成り上がり魔法使いアーサー   作:恒例行事

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厄介事は自分から近付いてくる。

 

 姉上に死刑宣告染みた社畜宣言をされたのち、ボクは門の前で座り込んで浮浪者の真似事をしていた。

 

 元々浮浪者だから妙に貫禄が出ていると苦い顔をしたフィオナが褒めてくれたんだ。

 魔法以外でボクが出来る唯一の特技と言ってもいい。

 何一つ誇れる要素で構成されてないけどしょうがない。

 ボクはその程度の人間だ。

 ははぁ、お貴族様がお金恵んでくれたらな。

 せめて物置暮らしは卒業できるんだけど。

 

「お金ぇ~、お金を恵んでくだされ~!」

「…………なにをしている……」

 

 太陽を拝んでいるボクから五歩程離れた場所から声をかけてきたのは昨日の痴女である。

 

 相変わらずスリットから見える生足が魅惑的だが、その瞳には絶対的な冷たさが宿っていた。

 身震いするぜ。

 

「ええと、浮浪者の真似だね」

「……浮浪者の真似?」

「うん」

「なんのために……?」

「クオリティが高いって褒められたから……」

「なんだこいつは……」

 

 あきれ果てた声と共に至極嫌そうな表情で更に距離を取られた。

 十歩は離れてる。

 とても悲しい気持ちになった。

 

「貧者差別はよくないなぁ、第四師団の不憫そうな人」

「……私の事は“レディ”とでも呼べ、“浮浪者”エスペランサ」

 

 おお、いいねそれ。

 なんか二つ名みたいだ。

 神童なんて崇められ方するより個性的でイイ感じがある。

 でも本当の浮浪者に申し訳ない気がする。

 本物の浮浪者だったけど。

 

「準備は出来ているな」

「もちろんさ。今なら隣国に出張だって出来るくらいだ」

 

 この第四師団との話し合いの後に訓練が待ってる事実があるからね。

 逃げ出せるなら逃げ出したいよ。

 でも逃げて得られるものはちょっとした安息と浮浪者暮らしだからな……

 物置で寝れてご飯を食べさせてもらってる今が幸せなのを噛み締める事になるかもしれない。

 野草スープはともかくネズミを主食にするの、結構辛いんだ。

 

「ついてこい」

 

 そして後ろに振り返って、“レディ”は歩き出した。

 背中がバッチリ見えている。

 上司の命令でエッチな服着せられてるのは可哀想だと思った。

 

「……ジロジロ見るんじゃない」

「いや、かわいそうだけど肌が綺麗だなと」

「うるさいだまれ」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 早足で出来る限り周囲の人目を避ける道を進み(恐らく彼女の独断)、ボクは第四師団漆黒魔導隊(ネグロ・トルーパ)本部の前に辿り着いた。

 

「…………いや、高すぎないか…?」

 

 建物は首が痛くなるくらい高い。

 どうやって建造したのこれ、外壁と同じくらい高いけど。

 

 ふと目に留まったのは等間隔に配置された結晶体。

 肉眼で捉えられる程度には大きくて、そこからは雑多な魔力を強く感じる。

 並の魔法使い一人を大幅に超える魔力量。

 ボクには劣るね。

 だけどあれだけの出力だ。

 まともに扱わなければ大事故が起きる。

 流石に自分の身に振りかかる危険は回避していると見た方が良さそうだね。

 

魔導石(マギアライト)を利用してるのか……それなら可能だ。これだけ高いなら魔法なんて撃ち放題じゃないか、すごいな」

「…………」

「おい、なんだいその目は」

 

 レディは驚きを露わにしてボクを見ていた。

 

「まるで『こいつはまともな事を言う事が出来たのか』とでも言いたげだね」

「一字一句そのままお前に伝えようと思っていた」

「昨日そこそこまともに会話してたじゃあないか」

「まとも……まあ、それなりにまともだったが……」

 

 ボクの評価が低すぎる件について。

 そう思われるのも仕方ないけどね。

 寧ろ、昔のボクを知る人ほど勝手な高評価をしたままの事がある。

 そう言う点ではありがたいよ。

 今のボクはその期待に応えられない。

 出来る範囲内でしか足掻けない男に期待を寄せるべきではないんだ。

 

「ん゛ん゛っ! それよりも、此処が第四師団の本部?」

「……ああ、そうだ。趣味が悪いだろう?」

「真っ黒だからね。陽の光も独り占めしようって魂胆かな」

 

 漆黒の外壁に所々小さく取り付けられた窓。

 階層で言えば大体、五~六階層ってトコか。

 

「より正確には、我々漆黒魔導隊(ネグロ・トルーパ)の本部だ」

 

 ……ウチと同じ感じかな。

 

 少し突っついてみようか。

 

「ボクさ、第四師団が結構危ないよって話は聞くんだけど……実際どう? 組織として」

「それは私が答える内容ではない。ついてこい」

 

 あらら、振られちゃった。

 心を開いてくれてる訳じゃないからね。

 そこを勘違いすると痛い目見る。

 ハニートラップというか……そこまで露骨ではないけど、他人の懐に入った様で入らせない、そんな上手さだ。

 

 困ったな。

 ボクは対人関係を構築するのがド下手なんだ。

 もしそれが上手なら、あんなふうに浮浪者生活をする事は無かっただろう。

 

 周囲に人影はない。

 本部にしては閑散としている。

 警備兵すら見当たらないのだけれど、大丈夫なのかな。

 

「……仮に今ここでボクが暴れたら、抑えるのはレディしか居ない訳だ。少し不用心じゃない?」

「…………」

 

 レディに反応は無い。

 ボク如きに負けるわけがないとわかりきってるのか、それとも備えがあるからか。

 上司に言われて変な服装になるくらいに従順で、己に不利益を被る可能性をケアするためにわざわざ迎えにまで来る。

 

 上司の人物像はどうだ。

 人格はよろしくない。

 それでいて強い。

 今のボクでは逆立ちしても勝てないであろうレディを容易に抑えつける程度には。

 

 そんな人物を姉上は昔捻じ伏せた。

 それが原因で恨みを買っている可能性がある、と言っていた。

 

 嫌だねぇ。

 ボクに面倒事が振りかかる気しかしないぜ。

 

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