エルデの王は迷宮で夢を見るか?   作:一般通過あせんちゅ

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前時代のエルデの王は竜王プラキドサクス
黄金律最初のエルデの王は蛮地の王ホーラ・ルー
あせんちゅはデミゴッドも古竜も関係なく皆殺し

つまりエルデの王は蛮族
            Q.E.D



迷宮(ダンジョン)探索

「……カエル、か?」

 

 暇ができたことでダンジョンに潜っていたミストは、6階層でフロッグ・シューターと相対していた。単眼のカエルを見て首を傾げたミストは、突然長い舌を打ち出してきたカエルに驚いていたが、特に脅威になることもなかった。なにせ、フロッグ・シューターの舌は坩堝の騎士が纏う鎧に当たったところでなんの衝撃も彼女に与えることがなかったからである。

 

「うーん……」

 

 もはや相手する必要性すらも感じない程度のモンスターだが、絡まれればどんな存在だろうが叩き潰すのが狭間の地をかけた彼女の信条である。再び打ち出されたフロッグ・シューターの舌を最初から避けもせずに鎧で受け、そのまま近づいて取り出した右手の大剣で以って叩き潰す。一撃でダンジョンを陥没させるほどの重さを見せた大剣は、ミストが着込んでいる鎧と同じ銅色をしていた。

 

「あ」

 

 一振りで魔石まで砕いてしまったことに声が出たミストは、小さな溜息を吐いた。魔石は砕けてしまうと価値が急激に落ちてしまうことを商人から聞いていたミストは、勿体なく思いながらも砕けた魔石を拾った。 ミストは『オルドビスの大剣』を肩に乗せ、一振りで叩き潰されたフロッグ・シューターが灰になるのを確認してから、後ろを振り向いてオルドビスの大剣を構えた。

 

 ダンジョンの壁から数匹のウォーシャドウが姿を現し、目の前にいるミストを敵として認識していた。全身真っ黒の人型をしているモンスターは「新米殺し」の異名を持つ危険なモンスターである。上層の前半で出会うモンスターとしては非常に危険な存在であり、鋭いナイフのような指による攻撃を真正面から受ければ、冒険者の命を容易く奪うことは間違いない。

 

 六体程度のウォーシャドウならば、盾でも構えながらオルドビスの大剣を振るっていればすぐに全滅させることができると考えていたミストだったが、ウォーシャドウの背後の壁が再びひび割れ、追加でウォーシャドウとフロッグ・シューターを生み出していた。

 

『…………?』

 

 前にいたウォーシャドウがミストへと接近して鋭利な爪を振るったが、やはり坩堝の鎧には傷一つない。攻撃しているのに全く効いている感触がないことに疑問を持ったウォーシャドウが、少し距離を取って複数のフロッグ・シューターと共にミストを見た時、既に()()は現れていた。

 

「えい」

 

 周囲に他の冒険者がいないことを確認したミストは、可愛い掛け声と共に身体から半透明の首を生み出した。それは冒険者でなくとも、神やあらゆる亜人(デミヒューマン)も、誰もが知っている。古来、数多くの伝説や物語に登場する生物であり、迷宮の奥深くまで潜る冒険者ならば似たような姿のモンスターを見ることもあるかもしれない。角を持ち身体は鱗に覆われ空を飛ぶために発達した大きな翼を持つ生物『竜』である。

 

「これで終わり」

 

 祈祷『プラキドサクスの滅び』により顕現した、時の狭間に永遠に座していた竜王プラキドサクスの首。かつて黄金律の時代が到来する前に世界を治めていた狭間の地の王。永遠なる時間を持ちながら黄金律に敗れたその竜王は、後に新たなエルデの王となる一人の褪せ人に滅ぼされた。『プラキドサクスの滅び』は、その滅ぶ際の断末魔を再現する祈祷である。

 ダンジョンに響き渡った永遠なる竜王の断末魔は、黄金色の炎をまき散らす。突然ダンジョンに現れた竜王という絶対的な上位存在を前に動くことができなかったウォーシャドウとフロッグ・シューターの群れは、竜王の断末魔に巻き込まれてその身体を焼き尽くされた。冒険者の扱う魔法などとは比べ物にならない威力の炎を放ったミストは、特に気にする様子もなく、残されたドロップアイテムと魔石だけ回収してそのままダンジョンを歩き出した。

 

 この日以降、ダンジョン6階層には誰も見たことがないドラゴン型のモンスターが出現することがあるという噂がオラリオに流れることになるが、ミストがその原因に気が付くことはなかった。

 

 


 

 

「うーん……潜っても強さが変わっているのかよくわからない」

 

 ダンジョン18階層である迷宮の楽園(アンダー・リゾート)へとやってきたミストは、安全階層(セーフティポイント)を素通りしてダンジョンの19階層へと赴こうとしていた。以前にも35階層よりも下の迷宮まで潜ったことのあるミストだが、その時は道中の敵を全て適当な魔術であしらっていたため記憶になかった。今回は前回とは違いゆっくりと相手を観察しながら降りてきているので幾つかのモンスターの特徴を覚えていた。

 

「蟻、ゴリラ、牛頭、火を吐く犬、兎、虎、かな? 兎の角が手に入ったのは良かったかな」

 

 キラーアント、シルバーバック、ミノタウロス、ヘルハウンド、アルミラージ、ライガーファングのことである。しかし、ミストにとってみればどれも大差ないので特徴が記憶にあるだけで、強さを感じた訳ではない。

 

「あった」

 

 以前ダンジョンを潜った時にラニが設置した祝福を発見したミストは、消耗など精神力(FP)だけですんでいたが、一度祝福で休んでいくことに決めて、19階層への階段へと向けていた足を祝福へと向けた。ラニの律を示すかのように青白く光る祝福の傍に座ったミストは、自らの安全を確保した独特な感覚を黙って味わっていた。





ダンジョンでプラキドサクスの滅びをぶっ放すのは間違っている(確信)



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追記

10話も投稿したんで連載に変えました
完結の予定までまだプロットは練れていないのですが、お付き合いいただけると嬉しいです

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