成り上がり魔法使いアーサー   作:恒例行事

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第二師団会議①

 

「リゴール大隊長、まもなく到着します」

「──やっとね。いつもいつも遠いのどうにかならないものか……」

 

 凝り固まった身体を、狭い馬車の中でゆっくりと解しながら女性──フローレンス・リゴールは外を眺めた。

 

「いやー、いつも通りっスけどあんまり長旅はさせないで欲しいンすよね」

「そうも言ってられないのが我々新入りの辛い所だ。我慢しろ、アナベル」

 

 愚痴っぽく呟いた女性に、注意を促す男性。

 大隊長であるフローレンスの警護兼同行者を任命された二人は、同じように固まったであろう身体を僅かに解しながら話を続けた。

 

「買ってもらえるのは嬉しいっスけどね。ボーナス間違いなし!」

「そうはならんな……リゴール大隊長、我々に特別手当はつくんですか?」

「一食ディナーを楽しむ程度には出るわね」

「それは出ないとほぼ同じ!!」

「出るだけマシでしょ? 貧乏なのよ、ウチ(黄金騎士団)は」

 

 ヨヨヨと倒れ込むアナベルにクスリと笑いつつ、フローレンスは口を開いた。

 

「去年までの方が酷かったわ。ね、アルナルド」

「全くその通り。無給で休日出勤でしたから」

「明日の晩御飯は豪華にするっス……」

 

 赤髪の女性──アナベルはへにゃりと表情を崩して座席に座り込んでしまった。

 

 それを見ながら、頬に傷のある男性──アルナルドもまた、肩を竦めて窓の外を見た。

 

 

 

 

 

 第二師団総本部。

 普段は第一部隊が利用する施設で、この国が建国された当初から存在する歴史を持つ。

 ここ100年近くは常に第二師団が使用しており、老朽化した設備等も少しずつ修繕と改築を加えられその姿は美しいものへと変わりつつある。

 

 ──とは言っても。

 

「いつ見てもボロっちいわね……」

「機能性ばかり重視しておりますがゆえ、まあこうなりますね」

 

 壁の一部は剥がれ落ち、かつては栄えたであろう筈の花壇は枯れ落ちて、建物を侵食する蔦が伸びている。

 

(流石に黄金騎士団(オロ・カヴァリエーレ)……いや、旧エスペランサ邸の方が綺麗なままよ)

 

 すでに見知らぬ貴族へと売り渡されてしまった実家を思い出しながら、フローレンスは中庭を歩いていく。

 

 初めて訪れたアナベルとは違って、フローレンスとアルナルドは何度も足を運んだことがある。

 大隊長になる以前は第一部隊に所属していた彼女と、その彼女の部下として長年支え続けているアルナルド。要するに、この本部は古巣にあたる。

 

 大扉に手をかけて、思い切り後ろへと引く。

 ギギギ……と錆びた金属が擦れる音と共に、ゆっくりと自動で開いていくのを確認してから一歩下がった。

 

「──お待ちしておりました。第二師団第二部隊大隊長、フローレンス・リゴールさまご一行」

「……ああうん。久しぶり、ルシオ」

「……おい、素で対応すんなよ。ちゃんと大仰に演じてる俺が馬鹿みたいじゃないか!」

「あんたみたいな軟派男を門番に採用してる神経が知れないわね」

「真面目な軟派野郎として通ってるからな。ウーム……今回はあの姉ちゃんいないんだな。残念だ」

「あの子今隊長やってるから護衛は卒業したのよ」

「マジで? スピード昇格だ……俺なんていまだに下っ端門番なのに……」

「……誰っスか?」

 

 出迎えた男がフローレンスと話して勝手に浮き沈みしてる様子をみて、アナベルがつぶやく。

 

「……ルシオ・モンドラゴン。第一部隊所属の下っ端だ」

「おい! 誰が下っ端だ!」

「自分で言っただろう?」

「自虐するのと他人が言うのじゃ意味と気分が違うんだよ……!」

「めんどくさい奴ね……さっさと案内しなさいよ。爺さんに言い付けられたい?」

「アッ、それだけは勘弁を……ハイ、案内します」

 

 中々テンション激しい人っスね。

 アナベルはそう思いつつ、初めて入る第二師団本部へと胸を高鳴らせていた。

 

「アナベル」

「なんスか?」

「あんまり期待しない方がいいぞ」

 

 実態を知るアルナルドはこっそりと耳打ちしたものの、そんなことは知らないと言わんばかりにアナベルはふんすと息を荒げて答える。

 

「いや! 自分来るの初めてなんで、流石に期待するっス! シャンデリアに超デカいカーペット、そして長い階段! 食堂にはクソ長テーブルがあって全部銀の食器なんスよね?」

「そんなわけないでしょ。ハイ現実」

「おおっ! これが第二師団本──……部……」

 

 大扉を超えて中に入れば──そこには、彼女の想像とかけ離れた光景が広がっていた。

 

 所々崩壊した階段。

 朽ちて腐ってる手すり、蜘蛛の巣が張った廊下。

 薄暗い照明はわずかな火種を頼りに燃えており、これ以上光量を増すことはできないと言わんばかりの切ない灯火。

 

「食堂も見る? 何もないけど」

「…………いや、いいっス」

 

(金がないのはウチ(黄金騎士団)じゃなく、第二師団そのものなんスね……)

 

 アナベル・アルカンタラ19歳。

 切ない現実をあらためて知った悲しい一日だった。

 

「フフ、期待を裏切ってしまいましたね」

 

 そんな四人の元に現れたのは一人の男性。

 第二師団専用の青い軍服に身を包み、腰にサーベルを備え、糸目なのが特徴的。

 

「……あんたもわざわざ迎えに来たの?」

「それは勿論。我らが小隊長殿──ああいや、申し訳ない。今は大隊長でしたね」

「は〜〜……めんどくさい奴らなんだから。はいはい、しばらくこっち来なくて悪かったわよ、オズワルド」

 

 オズワルドと呼ばれた男性は満足そうに頷くと、機敏な動きで敬礼をした後にアナベルへと笑みを向けた。

 

「そちらのお嬢さんは初めましてですね。リゴール大隊長が第二部隊に異動するまでに受け持っていた小隊所属でありました、オズワルド・インドゥラインと申します。以後お見知り置きを」

「アナベル・アルカンタラっス。よろしくっス」

「手出すなよ」

「出しませんよ。ルシオじゃあるまいし」

「おい。俺に変なイメージ押し付けんな」

「二人とも信用ないの自覚したら? 全く……」

 

(……あー、ちょっと疎外感。身内っスよね、これ)

 

 フローレンスが第二部隊大隊長を務める以前の話。

 その頃は軍学校にすらまだ通ってなかったアナベルにとって興味深い話であり、また、話伝いにしか知れない尊敬する人物の昔話。

 

 そこに横入りしようと思えるほど自分勝手ではなく、耳を傾けて盗み聞きしようと思う程度には不真面目な彼女は沈黙を選択した。

 

「リゴール隊長に会うことが出来たら一つ、お伺いしたいことがありまして──とある噂について」

「……噂ねぇ」

「ええ。噂です」

「あー、俺もそれ気になってた。まさかなって」

「……あの話ですか。それに関しては、私も気になっています」

 

 上から順番に、オズワルド、ルシオ、アルナルド。

 アルナルドに関しては共に黄金騎士団(オロ・カヴァリエーレ)へとやってきたが他部隊の意向にまで注力しているわけではなく、ただ、先日執り行われた決闘などはしっかりと見ている。

 それゆえに、『本当なのか』という疑念がありつつも問うことができていなかった。

 

「──黄金騎士団(オロ・カヴァリエーレ)のたった一部隊だけで俺たちを相手するつもりだってのは」

 

 ルシオは僅かに威圧しながら、フローレンスへと視線を向けた。

 

(……この人、普通に強い。さっきまでのは演技……) 

 

 その視線から僅かに離れている筈のアナベルが冷や汗を流す。

 彼女は決して弱くない。

 この国全体で見れば強者に分類されるのは確実で、騎士と言う枠組みの中でも優秀だ。

 しかし彼女は戦場を経験していない。

 騎士学校を卒業しすぐに第二師団第二部隊に編入された彼女は、まだ本物の殺し合いというものを経験出来ていない。それがゆえに、長年戦い続けてきた面々と比べると見劣りしてしまう部分があった。

 

「もしそれが本当なら──俺たちの事、舐めすぎじゃねーか」

 

 オズワルドは何も言わないが、同じようなことを言いたかったのだろう。

 黙ったまま視線をフローレンスに向けてその足を止めている。

 答えない限り、ここから先にいくことはない──そう言いたげな態度だった。

 

「…………リゴール大隊長。許されるのであれば、私も真意を知りたいものです」

 

 そして彼女の背後で呟いたのはアルナルド。

 隊長格には伝えられている筈だが、問いただしても何も答えてくれない。

 件の三番隊には『噂の青年』がいることから、仮に直接聞いたとしても教えてくれるとは思えず聞きにいくこともしていない。

 

 ゆえに、会議が始まる前にその意図を知りたいと願った。

 

 その三人の疑問に対し、フローレンスは────鼻で笑い飛ばした。

 

「ハッ! それが本当だったら、何?」

「……おいおい隊長さんよ。いくらアンタが育成に長けてたとしてもな、俺たちの方が早く長く一緒に戦ってきてんだ。隊長格全部混ぜ合わせたエリート部隊相手でも一週間以上粘り続ける程度の腕はあるぜ」

「その想定が甘いのよ、ルシオ。どうせこの会議で全部バラすつもりだから詳しくは言わないけど……」

 

 この国最強如き(・・)が相手になるような子じゃないの。

 

 その言葉をグッと飲み込んで、フローレンスは拳を強く握りしめた。

 

「……一週間後、楽しみにしてなさい。度肝抜いてあげる」

 

 

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