ブラック・ブレット -弱者と強者の境界線-   作:緑餅 +上新粉

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 やっとこさ原作突入です。

 影胤サンが樹万たちに会ってるのと、飛那がれんたろーについて行ってる事とが重なり、確率事象に変化が....


07.仲間

「ガストレアが出た!延珠、スマンがすぐに現場へ向かうぞ!」

 

「ぬぬ、このタイミングでか!くーきの読めない奴だな!」

 

 

 俺は持っていたXD拳銃をホルスターへしまい込みながら、ここまで乗ってきていた自転車を起こし、延珠は後輪側の荷台へと乗せる。そして、ここは一旦休戦にしよう、という提案を高島飛那にするために、それまで彼女が立っていた方へ顔を向ける。

 しかし、そこに彼女の姿はなく、逃げたか、と思った矢先、前方....位置的には俺の乗る自転車の前部、カゴのある辺りから声が聞こえた。

 

 

「里見蓮太郎さん。迷惑かもしれませんが、同行させてください」

 

「....何をするつもりだ?」

 

「無論、そのガストレアと戦います。戦力は多いに越したことはないでしょう?」

 

 

 声の主は、前輪側自転車カゴの中に収まる高島飛那からのものだ。いつのまに移動したのか。

 ともかく、彼女の言う戦力云々の論は尤もだ。だが、何故ここで協力を申し出る?理由がないではないか。そして、当然のこと利益もだ。であれば、純粋に俺を案じて?....いいや、多少言を交わし、彼女がただの愉快犯ではないことは判明したとはいえ、プロモーターに対し憎しみを持っていることは変わりない。

 俺は考え、しかし三秒ほどで止めた。今はなにより、目的地に向かうことが先決だ。であれば、高島飛那にかける言葉は、

 

 

「高島。もし話足りないってんなら、ガストレアを倒し終わった後でだ。でねぇと、プロモーターどころか東京の人間全員がお釈迦になる」

 

「ええ、私は獣ではありません。物事の優先度は理解しています」

 

 

 その高島飛那の声に応えるような形で、俺はペダルを強く踏み込んだ。

 

 

 

          ****

 

 

 

 

「はぁ?お前が天童の民警だと?かの天童菊之丞と同じ名前の会社なら、やり手の厳ついオッサンとかが出てくんじゃねぇのかよ」

 

「残念だが、あのジジィと俺の会社はマリアナ海溝ぐらいの深い溝があるんだ」

 

「んだそりゃ」

 

 

 質素なマンションの前で、着いて早々に中年と思われる年頃の男性警官から愚痴を吐かれた。出された人間の名が名なので、気勢を削がれた俺は早くも帰りたくなるが、これも依頼だ。それに、対処が遅れれば感染爆発(パンデミック)で東京エリアが滅ぶ。

 取りあえずは歩きながら名刺と電話番号を交換し、隣の男性警官の名前を確認してから、今の状況について聞く。

 

 

「で、今はどんな事になってんだ?多田島警部」

 

「あ~っと、何でも、上から血の雨漏りがするってんで、下に住む奴が悲鳴あげながら電話してきたんだよ。事前に集めた情報を総合すると、犯人は恐らくガストレアだ」

 

「.........」

 

 

 何となく嫌な感じがする。延珠を置いてきたのは不味かったか....?

 連れてこなかった理由としては、室内での交戦となるので、兎の因子を持つアイツには戦い辛いということからだ。障害物が多い場での戦闘では、兎の脚力を生かした素早い動きを発揮できない。故に限度はあるが、戦場は広ければ広いほどいい。

 ....まぁ、俺が不利になったら何とかして外に蹴り出そう。そうすりゃ、俺より数倍の威力がある延珠のぶっ飛びキックでお陀仏にできる。

 しかし、だ。もしかしたら、その必要はない可能性もある。理由は単純、現場に乗り込むのは俺一人ではないからだ。 

 

 

「で、こいつがお前のイニシエーターか?外にもう一人いた気がするが....てか、フードで顔を隠してるたぁ、穏やかじゃねぇな」

 

「あ、あぁ。気にしないでくれ、恥ずかしがり屋なんだ」

 

「よろしくお願いします」

 

 

 ペコリと多田島警部へお辞儀したのは、件のプロモーター狩り、高島飛那だ。警察連中に顔が割れてるというのに、その渦中へ飛び込むとは随分と豪胆なものである。

 と、ここで目的の部屋に到着したらしく、扉の前に立つ物々しい武装を着込んだ警官隊が数人見えてくる。そいつらは俺たちを見た瞬間、一様に眉を顰めてあからさまな嫌悪感を丸出しにしてきた。

 

 

「お前ら、何か変わった事は無かったか?」

 

「いえ、今の所はありません」

 

「ちっ、民警が出しゃばりやがって」

 

 

 後ろの方で毒を吐いた警官がいたが、毎度の事なので聞こえなかった体を装う。別に反論してもいいのだが、民警とは、対ガストレア戦においてはほぼ無力となってしまった警察組織から仕方なく仕事を委任されている立場にあるので、職務を奪われた彼らが嫌味な態度をとってしまう感情も分からなくはないからだ。

 ともかく、あまり時間を掛ける気はない。実際、時間をかければかけた分だけ危険度は増す。さっさと現場を確認し、騒動のもとである元凶を叩こう。

 俺は扉の前に固まる警官を押しのけて歩み寄り、異常なほど静まり返った部屋の奥へ───

 

 

「ラァッ!」

 

 

 ───扉を蹴破って突入する。

 そこで止まらず、直線の廊下を走り、すぐにリビングらしき場所へ移動。ここへ踏み込んだ時点で、敵にイニシアチブを取られる可能性を考慮し、確認してからでは遅いと踏んだ俺は、初弾装填済みのXD拳銃をすぐさま構え....と、そこで妙な人物を発見した。

 

 

「な、何だ?....アンタは」

 

「おや?てっきり、無能な警官諸君が我先にと飛び込んで来ると思ったのだが」

 

 

 佇んでいたのは、赤い燕尾服にシルクハット、更には仮面といった、この場にはあまりにも不釣り合いな恰好をしている不気味な長身の男性だった。しかし、手もあれば足もある。ガストレアとは似ても似つかない、俺と同じ人間だ。

 一歩遅れて俺の両隣へと走ってきた武装警官たちは、そんな得体の知れない男を見てぎょっとした表情を作りつつ、多少引け腰になりながらも全員M16のカスタムモデルを構えた。

 

 

「き、貴様は何者だ!ここは立ち入り禁止だぞ!」

 

「ん?ああ、そうだねぇ....」

 

 

 謎の仮面男は顎に手を当て、警官の一人が投げた質問に対する答えを選ぶかのように暫く思案する。....だが、俺はその中で見た。

 

 流れるような動作で、両腰にかけた拳銃の一方を引き抜いたのを。

 

 

 

「ッ!伏せろ!」

 

 

 叫びながら両隣に居る警官隊二人の脚を蹴った所で、立て続けに発砲音が響く。被弾は避けられなかったが、全員肩や腹など急所を外した場所へヒットしていた。だが、これでは寧ろ足手まといだ。

 俺は舌打ちしながら、腰を落としたまま地を舐めるようにして疾走。ほぼ一瞬で仮面男へ肉薄し、掌打を放つ。しかし、いとも簡単に片腕で手首を掴まれてしまった。

 

 

「へぇ、中々いいね、君。後は....そこに隠れている君も、ね」

 

「っ!?」

 

 

 完璧に死角の壁へ隠れていた筈の高島飛那を言い当てられ、これに動揺してしまった俺は腕を上方へ弾かれる。続けざまに強い掌打を逆に喰らい、壁まで吹き飛んで背中を強打。息が詰まり意識が明滅するが、歯を喰いしばって耐えた。

 下を向いて思い切り咳き込みながら呼気を整えていると、突如仮面男の嬉しそうな声が聞こえて来た。

 

 

「ほう!君はあの時の」

 

「ええ、その節はお世話になりましたね。....私の名前は高島飛那と言います」

 

「私は蛭子影胤という。───では、君にも問おうか、少年」

 

「里見....蓮太郎」

 

「ふぅん....里見くん、ね。ヒヒ、なるほど」

 

 

 俺は男....影胤の視線が飛那に向いている今を好機と読み、足裏でフローリングを蹴る。振るうのは拳。狙いは腹部。

 間合いに入る。影胤はまだ動かない。これなら、行ける。肩、肘をバネに前腕を撃ち出し、狙い過たずそれは───

 

 

「不意打ち、結構上手いね」

 

 

 影胤は首を動かさないまま、俺の放つ拳に手のひらを合わせ、真横にスライド。それに流され、あっけなくこちらの拳打は空を切った。そして、返す刃で影胤の掌底が横っ面に直撃。台所の棚まで吹き飛び、咳き込むと口の中に血の味が広がる。

 ───強い。正攻法で向かってはまるで相手にならない。

 

 

「君の動き、そして一撃の重さ。それらを考慮するに、まだ芸を隠しているだろう?」

 

「ッ」

 

「易々と出さずに温存しているのは手堅い判断だけどねぇ。早めに手札を切らないと....ヒヒ、うっかり殺しちゃうかもしれないよ?」

 

 

 お見通し、ということか。現状では技の精度も、戦場に置いての判断力すら相手に後れを取っているらしい。

 これほどまでの手合いが、何故こんなところにいるのか?....相手の目的があまりにも不明瞭だ。これ以上戦う必要はないと思いたいが、先に武器を抜いたのは影胤だ。話し合いの余地は、あるのだろうか?

 俺は血まじりの痰を吐き出し、多少よろめきながらも両足をしっかりと着け、立ち上がる。よし、ダメージは予想よりは軽度だ。

 

 

「影胤、お前がここにいる目的は、何だ?何故、警官を攻撃した」

 

「ほう。ここまで一方的にこちらが君たちに危害を加えて置きながら、君は私と和解できる可能性を模索するのか。ハハハ、実に平和的な思考だね」

 

「いいから答えろ。テメェの目的は、何だ」

 

「なぁに、簡単だとも。私は世界を滅ぼすために活動している。ここにいる目的も、それに到達するまでの一つの過程さ。では、さて?これを聞いた君はどうするのかな?私に協力するかね?それとも....ふざけるな、と激昂し殴りかかるのかな?」

 

 

 俺は悪寒を覚えた。なまじ同じ人間(カタチ)であるから、思考が根本から違うとここまで『気持ちが悪い』ものなのか。

 しかし、端から己の第六感的な部分が、この男とは分かり合えない、と早々に結論を出していたが、ああ、全くその通りだ。

 先ほど宣った、世界を滅ぼす、と言う発言。まさか、(イチ)足す(イチ)()に決まっているだろう、とでも言うような、至極当たり前な声調で言い切るとは思わなかった!

 この男、蛭子影胤は───()()()()

 

 

「天童式戦闘術一の型八番───『焔火扇』!」

 

「むっ」

 

 

 すぐさま駆け出し、先ほどの掌打とは比べものにならない威力の拳で影胤の防御を強引に崩し、続けざまに踏み込む。

 天童式戦闘術二の型十六番─────

 

 

「『隠禅・黒天風』!」

 

 

 叫びながら鋭い蹴りを操り出す。敵は体勢が整っていないため、これは躱しきれずに顎へ直撃した。

 パァン!という軽快な音と衝撃で上体を大きく仰け反らした影胤は、しかし効いた様子もなく身体を直立へ戻す。そして、実に愉快気な声で笑いながら両手を叩き始めた。

 

 

「ハハハハ!いいねぇ、結構効いたよ」

 

「くっ」

 

 

 ───全くそんな気を感じさせない風に言われても嬉しくねぇ!

 俺は底が見えない影胤に尻込みし、一度床を蹴って距離を取り、腰からXD拳銃を引き抜いて銃口を向ける。すると、彼は両手を上げておどけたように言った。

 

 

「おっとっと、向こうにも腕の立つ子がいるからねぇ。私はこれでお暇させてもらうよ」

 

「おい待てよ!」

 

 

 割られた硝子戸を踏み越え、ベランダの方へ向かう所を呼び止める。彼はベランダの手摺へ足を掛けると、嗤う仮面の内側から此方を見た。

 

 

「テメェの達すべき目標は分かった。だが、ここへ来た目的は何だ。ガストレアは?この部屋の住人はどうなった」

 

 

 言いながら部屋を見渡してみると、奥の居間に大量の血痕があった。夥しい量のそれは、素人目でも致命傷だと判断できるほどだ。

 彼も倣ってそちらへ顔を向けてから、風に揺れるシルクハットを片手で押さえて答える。

 

 

「───私も、感染源ガストレアを追っていた。だが、一足遅かったようでね」

 

「なに....?」

 

 

 ならば、やはりこのアパートにガストレアが現れ、ここの部屋に住む民間人を襲ったのだろう。しかし、現場に死体はなく、残っているのは致死量を明らかに越えている血痕のみ。

 だとすると....もしや。

 

 

「襲われた被害者は感染者になり、外をさまよっている....ということですか?」

 

 

 俺の言いたいことを代弁してくれたのは、警官たちの応急処置を終えた高島飛那だった。

 既に武器をしまい込み、泰然としている彼女の態度に少なからず驚いたが、影胤と過去に面識がある分、彼の引き際を弁えているのだろう。

 

 

「その通り。ま、事後処理は君たちにお願いするよ。....近々また会うだろうし、その時にお礼を言うことにするね」

 

 

 影胤は低く笑ってから、もう片方の足もベランダの手摺に乗せる。そして、

 

 

「じゃ、ご主人様に宜しく。お姫様」

 

 

 落下が始まる寸前、彼は横目でこちらを見ながら何かを言った気がする。よく聞き取れなかったが、それ以上に隣の高島飛那が、目を見開いて固まっていた事が気になった。

 彼女はそれからすぐに眉間に皺を寄せてから首を振り、二度三度大きな呼吸をして落ち着いたようだが、一方の俺はそのあとに忘れていた脅威を思い出して青くなった。

 

 

「あ....そうだ、このままじゃ不味い!」

 

 

 失念していた。感染源ガストレアがほっつき歩いているのもそうだが、感染者まで野放しなのは非常に危険だ。このままでは感染爆発(パンデミック)が起こり、東京エリアは未曽有の大惨事となる!

 そう確信した俺は携帯を取り出し、延珠を一旦呼び戻そうと....したが、先に着信のバイブレーションが持つ腕を震わせた。

 ディスプレイに映し出されていたのは、先刻登録したばかりの多田島警部の名前だ。

 

 

「ど、どうしたんだ警部?....まさか」

 

 

 既に最悪の事態に発展してしまっているのかと気が気ではなかったが、彼の声はそんな暗い報告をするような種類ではなかった。

 

 

 

『イニシエーターてのはスゲェな....鉛弾何発撃ってもビクともしないガストレアを、蹴り一発でのしちまうんだからよ』

 

 

「はっ?」

 

 

 一瞬本気で目が点になりかけたが、警部の話しを鑑みるに延珠がガストレアを倒したらしい。

 

 その後に聴いた詳しい話によると、事の顛末はこうだ。

 延珠が暇を持て余して散歩をしていると、明らかに様子がおかしい男性を発見。よく見てみると、全身の損傷が激しく大量の出血をしていた。

 それでも普通に歩き回っているということで、ガストレアウイルス感染者であると同時に、体内侵食率が五十%を振り切っていると判断。

 被害者の男性が形象崩壊を起こしたとほぼ同時期に多田島警部が合流。この時に拳銃で応戦したようだ。で、単因子のステージⅠが延珠に敵う筈もなく、見事キック一発で沈ませた....と。

 

 

『蓮太郎!妾は今回、ばしゃうまーのように働いたぞ!ご褒美が欲しいのだ!』

 

「あぁ、分かったよ。....し、食費が潰れない程度に抑えてな?」

 

『わかったのだ!』

 

 

 分かってないな、絶対。

 今月一杯は修行僧のようなメニューになりそうだ....

 

 

 

          ***

 

 

 

「ったく....なんだか美味しいトコ全部持ってかれた気分だぜ」

 

「そうでもないですよ。延珠さんを外で警備させていなかったら、どうなっていたか分かりませんから。....さて、外で待機している警察の方たちにも報告しましょう」

 

「ああ、そうだな」

 

 

 ガストレアのこともそうだが、あの蛭子影胤は相当な危険人物だった。滑りやすいフローリングの上だったために動きが制限されていたとはいえ、俺の天童式戦闘術の大半を看破していた。....ならば、あの程度で撃退出来たのは僥倖であったのだろうか。

 だが、妙だ。何かを見落としているような気がする。重大な、何かを....

 

 

「里見さん?どうかしましたか」

 

 

 彼女は玄関に向かおうと歩き出した所で立ち止まり、居間に屈んだままでいる俺を訝しんだか、こちらを振り向いていた。

 ....俺は溜息に近い深呼吸を吐き、畳に落ちた血痕から目を離してゆっくりと立ち上がる。

 

 今は目前の事に集中しよう。ありもしない憶測でいつまでも思考を占領していては、普段の生活にまで支障が出るというもの。そも、依頼はこなしたのだ。今はその事実をありのまま受け止めればいい。

 俺は元よりそんなに深く考えない性格だ。....だからこそ、木更さんに馬鹿やら甲斐性無しと罵られるのだが。

 

 

「俺の事は蓮太郎でいい。....なぁ高島、俺等のところ....天童民間警備会社へ来ないか?」

 

「え───私が、ですか?」

 

「あぁ。この場で話せるヤツはお前以外誰がいるんだよ」

 

 

 どうだ?と聞き返すと、暫く不安そうな顔をしながら俺の顔と地面とを交互に眺めていたが。やがてゆっくりとその首が盾に振られる。

 

 

「分かりました。....ですが、私にも目的はあります。この境遇を足掛かりに、何らかのトラブルに巻き込んでしまう事も」

 

「はは、大丈夫だろ。お前はそんなに器用じゃなさそうだしな」

 

「むっ....まぁいいです。では、今後ともよろしくお願いします、蓮太郎さん。私の事も飛那と呼んでくださいね」

 

「おう」

 

 

 俺は飛那と握手を交わし、和解の証とした。

 腕を振りながら微笑む彼女からは、出会った当時の棘がある程度取れたように思える。

 




 れんたろーが飛那をお仲間にしちまった。


 どうするオリ主。あんたこのままじゃ孤独死するぞ。

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