吾輩は天彗龍である。   作:名無しのサイボーグ

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投稿。引き続きアランサイド。

ふわおうぅ~ん……戦闘描写書くのつらかったよおお~ん。
なんかよくわからん設定が出てきてるかもしれませんが、結構辻褄は合わせているつもりです。

……なんだかモンスターの行動がジャンプバトル漫画っぽくなりつつある気がするぞ?
……まぁ気のせいじゃな!


壮麗纏いし銀盤の『王』 VS.《冷血皇帝》リオット

 

 

 彼は古龍である。されど今ばかりは守るためにその力を振るうのである。

 

 

──来い! 貴様らの血を貴様ら自身の血をもって洗ってやるわ!

 

──それでは結局血は洗い流せないではないか!

 

 

 リオットに鋭くツッコミを入れながら、先手を切ってアランが攻撃を仕掛ける。

 レスケンザとの戦いで編み出した、翼脚を太刀状に変形させての袈裟斬り。そう簡単に避けられるスピードではない。

 

 が。

 

 

──なるほど……人間どもの扱う『剣術』とかいうものか……それで? よもや人間ごときの浅知恵で我に傷を負わせようとしたのではなかろうな

 

──チッ……そう簡単にはいかんか……!

 

 

 当たった、と思った斬撃はその実、リオットによって瞬きの間もないほど一瞬で形成された氷壁によって、難なく防がれてしまう。当のリオットは身じろぎ一つしていない。

 

 しかし、アランとて何も考えなしに突っ込んだわけではない。

 

 

──今だ、やれネコ!!

 

「了解ですニャ!! くらえニャ、『ネコ式閃光玉の術』!!」

 

──何……!?

 

 

 アランの背中から飛び出したネコサマが、隠し持っていた閃光玉を炸裂させる。

 アランの背中、その場で炸裂させたため、アラン自身には何の害もない。

 

 強烈な光に、思わずリオットは目をくらませる。

 その隙にアランが後退、入れ替わりにヒョウガに乗ったアユリアがリオットに迫る。

 

 

「ヒョウガ! 『アイシクルファング』!」

 

”任せろッ!”

 

 

 ベリオロス種特有の長い牙に、凍てつく氷の属性を纏わせた噛みつき攻撃が炸裂する。

 

 しかし、本来であれば肉をえぐり、血肉を凍てつかせるはずの牙は、硬い氷の鎧に阻まれてしまう。

 

 

”か、堅っ!? くそ、鎧をなんとかしなくては……!”

 

「牙が鎧のせいで体に届いてない……! まずは鎧をはがさないと!」

 

”『フリーズストライク』で砕こう! いくぞアユリア!”

 

「鎧を砕く……! いこうヒョウガ!! 『フリーズストライク』!!」

 

 

 しかし彼らは焦らない。

 しつこいようだが、アユリアはベテランのライダー。いままで数多のモンスターと戦い抜いてきた猛者である。

 その中には、ただ馬鹿正直に攻めるだけでは攻撃が通らない相手もいた。

 その度に、彼女らは手探りながらも突破口を見つけ、攻略してきた。

 故に、リオットに渾身の『アイシクルファング』が通用しなかったとしても、決して焦ることはない。

 どんな相手にも、生物である以上なにかしら弱点はある。

 アユリアと──そして彼女とともに長い間歩んできたヒョウガも、それはよくわかっていることだった。

 

 

(なんだ、あの息の合いようは)

 

 

 一方、こっそりとリオットの背後に回っていたアランは、鎧を砕かんと『フリーズストライク』を叩きつけるアユリアとヒョウガに対し、思わず驚愕していた。

 

 

(ヒョウガの方はまだいい……おそらく絆石の副次効果によって、ヒョウガの方はアユリアの言葉がわかるのだろう……。だが、問題はアユリアの方だ。なぜ言葉もわからないのに、あそこまで完璧にヒョウガの考えを理解できる?)

 

 

 アランは、今考えていても仕方がない、とひとまず思考を中断し、アユリアたちに続いて自らもリオットへ翼脚を叩きつける。

 当たればひとたまりもないであろう、鎚の形状をとった翼脚を振るうアラン。戦況は誰の目から見ても明らかにアランとアユリアたちのほうへ傾きつつある。

 

 ……ただ一つ奇妙なのは、閃光玉を喰らってからというもの、リオットはうんともすんとも言わなくなってしまったこと。

 嵐の前の静けさの如く押し黙るリオットに対し、これ幸いと集中攻撃を浴びせ続けるアランたち。

 幾度もの連撃の末、ついに甲高い音を立てながら、リオットの鎧が砕け散る。

 

 

──好機!!

 

「今よ、『アイシクルファング』!!」

 

”オオオオッ!!”

 

 

 瞬間、一斉にリオットに強烈な攻撃が突き刺さる。

 ヒョウガの牙が肉をえぐり、アランの太刀が肉を断つ。

 まるで氷のような冷たさに顔を歪めながら、少し後退するヒョウガ。

 しかしまだ動かないリオットに、続く第二撃を喰らわせようとして────、

 

 

──節穴め

 

──!!??

 

 

 ……背後から聞こえてきた尊大な声に、アランは思わず振り返る。

 アランだけではない。アユリアとヒョウガも、はたまた背に乗るネコサマまでもが呆然とリオットを見る。

 

 無理もない。

 なぜなら、先まで目の前で攻撃を加えられていたはずのリオットが、一瞬にしてアランの背後、それも十メートルほども先にいたのだから。

 しかも、いままで攻撃していたリオットはそのままに、である。つまり、リオットが二匹、この場にいることになってしまっているのだ。

 

 

”な……!?”

 

「い、一体いつ移動したの……!?」

 

 

 動揺が走る戦場で、当のリオットはただ静かに、怒りなど感じさせないほど冷静な口調のまま口を開く。

 

 

──我ながら、酔狂よな。本来であればありえんことをしたものだが……目を覚ますには必要であったろうよ

 

──……何の話だ?

 

 

 わけのわからないことを口走るリオットに、アランは警戒を解くことなく問いかける。

 攻撃に移らなかったのは即ち、今のリオットへはどんな攻撃も届くことはないという、確信めいたものがあったからだ。

 

 問いを投げかけてきたアランに、リオットは鼻で笑いながら返答する。

 

 

──先ほどまでの我の話よ。慢心ゆえに、その獣畜生の浅知恵に引っかかってしまった我への……いわば『罰』だ

 

──『罰』……だと

 

「まさか、さっきまでじっとしていたのは……わざとってこと……?」

 

”なるほどな……己への『罰』として、俺たちに鎧を砕かせたのか”

 

 

 ヒョウガがそう納得した言葉を言うと、リオットは突然目を「信じられないものを見た」とでもいうかのように見開くと、唐突に笑い出した。

 

 

──フ、フハハハハハ!! 冗談もほどほどにせんか獣ぉ! ……ククク、まさか貴様らごときが我の鎧を砕けた、とでも思っているのか? 阿呆め。あの時鎧が砕けたのは、ひとえに我の温情であり、策略よ

 

──策略、だと?

 

──そうとも。我自らわざと砕いてやったのだ……姿をくらますためにも、な? ……あの時、貴様らは鎧に夢中になっていたであろう? その隙に入れ替わっておいたのだ……『氷の虚像』とな

 

”氷の、虚像……!?”

 

 

 ──『氷の虚像』。

 読んで字のごとく、氷を使って虚像を作成する技。

 ただし虚像といっても侮ってはならない。硬い氷で作り出される虚像は、本物と比べてもまったく違いがないほど精巧に作られている。

 もしもリオットとこれが一瞬にして入れ替われたのなら……感覚の鋭いアイルーであるネコサマ以外、気づくことはないだろう。

 

 

──……まぁ、そこの獣畜生には感づかれてもおかしくなかったのでな。貴様らが必死になって我の鎧を砕こうとしていた最中、こっそりそのヒゲと鼻を凍らせ、封じておいた。

 

「……ニャ!? ニ、ニャーの自慢のおヒゲと鼻が、凍り付いてふさがれてますニャあ!? い、一体いつの間に!?」

 

──……あぁ、ちなみに耳にはなにもしておらぬぞ? あの激しい戦闘音の中ではどうせ心臓や呼吸の音など聞こえるはずもないし、なにより面倒だったのでな

 

 

 ……それはつまり、「凍らせようと思えば凍らせられた」ということ。

 まったく本気の「ほ」の字すら出していなかったリオットに、アランは思わず歯噛みする。

 

 アランはこの世界に来て、『強者と戦いたい』と願った。ひとえに、あの『空のハンター』に勝てるよう強くなるため。

 とんでもない形ではあるが、今現在その願いは叶っているといっていいだろう。

 

 

(本当にとんでもない形で、だがな……!)

 

 

 どこか強者との戦いというものを楽観視していた、先ほどまでの自分を殴りたくなる。

 少し考えれば当たり前のことだ。強者とは、簡単に倒されるほどやわではないから強者なのだ。

 

 苦い表情を浮かべながら構えるアランたちに対し、リオットは対照的に冷静な態度で氷の鎧を纏いなおしている。どうやら、虚像によるみがわりを使った直後は鎧がなくなってしまうようだ。

 

 

──それにしても……案外やるものだな。まぁ同族たる貴様が手を貸しているからというのが理由だろうが……少々、慢心しすぎたか

 

──慢心だと?

 

 

 聞き返すアランに、リオットは「ああ」と静かに頷く。

 先ほどまでの何もかもを下に見た態度など見る影もない。

 

 

──やはり相手が矮小な存在だからといって、手を抜いていたのはまったく愚かだったと言わざるを得ん。……ここからは、慢心を無くし、全力で殺すとしよう

 

 

 今までとは比べ物にならない【威気】にアランたちが身を固めた、その次の瞬間。

 

 

──……な……なんだ、これは

 

「氷の……ドーム……?」

 

 

 ──すべてが凍てついていくような音を響かせながら、アランたちの頭上に広がっていくのは、太陽の光を淡く届かせる程度の薄い氷壁。

 気づいた時には、それがドーム状に隙間なく、リオットやアランたちを残さず覆っていた。

 

 試しにアランが割ろうとしてみると、まるで鉄にでもぶつけたのか、とでもいうかのような硬い音がドーム内に響く。まるで逃げ場を封じるかのように、三百六十度、ドーム状に展開された薄い氷のドームは、見た目に反して驚くほどの頑強さを誇っていた。

 

 

(……これで退けなくなった、か。だが奇妙なのは、なぜリオットはわざわざこんなことをしたのか? 閉じ込めるようなマネをせずとも、我々が逃げるつもりなどないこともわかりきっているはず。ならば、なぜ……?)

 

 

 唐突なリオットの奇行のワケを探ろうとするアラン。アランはリオットという古龍の性質を、少なからず理解していた。

 

 リオットは典型的な差別主義者で、己よりも劣っていると考えた対象にはその後、もし戦うことになったとしても、絶対に自発的には慢心をやめないというどうしようもない愚かさを持っているが、その一方、敵がどういった相手かを見極め、今現在の自分の戦い方が不利であると認識した途端、いともたやすく戦術などをガラリと変えることのできる柔軟性を持ち合わせている。

 恐らく、この柔軟性こそが彼を『歴戦の猛者』へと成長させたのだろう。敵の出方を見て、自分がどう対応すべきかを一瞬で判断してなおかつその通りに行動する、というのは、簡単そうに見えていざやるのは並大抵のことではない。

 ──もちろん、最初こそ慢心して舐めプの限りを尽くす訳だが。

 

 ……ともかく、そんな彼が慢心を捨て、アランたちへの対応策として持ち出したのがコレなのだ。ならばきっと、これを展開したのにもなにか意味があるはず。

 アランは眼前に静かに佇むリオットから目を離さないようにしながら、素早く思考する。

 

 

(奴は先ほどの戦いで、ほぼ自分から攻撃することがなかった……まあさせなかったから当たり前ではあるのだが……。となると、奴はこれから攻勢に出るはず。今まで満足に攻撃できなかった分、その鬱憤晴らしと言わんばかりに……いや、待て。奴は今慢心を捨てた。そしてそれと同時に攻勢に出ようとしている……。……なるほど)

 

(奴はこれから、己の持つ最大の技を繰り出してくるはずだ。……矮小とこき下ろしている存在に一泡吹かせられた屈辱、ムカつく存在へ攻撃できなかった鬱憤。……これは心理的な問題だ。私が奴と同じ立場に立ったなら「こんどはこっちの番だぜ」をやりたくなるに決まっている……!)

 

 

 そうと決まれば、急いで防御を固めなくてはならない。

 その旨を、アユリアたちへ伝えようとした、その時。

 

 

──……!?!?

 

 

 眼前の、リオットの姿がかき消え、そして。

 

 

──ッ、ぬうおおおおおおあああああああああ!!!

 

「ニャ、ニャ!?」

 

「アラン!!」

 

 

 ──次の瞬間、アユリアたちの目に映っていたのは、頭上からのまるで雹のように降り注ぐ無数の連撃を、必死にさばく、アランの姿だった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 周囲が薄い、それでいて硬い氷のドームで覆われたと思ったら、アランが私たちを守っていた。

 

 自らの大切な村を守るため、アランという驚きの助っ人とともに《冷血皇帝》に挑んでいたアユリアが見た現状を表すのなら、そう綴るほかない。

 

 

「アラン!?」

 

──ぐ、ぬうううう……

 

 

 アユリアが呼びかけるが、答えを返す余裕もないのか、ただ苦し気に唸るアラン。

 アランは、己の翼脚に龍気を灯し、その大きさと長さを最大限活用して、頭上から豪雨のように降ってくる攻撃を歯を食いしばりながらさばき続けていた。

 

 アユリアがせめて状況を把握しようと、アランの目線の、その先を同じように見上げる。

 

 

「……え?」

 

 

 目線の先には、信じられない光景が広がっていた。

 

 アランたちを包む、氷で滑らかにきらめくドームの壁。もしくは天井。

 そこに、()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()

 

 言葉で言い表すのは比較的簡単だ。しかし理解することが難しい。当事者のアユリアも、見てしばらくは理解の範疇を超えた光景に、しばし呆然としてしまっていた。

 

 しかし、彼女とてただものではない。

 その『しばし』の後、アユリアはこの状況の『トリック』に気がついた。

 

 

(あのリオットたち……()()?)

 

 

 ……薄いというのは、無論、厚さのことではなく。

 リオットたちの姿、そのものが透けて見えていたことによるものだ。

 

 

(透けて見える……氷のドーム……超高速の連撃……!?)

 

「なるほど、あれは分身なんかじゃない──言わば、残像

 

 

 残像。

 目が錯覚を起こした結果、起こる現象。

 

 ……そして、主に対象が高速で移動した際に起こる現象でもある。

 

 

「じゃ、じゃあ、あいつはとんでもない速さで移動し続けてるってことかニャ......!?」

 

”な、なんだそれ! 明らかに生物の範疇を超えているだろう!”

 

 

 悲痛な声を上げるネコサマとヒョウガの傍ら、アユリアは混乱が一周回って冷静になったのか、静かに状況を見極め、分析していく。

 

 

(『高速で移動し続けることによる残像の発生』……聞こえは簡単だけど、実際にやるなんてことはほぼ不可能に近い。それも今のリオットみたいな不安定な態勢で高速移動することなんてできっこない)

 

 

 けど、と、アユリアは頭上に向き直る。

 

 

(『滑る』……そう、『滑って移動している』のなら、高速で移動することも不可能ではないかもしれない。冰龍 イヴェルカーナは氷と冷気を操る古龍……そして彼は《冷血皇帝》である実力者。氷に関する事柄についてなら、誰よりも理解があるはず。……なら、氷の微調整を常に行って、超高速で、なおかつ姿勢を安定させながら攻撃するようにもできる)

 

 

 ……考えていて、我ながら突拍子もなさすぎる、とアユリアは自嘲する。

 しかし、なにかしら、多少無理やりにでも、この現実離れした光景に理由付けをしなくては、自分は本当に気がおかしくなってしまうと、彼女の直観が告げていたからだろう。

 とにかく、これにてリオットの絶技のタネは見抜いた。

 

 とはいえ。

 

 

──な、るほど……呆れるほど……ぐぅ、力技だな……ッ

 

 

 ことのからくりを聞いていたアランが、無理やりに嫌味を言う。

 

 タネを見抜いた、何をしているのか原理(仮)まで判明した。

 

 ────だからなんだというのか。

 

 わかったからどうするというのか。

 ドームによって逃げ場がない今、リオットは一瞬の隙をついて連撃から逃れることすらできない。

 唯一動くことのできるアユリアたちも、今はアランの体の下にいるからこそ無事なのであり、もし少しでも体を外に出せば、すぐさま降りしきる槍と化した尻尾の連撃に身を貫かれることだろう。

 だからといって狙撃しようにも、相手は超高速で移動し、残像を残しているがゆえにタイミングを掴んで一か八かで撃ち墜とそうとすることもできない。というか、そもそもここにバリスタや撃龍槍といったような一撃で古龍を墜とすことのできる狙撃が可能な者はいない。

 

 

──フゥーッ、フゥーッ、フゥーッ

 

 

 少しでも体力を回復させようと、荒く呼吸を繰り返すアランへ、雷雨は治まることを知らず降り続ける。

 リオットの方も、なかなか倒れないアランに業を煮やしたのか、体に纏っていた鎧の分の氷をすべて尻尾に集中させ、もはや触れただけで身が凍ってズタズタに引き裂かれるのではないかというほどの槍に尻尾を変化、アランを殺しにかかる。

 その身に痛々しく在る赤い線から垂れる血が、天彗龍独自の銀色の体色を紅く埋め尽くし始め、彼の限界が近いことを如実にアユリアたちに知らせている。

 

 

──……。

 

 

 一方のリオットはといえば、廃砦での饒舌さや、あの尊大な物言いはどこへやら。「全力を出す」と宣言してからというもの、何ひとつ話すことなく、ただ寡黙に眼前の敵を抹殺することに集中している。

 どうやら、ぺちゃくちゃと偉そうに振る舞う彼とはただの仮面であり、正体は言葉は不要、というタイプだったようだ。

 ……だが、その分隙もない。

 ()()()()()()()()()()()()()、怪しい動き一つすら見逃しはしない、といった迫力だ。

 

 

 ……そう、()()()()()()、である。

 

 アユリアは、そこを突いた。

 

 

──……アユ、リア……なに、を……?

 

「ごめんなさい、アラン。龍気を少し借りるわ」

 

 

 困惑するアランを気にせず、アユリアは黙々と作業に集中する。

 

 アランが困惑したのも無理はない。

 なぜなら、唐突にアユリアがポーチに入っていた一本の投げナイフを、ジュウジュウとアランの肩から漏れ出る龍気で炙り始めたのだから。

 

 

”ア、アユリア……?”

 

 

 アユリアの側を片時も離れていなかったヒョウガが、とつぜんの主人の奇行に心配そうに問いかける。

 ……この時、肝心の翻訳役であるネコサマは、アランの傷口に回復役を塗りたくったり元気ドリンコでせめてもの体力回復を計ったりなどで大忙しだったため、ヒョウガの言葉はアユリアには届かない。

 

 しかしニュアンスは通じたのか、アユリアは「心配ないよ」と頼もしい笑みを浮かべて頷くと、炙っていた投げナイフをアランの肩の噴出口から離した。

 高密度のエネルギーである龍気の奔流の高熱によって、ナイフは真っ赤に色が変わっている。おそらく温度は八百度ほどにまで上昇していることだろう。

 

 

「……よし」

 

 

 アユリアは自分の手が高温で溶け、ナイフに張り付かないよう巻いていた布の上にさらに厚く布を巻き、力強く握る。ここまでしてもやけどするほど熱いが、顔をまったく歪ませることなく、彼女は側のヒョウガに向き直る。

 

 

「ヒョウガ……お願いがあるの」

 

”お願い……?”

 

「今から一か八か、やってみたいの。作戦は──」

 

 

 アユリアが事細かに、されどとても素早くヒョウガに作戦を伝えていく。

 

 

──ハァッ……ハァッ……クソ、意識が……!!

 

「ニャニャニャァァ!! 旦那さん、しっかりするニャあああ!!」

 

 

 多く血を流したためか、アランの意識が朦朧とし始める。

 限界を迎えようとしているアランに、泣きつくネコサマ、嗜虐的に口を歪めるリオット。

            

 ────その傍らで、『ライダー(乗り人)』が動いた。

 

 

「行こうヒョウガ!!」

 

”まかせろ!!”

 

 

 アユリアに跨られたヒョウガは、姿勢をそのままに、まるで固定砲台のような様相で、口に極低温の冷凍エネルギーを溜め始める。

 そして満タンまで充填された冷気は、一気に圧縮、凝縮され────、

 

 

──放て!!

 

 

 アユリアの叫びとともに、一気に放出。

 すさまじいパワーとともに、絆技『グラウンドサイクロン』は堅牢な氷壁へ向かう。

 

 すさまじいエネルギーの奔流に、リオットははじめて「ライダー共がなにかやった」というのを知った。

 事前に発射を阻止できなかったことに歯噛みしながらも、リオットは内心ほくそ笑む。

 

 

(阿呆め……我が氷壁はそんなちゃちな攻撃ではびくともせん)

 

 

 骨折り損のくたびれ儲け。

 そうリオットが言ってやろうとした、その時。彼の目に、『あるもの』が映った。

 

 

(──ナイフ?)

 

 

 そう、ナイフ。──ただし、アユリアが先ほど熱した、八百度になって赤熱化した、である。

 

 絆技『グラウンドサイクロン』は元来、極低温の冷凍ブレスを放ち、寒暖差で気流を巻き起こす技。

 「寒暖差で気流を巻き起こすなら、発動した場所が豪雪地帯などのもともと寒い場所では意味がないのでは?」という疑問を持つだろうが、心配はない。どんなに発動した土地がもともと寒かろうが、彼の絆技は問答無用で気流を巻き起こしてしまう。それほど強烈な氷エネルギーなのだ。

 ……では、そんなブレスの真ん中に、逆に超高熱の物体を投げ入れたなら?

 おそらく、熱膨張によって凄まじい爆風が巻き起こることだろう。

 

 アユリアはそれを利用し、氷壁を破壊しようとした。

 

 

 

 

 なぜ、彼女は壁を破壊しようとしたのか。

 

 

 

 

 すべては、彼女の立てた『作戦』に則ったものだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ……氷のドーム。

 リオットがアランたちを確実に殺すために作った、《冷血皇帝》の『処刑場』。

 ドームの氷の壁はとてつもない硬さを持ち、アランの全力の翼脚ハンマーでも傷一つ付かないほど。

 

 リオットがドームをここまで硬くしたのは、私たちを閉じ込めるためだけなのか?

 

 アユリアがまず最初に疑問に思ったのはそこである。

 この疑問は、ひとえに彼女がイヴェルカーナというモンスターを個人的によく勉強していたからこその疑問だった。

 通常、イヴェルカーナ種の放つ大技というのには、『アブソリュート・ゼロ』という別の技が存在する。その技は、極低温のブレスで周囲に人間大はあろうかというサイズの氷塊を次々と生成し、投下。さらには地面からもいくつもの氷柱を生やすことにより、この技を発動したイヴェルカーナの周囲は、上下両方からの波状攻撃によって甚大な被害を被ることになる。

 ……「その技を今リオットがやってるみたいに、ドームに閉じ込めてから発動させたらいいんじゃない?」と考えたそこのあなた。あなたはアユリアと同じ思考に至ったようだ。

 

 アユリアが疑問に思ったのもその部分。

 なぜ、より効果的な方法を取らなかったのか────その理由に、アユリアは簡単に行きついた。

 

 答えは単純。

 アランがいるから。これですべての説明がつく。

 

 リオットは、人間を圧倒的に下に見ている。つまり、脅威として認識していない。

 それは、慢心を反省し、ドームを発動させた後でも同じこと。リオットにとっての変わりない脅威とは、己に匹敵するかもしれない実力を持つ、同族のアランのみ。

 リオットはなによりもまずアランを倒したいと思うことだろう。

 しかし、先のネコサマのように、矮小な者どもに邪魔されてはかなわない。だからこその、アラン以外の行動を抑制でき、さらに一対一(タイマン)の戦いに最も適した攻撃法──通称『高速滑り槍連撃』──を選択したのである。

 

 ……かなり遠回りな説明になってしまったが、説明はこれまで。

 先ほどのアユリアの疑問に答えよう。

 

 『リオットがドームをここまで硬くしたのは、私たちを閉じ込めるためだけなのか?』

 

 ──A(アンサー),『NO。一対一(タイマン)勝負における必殺技の大切な基盤であるから』

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

(──リオットの注意は、いつだってアランに向いている……だからこそ、彼を倒し得る最適な攻撃の邪魔をされないようにドームを硬くしたんだわ!)

 

 

 ──そしてそれはつまり、ドームを壊すことそのものが、現状の最高の打開策ということになるのだ。

 

 

──!!??

 

 

 一点……そう、ただ一点に集中して放たれたブレスに、熱したナイフが直撃した途端、ドーム内に爆風による暴風が吹き荒れる。

 アユリアたちの行動を嘲笑していたリオットも、思いがけない現象に驚愕し、動きが止まる。

 

 

──バカな! このドーム内で爆発を巻き起こすとは……我らモンスターはともかく、人間では耐えられんぞ!?

 

 

 リオットの言う通り、アユリアとて無事では済まない。

 当初、絆技発動のためにヒョウガの背中に乗っていたアユリアは爆風をほぼもろに受けることとなる。

 爆発の瞬間、ヒョウガが脅威の反射神経で硬い甲殻で守ってくれたおかげで、致命傷こそ負うことはなかったものの、それでも彼女の体には、爆風で砕け飛んだ鋭利な氷壁の欠片がいくつか突き刺さっていた。

 

 ……だが、その覚悟への報酬か。

 リオットの『処刑場』が、ついに粉々に砕け散ったのである。

 

 

──なん、だと……!?

 

 

 ここで窮地に立たされるのは、勿論リオット。

 アランを倒すため、身にまとっていた氷を尻尾に集中させていたせいで無防備になってしまっていた体は、これまたアランを倒すための高速移動によるスタミナの消耗によって、意思に反して一ミリも動けなくなってしまったのだ。

 

 

(マズい、マズいぞ! とにかく距離を離さなければ!!)

 

──リオットぉぉ!!」 

 

 

 焦るリオットの耳に轟いたのは、このチャンスを作り出した張本人である、アユリアの咆哮。

 ──正確には、リオットに向け飛んでくるアユリアの咆哮、といった方が正しいか。

 

 

──な……!? 人が、飛んだ!?

 

 

 驚愕するリオットだが、勿論人が何にも頼らず自力で飛ぶことなど不可能。この飛んでくるアユリアは、ヒョウガに思いっきり投げられて飛んでいるのだ。

 このことは、すでに先の作戦会議でヒョウガに伝えられていたことだ。「もし自分がどんな怪我を負っていたとしても、必ず自分を投げるように」と。

 この時、ヒョウガがすごい勢いで拒否しようとしたのは想像に難くない。

 

 ともかく、そういう理屈はあれど、飛んで接近するアユリアに驚愕したリオット。

 この驚愕が、勝敗を分けることになるとも知らずに。

 

 

──……!! 駄目だ、氷の鎧を──、

 

「喰らえェ──ッ!!!!」

 

 

 我に返り、急いで頭部に鎧を生成するも、間に合わず。

 アユリアが渾身の力と投げられた勢いで振るった狩猟笛は、正確に、そして強烈にリオットのこめかみを打ち抜いた。

 

 

──!!! ……が……あぁ……!?

 

 

 長年の古龍の知識が詰まった脳みそが、頭蓋に幾度も衝突、脳震盪を起こし、リオットは目を回す。

 地面に転がったアユリアには、とどめを刺せるだけの体力はもう残っていない。

 

 ──しかし、戦っているのはアユリアだけではない。そして、散々やられた仕返しをせんと、誰よりも速く動いた者がいた。

 

 

──さっきは散々やってくれたな、リオット……!!

 

 

 残った龍気を総動員し、ジェット噴射して飛んでくるアラン。体は血で真っ赤に染まっているが、懸命に回復してくれていたネコサマのおかげで、まだその眼の紺青の輝きは失われていない。

 アランはジェット噴射での勢いそのままに、翼脚を鎚の形に変形させる。

 

 

「いけニャ旦那さん! やっちゃえニャァ!!」

 

──覚悟しろ、リオットォォ――ッ!!

 

(マズいッ! また『頭』に打撃がくる!)

 

 

 未だにぐわんぐわんと揺れる思考のまま、リオットは迫るハンマーに対応するために頭上に厚い氷の盾を作り出す。

 アランの打撃はこの盾に阻まれてしまい、リオットに届くことなく────、

 

 

──!!??

 

 

 否、否。

 ()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()

 固く握られ、『拳』となった翼脚が狙っていたのは──完全無防備になった、腹だった。

 

 

──違う、こいつ腹を狙って────!

 

──遅いッッ!!!!

 

 

 ジェット噴射の勢いとともに繰り出された『拳』は、内臓、骨を押しつぶしながらリオットの腹にめり込み。

 

 

──グアアアアアアっ!!!??!!!

 

 

 ……リオットの体を、数メートル先にまで吹き飛ばしたのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ……吾輩は疲れ果てたのである。

 

 うむ、ご存じの通り、吾輩である。

 激闘を制し、やっとの思いで奴の腹に拳をくれてやった吾輩である。

 

 倒れ伏したリオットは、もはやピクリとも動かない。

 完全ノックアウト……K.O.をしっかりと確認した私は、血濡れの体を引きずりながらアユリアの下へ向かう。

 アユリアは急いで駆け寄ったヒョウガとネコサマに助け起こされているところだった。彼女もなかなか深手を負っていたものの、ヒョウガの見立てでは大丈夫そうなのだとか。意外と人間ってタフなのだな。

 そう言ってちょっと感心していると、アユリアは一刻も早く治療を受けさせようと急かすヒョウガとネコサマを止め、私に顔を向ける。

 

 

「……ありがとう。あなたがいなかったら、きっとこの村はまた壊されてた。……あなたがいたからこその勝利よ」

 

──それを言うならこっちもだ。正直、リオットは私一人では倒せなかった。アユリアの機転があったからこそ、私はこうして生きている。……借りを返すつもりが、さらに貸しを作ってしまったな

 

 

 フフ、と笑うアユリアに、私も穏やかに笑いかける。

 

 ……あぁ、なんと穏やかな。これが勝利の余韻、健闘を称えあう瞬間。

 本当に、このアユリアという人間、そのオトモンであるヒョウガ、そして私のオトモ、ネコサマ……。彼らと出会えたことは、私にとって至上の幸福であったに違いない。

 

 ふふ、本当に心地がいい。

 それこそ、このまま眠ってしまいそうな────、

 

 ……

 

 ……ん?

 

 待った待った、なぜ私の目線が真横になっているのだ?

 いや確かに、「眠ってしまいそうだ」とは言ったぞ?しかも戦いで私も傷を負った、疲れ果てているのは間違いない。

 

 でももうちょっと起きててもいいはずだぞ?

 

 あ~……いかん、アユリアたちがすごく焦っている。安心していいぞ、死ぬわけではないので。……たぶん。

 

 あぁ、だから眠るのはもうちょっと待ってくれ。

 せっかくカッコいい決め台詞言おうと思ってたのに……

 

 寝ない。寝ない、寝ない、寝な────……

 

 

 

 

 

 

 無理。寝る。

 

 

 

 




VS.リオット

結果:勝者、アランたち。
   リオット、失神。


アランは疲れ果てて眠っちゃったようです(血だらけ)。
この後めちゃくちゃ治療した。


次回はアランサイドからいったん離れます。
まあすぐまた戻りますけどね。アランサイド書いてて楽しいし。
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