが嫌悪する金属で創られた壁。

 

 人々はその内側に立てこもり、偽りの安息を手に入れた。

 

 人類はモノリス内でガストレアに対抗するため、兵器開発、世界各国との強い提携をし、自衛隊や警察だけでなく、民警という組織も発足した。

 

 これによって、多くの侵入したガストレアを屠ることが可能となる。

 

 だが、それも長くは続かないだろう。

 

 

 ....弱者は強者に追われ、捕食されるのみ。

 

 

 モノリスという境界線の両側に佇む二つの種は、果たしてどちらが強者たりえるのか。

 

 

 

 ───────ガストレア戦争終結から十年後。両者の拮抗は、確実に歪みを見せ始めていた。

 

 

 




 なるべく原作未読者、アニメ未視聴者にも分かりやすいように書いていきたいですが、私の技量では限界がありますので、過度な期待はなさらないようお願いします。


 目指せ、ロリの聖地!

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。