吾輩は天彗龍である。   作:名無しのサイボーグ

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アランサイド。
短いのか長いのかよくわからない長さ。

よろしくお願いします。


吾輩は強者に出会うのである。

 

 

 吾輩は……何をしていたのであろうな。

 うん。ちょっと思い出したくないのである。

 

 

「そっか……これが『新時代』ってやつなのね……!」

 

 

 なんか向こうで感動しているぷにぷにマスターがいるが、無視しよう。

 今ばかりはその存在を意識から消す。……うむ、よし。

 

 

 では現状報告と行こう。

 

 私はその後、結局アユリアに捕まり、散々ぷにられてしまったのだ。

 そこをアユリアのオトモン、ヒョウガが何とか引き離し、今に至る。

 

 ……え?出来事が薄い?

 バカを言うな。貴様らにとって薄くても、アレは私にとっては呆れ返るほど濃厚で、とんでもない恐怖の時間だったのだぞ?後ろから全速力で迫ってくる奴の目といったら……うう、寒気が。

 

 

「あ、あのぅ……大丈夫でしたかニャ……?」

 

——まあ、なんだ。……お互い、災難だったな

 

「ですニャ」

 

“なあ……ちょっといいか?”

 

 

 ネコサマと傷を傷の舐め合いをしていると、ヒョウガがどこか遠慮がちに近づいてくる。

 彼なりに主人の失態に責任を感じているのだろう。殊勝な心がけである。

 

 私は寛大だ。快く翼脚で手招きをし、彼を側に来させる。

 

 

——貴様が責任を感じる必要はないだろう……で、何の用だ?

 

“ああ、お前ら、元々はアユリアを探しに来てたんだってな”

 

「そうですニャ。この辺で高名な『強者』の情報が欲しくて、アユリアさんを探してたのですニャ」

 

 

 ネコサマの説明に、ヒョウガは「なるほど」と唸る。

 まぁ、唸るのも仕方がない。人間ならばともかく、モンスター、しかも古龍種である私が武者修行の旅をしているだなどと、意味不明にも程がある。

 「古龍なんていう力の権化みたいな存在のクセして、もう力は十分持ってるだろうがよ」というツッコミがありありと聞こえてくる。

 ……まあ、その力が十分でないからこそ、こうして旅をしているのだが。

 

 ふと、強者が思い当たらないのか悩ましげに唸り続けるヒョウガの横に、件の彼女、アユリアがとても遠慮がちに並ぶ。(私がちょっとビクってしたのは内緒だ)

 

 

「えっと……その、本当にごめんなさい。冷静になってみたら……私どうかしてたわ」

 

——……そうだな。アレはどうかしていた。流石にフォローのしようがない

 

 

 とても反省した様子で深く頭を下げる彼女に、私は率直な言葉を返す。

 今はネコサマによる翻訳が行われているので、無論彼女はこちらの言った意味を理解し、ますます肩を落とす。

 

 しかし、私とて鬼ではない。

 深く謝罪し、自らの行いをしっかりと省みることのできる者を無下にはすまいと、私は「だが」と言葉を続ける。

 

 

——種類はどうあれ、友好的な態度をとってくれたのはありがたかった。現状、あまり厄介ごとを引き起こしたくはないのでな。だから先の奇行も、謝ってくれたならばそれでいい

 

「! そう……ならよかった。許してくれてありがとう」

 

——うむ

 

 

 無事仲直りが済んだところで、私は改めて本題に入る。

 アユリアも私が武者修行の旅をしていると知って、少し驚いた様子だったが、すぐに顎に指を置いて記憶を探ってくれた。

 

 数秒後、やはりダメか、と諦めかけていたその時、「あ」とアユリアが呟き、顔を上げた。

 

 

「一つだけ心当たりがあるわ……《冷血皇帝》よ」

 

「《冷血皇帝》……!? ニャ、ニャンだか怖そうな名前ですニャ」

 

——ご大層な名前だな……貴族か何かか?

 

 

 問いを投げる私に、アユリアは頭を振る。

 

 

「《冷血皇帝》は人間ではないわ……モンスターなの」

 

——なるほどな……どんな奴なのだ?

 

「私も詳しいことは知らない……あそこに見える大きな山——ラヴィナ雪嶺っていう山の頂上の、そのまた奥の奥……最深部にあるって言われてる砦跡にいるって話よ」

 

——それはもう秘境なのでは? ……む、そうか。そんな奥地に住まう者といえば、一つか

 

 

 アユリアは頷く。

 

 

「そこにいるのは、古龍。——古龍、イヴェルカーナよ」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「ニャ゛ニャ゛ニャ゛ニャ゛……寒いのですニャ、吹雪いてますニャ! こ、今度こそニャーの自慢のヒゲが凍ってしまうような気がしますニャ……!」

 

(もうとっくのとうに凍って内一本はポッキリいったのは言わないでおこう)

 

 

 ここら一帯の強者であるという《冷血皇帝》の情報を入手した私たちは、そのままアユリアたちと別れ、彼が住まうという砦跡に向かって進んでいた。

 途中、やはりというか何というか、かなり吹雪いてきたため、ネコサマを私の翼脚で囲って背中に乗せてやって移動している。

 ……私?私は全く問題ナシである。この程度で根を上げるようならば、雲の上を飛ぶことなどできはしないのだからな。

 

 

「……そういえば、アランさま」

 

——どうした

 

「イヴェルカーナって種類の古龍自体、本当に知らなかったんですかニャ?」

 

——くどいぞ。私がいたせか……地域では、そんな古龍の名は聞かなかった

 

 

 「古龍の情報網って意外と狭いんですニャ」と失礼なことを言うネコサマを無視しながら、私は《冷血皇帝》の正体について考えを巡らす。

 

 ——冰龍、イヴェルカーナ。

 平たくいえば『氷を操る古龍』で、その龍のいる地はたちまち凍え、一面の銀世界へと姿を変えるのだという。

 私の世界ではその名を聞いたことはなかったが、『氷を操る古龍がいるらしい』という話だけは耳に入っていた。当時は鋼龍の話か、と歯牙にもかけなかったが、今思えば、その龍こそがこのイヴェルカーナだったのかもしれない。

 

 未知の古龍というと、流石の私でも緊張するものがある。引っ越した先のお隣さんに挨拶しに行くようなものだ。実を言うと、ほんの少しだけ気が重い。

 

 

——……いやいや、いかんいかん!

 

 

 頭をよぎったそんな感情を振り払い、私はただ前へ進む。

 せっかくの強者だ。ここで会わずして、いったい何をするというのか。

 

 

(決めたのだ。私は必ずや『空のハンター』にリベンジする! これはその第一歩! 臆してはならん!)

 

 

 私は足を止めない。

 近い未来に必ず、失われた『誇り』を取り戻すために。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 アユリアの情報は正確だった。

 

 砦跡は、雪嶺の頂上の、そのまた奥地の奥……その場所に、ぽつんと佇んでいた。

 アユリアの「奥の奥の……」という言葉は過剰表現でも何でもなかったのだ。本当に、奥の奥にあった。事前情報がなければ「なんだここ引きこもりの家か?」なんて思ってしまいそうになる程奥の奥に存在していた。

 

 

——氷で……覆われている

 

 

 肝心の砦跡はその一切が氷に包まれていた。

 砦の石肌は全く外気に晒されておらず、それどころか氷を用いて、砦の欠けた部分など、そういった部分の増築まで行われている。

 

 そのせいか、砦跡は私の考えていたものよりずっと巨大で、美しかった。

 

 

——これでは砦というより城だな……

 

「……あ、アランさま」

 

 

 ふと、感動するアランにネコサマの声がかかる。

 

 

——? どうした

 

「も、申し訳ありませんがニャ……ニャーはついていけそうもないニャ」

 

——何だと?

 

 

 見れば、ネコサマの手がブルブルと震えている。

 一瞬、寒さにやられたのかと考えたが、真の理由を私は次の瞬間、すぐさま理解した。

 

 

——ッ!!

 

 

 ギギギ、と開いた砦の門から、とんでもなく濃い『威気』が流れ出てきたのだ。

 

 『威気』とは、いわば古龍限定の精神的な力。

 人間で例えるなら、『覇気』などがもっとも近いだろう。

 

 そして無論、威気はその威気を発する者が強ければ強いほど濃くなる。

 アイルー族は気配に敏感だ。門で隔たれているとはいえ、この濃さの威気を感じてしまえば、手も震えて当然というもの。むしろよく気絶しなかった、と褒められて然るべきだ。

 

 私はそう理解すると、ネコサマを背中から下ろす。

 

 

——では待っているがいい。どちらにせよ、ここでお前は下ろすつもりだったからな

 

「ニャ……? そうなんですかニャ?」

 

——……理由が聞きたいか?

 

「……や、やめておきますニャ」

 

 

 目を細めて聞く私の態度に、何かただならぬ理由を感じたのか、懸命な判断を下すネコサマ。

 

 それでいい。もしただのアイルーに過ぎないネコサマがこの威気の主に直接会おうものなら、威気にやられずとも()()()()()()()()

 

 私はネコサマに凍える前にクアン村へ戻ることを厳命してから、まるで魔物の口のように開いた門を通り、砦内へと入っていった。

 

 

 

 

 砦内は薄暗く、人間のいた痕跡一つ見つからない。

 意に介さず進んでいくと、急に明るい場所に出た。

 

 

——ここは

 

 

 そこは、まるで玉座。

 ガラスのように光を通す氷の屋根の下、煌々と太陽の淡い光の照らす広いスペースの中、堂々と正面に位置する花のような形の氷の玉座があり、まさしく『王の間』と呼ぶに相応しい場所であった。

 

 誰かいないか、と声をあげようとした、その時。

 

 

——痴れ者が

 

——!!

 

 

 玉座の奥——おそらく寝床になっているのだろう——から、一匹の龍が悠々と歩いてきた。

 白と濃い青の体色は、まさしく氷を操る古龍に相応しい。

 

 『龍』は続ける。

 

 

——我が領地に勝手に入って来るのみならず、我が住まいにまで踏み入ってくるとは。怒りを通り越して呆れの極地だな

 

——勝手に領地に踏み込んだこと、謝罪しよう。しかし私がここに来たのも用向きがあってこそ。事前に連絡する術もないため、勝手に入ったのだ

 

——……ふむ、一理ある。しかもどうやら貴様、『古龍』だな。であれば、赦す。《冷血皇帝》と恐れられている我とて、同族を無下にはすまいよ

 

——《冷血皇帝》……ではやはり、貴殿が

 

 

 身を乗り出す私に、『龍』は「自己紹介がまだだったな」と呟き、堂々と口を開く。

 

 

——我こそが《冷血皇帝》。『冰龍』の一族……名を、リオット

 

 

 

 

 

冰龍 イヴェルカーナ

《冷血皇帝》——リオット

 

 

 

 

 

 《冷血皇帝》リオットは、自らが名乗り終えると、次は貴殿の番だと言うように目を私に向ける。

 もとよりそのつもりだった私は、同じように名乗り返す。

 

 

——私は『天彗龍』の一族。名をアランと言う

 

——良き名だ。……さて、アランよ。何か用向きがあってここへ来た、という話だが……その話、急ぎか?

 

——何?

 

 

 順調に進んでいた会話の中、唐突に急用か否かを問われ、困惑する私。

 

 てっきり、早速用件を話すことになると思っていたのだが……。

 私がそう拍子抜けしていると、アランは私の態度を見て「急ぎではない」と判断したのか、問いを投げかけてきた。

 

 

——急ぎでないと言うならば、先にこちらの質問に答えてもらおう。……アランよ、もし貴殿の一族——『天彗龍』の一族が由緒正しいものであったのなら悪いが、あいにく我はそのような名の龍を知らぬ。貴殿から感じる古龍の気配と、その姿形で嘘をついているわけではないとはわかるが……貴殿、何者だ?

 

 

 ……なるほど、その質問か。

 私とて、これを問われる可能性を考えていなかったわけではない。むしろ、必ず聞かれることになるだろうとは考えていた。

 

 私は問いに答えるべく、意を決して口を開いた。

 

 

——信じてもらえないかもしれないが、私はこことは別の場所……いわゆる『異世界』からやってきた。……事故でな

 

——ほう

 

 

 相槌を打つリオットの目には、未だ疑念がある。

 私はこの事実を信じさせるべく、言葉を尽くすことにした。

 

 

 

 

 

 

 

 

 …あ、でも『空のハンター』に『直接対決で』負けたことは黙っておくか。

 恥ずかしいし。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

——ふ、フハハハハ!! そうかそうか! 人間にしてやられたか!! ……まあ、だが案ずることはない。奴らは小狡い。一度の敗北はどの龍でも通る道よ

 

——ふふ、その通りだな

 

 

 数刻後、すっかり話が盛り上がってしまった私たちは、いったん話をそこまでで切り上げる。

 この場に肉でもあれば、もはや宴会になってしまいそうなほど盛り上がってしまっていたので、ここらで切るのが英断、というものだ。

 

 リオットは「なんだ? もうおしまいか?」とどこか不満げだが。

 

 

——さて……これで信じてくれたか?

 

——うむ。これで全て嘘と言うなら、我は貴殿に作家を勧めておったわ。いやあ、愉快愉快。この世にはまだ我が知らぬことが多いこと多いこと。……さて、こちらの質問は済んだ。本題に入るとしよう

 

 

 居住まいを正すと、リオットは玉座から問いかける。

 

 

——アランよ。一体何用でここへ来た? 嘘偽りなく申すがいい

 

——答えは単純明快。……リオット、貴殿を『強者』と断じて頼もう。——この私と、戦ってはくれまいか

 

——ほう?

 

 

 リオットはさも面白そうに笑みを浮かべると、「それは己の弱さ故にか」と問いを投げる。

 私がそれに対して是、と答えると、リオットは笑みをそのままに口をひらく。

 

 

——それは即ち、武者修行の旅、ということか? ……酔狂よな。今までに、強さを求める古龍など見たことがない

 

——ならば、私が最初ということだ

 

 

 私も笑みを浮かべてそう返せば、リオットは笑った。おかしくてたまらない、といった様子で。

 

 

——だが悪いな、旅の者よ。如何せん今日は興がのらぬ。また後日、ここへ訪れるがいい

 

——そ、そうか

 

 

 告げられたのは、まさかの『NO』。

 ノリに乗ってやり合ってくれるかと思ったが、とんだ気分屋だったようだ。

 

 「ここまで来るの大変だったのに」と心中で愚痴りながら帰ろうとした私を、リオットが鋭い声で引き止める。

 

 

——なんだ?

 

——確かに我は先ほど「赦す」と言った。だがここは我の領地、居城よ。そこへ無断で入ったのを許したのは、特例中の特例。ならば頼みの一つは聞いて帰るが良い

 

 

 なるほど、頼み事か。

 

 私はやれやれと言わんばかりに小さく息を吐くと、リオットに向き直る。

 

 

——……いいだろう。それで? 頼み事とは?

 

——うむ。それはな————

 

 

 打って変わって、真剣な表情で口を開いたリオット。

 もしや、真面目な方向のお願いだったりするのだろうか。だとすれば少し荷が重い……

 ……いや、私にかかればどんな頼みだろうと楽々であろう。むしろ「この程度」と言えるほどの度量がなければ、きっと奴には勝てない。

 

 さあどんな頼みもどんと来い、だぞリオット。

 どんな願いも叶えて見せよう、というやつだ。

 

 さあ、一体どんな頼み事で————、

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

——この山の下にある、ライダーの村……『クアン』と言ったか。

 

——そこを、滅ぼしてきて欲しいのだ

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

…………。

 

 

 

 

 

なんて?

 

 

 

 

 

 




アラン「え? え? な、なにゆえ?(混乱)」



次回へ続く
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