良心と痛み、愛する気持ちがあるから   作:戦場を翔ける天使

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父の背中を見て

 

 今はGWの終盤、今日は学校も用事も特にないのでまだまだ寝ていたいというのが本音だ。そうなので、今はベッドの上でお休みだ。ただその安らぎの時間もうるさいシスターズによって終わりを迎えるときが来た。

 

「おーい、蒼やん起きて。もうお昼になるよー」

「まだ眠いから寝かせてほしい」

「何言ってるの、今日は家族みんな揃ってるんだよ。お父さんも今日休みだからいるんだよ」

「そうなのか?最近忙しかったらしいから久しぶりの休みか」

 

 どうやら父が珍しく日中に家にいるらしい。以前にも伝えたが、父は大手製造業の役員として働いている。一体どういう経緯でそこまで出世したかは詳しく聞いていないが、噂によれば技術陣を守るために技術系従業員が総力を結集させポストにつけさせたとも聞いた。役員ではあるが、大の車好きで現在、NSXを2台、997GT3を所有している。因みに家族用の車は一般的な国産車だ。

 

 

「おはよう」

「おはようございます兄さん」

「おはよう蒼ちゃん」

 

 

「おはよう蒼輔」

「お、おはようございます」

 

 どうしてかは分からないが、いつもの癖で父にだけ敬語であいさつをしてしまった。ようやくの紹介になったがこの人は僕の父、嘉義大輔である。

 

「家にいるのを久しぶりに見たよ」

「そうだろうな。こっちは最近夜まで忙しかったし、やっと一息出来そうなんだ」

「それは良かった。……で、車乗るのか?」

「そのつもりさ。また隣に乗るか?」

「そうする」

 

 

 この人、休みの日は家族と過ごすか愛車を転がすかの2択くらいにやることが限られており、ゴルフに行くとかほとんどない。家では義母であるみそらとくっつきっぱなしで何だかんだで家族想いの愛妻家でもある。

 

「みそら、最近一緒にいてやれなくてすまないな。家のこともみんなに任せてばかりでさ」

「大丈夫よ、大ちゃん。帰ってきても一緒にいてくれるだけで満足だから」

 

「本当に仲良しだよね、あの2人」

「良いことじゃない。冷め切った関係じゃないし」

「本当ですね。2人があの感じだから私達もこのように愛し合う関係になれたのでしょうね」

「それはわからないけど、あんな感じならね……」

 

 

 せっかくの休みだったのでのんびり過ごした僕たちは昼ごはんを食べ始めていた。父は昔、再婚するまで僕を育てていた時期があったので料理はある程度出来るが、腕は僕や瑠璃乃の方が上だろう。とはいえ、同い年の並みの男性よりかは出来ていると言い切れる。

 

「5人揃って食べる食事がやっぱり良い」

「そりゃ誰かが抜けると少しさびしいものでしょ」

「こうなると独り身は気楽だって言うけど、物足りなくよね」

 

 食事を終えた僕達はリビングでくつろいでいるが両親は二人で皿洗いをしている。この場面だけを切り抜けば、新婚さながらの距離の近さではないかと言ってもいいくらい近い。これを見た夫婦やカップルはどう思うのだろうか?

 

 

「蒼輔、そろそろ行くか」

「おし、じゃあそうしますか」

 

 片付けを終え少し休んだ後に父がまた走りに行くので一緒に行く。勿論自分も走りたいがまだ免許を持っていないので同乗という形になる。

 

「今日はRの方か?」

「あぁ、最近はマニュアルに乗っていなかったしな。」

「まぁこの時のマニュアル車は楽しいもんね」

「そうと決まったら行くぞ」

 

 

 今は高速の上にいるがやっぱり軽快な走りを見せる。この車はエンジンがキャビンの後ろにあるのでその音や唸りが響いてくるし、安定感が良い。しかも元々軽いのでそれがさらに楽しさを与えてくれる。

 

「この時の車は高回転まで回せるから音がとても良いな」

「本当だよね。俺は今の車もいい音出すのも多いと思うけど、これだけは特別なんだよ。それにこの車もう10年以上前の奴でしょ?長生きだよな」

「ちゃんとメンテナンスしてるしな。こういったものは美人やイケてる奴と同じで手入れを怠ればすぐダメになるからな。良いものを良い状態に保つって簡単じゃないんだよ」

「いきなり格言みたいに言わないでよ。どや顔で言われてもリアクションに困る」

 

 この人突然こういうことを言い出すので本当にどう反応すればいいのか毎回悩むのだ。けれど時々本当にいいことや考えさせられることを言うのでおふざけで流さない方がいい。やがて横浜まで流れてきた。見た感じ、このまま沿岸にあるショッピングモールとハーバーがある方へ向かうようである。

 

 

「意外とあったなここまで」

「あぁ、この車街中だと足が締まってるな。走る気にさせてくれるよ」

「サーキットじゃなければSの方がいいかもしれないな」

 

 父は本当に車が大好きで輸入、国産関係なく自分が気に入ったら長く愛するのだ。父曰く、車も女も自分からしたら一緒なのだとか。先程も言っていたが良い状態を保つ大変さ、魅せられてしまうものを持っている。変わりはいくらでもいるという奴には女も何も愛せないし、愛されることもないと。

 

「俺も早く乗れるようになりたいよ。もう少しなのにこの時間が待ち遠しい」

「まぁ焦るなよ。そんな車ばかりに気を取られていたら目の前のものを忘れるだろ」

「何だよ目の前のものって」

「あれだよ、クラスで会った女友達だよ」

「言い方……白露が何なんだよ」

「あぁその子か。名前聞いてなかったからさ、分からなかったよ」

「別に女友達はいたよ、今は会ってないけど」

「久しぶりに聞いたな、そういった話。中学の時なんて聞かなかったからな」

 

 小学生の頃、女友達は確かにいた。その子とは仲良くやっていたし正直このまま交流も深くなるのではとも思っている時もあった。けど、その後色々やらかしてしまって以来、一度もあっていない。

 

「蒼輔」

「どうしたんだよ」

「今の子、もし上手くやれたら大切にしてやれよ」

 

 さっきまでの緩い楽しさの空気から一変、父は急に真剣な感じになり僕にこう吐き捨ててきた。

 

「お前だって覚えているだろ。大切な人を失う悲しさとその痛みを、だからな」

「もういい、俺だってそのくらいわかっているよ。あんな思いしたくないよ」

「そうだな。けれどあれはもしもの話だ。その人が友達や恋人でかけがえのない人であるのならば、失わないようにするんだ。お互いに決裂してそれぞれの道を行くのなら話は別だがな」

 

 失わないようにか、普通に言わないでくれよと思ってしまうがあの事件以降父はそうならないように死に物狂いで生きてきた。自分の宝物、能力、心、そして家族、どれも彼からしたら大切なもの、そして代わりが存在しないのだ。だからこそ、それを守るために戦い、生き抜いてきた。欲と良心、信念との闘いだ。それを知っているからこそ僕もそういった覚悟が芽生える。

 

「父さん、僕はあなたの意志を継ぐよ。難しいことだけど、失いたくないからこそ闘う。自分の想いを背負いながら」

 

「今の会話でそんな決意が出来るのか蒼輔は、でも良いと思う。けれど、今のお前はまだまだ力不足だ、それにそんなことは生易しいものでもない。今は俺や一豊の背中を見て力を付けて行け。ゆっくりで大丈夫だ」

 

 まるで僕の意志を認めたかのように父はそれを受け入れた。でも僕の力ではまだまだ遠いことだとも思っているようでもある。確かに背負っているものの重さが全く違う。僕達子供はまだ家の歴史の重みと良心だけだが、父だといろんなものがある。それがあるから簡単ではないことを教えられるのだろう。

 

 

 その後、夕日を背にエンジンを回して帰っていったのだが、途中横浜で美味しいものを買って家族でそれを夕飯にして楽しんだ。しかも父は今日の決意表明を母や瑠璃乃、藍奈の前で言いふらしたので、それを種に茶々を入れてくる騒がしい夜ではあったが楽しい家族団らんの時間を過ごせた。

 

 

 また連休が終わり、学生の日常が始まる。身支度を終えリビングに向かったが、もう父は家を出た後であった。

 

「もう行ったのか」

「今日は早く出て行ってしまったみたいですよ」

「それでもお母さんと朝ごはん食べていたよ」

「そこは変わらないのか。まぁあの人らしい」

 

 せめて朝ごはんを一緒に食べたかったが、仕方がない。その残念さを抱いていたら母が渡したいものがあると声を掛けてきた。

 

「これは?」

「それ、パパがお守り替わりにしていたものだって」

「ペンダントだな」

 

 母から貰ったのは、青いトパーズが埋め込まれたペンダントであった。僕は11月に生まれたので誕生石としては普通のことだが、一体何故今なのだろうか?ペンダントを一通り見てみたら、石が埋め込まれている側が開けられることに気が付いた。それを開けてみると……

 

「!!」

 

 驚いた。開けてみたら今は亡き産みの母と僕と父の3人で撮った写真が入っていたのだ。今まで父はこれをお守りとしていたのかとようやく気が付いた。今は現実で近くにいなくても、この中で父と僕を見守り続けている。このことを知っただけでも僕は嬉しかった。

 

「何が入っていたの?」

「……僕の宝物だよ」

 

 

 遠くに離れてしまった大切な人が今この形で近くにいてくれる嬉しさ、これが僕にとってどれほど励みになって前へ押し出してくれるか。これの存在のおかげで、昨日の決意は確固たるものになった。

 

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