『ポケットモンスター、縮めてポケモン。この星の、不思議な不思議な生き物、海に森に町に、その種類は、100、200、300、いや、それ以上の1000種かもしれない』
そしてこの青年、ポケモンを愛する、ハッコウシティのユウセイ。
当時通っていた学校の校長から、最初のポケモンを貰い、入学して早々に4人でバイクに乗って首都テーブルシティから離れてバトル&ゲット、ポケモントレーナーとしての修行の旅に出たのだった。
幾多の試練を乗り越えて、最高のポケモンマスターになる為に、多くの出会いと別れを繰り返し、ユウセイとその仲間達の旅は今日も続く。
そして彼は。
オーレ地方から、故郷パルデア地方へ帰ってきていた。
「なんだぁてめぇ!」
「あぶねぇじゃねぇの!」
赤を基調としたバイクに乗っている青年が、同じく赤いヘルメットのシールドで隠れて目元はあまり見えないが、口元が一瞬だけ緩んだことを、アオイとニャオハは気づいた。
「俺たちはそいつに用があるんだ!」
「そこをどいてくれませんかね!」
初めて学校へ向かう途中だったアオイたちにとって、自分よりずっと背の高い学生は怖かった。制服を着たのも今日が初めてだし、ニャオハといっしょにバトル&ゲットしたことも初めてだった。トレーナーとのポケモンバトルにしても、今までは親切な人たちばかりだった。
バイクの青年は、助け舟を出すように、そのバイクで割り込んできた。見上げるくらいの赤のバイクは星が輝くように綺麗で、しかし荒々しさも感じ取れる。周辺一帯の岩壁など越えてしまうくらいのパワーがありそうで、お腹減ったなと思いつつ欠伸をしていたミライドンも赤のバイクには目を向けた。
「……おい、ポケモンバトルしろよ」
「は? おいおい、このエリアじゃ最強の俺を相手に?」
「やっちまってくださいよ、先輩!」
青年の返答はポケモンバトルの申し込みであり、ここパルデア地方では『目が合ったらポケモンバトル』という文化がないが、青年は数々の地方を旅してきたのだ。先日まで滞在していたオーレ地方に至っては荒くれものが多く住んでいた。
「俺のエース! ワルビル!」
ダークボールからポケモンを繰り出すと、一気に周囲の雰囲気が変わった。不良も少なからずこのエリア最強というだけのことはある。2足歩行のワニのようなポケモンは、砂色と黒色ということで、アオイは恐らく地面・悪だと判断した。もし戦っていれば、草タイプのニャオハを出していたが、威嚇されて慌ててアオイの後ろに隠れてきた。
「頼んだぞ! ガケガニ!」
対して、青年のモンスターボールからは、まんまるとした目のカニのポケモンだ。この一帯ではあちこちで岩壁にくっついているポケモンであり、アオイにとってはすでに見慣れたポケモンだ。テレビのチャンピオンズリーグで見るようないわゆる『600族』を出してもおかしくはない力量は感じ取れるのだが。
それに。
「おいおい、岩タイプのガケガニって! タイプ相性を知らねぇのか!」
笑ってバカにする不良に気をよくしたワルビルが威嚇すると、ガケガニは『こうげき』が1段階下がる。
「いかくによって攻撃がダウン、やはり良い特性だな」
バトル前になきごえを1回受けたことと同じでアオイはビックリしたが、教えてくれた青年は特に動じていないし、ガケガニも不動のままハサミを構えている。
「ガケガニ! てっぺきだ!」
「ワルビル! あなをほる!」
両者が同時に指示すると、先に動いたのはガケガニだった。といっても、身体が鋼色に輝いただけで、攻撃技というわけではないようだ。このままだと弱点をつかれて負けてしまうのに、アオイもニャオハも首を傾げた。
ワルビルは一度地面に潜ったが、その技にはタイムラグがある。
ガラル地方では3ターン限定のダイマックスの時間稼ぎができることもあって、そのタイムラグは一時的にメリットとして評価されたが、やはり1ターン行動できないのはかなりデメリットが大きい技だ。威力は高めだが、交代すれば半減以下に抑えられる場面が多いだろう。草の弱点をつけるようになれるといっても、パルデア地方ではマリルリでとびはねる採用を悩むくらいだ。
まだバトルは1ターン目だが、勝負が優勢なのは一体どちらか。
「もう1度てっぺきだ!」
「よっしゃ! 弱点をつけワルビル!」
「これでダメージは2倍! やりましたね!」
さらに輝いたイワガニへ、ワルビルが腕を突き上げるように出てくるが、弱点なのにイワガニはほとんど動じていない。アオイはスマホロトムの検索画面で『てっぺき』と調べると、防御を2段階も上げる技らしい。かたくなるの完全上位互換の変化技だ。
「なんて硬さだ!? 面倒な!?」
「もう一度あなをほるですよ! いつか倒せます!」
ワルビルのトレーナーに冷や汗が流れる。
「さあ、どうする?」
指示を出すまで待ってくれているようだが、ポケモンが自分で判断するまでの時計の針は進み続けている。もしまたてっぺきを積まれたのなら、なぜか見えるHPのバーが次は全く減らないかもしれない。
「くっ、確か先生は変化技も大切だって言っていたな。ここは、いばるだ!」
何も言わずともてっぺきをして6段階上昇を完成させたガケガニだったが、いばるによってこんらんをする。
混乱のダメージは攻撃2段階上昇も合わさって増加するし、現在は3分の1の確率で1ターンが無駄になるし、治すために交代したら結局1ターン無駄になるし、PPも普通に多すぎるし。
「……いばるは、苦手だな」
「よしっ、作戦成功! この隙に畳み掛けるぜ! すなじごく!」
混乱によって、ペシンと自分の身体を叩くガケガニだが、あまり動じていないようだ。さらにワルビルは小さな砂嵐を起こすことで、継続ダメージを与えにきた。しかもこれで交代はできなくなった。
アオイにとっては凄く長く感じる時間であり、だが同時にポケモンバトルの奥深さを学べていた。ニャオハもミライドンも、この複雑だが戦略的なバトルから目が離せない。
「そして俺たちの新技! イカサマだ!」
「……4つ目の技はそれか」
ポツリと青年が呟いた言葉に、アオイもハッとする。ポケモンは技を思い出すことはできるが、1度のバトルには4つまでしか使いこなせないからだ。巧みなイカサマによって、混乱しながら動いたガケガニはくるりと地面に一度倒れた。
イカサマは威力95と、悪技の中でも強力な部類なのだが、相手のこうげきを参照するという特殊な技だ。本来は物理メインでAに振ることの多いワルビルはかみくだくを選ぶことが多いが、こちらもAに振っているガケガニのため、混乱のダメージと合わせてそれなりにHPが減っていく。
塵も積もればなんとやら。
「いかりのこうら、発動!」
「しまった!?」
「なんですかそれ!?」
今までガケガニと同じように不動を通していた青年は、大きく腕を横に一度振って、グッと拳に力を込めた。
「この特性はHPが半分になったとき、防御系ステータスは1段階ダウンするが、攻撃系ステータスが1段階アップする!」
その効果を解説するように力強く叫んだ。
「いばるは強いさ。だが確実に動くことのできるタイミングが存在する! それは混乱から治った時だ!」
からをやぶる、という技があるが、それと似た事象を引き起こせる特性だ。上昇率は比較すれば微妙だが、威嚇で下がったステータスを元に戻し、すばやさが1段階上昇する。そしてメリットとしては、技の枠を1つ分節約できることにある。例えばこのガケガニはHAS調整振りであり、てっぺき/こらえる/ハサミギロチン
そして4つ目は。
「これで決める! きしかいせい!」
「ワルビルが一撃で!?」
全身タックルを受けて、ワルビルが岩の壁まで吹き飛んだ。
きしかいせいは特殊な格闘業だ。まあ今回は体力半分で威力40のため、想定した戦術より大幅に数値は低いが、理論上こらえると合わせて、威力200の格闘技にもなり、インファイトを超える。これが物理受けアタッカーのHAS調整振りのガケガニでる。夢特性を使ったガケガニを完全耐久型として扱うが、夢特性の話は『ネタバレ』になるので今日は置いておこう。
ともかく、技と特性と努力値の理解をすることで、同じポケモンでも使い方が様変わりして、どのポケモンも可能性を秘めているのだ。ガケガニはタイプ相性で不利であるし、技の選択肢も多いわけではないが、変化技を駆使して種族値を覆して戦うこともできる。
「あんた、なんでこんなに強いんだ」
そもそもレベルが違うから同条件ではなかった。今の手持ちの中で最低レベルとはいっても、このガケガニも技の習得の関係上、レベル60くらいには育てている。相手のステータスに依存する技であるいばるやイカサマ、そして継続ダメージのすなじごくがあったから、半分ほどには減らすことはできた。
だから技選択は無意識だったかもしれないが、可能性を感じ取ることができた。
バイクから降りた青年がヘルメットを脱ぐと、整っている顔よりもカニのような髪型がまず目に入る。バトルを見てまだ興奮が冷めていないアオイは、だからカニ使いなのだろうかと思った。
「いいポケモンバトルだった。お前とワルビルならもっと強くなれる」
ガケガニをモンスターボールへ戻しながら伝えた青年は、げんきのかけらとサイコソーダ2本を使ってワルビルの治療を済ませた。ショップにあるいいきすぐすりとかじゃないんだと、アオイはふと思った。
「ポケモンのことをもっと知るためにも学校に行くといい。ポケモンバトルは、レベルと技の威力とタイプ相性だけじゃない。ポケモンには、見えるけど見えないものがあるんだ」
努力値の合計値に限界があるのなんて知らない人は知らないままだ。個体値だってとりあえず6Vって言葉のほうが周知されているくらいだ。他にも仕様変更について、いたずらごころが悪タイプ相手に無効とか、ねむりごなが草タイプに効かないって、ふと思い返すとサイレント調整だし。
「俺学校に行きます! ワルビルと強くなりてぇ!」
「先輩! 俺とデルビルも付いていきます!」
テーブルシティの学校の教科書にも記されていないことかもしれないが、ポケモンマスターを目指していたトレーナーが教師にいるはずだから、聴けば必ず答えてくれる。なぜなら俺たちは誰もが自分とポケモンの力を合わせて、時には人を頼りながら、どんどん環境の変わるポケモンバトルを学んできたからだ。
「そうか。君たちはポケモンが好きか。」
「「「はい!!」」」
不良たちとワルビル、アオイとニャオハ
ポケモンの道を強制はしない。
いろんなポケモンたちとの出会いを楽しむもよし、一緒にサンドイッチを食べて写真を撮るもよし、広大な世界をバイクに乗って冒険するもよし、珍しい色違いを見つけて自慢するもよし、自分の好きなポケモンの可能性を探究するもよし、勝ち続けるために強いポケモンを強く育てるもよし。
ポケモンの楽しさは無限大であり、どんな道であろうと俺たちの隣にはずっとポケモンがいる。
「また会おう! ポケモントレーナーである以上、俺たちは必ず巡り合う! それが絆だ!」
再び赤いバイクに乗って、未来的なエンジン音を出しつつ力強く走り出して、名も知らない青年は去っていく。
子どもたち3人は青年へ向かって大きく手を振って見送る。クールで熟練のポケモントレーナーとしての覇気もあったが、自分たちが今まで会ってきた誰よりもポケモンのことが好きなのだろうし、夕日に照らされた赤いバイクのように、熱い心というものを持っていた。
ミライドンすら、あのトレーナーには惹かれるものを感じたし、多くのポケモンが彼のところへ集まっているだろう。それこそ300匹どころじゃなく、3000匹といったところか。生まれたばかりのガケガニも彼を信頼し、次の指示が分かっているかのように動いていた。
朝よりは少しマシな顔つきになったアオイとニャオハへ、早く乗れと促す。
「なに? お腹すいたの? じゃあボクたちも一旦戻ろうか」
ミライドンとしても、アオイとニャオハには可能性を感じているのだ。マップを見つめていても方向音痴かよと思うくらいにフラフラと歩く姿はいまだ頼りないところも多いが、トレーナーとしてどんどん成長していくことが楽しみだ。
さて、あの青年は次はどこに行くのだろう。
学校へ戻っていく2人組はどう成長するだろう。
みんなの物語は始まったばかりだ。