気になる人を曇らせたいオペレーター日記   作:朝起きるのが嫌い病

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第9話

アポピスは瓦礫を反対側からアーツで吹き飛ばし、身を隠した。その間にフロストリーフから受けた切り傷を広げ出血死することで傷のリセットを行った。アポピスは思う。不死の身体は人の心を壊す。現に、アポピスは死に対する恐怖や自死に対する抵抗が少ない。

 

白いウサギに合流すると、ロドスと会敵していたらしいが一時的に休戦したようだ。

 

「ロドスの奴ら、別に憎むべき敵ってわけじゃなかったな」

 

「アポピスみたいのがいるから会話はできると思ったけど」

 

そんなことを彼らはアポピスに話した。彼らの言葉に口を挟まないフロストノヴァもロドスを倒すべき障害と思っているだけで、憎いとは思っていないのだろう。

 

「作戦通り、龍門に向かう。アポピスお前はどうする?ついてくるか?」

 

「それ以外の選択肢はないだろ?」

 

「………傷は完全ではないが治っているはずだ。ロドスに戻るという選択肢も「ないな」」

 

「………少なくとも傷が完全に塞がるまでは、お前たちを守るし無駄な犠牲は出させない」

 

「………好きにしろ」

 

アポピスは彼女にアーツを使わせる気がなかった。アーツというものの造詣が深いが故に、彼は知っている。強力なアーツほどリスクがあるのだ。

 

 

 

目を覚ましたアポピスは思わず、壁を殴りつけた。小休憩中に眠気に襲われ、気が付けば誰もいなかった。

 

「クソ!」

 

直感した。薬で眠らされて置いて行かれたのだと。

 

龍門の方角へアポピスは走った。アーツを併用すれば、30分ほどで付く距離だ。

 

肺が上下に掻き回される。空気が喉の隙間につまり、脳みそから酸素を奪っていく。頬の表面に、熱が集まり恐怖にも似た感情がじわりじわりと足の裏を蝕んでいる。

唇に食い込んだ犬歯の跡。そこに残るじくじくとした感覚を反芻しながら、ただひたすらに龍門へ向かう。

龍門の中のスラムに侵入し、その惨状にアポピスは僅かに目を細めて、内に溜まった感情を吐き出すかのように壁を蹴りつけた。

これはどういう状況だろうかとアポピスは考えていた。目の前に広がる惨状を把握するのには若干時間を要する。

 

レユニオンの人間もスラムの感染者も、その大半が殺されていた。僅かに残っているのはスノーデビル小隊の一部だけ。

 

「………」

 

それを成したであろう黒い装束の人間が生き残りを刈り取らんとしている。

 

「………おい」

 

少年の殺気に反応した彼らよりも先に、アポピスの怒りがアーツになって放たれる。ギリギリでブレーキを踏んだものの、それでも容赦は含まれていない攻撃だった。

 

黒装束の内一人が紙屑のように吹き飛ばされた。

 

「これをやったのはお前か?」

 

敵を見つめるアポピスは無表情のまま、緩やかな足取りで近寄り、彼らに問いかける。

 

「…感染者はすべて排除する」

 

建物の影から飛び出すアポピスが疾走した。30歩以上あったはずの距離が一歩で潰される。

 

「お前たちはいつもッ!無駄に犠牲を作り出す。自分で追い詰めて!歯向かってきたから、被害者ですってか?ふざけんな!!!!!」

 

少年は瞳を極限まで、見開き怒号と共に男の側頭部を蹴り抜いていた。守る両手を弾き飛ばして蹴る。

 

男たちが警戒していなかったわけではなく、ただアポピスの怒りを込めた一撃がこの一瞬、彼らの反応速度をはるかに上回っただけだ。

 

不意打ちに意識が飛びそうになるも、渾身の力でその場に踏みとどまる。

 

「逃がさねえぞ」

 

アポピスは男の手首を握りしめ、力任せに叩きつけた。憤怒に染まったアポピスは一切の自制心を捨て周囲への影響など一切破棄して男たちを追撃する。

 

僅か数回の攻撃にもかかわらず、嵐の如き猛攻だった。

 

側頭部、脇腹、左肩と立て続けにアーツで殴られた男の口から吐血を漏らして膝から崩れ落ちる。5体が無事なだけでも驚異的だがまだ意識があるというのはさらに脅威だ。

 

残り1人に対しては一瞬だった。

 

「………失せろ」

 

瞬間、男の身体は不可視の衝撃によって消し飛んでいた。砂埃と轟音と共に、周辺を吹き飛ばし肉片が周囲に散乱する。

 

血の雨を浴びる少年はその場で叫ぶ。

 

「クソがあああああああああああ!!!!!」

 

絶叫する。思い上がっていた。助けられると。酔っていた、自分の力に。一人では限界があると忘れていたのだ。

 

アポピスは自分の未熟に頭がどうにかなりそうだった。

 

「あ、アポピス………」

 

「お前たちだけか」

 

寒冷地帯のような鋭く冷たい声が響いた。抑揚のないその声音は、アポピスを知るものならば誰もが鳥肌が立つほど冷徹な響きで発せられていた。

 

彼らもこんな声色で言葉を吐くアポピスを初めて見た。

 

スノーデビル小隊の人数は15名。12名が足りていなかった。

 

「あ、わ、わからない。姐さんがアーツを使って倒れてから仲間と姐さんが逃げる時間を稼ぐために残ったんだ。俺たち三人以外にもスラム各地に仲間がいる………」

 

アポピスの怒りに気圧されながらも、懸命に弁明を行う。

 

「アポピス、姐さんにアーツを使わせちまった。面目ねえ」

 

「お前を置いていったのは姐さんの優しさだ!だから頼む、姐さんを責めないでやってくれないか」

 

「………そういうのは全部、終わってから聞く。全員だ、全員俺が助ける。立ち塞がる敵は全員倒す」

 

黒装束とこの惨状から推察するに、不殺は無理だと判断した。少なくとも、スラムの人間を殺している奴らはダメだ。

 

そう、結論を出した。アポピスの部下の不在。少年にとってこれは大きい。諫めてくれるブレーキは見当たらない。アポピスは、感情でアーツを高ぶらせ歩き出す。

 

彼は発展途上の少年だと思い知るべきだったのだ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

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