成り上がり魔法使いアーサー   作:恒例行事

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これは誘拐ですか?

 

「ところで姉上」

「なに?」

 

 俵担ぎされたまま街中を歩いているため注目を浴びているが、一向に姉上は気にしていない。

 ボクの名誉には一切関与しないが、彼女の名誉に傷がついてしまわないか心配なボクはその内容を伝えたけれど、鼻で笑われた。

 

「は~~~!? 今更アンタ一人拉致ったところで誰も気にしないわよ」

「おっと、これは拉致に属するのか」

「言葉の綾って奴ね」

「失言は控えた方が良いんじゃない? 揚げ足取られるぜ」

「大隊長なんて中間管理職、誰もなりたがらないからいいの」

 

 うお〜、我が姉ながらよく言うぜ。

 というかやっぱり中間管理職は大変なのか。

 時折ボクの家(とは名ばかりの廃屋)に来た時に愚痴を吐く時があったからストレス溜まってるとは思ったんだけど、これは結構鬱憤が溜まってたみたいだ。

 

 ボクは姉上のことは好きだからね。

 出来ることなら役に立ってあげたいのさ。

 ボクが労力を支払わない形で、という注釈が付くけれど。

 

 そのまま姉上の肩で揺られることおおよそ三分。

 案外乗り心地がいい安定感に促され船を漕ぎ始めていたボクに対し情け容赦なく大地は直撃し、目覚めの刹那に土と接吻をする事になった。

 

 ぐるりと身を翻して空を仰げば熱烈な光の歓迎を受ける。

 

「眩しいね、太陽は」

「着いたのに起きないからよ」

「もっと優しく、薔薇を愛でるように起こしてほしいね」

「生憎だけど花は摘む以外に愛し方を知らないの」

 

 これは藪蛇だ。

 軽口の果てで命を摘まれては仕方ないので、諦めて降参の意思表示をする。

 

「ここは……第二師団第二部隊本部。つまり姉上のお城ってことか」

「……そこは訂正しておきましょうか。第二第二と続くからややこしくて嫌いなのよ、その言い方」

 

 ボクから一歩前に進み、大きな門を背に姉上は堂々と立つ。

 いつのまにか背後に並んでいるフルプレートの騎士達の姿は正に圧巻と評するしかなく、語彙力に貧するボクでさえ多種多様な言葉で言い表したくなる程だった。

 

「第二師団の誇る最大戦力にして、この国を守る最後の盾。我々の後には何も残らず、我々の後には何も通さず。黄金に輝くこの身ある限りセイクリッドに闇は無い」

 

 乱れない圧倒的な光景。

 ここにいる誰もがボクを片手間で殺すことできる強者。

 戦争で活躍し続ける騎士の上澄み。

 それら全てを束ねる、姉上の黄金がいやに眩しく感じる。

 

「我ら黄金騎士団(オロ・カヴァリエーレ)。聖なる国の輝き続ける盾である──…………と。口上はこんなものね」

「……おお、凄い。思わず見入ってたよ」

「これからアンタも仲間入りすんの。言っとくけど貧弱魔法使いは必要ないし、最低限動けるようになってもらうから」

「姉上の言う最低限とは石を素手で破壊する怪物のことかな?」

「ふぅん、そうなりたいの。男の子ね〜」

「ボクがプライドを持ち合わせてないことなんてわかってるくせによく言うよ。……まあでも、迷惑にならない程度にはなる気はあるさ」

「上出来ね」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 そのまま姉上の執務室まで一緒に歩いて来た。

 入口で集まっていた騎士たちはあの後解散したらしく、ガチャガチャと鎧が鳴る音とちょっとした喧騒の後に静かになった。

 

「それで、今更ボクの事を動かした理由を聞いてもいいかな?」

 

 姉上の後ろに控えた二人の人物のことも気になるけれど、今はそれよりも姉上に訊ねたいことがあった。

 わざわざ警護に連れてくるには少々豪華な装飾だし、きっと腹心とかそういう立場の二人だと思うね。

 だから姉上も多少は腹を割ってくれるんじゃないかな。

 そもそもあまり隠し事の多い人ではなかったけれど、流石に今は立場があるからね。

 

 そんはボクの期待とは裏腹に、姉上から出た言葉は少し冷たいものだった。

 

「アンタにそれを聞く資格はまだないわ」

「……ふむ、予想外だ。ビジネスライクな関係で行く訳ではないんだね」

「当然でしょ。アンタは部下、それも下っ端兵士。本来なら厳しい訓練と試験を突破しないと入隊出来ない第二師団にコネでぶち込んでるんだからこれ以上特別扱いはしないし出来ないの」

「姉上的にはボクを特別扱いする気は?」

「無かったら引っ張ってこないでしょ」

 

 おお、思いの外好印象じゃあないか。

 うむ、良かった良かった。

 

「ただ、アンタの役割は教えられる。そこから勝手に考えることは止めない」

「是非とも教えて欲しい」

 

 そもそも疑問が残る話だが。

 第二師団は屈強な騎士の所属する化け物集団だ。

 団員の七割が戦闘員であり、軍学校や士官学校から成績優秀者として認められた人物若しくは現役の隊員から推薦を受けた者しか入隊する事が出来ない超エリート。

 姉上は軍学校叩き上げだが、その有り余る腕力とフィジカルを遺憾なく発揮し現役の隊長格を叩きのめして入隊した化け物。

 一方ボクはそんな姉上の推薦を受けた物理最弱魔法特化(それも特筆する事の無い平凡なものだが)。

 楽に生きていたいとはいえ、姉上の顔に泥を塗りたい訳ではない。

 

 いつもより真剣な表情で、これが大隊長という役職を背負った時の姉上かと素っ頓狂な事を考えつつ、言葉を待った。

 

「第二師団に魔法を……いや。魔法に対抗する策を独自に編み出す必要がある。魔法に優れた第四師団とも独立して、双璧として並ぶ第一師団を超える形にし、現在国境で小競り合いを繰り返す第三師団に恩を売る形で。その為にアーサー、アンタが必要だった」

「……うん、なるほど。大体わかった」

 

 セイクリッド王国は二大国に挟まれている。

 小国を蹂躙し領土を広げ続けるオスクリダ帝国、保守的でありながら我が国の五倍の領土を持ち尚且つ屈強な魔法師団と弓術部隊を抱えたパラシオ王国。

 ボクがまだまともだった頃の知識だから少し変化があるかもしれないけど、大まかにこのままだと思う。

 首都周辺に緊張感は無いし、敗走してきた兵士を外で見た記憶も無い。

 

 それはつまり成果を急ぐ必要がないという事。

 

 でも姉上は成果を求めた。

 他の団を追い抜いて、第二師団を更に強固なものにして、セイクリッド王国を強くするために。

 第四師団は腐敗で終わっていると言っていた。

 第三師団は国境警備隊だ。そこが腐り落ちる事はないだろうし、恩を売ると明言している事から何かを期待してる事は間違いない。

 第一師団を超えると言う発言はそのままかもね。

 

 つまり、そこまで時間は残ってないってことだ。

 

「何年くらいだい?」

「五年も無いわね」

「おっと……思ってたよりギリギリだ」

 

 帝国か王国か。

 どちらかは不明だけど、確実に戦争が起きるラインなんだろうね。

 そして現状の戦力で守りきる事は出来ないと姉上は考えていて、自分の手札の中で対抗手段を構築すると言う訳か。

 全部を救うつもりじゃないってのが姉上らしい。

 

「ふーむ……ボク如きがそんな大役を担えるとは思えないけど」

「……こう言っちゃ何だけどね。私もそれなりに努力したけど、殆ど引っ張れなかったの。アンタを最後の保険として用意してただけよ」

「ああ、そういう事か。なら納得だ」

 

 つまり元々ある程度計画はしてたけど、一番大切な魔法使いが手に入らなかったと。

 ボクを最終手段として判断していたのは姉上なりの優しさか、それとも単純に最低限の能力だからか。

 後者だろうね。

 もしボクに才能があるなら、あの日負ける事は無かっただろうから。

 

「流石にプータローのボクでも愛国心くらいは携えてるつもりだ。謹んでお受けいたします」

「そう言ってくれて助かるわ」

 

 でも出来る限り頑張りたくないから、お国が滅ばない程度にしっかりやらせてもらわないと。

 具体的に言うなら週休四日実勤務三日労働時間一日6時間くらいで。

 あと家も欲しいね。

 屋根が付いてて壁があった雨風を凌げる高級ハウスが欲しい。

 

「それじゃあこれから顔合わせと行きましょうか。カミラ、兜を外しなさい」

「……はい」

 

 姉上の右後ろに控えていた人が兜を外す。

 うーん、どこかで見覚えがある鎧だ。

 具体的に言うなら、一週間ほど前に見た気がする。

 

 兜の中から赤髪がはらりと出てくる。

 短く切り揃え、センターで分けられた髪型は、長い時間兜で固定されていたとは思えない柔らかさを持っている様に見えた。

 おっといけない。

 人を、特に女性のことをジロジロ観察するのは良くないね。

 

黄金騎士団(オロ・カヴァリエーレ)三番隊隊長、カミラ・アンスエーロだ。一週間振りだな、不審者」

「姉上、不敬罪とかは適応されるかな?」

「残念だけどアンタは私の弟である前に三番隊の新入りなのよねぇ」

「あらま。それなら仕方ない」

 

 不快感を隠さず眉を顰めたままのアンスエーロさんはちょっと怖い。

 

 ここはウィットに富んだボクのエスペランサジョークで場を和ませるしかないね。

 

「牢獄は心地よかったよ。あそこで暮らしたいと思ったくらいだ」

「もう一度ブチ込んでやろうか? 今度は出てこれんぞ、牢獄の中でも研究は出来る」

 

 あっ、本気だなこの人。

 ボクはバカだが、ノリで相手をしてイイ人とそうじゃない人くらいは区別できる。

 この人は駄目だね。

 真面目で、冗談が通じない訳じゃないけど、とにかく真面目な感じがする。

 

「失礼しました、小隊長殿。新人のアーサー・エスペランサです」

「……リゴール大隊長。この男、何を考えているので?」

「何も考えてないからこんな感じなの。それを考えるように教育するのが貴女の仕事ね、カミラ」

 

 思わずといった様子で額を抑えるアンスエーロさん。

 

 安心してほしい。

 ボクなりにやらせてもらうから。

 勿論、週休四日の実勤務三日翌日休暇を希望するけどね。

 

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