成り上がり魔法使いアーサー   作:恒例行事

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修行パートは少年誌の特権だよ

 

 ボクは窮地に立たされている。

 理由は単純明快で、総合演習で三番隊のみが攻撃に参加し他第二師団相手に大立ち回りを演じなければいけなくなったからだ。

 

 より正確に言うならば、たった一週間でペーネロープに勝てるくらいには伸びしろがあると判断された為に複数人の激しい訓練によって日夜身体を酷使し続けているため苦痛に苛まれているからである。

 

「ウッウッ、背筋が痛い」

「運動不足だな」

「日頃の行いよね」

「得意の魔法で治せばいいじゃねーか」

「決闘の時だけ入れ替わってましたか?」

「あー、うーん……だ、大丈夫アーサー(・・・・)? 氷とか持ってこようか?」

「…………ペーネロープ……まだ甘やかさなくて、いい」

 

 これが我が三番隊の結束力である。

 おいおい肝心(かなめ)のボクが仲間外れになってないか。

 ちなみに背筋が痛いのは前日の筋トレが今になって響いてるからであって、別に打ちのめされて激痛が奔ってるとかそういう訳ではない。

 

「ボ、ボクは魔法さえ使えればまだ……ハァ、ハァ……なんとか出来るんだ。筋トレをするより魔法をこねくり回した方が、有意義だと思うね」

「その魔法を使う前にダウンするのが目に見えてるからこうなってるんでしょ。ホラ、次行くわよ」

「あぁんっ! もっと優しくしてくれっ」

 

 ルビーは容赦ない。

 広背筋を十二分に苛めたと言うのにこの後はスクワットと腕立て伏せ、体力作りのジョギング一時間。

 

 殺す気だ……

 ボクの事を殺す気なんだ。

 

 呆然とするボクを見かねて、ジンが小さく声を出す。

 

「…………ルビー」

 

 呼び止められたルビーはボクの顔を見てから、ハッと何かに気が付いたような表情に変わった。

 

 フフッ、わかってくれたみたいだね。

 こう見えて演技はうまいんだ。

 浮浪者時代にやること無くて変顔の練習とかしてた甲斐があった。

 だって暇すぎるんだもん。

 水辺に写ったボクとにらめっこするとか、一人ジャンケンとか、虫を捕まえて食べるとかそれくらいしか娯楽が無かったからね。

 

 そしてジンはボクに優しい。

 ふぅ……

 魅力がありすぎるというのも困りものだね。

 あまり訓練が温くなりすぎても困るから、そこだけはボクが自分から声を出す。

 

「もっと……増やそう」

「なんで??」

「余裕、ある」

 

 それは君達にあるだけでボクには無いんだが? 

 

 抵抗虚しく、全員黙って数を増やして筋トレを再開してしまったためボクも溜息と共にそれに参加した。

 

「ハァ、フゥ、ハァ、フゥッ……ハアァッ!」

「うるせぇなこいつ……」

「まだ余裕があるとは流石だなエスペランサ。大隊長も喜んでいるぞ」

「おい待て。姉上の名前を出すのは卑怯だろ」

 

 ボクは姉上に弱いのだ。

 というか常識的に考えて、ボクの立場で姉上に逆らえるわけがない。

 家が没落する間接的な原因となった挙句一般人としての生活すら放り投げて街の外で浮浪者してた弟に、偶然森で出会ったからとは言えそこから生きられるように時折支援してくれた人だぞ。

 

 何かしらの好意は抱いても敵意を抱くのは難しい。

 

「身体を動かしながら口を動かせてる時点でお前の成長は著しい。流石の私も言い渡された時は遠回しな解雇宣言かと覚悟したが……」

「それはそうでしょう、隊長。この男はディラハーナと戦うまで愚鈍な怠けものでした」

「フィオナってボクの事嫌いなのかな……」

「フィオナは辛辣な奴だからな。俺もよく言われる」

 

 バロンと顔を見合わせてサムズアップした。

 やはりボクらは友人になれるね。

 

「というか今更だけど、三番隊全部巻き込まれることに異論は誰もないのかな」

 

 これはちょっと気になってた事だ。

 明らかにボクが理由で巻き込まれてるからね。

 それが原因で後々恨まれるとかは正直ちょっと嫌だし、蟠りがあるなら少しくらい姉上に進言してもいい。

 それくらいの権利はあるだろう。

 

「なんもねーよ。俺は平騎士だし」

「アタシも別に……だって騎士って戦う者でしょ」

「たとえ苦境に立っていても折れない戦士。それが我々騎士ですから」

 

 鋼の意思を持ち合わせている。

 なるほど、こういう部分が第二師団に合格した理由なのかもしれない。

 第四師団の人間と未だに対面してないボクにとって腐敗がどのようなものか具体的な想像は出来ないけれど、姉上が溜息交じりに罵倒する程だ。

 

 …………楽したいなぁ……

 

「戦力の増強が出来るならそれに越したことはない。師団内での立場も重要だが、本当に重要なのはその時(・・・)誰かを守れるかという点に尽きる」

「まさに騎士道って奴か。ボクに馴染みはない考えだね」

「これから身に着ければいい。お前にはそれくらいの期待がかかっている」

「おっ、もしかして隊長もかなり期待してくれてる?」

「隊長と共にオールインだ。でなければこんなことはしてない」

 

 全く、魔法が使えるからってすぐ楽な道に行こうとするのはよくないな。

 

 ボクには信頼できる仲間と頼れる隊長がいる。

 たとえ彼我の戦力差が絶望的でも、ボクはそれをひっくり返すのを期待されているのだ。

 あぁ~、でも頑張るのめんどくさいんだよな……

 睡眠時間削って魔法思い出してるから眠いし。

 でも体力無いとまともに戦えないのも事実。

 陣地取りなんて長期戦になるに決まってる。

 速攻でケリを付けられる程、まだボクは強くない。

 

 ロクデナシ魔法使いには苦しい現実だぜ、どうにも。

 

「そういやよ、聞きたかったんだけど」

「うん? 何をだい」

「あの光の槍、えーと、名前は……」

「【光の槍(エスペランサ)】の事だね」

「そうそれ! あれってどういう効果があるんだ?」

「うーん…………そんなに特別な物じゃないよ。魔力を光輝くものに変換して、それを更に魔力で固めて、即効の武器にする。やってることはそれだけだし、一応他人も使えたりはする筈」

 

 奥義とかはとんでもないって聞いたけど、もう見る機会は残ってない。

 

「へぇ、じゃあ戦場で武器失くしたらお前に集るか!」

「別に構わないけどその時点で普通死んでない?」

 

 光の槍を携えた騎士軍団か。

 それはそれで滅茶苦茶強そうだな。

 

「……というか、基本はこれなんだ。魔力を光の結晶へと変質させるのが、ボクらエスペランサ家に伝わる技術と言ってもいい」

 

 だから槍も剣も発展形に過ぎない。

 真価はこの掌に握られており、生かすも殺すも使い手の頭脳と器量次第。

 それを魔力量でゴリ押ししてたボクが言える事じゃないけどね。

 

「……それ、言っても大丈夫な奴か?」

「? 全然かまわないけど。ボク以外に残ってる人いないし、使える人がいるとも思わないから」

 

 それに、使えた所で……

 その人は気が付くだろう。

 このエスペランサの弱点というものに。

 

「ふーん、そういうもんなのか」

「ああ、そういうものなんだ」

 

 汗水たらして身体を動かす中でそこそこ有意義な話を出来る程度には身体が出来た。

 

 今日はそのことを誇りに思って就寝しようと思う。

 

 

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