成り上がり魔法使いアーサー   作:恒例行事

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(元)国家代表魔法使いアーサーの原罪

 

 決闘は無事執り行われた。

 

 舞台は訓練場。

 観客は総勢五名。

 武器はお互いに木剣だけ、先に降参と言った方が負け。

 魔法の使用は許可されている。

 魔法が使える時点で決闘とはって感じになるけどそこは突っ込まない方がいいのかな。

 

 くっくっく、魔法が許されているのならボクに隙はないよ。

 三つ子の魂百まで。

 子供の頃に積み上げたものは幾つになっても覚えているという諺があるように、ボクの魔法も魂に刻まれているというわけだ。

 

 でもそうだなぁ。

 地べたを這いずって痛みに呻くのはあまり経験しなかったけど、身体が覚えてしまっているみたいだ。

 

「────……弱すぎなんだけど!!?!?」

 

 ペーネロープが絶叫した。

 全身殴打に晒されボコボコのボコになった結果、ボクは身動き取れないくらい激痛に苛まれることになっている。

 唯一無事なのは顔くらいかな。

 急所は避けるという優しさが身に染みるし、手加減されてなおこれという事実が涙を誘発させる。

 

「え!? あんた本当にアーサー・エスペランサ!? 偽物とかじゃなくて!?」

「ざ……残念ながら本物だ。没落貴族から浮浪者へと身を落としていたけどね」

「浮浪者!?!??!?」

 

 ぐにゃあ〜〜〜、と顔を歪めるペーネロープ。

 うーん、ここまでボクのことを強者だと認めているあたり子供の頃戦った誰か、もしくはボクのことを見ていた人だと思うんだけど本当に思い出せない。

 戦い方もクソもない感じでワンパンチされた今のボクではそれを思い出すことも難しい。

 

「浮浪者……あんたが……?」

「うん。姉上の庇護を時々貰いながら、都市の外でひっそりとね」

「あ、あり得ない……国家対抗戦に選ばれた最年少魔法使いでしょ、あんた……」

「おっと、その話はやめてくれ。ボクはあの戦いに酷いトラウマを抱いてる」

 

 国家対抗戦。

 周辺諸国で『武力を競い合うなら公平の下で』という取り決めによって始まった伝統行事。

 今は帝国が周辺諸国を吸収しまくってるからもう存在してないっぽいけど、それなりに続いた格式高い戦いだったそうだ。

 

 ボクは有難い事にセイクリッド王国代表として選ばれ、そして年下の少女にボコボコにされて再起不能になったというわけだ。

 

「今の、本気ってわけじゃ……」

「いやめっちゃ本気だったけど。情けないけど今のボクにはこれが限界でさ」

 

 剣を片手で振れないくらい鈍っているとは思わなかったね。

 両手で剣を振るのなんて真面目にやった事ないから正直驚きだ。

 三日サボれば一週間の努力を必要とするのは知っていたけど、まさかここまでとは。

 ますます自己肯定感が低くなっていくね。

 ウジ虫アーサーと名乗っていこうか。

 

「…………わ、私の十年……なんだったの……」

「ぺ、ペーネロープ! 落ち着け!」

 

 サラサラ……と砂になって消えようとしたペーネロープをアンスエーロ隊長は必死に受け止めた。

 いい仲間意識だと思う。

 原因はボクだが、逆に言えばボクがいる限り仲間意識が芽生え続けるということに違いない。

 それだけで十分役目を果たしていると言えるのではないだろうか。

 

「…………認めない」

 

 ペーネロープを拳を握り締め、確固たる身体に戻って歯を食いしばった。

 

「あんたがこんな弱いなんて、認めないからッ!!」

 

 駆け出したペーネロープは訓練場から出ていった。

 昔のボクがどんなことをしていたのかと思い返してみたけど、大したことをした覚えはない。

 強いて言えば無双したとか公式戦で公開練習みたいな蹂躙したくらいだけど、ペーネロープのような金髪は覚えてないなぁ。

 

「……なあルビー。こいつ何者なんだ?」

「…………そういえば、確かに最少年で代表になったって話題になってた気が……でもうーん、こんな感じだったかしら」

「もう十年以上前になるからねぇ。形骸化してなくなった競技のことだし、今時わからない人の方が多いと思うよ」

 

 あれに出てからボクは一度も表舞台に顔を出してなかったわけだし、ここまで執着している人がいると言う想定がそもそも間違えている。

 ていうかせっかくボクを倒したのに「こんな弱いの認めない」ってなんだろう。

 勝ったからそれでいいじゃん。

 

「浮浪者どころか前科者だがな。ルビー、お前が一週間前に捕まえた不審者だ」

「…………あ、あぁーーっ!? 犯罪者受け入れていいんですか!?」

「姉上曰くボクが犯罪者だった経歴なんてどこにもない、だってさ」

「汚職じゃない!」

 

 ワハハ、確かに一回捕まったがあれは保護という名目に変更されている。  

 国家権力最高! 

 身内に全てを託すの最高! 

 このままワイン風呂にでも浸かっていたい気分だ。

 

「というわけで改めて、元没落貴族で元浮浪者で元犯罪者のアーサー・エスペランサだ。痛くない程度に努力する予定だから、どうかお手柔らかにお願いね。じゃないと駄々こねて逃げ出すから」

「…………根性は、ありそう」

 

 ジンが掠れた声で言った。

 

「子供の頃はね。今のボクはやる気も根性もないダメ人間だよ」

「…………いくら、命が、保証されてても……文明から、過度に離れた、生活は……送れない」

「謎の草スープが美味しかったから意外とね。八割の確率で毒が入ってたけど」

「根性はともかく図太さはピカイチだと私が保証しよう」

 

 優しいアンスエーロ隊長がフォローしてくれた、嬉しすぎて泣きそうだ。

 心に刺さった一つの言葉がいやに眩しいよ。

 

「ペーネロープは後で私が探しておく。ルビー、一通りの訓練を実施しておけ。そう時間をかけずに戻る」

「了解です! ……本当に大丈夫かしら」

 

 そしてアンスエーロ隊長も出ていった。

 後に残された四人はそれぞれなんとなく準備運動を始めている。

 

「……なあエスペランサ。お前、子供の頃何やったんだ?」

「ちょっと色々あってね。誰にだってある黄金期がボクの場合幼少期に訪れただけさ」

「へぇ……ちょっと興味出てきた。なあ、俺とも模擬戦しようぜ」

「いいけど地べたに這いつくばる事になるよ、ボクが」

 

 筋金入りの脆弱さだからね。

 今のボクは負けることに自信すらある。

 

「……そういやお前、肝心の魔法使ってないな。ちょっと見せてくれよ」

「ああ、それは確かに気になるわね。私たち魔法使えないのよ」

 

 唯一使える奴は、と言ってからルビーは目を逸らした。

 どっかいっちゃったしね。

 

「うーん、魔法か……」

 

 魔力量は全体の六割は残ってる。

 夜を過ごすためにずっと使ってたから減るのは仕方ない。

 一応夕方に呼び出しくらってるからあんまり使いたくないけど、少しくらいならまあいいか。

 

「じゃあちょっとだけ。炎魔法をまず使います」

「おお! すげぇ、本当に出てる」

「このくらいならペーネロープもやってたでしょ」

 

 指先に出現する炎。

 蝋燭くらいの灯りだがれっきとした魔法さ。

 魔力を持っているがあまり優れてない素質の持ち主なら扱える、日常的な魔法だね。

 

「そしてその炎魔法を二重で発動します」

「……ん?」

 

 少しだけ大きくなった灯火。

 この程度の火球じゃ何もできないね。

 せいぜい一瞬相手を怯ませる程度。

 鎧で防がれちゃうから騎士相手には通用しない。

 

「それを更に重ねてもう一段重ねて圧縮します」

「えっあっあっ」

「…………マジかよ……」

 

 大体岩石くらいの大きさかな。

 これで魔力の消費量は大した事ないんだから、永続的に発動し続ける魔法が如何に非効率的か思い知らされる。

 

「そもそも魔法は全然発展してないんだ。魔力石(マギアライト)が発見されてまだ三世紀程度しか経ってないのに加えて魔力を持って生まれる人が少なすぎるから、基礎の基礎しか構築できてない」

 

 炎、水、風。

 この三つの属性を基本として、時折現れる天才以上超人未満が個人の感覚で魔法を生み出し、受け継ぎ、そして時に途絶える。

 歴史書に記されている限りこの状況を打破しようとした集団は居たみたいだけど、結局論文として提出する事が出来なくて詰んだらしい。

 

「テクノロジーとしては異常だ。ボクら人類はこの魔力(・・)という概念を理解し生かさなければならないのに、未だにその一本手前で線を引いている」

 

 その一線を越えた瞬間、この世界は急速に進化するだろう。

 幼い頃にボクが独学で登り詰めた場所は今じゃあとても手が届かないくらい高い場所にある。

 仮にあの頃の強さ、いや、高さまで戻れることがあればどうなるかな。

 果たして彼女に勝てただろうか。

 いや、あの頃のまま強くなり続ける事がもしも可能だったなら、今頃はきっと────……

 

「…………要は、応用が全く効かないんだ。ボクみたいに独学で試行錯誤しないと、そこそこ戦える魔法使いなんて皆そんなもんだぜ」

「……なんでお前が浮浪者やってられたんだ?」

「貴族にも色々あるのさ」

 

 まったく、だから姉上には頭が上がらないんだ。

 間違いなくボクがここにこうやっていられるのはあの人のお陰だからね。

 

「……さ、そろそろ始めようか。あんまりゆっくりしてたら恐ろしい隊長殿がボクを恫喝してくるから」

「だな。おっかねぇからな~、アンスエーロ隊長」

「────ふむ。そんなに私に扱いて欲しかったのか」

 

 背後から聞こえた声に対し、バロンと目を合わせて互いに肩を竦めた。

 

 一つだけ言える事があるとすれば、ボクたちは今日、初対面にして分かり合える友人同士になったという事だ。

 

 

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