「白露さんこの色の方が似合うけど、どう?」
「そう?じゃあ試着してみようかしら」
僕たちは現在、高校の近くにあるアミューズメントパーク、ショッピングモールなどが一緒になった複合施設にいる。メンバーは赤沢さん、白露さんと僕の3人で、本当ならば放課後は適当にどこかに出かけようとでも思っていたのだが何故かこのような状況になっていた。理由は帰りのHRが終わってすぐの頃まで戻る。
今日も6限目までの授業をやり切り、皆がまるで牢屋から解放されたような表情をして下校していく。それもそのはず、今日はGWの間の平日。明日からまた連休が始まるとはいえ、その間に学校へ行くという面倒くささが普段よりも早く終われという気持ちを強めている。折角なので秋葉原で時間を潰そうと考え下駄箱へ向かおうとしていた時、誰かが僕の肩をたたいてきた。おそらく長田だろうか?
「長田、今日は秋葉原行くつもりだが……」
「ちがーう!長田くんじゃないよ!」
「えっ?」
女の子の声?どうやら長田ではなかった。流石に失礼だったので謝ろうと振り返ったら少し膨れ顔をした赤沢さんが立っていた。
「ごめん、人違いだった」
「怒ってないけど、顔見てから言ってよ……」
「本当にごめん、でも何の用かな?」
「うん、今からドームタウンに誰かを誘って行こうと思ってたから」
「そうなんだ、他の人はだれかいるの?」
「まだ誰もいないよ、夏美は今日他の友達と一緒だし。もし誰もいなかったら帰るつもりだし」
どうやら学校の近くにある複合施設に行くつもりのようだ。確かにあそこへ一人で行くのは少し勇気がいる。しかも今教室に残っている生徒はあまり多くないのでこのままでは誰も一緒に行けず終わりそうな気がする。
「もし僕で良ければ一緒に行く?」
「良いの?ありがとう!じゃあ一緒に行こう!」
そんなことなので予定を変更し赤沢さんと一緒に放課後を過ごすことに。しかし、よくよく考えてみれば二人きりなのではないだろうか?流石にそれは恥ずかしいので他に誘える人がいたらその人も誘いたい。
あの後から2人だけでその場所に向かっているが、やはり落ち着かない。瑠璃乃や藍奈と出かけるときはこういったことはなかったはずなのに、親族や古くの知り合い以外での異性との接点が少なかったから生じるものなのかもしれない。
「ねぇ嘉義くん」
「どうした?」
「こうやって二人だけでいると、まるでデートみたいだね」
「デート?まさか、まだ恋人じゃないでしょ」
「そうだけど!でももし恋人が出来たらこういう時間を過ごせるのかな?」
「どうだろう、もしかしたら過ごせると思うよ」
恋人、か……ふとそんなことを考えてしまう。今までの中で瑠璃乃達以外に異性に恋や女性としてみたことはなかったかもしれない。もし恋人ができ、共に過ごす時間が増えたら赤沢さんの言うように過ごせるのだろうか?
「あら、赤沢さんと嘉義君じゃない」
「白露さん、今帰り?」
「えぇ、もうすることもないからこのまま帰ろうと思って、2人はどうしたの?」
「そうなんだ。これから赤沢さんと出かけるけど、一緒に行かない?」
「そうね……そちらが大丈夫ならそうしようかしら」
「大丈夫赤沢さん?」
「う、うん。良いよ」
たまたま下校の途中であった白露さんを誘うことが出来たので3人でこのまま出かけることに。長田だと何故かはわからないがあそこに行くには合わないような気がしたので、白露さんなら良いだろう。
「白露さんこの色の方が似合うけど、どう?」
「そう?じゃあ試着してみようかしら」
現在遊園エリアやゲームセンターではなく洋服屋に来ていた。このお店はメンズ、レディースともにあるので居づらさは無いものの、服をまだわかっていない自分が入ると少し浮く感じがして落ち着かない。あまり聞いてきてほしくはないが……
「嘉義くんはどっちが似合うと思う?」
「そうだね、水色の方が似合うかも」
「本当?ならこっちにしてみようかしら」
「嘉義くん、ウチのはどっちがいい?」
「うーん……、赤沢さんは右の方が良いかな」
「ありがとう!」
こんな奴のアドバイスを参考にしていいのか?という疑問も残るが、彼女たちは納得しているみたいなので良いのだろう。変な感じにならなければいいのだが……
「ありがとう嘉義君、赤沢さん」
「こっちもありがとう!一緒に選んでくれて」
「私のアドバイスで大丈夫だったかしら?」
「大丈夫!とってもいいチョイスだったよ!ありがとう2人とも」
何だかんだで2人とも満足しているようだ。お互いのチョイスが良かったことが理由なのかもしれない、こっちのアドバイスは大したものでもなかったのだから。逆に碌なアドバイスが出来ず申し訳ない気持ちの方が強い。
「次さ、ここに美味しいアイスのお店があるんだって。行ってみない?」
どうやらこの施設には美味しいアイスクリーム屋があるようだ。甘いものは好きなので是非行ってみたい。
「良いね。そこ行こうよ」
「私も行きたいわ」
「うん!じゃあ早くいこー」
行くことが決まると赤沢さんは僕達の腕を引っ張って走りだす。思ったのが、意外と足が速かった。僕は大丈夫だったけど、白露さんは少し引っ張られて倒れそうな時が所々あった。
「結構並んでいるな。少し待ちそうだね」
「そうね。でも美味しいから人が来るのね」
「そうそう、他にも店舗があるけどそれぞれの店限定のフレーバーもあるからそれ目当ての人も多いんだって」
「そういうものがあるんだ、それは気になるね」
「それもあってこんなに並んでいるのね」
この並んでいる人も限定フレーバーが目当てなのだろうか?ここのアイス屋は行ったことがなかったのであまりよくわからない。どういう風に提供されるのか、味は?とか。そんなことを考えているうちに次の次くらいになり、メニューが見れるようになった。
「これがメニューだってさ」
「ありがとう嘉義くん、何があるかなー?」
「たくさんあるのね……なかなか決まらなそう」
「限定フレーバーにしようかなウチは」
赤沢さんは即決?したような感じではあるが白露さんはまだ迷っているようだ。僕は限定フレーバーとは他にビタークッキーにしようと思う。
「私も限定フレーバーにしようかしら」
「僕もそれとまた別で頼もうかな」
「みんな一緒だね……でもウチどうしようかな」
「どうしようってどうしたの?」
「マンゴーミルクが気になるんだ、けど2個は多いから……」
「そうか、確かに少し大きいよね」
なるほど、僕と同じように2個食べたかったようだ。しかし、1個でも量があるので少し多いと思ったのだろう、けれど食べてみたいという気持ちがある。男ならそこをすごい気にすることは少ないかもしれないが、女子なら体のことを気にして放置することはできないから悩むのかもしれない。
「私も同じよ。他にも気になるものがあるけど少し多いわ」
「じゃあ今日は限定だけにする、そっちも気になるから」
「私もそうするわ」
「甘酸っぱい、これ美味しいね!」
「本当、オレンジの味が濃厚だけど甘さもしっかりあるわ」
食べたかったアイスを食べることが出来た2人はとても嬉しそうである。この光景だけ見ると本当にありふれた女子高生の放課後の風景である。僕の方は今注文を終えて会計の途中だ。色々考え事をしていたということもあり2人より時間が掛かってしまった。
「お待たせー」
「嘉義くんも決まった……ってあれ?どうしたのその2つ?」
「本当、3つも食べるの嘉義君?」
2人が見て思ったのはどういう訳なのか蒼輔はカップ3個分のアイスを持ってここに来たのだ。彼自身はその量は難なく食べられるのだが……何を考えているのか?
「限定の奴ともう2つはマンゴーミルクとブルーベリーチーズケーキだよ」
「えっ!?でもどうして?」
「さっき2人どっち食べるか迷っていたでしょ?そのフレーバー3人で分けて食べようと思ってさ。1個は多いだろうから分ければ大丈夫じゃないかなって、余計だった?」
「全然そんなことないよ!ありがとう嘉義くん」
「こっちも美味しい、まさか両方食べられるなんて思わなかったよー」
「そうね、アイスを分け合って食べるってあまりないわね」
「そうだね、パフェやケーキならあるけど」
2人も気になっていた味を楽しめて嬉しそうだ。3つ選んだことは正解だったようだ。選ばなかった理由が体のことを気にしてなのか、金銭的なことかはわからないので少し賭けではあったがこれが良い方向へ導いてくれたようだ。
「ねぇねぇ嘉義くん」
「何?」
「はい」
「?」
振り向いてみると、赤沢さんはスプーンを差し出していた。まさか食べてとでもいうのだろうか?
「これは?」
「お礼、まだ自分以外の食べてないでしょ?だからそれで」
「良いの?」
「良いから出してるの!」
「分かった、じゃあいただきます」
そう差し出されたマンゴーミルクのアイスを食べてみる。正直な感想を言うと、台湾のそれをそのままアイスにした味のようである。マンゴーの果肉も入っているので結構おいしい。
「美味しいよこれ」
「そうだよね!私マンゴーのこの甘いのが大好きなんだ!」
「嘉義君、私のもあげるわ」
マンゴーとミルクの甘い余韻に浸っていたのだが、締まった声にその意識が消え現実に戻される。見てみると何故か白露さんも同じことをしていた。
「何これ?」
「私が食べたいと思ったアイスよ。まだ食べていないでしょ?だからおすそ分けよ」
「僕に?」
「他に誰がいるというのよ、それにお礼よ。わざわざ買ってくれたのだから」
何故同じことをするのだか……まぁお礼ということだからその好意に甘えるとしよう。
「こっちも美味しいね。マンゴーの甘い味を食べた後だからチーズのさっぱり感が良いよね」
「そう?私チーズケーキが好きだからそれを選ぼうと思っただけだけど」
「そうなの、こっちも食べさせてくれてありがとう」
どれも美味しいものだった、これは並んででも食べたくなるわけだ。僕たちが食べ終わった後も列は途切れることはなく減っては増えていきを繰り返していた。そんな呑気なことを考えていた蒼輔ではあるが、その裏では少し違う空気が冬美、鈴奈の間で生まれていた。
「(彼女……やるわね、予備のスプーンを持ってきていたのにそれを使わず見てないところで自分ので食べさせるなんて。嘉義君が気になっているのかしら?隣の席とはいえ、外ではあまり深い交流はなさそうだけど……)」
「(むー、白露さんったらマンゴーの後味を楽しんでいたのに無理やり上書きして……驚いたし、白露さんがアイスを食べさせた時、少ししてやったりみたいな表情してたから、攻めるときは攻めるんだね)」
裏では女性はこんなことを考えていたりして……ちなみに、蒼輔は後で関節キスじみたことをしていたことに気が付き、一人恥ずかしがっていた。しかし、後ろの様子は全く知らないまま。