吾輩は天彗龍である。   作:名無しのサイボーグ

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『空から日本を見てみよう!』って番組
無くなった時ショックすぎてホギャホギャ泣いた


吾輩は立ち上がるのである。

 

 我輩は飛行中である。音速で。

 

 

 いや、やはりいいものであるな。私を私たらしめる、龍気を用いたジェット飛行は。

 こうして風を切り、雲を眼下になによりも速く飛ぶことだけは、いつまでたっても飽きることはない。

 我ら『天彗龍』のなによりの特権を思い出させてくれたあの子供には感謝をせねばなるまい。

 

 

 …さて。

 だいぶ気分も晴れてきたところで、空からザッと辺りを見回してみた見聞も加えて、これからを考えてみよう。

 

 当面の目標としては、やはり元の世界に戻ることが第一。

 ここには住み慣れた遺群嶺も無いし、諸々の理由から早急に戻る必要がある。そのためには、何がキッカケとなってここへ来たのか、そこを思い出さねばならぬ。

 

 …ま、それはおいおい思い出していくとして。

 他のことも考えていこう。

 

 まず、人前に姿を見せるか否か。

 答えは『NO』であるな。

 

 …うん。「元の世界では見つかっていたのだからここでも気楽な感じでいいのでは?」なんて事を考えた奴。貴様はマヌケである。

 

 よいか?まず、だ。

 

 この世界では恐らく、『天彗龍』という種が発見されていないどころか、そもそも存在すらしていない可能性が出てきた。

 

 なぜ分かるのか、と聞かれれば、それは『感覚』で、としか答えようがない。

『古龍が互いを認識し、争いを避けるためのセンサー』とでも言うべきか。

古龍同士で争えば、環境に多大な影響が出かねんからな。その防止策ということであろう。

 

 まぁ、とにかくそういうのがあるのだ。

 そして、その便利センサーは私の同族を全くと言ってもいいほど検知しない。他の種は感じるが、天彗龍はからっきしである。

 これ即ち、この世界には天彗龍の一族は存在しない、という結果に落ち着くわけである。

 

 ということは、だ。

 私は未だ人間達にとって、未知の存在ということになる。

 人間が未知の存在を発見したら、一体どうするのか。少なくとも、私のいた世界の人間たちであれば迅速に調査を開始するだろう。

 

 ──勘が良くなくてももう気づいたであろう。

 そう、私が人間の目の前に現れたくないその理由は、ただ単にメチャクチャ面倒くさそうだからである。

 

 いや…だって面倒であろう。

 いつも通りに過ごしてたら急に家に上がり込んで景観荒らすわ、私のお気に入りの飛行経路上に無断常駐していた船にうっかりぶつかって破壊したら、七十パーセントぐらいあっちが悪いのに勝手に危険生物認定されて討伐されそうになるのだぞ?

 むしろ面倒で済ませているのだから、ありがたいと思って欲しいレベルである。

 

 

 …まぁ、とにかく。

 この世界でも、私は目立たないよう生きていこう。

 飛行するときはいつもより高空を飛ぶ、地上に降り立つ時もサイレントモードで降りる、飛び立つときは周囲を確認して人間やアイルーの目がないかどうかの確認を行ってから飛び立つ。

 以上に気を付けながら、脱出方法を探っていくとしよう。

 

 

 

 

 

 

 

 

 …ふむ、そんなことを考えていたら、いつのまにか長い間飛んでいたようだな。そろそろ龍気の補給をしなければならないか。

 全く、龍気の補給がいらなければ、もっと快適に空の旅を満喫できるのだがなぁ…。まぁ、文句を言っても仕方がない。生まれ持ったもの、大切にしなくてはならぬ。

 

 さて、先ほどの草原に戻って来───む?

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 先刻彼が降り立ったのは、【ボルデの丘】と呼ばれる地域。

 草食竜が闊歩し、どことなく穏やかな雰囲気を醸し出す緑豊かな草原だ。

 しかし、草食竜あるところに肉食竜あり。このボルデの丘でも、弱肉強食の掟は存在している。それは食われる側の草食竜たちも理解しており、その上で今の生活を送っている。

 故に、多少の血が流れても動じることはない。

 ──しかし、今日は違った。

 

 

“逃げろみんなーー! 空から来るぞーッ!”

 

 

 見張り役のアプトノスが言うや否や、空から降り注いだ金色の雨が彼の喉を掻っ切る。

 一瞬で絶命し、倒れた見張り役に動揺する群れの前に、元凶が姿を現す。

 

 

“──血だ! 血が飲みたい…テメェらの血を貰うぞッ!!”

 

 

 『千刃竜 セルレギオス』。

 彼もまた、ここボルデの丘に生息するモンスターではあるが、その種は普段、もっと丘の奥に生息する個体。普通ならばこれほど草原近くには現れないはずなのだ。

 しかし、この個体は極度の飢餓状態にある。

 彼はボルデの丘で生まれたセルレギオスではなく、もともとは砂漠に生息していた個体。生存競争に負け、長い旅を経てここへ辿り着いたこの個体は、すっかり腹を空かしていた。

 

 

“ひいい! なんて恐ろしい咆哮なの…!”

 

“逃げろ逃げろ! 食われるぞーッ!!”

 

“いいぞ…悲鳴を聞かせろ! その方が血が旨くなる!!”

 

 

 …一見、噛み合っているかのように見えるこの会話だが、その実、全く言葉は通じていない。

 種類によって、言葉は違う。『アプトノス』と『セルレギオス』では勿論、どこか似通っている『アプトノス』と『ポポ』ですら言葉にはまるっきり違いがある。

 故に、今この状況において、アプトノスから見たセルレギオスは『凶悪な咆哮を上げる災厄』、セルレギオスから見たアプトノスは『モーモー泣き喚く血肉袋』ということである。

 

 

“ひっ、ヒイッ……ぎゃっ”

 

“ハハハハハ!! 一匹目ェ!!”

 

 

 最後尾を走っていた大人のアプトノスの首が、スパン、と音を立てて落ちる。

 タネも仕掛けもない。ただセルレギオスがその鋭い爪を振るっただけだ。

 

 

“さて次はァ…─── ♪ ”

 

 

 次にセルレギオスの目についたのは、二番目に後ろを走っていたアプトノスの子供。

 ターゲットを見つけたセルレギオスは、目を細めて舌舐めずりをする。

 

 ──子供は良い。柔らかいし、脂身もある。そしてなにより『お手軽』だ──

 

 目を爛々と輝かせながら、翼をはためかせセルレギオスは飛翔する。

 目標は、子供のアプトノス。

 

 

“うわ、うわ、うわあああ…”

 

 

 必死に逃げる子供。

 しかし、もともとおっとりとした性格のせいか、その走りはあまり速くはない。

 

 ──ふと、子供は後ろが気になり、足を止めぬまま後方へ振り返る。そこには、迫り来る恐ろしいセルレギオスが──

 

 …否。

 あったのは『爪』。

 今にも自分を切り裂こうと迫る、セルレギオスの恐ろしい爪であった。

 

 

“…おじさん、元気出たかな”

 

 

 死の間際、彼が思ったのは自分のことではなく、先ほど空へ飛んでいった『おじさん』のこと。

 

 自分たち、アプトノスとは全く違う姿をしていながら、自分たちと話ができた、なんだか偉そうなおじさん。

 自信なさげにしていた彼を、子供はほんの親切心から助けた。

 

 

“…おじさん…元気でね”

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 彼は、お人好しならぬ、『お竜好し』であった。

 群れの中でもとびきり優しく、勇気があり、食いしん坊だった。

 …そして、そんな彼の『竜生』は、短いまま終わろうとしている。

 

 

 それを、貴方は『憐れ』と思うだろうか?それとも、『仕方がない』と大自然の掟として受け入れるか?

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ──少なくとも、空から流星の如く墜ちてきた『龍』は、そうは考えなかったようだ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

“──ゲブボア゛ァ゛っ!?”

 

“っ!?”

 

 

 次の瞬間、突然の轟音と共に、肺から全ての空気を吐き出したような声が聞こえた。

 声の主は、唐突なダメージにふらつきながらも、爛々と目を血走らせるセルレギオス。彼は、自分へこんなことをした下手人ならぬ『下手竜』を、睨み一つだけで殺しそうな勢いで睨みつける。

 

 一方、突然の衝撃に思わず尻餅をついてしまったアプトノスは、そのままの体勢でセルレギオスが睨みつける方向を、驚きと、嬉しさが入り混じった視線で見つめる。

 

 …そしてふと、『その龍』は口を開く。

 

 

──全く…『龍気』がもう無いと言っておろうに…今の突進で全て使い果たしてしまったぞ? …まぁ、こんな若造相手には、我が肉体のみで事足りるだろうがな

 

“…ァア゛ン゛だとォ!!?”

 

 

 すっかり頭に血が上り切っているセルレギオスは、身体中の刃鱗を逆立てながら咆哮する。

 その咆哮は、暗に「俺様のランチの邪魔をしたテメェは誰だ!?」という意味も含まれている。

 

 その意味を理解しているのか、いないのか。

 『龍』はセルレギオスの咆哮を無視し、尻餅をついたまま呆然とするアプトノスの子供に向けて声を掛ける。

 

 

──小僧! …走れるか

 

“へっ、あ、うん!”

 

──よし…ならばもう少し離れていろ。守ってやる

 

“お、おじさん…”

 

 

 守る…自分と会話できる存在が?

 自分と会話できる存在、という時点で、子供はまだ『龍』のことを自分と同じ『草食竜』だと判断している。故に、不安げな声を上げる。

 ──だがなぜかその実、子供の心中に不安はない。

 なぜか、と聞かれればそれまでだが…とにかく、子供には「『龍』がセルレギオスに負ける」というビジョンだけは、どうしても浮かばなかったのだ。

 故に、彼は『龍』を信じて立ち上がった。

 

 

“おじさん頑張って! 頑張って!!”

 

 

 精一杯の激励を『龍』へ送った子供が、しっかりとその身を遠くへ隠したことを確認し、『龍』は待ちぼうけをくらっていたセルレギオスに、改めて向かい合う。

 

 

──さて…「誰か」と聞いたな、若造

 

“そうだ!! 冥土の土産に聞いておいてやるぜ!!”

 

 

 怒りでガチガチと歯を鳴らすセルレギオスに、『龍』は否応なしに自らの置かれている状況を理解する。

 ——戦いの場。それも、命の奪い合い。

 左目のキズが疼き、目の前にあの光景が蘇る。

 …しかし、『龍』はもう目を逸らさず、恐れることもない。彼は至って冷静に、しかし尊大に、声高らかに名乗りを上げる。

 

 

──我こそは『古龍』! 天の道を行き、天翔ける星となる『天彗龍』なり!! …私に希望をくれた、幼くも優しき我が友人のため……貴様を、倒す

 

 

 『龍』…《天彗龍》は、『小さな竜への恩返し』を大義名分としながら、山々にまで轟く、流星のような咆哮を上げた────。

 

 

 




天彗龍復活ッッ
天彗龍復活ッッ

そしてこれでストックは全て投稿し終わってしまいました…時間をください(迫真)

あ、ちなみにこのセルレギオスの名前は『レスケンザ』と言います。
元ネタは特にありません。でも結構キャラとして気に入ってます。
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