成り上がり魔法使いアーサー   作:恒例行事

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過去にやらかしてるのはボクだけではないらしい

 

「……ふーん、あいつがね…」

 

 翌日朝。

 昨夜起きたことをザックリ姉上に説明し指示を仰いだところ、思ってたのとは違う反応を見せた。

 

「知り合い?」

「同期よ。嫌味ったらしい男で性格も悪く素行不良ですぐ女に手を出すクソ野郎」

 

 かなり悪意が滲み出てるけど、後半の部分に関しては疑いようがないかもしれない。

 いやだってあの使者の様子を見れば察するよね。

 いくら夜でもあの格好はやばいよ……

 姿消す瞬間に見えた背中とかがら空きだったし。

 寒かっただろうな、あれ。

 

「狙いは推測してる?」

「まあ、一応は。ただ人となりがわからないから目的が把握できてなくてね、大方引き抜き若しくは姉上への牽制だと思うけどさ」

 

 現時点でボクを狙う理由がなさ過ぎる。

 かつて最強だったとは言え今のボクは無能もいい所だ。

 ペーネロープとの戦いでは勝利を収めたけれど、エスペランサ家の血筋に魅力を感じるタイプの変態じゃなくちゃ欲しいとは思わない。

 

 ならボクを狙った訳ではなく、ボクを利用する事で影響を与えられる人物、ないしは組織が狙いだと考える。

 

「……そうね。私狙いなのは間違いない」

「うーんと……その反応だと結構嫌な予感がするんだけど……」

「……………………」

 

 姉上は無言で顔を逸らした。

 その様子からボクは確信してしまった。

 

 選択肢から外している事が一つだけある。

 

 姉上は既婚者である。

 旦那さんは王宮勤めの貴族だ。

 年齢は姉上の三つ上だと聞いている。

 真面目で武力とは程遠い文官で、周辺諸国との外交官として重要なポストについているとかついてないだとか。

 

「ふー…………学生時代、なにしたの?」

「いや……別にそんな特別な事は何も……してないわよ」

 

 キリッと表情を整えて言っているが、姉上の信用は現在地に落ちている。

 

 こういう時血の繋がりを感じるね。

 ボクと同じで誤魔化すとき勢いとノリで行けると信じている節がある。

 部下や初見の人間にならハッタリとして通じるかもしれないけど、流石に弟にそれは通じないぜ。

 

「そっか…………」

「…………ちょっと、こう……調子に乗ってたから叩きのめしただけで、別に何も」

「百パーセントそれが原因では?」

「ええい黙りなさい! いいこと、アーサー」

 

 逆切れした姉上は立ち上がって堂々と言う。

 

「何があっても揺れるな。第二師団に対する不利益を齎す内容は口にしない、盗めるだけ情報を盗んでくる、クソ野郎の顔面を殴る。これを守りなさい」

「最後の最後に私怨が混じっているけれど、大方了承した」

 

 姉上の私怨はともかく。

 第二師団に不利益を齎すつもりは一切ないし、第四師団は腐敗と汚職が進んでいるボクの天職と呼べるべき場所だが、現状姉上に付き従うと決めたボクにとっては手が届かない理想郷である。

 

 なので仕方なく、本当は受けたい気持ちを必死に抑えつけて、ボクは勧誘を受けている体で話を聞き出す他ないのだ。

 

「時刻は正午過ぎ。だから今日の訓練はナシでよろしく!」

「戻り次第残業するようにアンスエーロに伝えておくわね」

「労働環境は整えようぜ、姉上。それは反旗を翻すきっかけになり得る内容だ」

「あの子は働くのが人生みたいなものだから大丈夫よ」

 

 ひ、ひでぇ……

 これが人のやる事かよ! 

 

「アンタもいずれそうなるわ、アーサー・エスペランサ」

 

 死んだ目でそう言う姉上からは、何とも言えない中間管理職の哀愁が漂っていた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 街の中枢に大きな土地を間借りして、堂々と居を構えている第四師団。

 

 建前上は『王宮守護の要として柔軟に動けるように』中央に座しているが、その本質は全く持って別。

『仮に敵が攻めてきても非魔法使いが盾になっている間安全圏から射撃できるように』と倫理を伴わない非合理性の差別意識の元に打ち立てられている。

 

 そしてその中でも一際異色を放つ、漆黒の建物。

 ふんだんに魔力石(マギアライト)を使用し装飾が施されたその最上階にて、男は街を見下ろしていた。

 

「…………フローレンスの野郎、相変わらず面倒なことしやがる」

 

 不遜な態度で頬杖をつき、素材に拘っているであろう椅子の上で足を組んだまま、つまらなそうに声を続ける。

 

「おいレディ。この国で最も偉大な男は?」

「…………ハンスさまです」

 

 背中ががら空きの不思議な黒装束に身を包んだレディと呼ばれた女性は、男性の名を呟く。

 その声色には何も籠められておらず、明らかに棒読みであった。

 しかし、男性は特に不快感を表す事もせず。

 鼻で笑った後に改めて言葉を続けた。

 

「そうだろう。このオレこそが最もこの国で偉大なんだ」

 

 そして何よりも、と呟いた。

 

 楽しそうに口元を歪めながらなおも見下し続ける。

 眼下で生活を営んでいる一般人は知る由もない。

 この第四師団に──否。

 セイクリッド王国という中枢にまで既に、腐敗の毒牙が及んでいる事など考えてすらいなかった。

 

この程度の国で(・・・・・・・)終わるつもりなど毛頭ない。ああそうだ、こんな腐った国でオレの器は収まらん」

 

 天へと視線を向ければ、世界を照らす太陽が燦々と輝いている。

 ハンスにとって、自分よりも上から見下ろす太陽は不愉快の対象だった。

 世界の全てが己に平伏せなければ気に入らない、生粋の差別主義者で凝り固まった貴族思想の持ち主。

 そんな彼の脳裏に浮かぶのは一人の女性だった。

 金色の髪に強気な瞳。

 魔法もロクに扱えない劣等種如きに土を付けられた忌々しい記憶。

 生涯で唯一、彼に屈辱を与えた女。

 

「────フローレンス・エスペランサ……!」

 

 ありとあらゆる手段で奴に屈辱を与えてやる。

 まずはお前が最も大切にしているものから奪う。

 後生大事に抱えていた弟を引き摺りだして、必死に守って来た第二師団を壊し、最期には己の目の前で服従を誓わせる。

 

 その時を迎える為に下準備は整えて来た。

 

 長い時を経て、彼は計画を積み上げた。

 その成果が実る時を空想して、強く拳を握り締める。

 

「お前はオレが壊してやるぞ、フローレンス……!!」

 

 口元を大きく歪めてハンスは嗤う。

 

 そんな上司の姿を見ながら、やけに背中が広く感じる黒装束に身を包まされたレディは。

 

(…………はぁ……どうにかなんないかな、これ……)

 

 これから更に振りかかって来るであろう面倒事を思案して、死んだ目で窓の外を眺めていた。 

 

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