成り上がり魔法使いアーサー   作:恒例行事

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姉上は裏表のない素敵な人です

 

 傷だらけの身体に鞭打ってペーネロープと言葉を交わした後、呼び出し通り姉上に執務室へと足を進めていた。

 まあ折れたのは親指だけだし動けなくないってのが最悪だ。

 こんなボロボロなんだから布団に包まりたいのにそもそも布団が無い。

 医務室の方がボクの寝床より環境がいいまであるね。

 こんなに休息を求めているのに、どうやら休息はボクの事が嫌いみたいだ。

 

「おつかれさま、アーサー」

「全くだ。復帰一発目にこれは骨が折れるよ」

「実際に折れてるでしょ。ま、少しはマシになったみたいでよかったわ」

 

 姉上は少し微笑んだ。

 期待には応えられたらしい。

 ほっと一息ってヤツだ。

 これで出て行け無能と罵られる事は無いから一週泊一週飯の義理は果たせたと言った感じだね。

 

「ペーネロープはどうだったかしら」

「強かった。暫く夢に見そうだ」

「今更言うのはアレだけど、彼女って結構危ない位置にいるのよね」

「なんか想像と違う方向に話が傾いてるけど」

「ディラハーナ家に歴史があるという話をしましょう」

 

 ボクは暖かい布団でしっかり体力を休ませたいんだが? 

 残念なことに姉上に逆らう姿勢は全く持ち合わせていない為、休息を求める肉体を黙らせてそのまま拝聴する事にした。

 

「グランデーザ伯爵の事は理解してる?」

「名前くらいは聞いたことある」

 

 昔からいる古い家系という程度の情報なら持ち合わせているよ。

 

「アンタ本当に他人に興味ないわね……」

「そういうこともある。それで?」

「……ディラハーナ家は古い時代から伯爵家に仕え続けてる家。あまり目立った人材は輩出してないし、正直歴史に埋もれていると言っても過言じゃないの」

「うーむ……それにしてはこう、ペーネロープはかなりバチバチにやってる方だと思ったけど」

「その通り。ペーネロープはアンタが予選で倒すまでは次世代のエースって感じだったのよ」

 

 なんと、それは知らなかった。

 対戦相手の事なんて戦う瞬間まで知らなかったから、まさかそんなことになっていたとは。

 

「それでアンタに負けて、塞ぎ込むような子じゃないからああやって努力を積み重ねて、ちょっと魔法が使えるからって第四師団のクソ共が伯爵家にちょっかいかける為に手に入れようとしていたのを私が止めたの」

「聞けば聞く程第四師団の嫌われっぷりが目に付くね」

「その内嫌でも理解できるようになるから安心しなさい」

 

 ボクは汚職で守られた立場だから既に何も言えないんだけどな。

 

「つまり、ボクに負けたことで何かが起きると」

「すぐじゃないけどね。ま、そこら辺は私に任せておきなさい」

「権力のお陰だね」

「なんか頼る事になったら言うわ。それであともう一つなんだけど」

 

 まだあるのか……

 

 いい加減立ってるのが辛いから休みたい。

 でも姉上が机から何かの書類を取り出したのを見てしまった。

 間髪入れずそのまま話は継続されるらしい。

 う~む、ぷるぷるしてきたな。

 

「……これは?」

 

 差し出された書類を手に取って眺める。

 

 第二師団総合演習訓練日時決定。

 一ヵ月後、街から離れた平原で執り行われる全部隊対抗で行われる実戦形式の演習。

 指定された陣地を守る、若しくは相手の陣地を奪った数の多い部隊が勝利になる。

 勝った部隊には褒賞が与えられる。

 

「…………ふーむ、なるほど。つまり姉上は……」

「ええ。去年は私達黄金騎士団(オロ・カヴァリエーレ)が優勝してるの」

「ほう! ならボクが居なくても余裕じゃないか?」

「逆ね。アンタを加えて負けるようならその時は……」

 

 身震いしちゃうぜ。

 怪我が完治してないのに既に次の戦いを言い渡されているんだが? 

 

 そんなボクを尻目に、姉上は素敵な笑顔のまま言い放つ。

 ボクにはそれが死刑宣告にも見えた。

 

「次の目標は総合演習優勝。あなた達三番隊に陣地取りを任せるから、全部滅茶苦茶にしてきなさい」

「…………ふー……」

 

 一度落ち着こう。

 聞き間違いかもしれない。

 いくらなんでも酷い話じゃないだろうか。

 

「もう一度お願いしていいかな?」

「あんたら三番隊で結果出さないとお仕置きするから」

 

 どうやら聞き間違いではなかったらしい。

 

 姉上の笑顔は素敵だ。

 そしてこれは関係ない話だが、笑顔は時として敵を威圧するために使われるものであるらしい。

 

 政界を渡り歩く姉上が一体どのような意図でこんなに明るい表情で笑っているのかは、魔法バカのボクには測りきれないものだった。

 

 ただ一つボクに許された事は、黙って頷き笑顔で了承を告げる事だけだ。

 

「はい喜んで、愛しきお姉さま」

「次そういう言い方したら殺すわよ」

 

 既に手は出ている。

 投げられたペンがボクの額に直撃し激痛に悶えた。

 くそっ、いつか仕返ししてやるからな……! 

 

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