良心と痛み、愛する気持ちがあるから   作:戦場を翔ける天使

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勝利の喜びと敗北の悔しさ

 

 

  入学してからかれこれ2カ月目になろうとしている今日、この辺になるととうとう嫌でも受けなければならない試験を迎える。因みに今、その試験の数学を迎えているところである。

 

「(計算ミスが命取りだ)」

 

 とにかく今は慎重に問題の答えを出すために計算の確認をしながら解き続ける。やはり都内の中でもレベルが高い高校なので問題も難しい。以前は大学の過去問から出したのではというくらい難しい問題を出してきたという噂もあるくらいなので、とにかくその場しのぎの勉強では対処できないだろう。僅かに余裕が出来たのであたりを見回すと、長田も頭を抱えているようだ。一応一緒に勉強した筈なのだが……

 

「(本当に家で勉強したのか彼は……)」

 

 そんな疑問はさておき、意外にも赤沢や浅木はそこまで筆を止めている様子はない。白露や光波はもう解き終わりそうなほどの余裕が見えるくらいの様子だ。

 

「(流石だな、あの2人は昔から親が勉強にうるさかったらしいからそれがここで生きているのか)」

 

 

 

 

「(長かったな)」

 

 ようやく試験が全て終わり皆苦しみから解放されたか喜びの表情を浮かべていた。初めからこのレベルで来られると流石に苦しいの方が勝つ。自分も点を取れている自信はないくらいだ。

 

「嘉義、数学ダメだったかも」

「普通のトーンで言うな、あれだけ勉強しただろ」

「最初の方は良かったんだ、だけど後半の大問が壊滅した」

「あれは確かに難しかったから、仕方ないのかな?」

 

 やはり解くことは出来なかったようだ。あの後解き終わって彼の様子を見たが、止まっているのには変わりなく撃沈と表現していい状態だった。

 

「嘉義くんどうだった?」

「うーん、何とも言えないていうのが本音」

「ウチも自身無いな、先生とかに聞いて勉強したけど難しかったよ」

「赤沢ってそういう真面目な面をあるんだね、そんなイメージが無かった」

「そんなことないし!ウチだって中学も必死に勉強してたんだから!」

「そうだよ、鈴はこれでも中学で上位入るくらい勉強頑張って来たんだから。あまり馬鹿にできないよ」

 

 意外だった。一件遊んでばかりいそうなイメージが強かった赤沢ではあったが、勉強に対する姿勢は一時期の自分よりもあってそれが今でも続いているのは正直羨ましい。勿論終盤の方は自分に喝を入れて真剣に取り組んだが、見習わなくてはならないと思う。

 

 

 

 

 そんなやり取りがあったなと思いつつ2日前に受けた数学の答案返却の時間になってしまった。今のところ極端に低い科目はまだないが、理数系は正直高得点をとれている自信はない。そんな不安が支配する中いよいよ僕の番になってしまった。

 

 

「嘉義、やるじゃないか。白露や光波を抑えて1位だぞ」

「本当ですか?」

 

 杉原先生の言う通り、答案用紙を見ると90点と書いてありどうやらクラストップのようだ。しかも驚いたのは白露や光波よりも高い点だったということだ。

 

「普段の行いや様子を見る限り出来るだろうと見ていたが、私の目は間違っていなかったようだ。これからもしっかり取り組んでいくんだぞ」

 

 

 

「(まさか僅差で1位だったとは……)」

 

 すべての答案が返却された後、クラス学年両方の順位と平均が記された紙をもらった。そこで自分がクラスで1位だったことを知る。ただ嬉しいことに学年では上位1割に入るほどだったがまだまだ油断はできない。2年次に難関クラスに進級するにはクラスで1割をキープするか、そのための進級試験を受ける必要があるので1位や2位に居続ける方が確実ではある。

 

 

「あなたが1位だったのかしら嘉義君?」

「ま、まぁ何とかね」

「やはり理数系科目の点で差が出来たのね」

「ってことは、白露は2位?」

「悔しいけどその通りよ」

 

 2位は白露だったか。親御さん勉強に熱を入れる人だと聞いたから、もしかしたら次からは本気で1位取りに来そうだ。その証拠に今まで負けが無かったせいか、表情が本当に悔しそうなのだ。

 

「2人ともどうしたんだい?」

「やぁ光波、順位聞きに来たのか?」

「あぁ、おそらく君と白露さんのツートップじゃないかと思うけど」

「その通りよ光波君。けどトップは嘉義君よ」

「すごいじゃないか嘉義君。僕は3位だったけど期末は1位狙うよ」

 

 どうやらこの3人がこのクラスの表彰台メンバーのようだ。テスト前も白露か光波のどちらかが1位だろうと思っていたので、クラストップだった時の驚きはすごかった。

 

「僕も負けられないな。ってことは光波も難関クラス志望?」

「そうだよ、だから2人と競わなくてはならないんだ。本当は嫌だけどね」

 

 正直言うとこっちも嫌である。何もなければこうやってほのぼのとあと何点だったねとか次頑張ろうとか何気ない会話を続けたいし、けり落とし合うようなことはしたくない。しかしそこを目指す以上は避けることはできないのだろう。

 

 

 

「でE組だと嘉義くんが1位なんだ~!」

「それでも白露とは僅差だったよ、国語とか彼女の方が高かったし」

「すごいよ~、ウチ理科とかが伸びなかったからあまり高くないかな」

「アンタって勉強できんだね。見直したかも、アンタにも聞いてみればよかった」

 

 下校の際、赤沢と浅木の2人組に会いテストの話をしていた。赤沢は理科で苦戦をしたようで浅木は妙な余裕を感じられる。でも、浅木は勉強できるところはすごいと思っているようだが、まだ良い印象を持っているようには見えない。

 

「浅木はどうだったんだ」

「……放っといて」

「夏美もムっとしないの。別にまぁまぁ取れてたんだから良いじゃん」

「言わないでよこいつの前で!」

「別に聞こうと思っていないし気にしなくていいよ」

「あー、もうムカつくアンタ!」

 

 

 

 久しぶりに感じたこの悔しさ。小さい頃からずっとトップを目指し、勉強や苦手な運動も頑張り続けた私、善果善行のよう小中学生のテストでは常にトップ、学年内や模試では上位に居続けてきた。しかし、あの不思議君が私よりも上に立っていた。中学であったテストで2位だった時の悔しさと同じ。

 

「(当たり前よね、上には上がいるというのは)」

 

 勿論油断などは一切無い。嘉義君だってこの学校で一番難易度が高いクラスへの進級を志望しているのだから、彼だって本気で戦っている。それは私も同じ、そのクラスへ進級したいのだ。そしてまだ見えぬ新しい景色を見たいのだ。そのために私は親しい人であっても情けをかけるつもりはない、勝つためならば。

 

 

「お帰り冬美」

「ただいまお母さん。今日は早かったのね」

 

 

 家に着きリビングに入ると、母がいた。今日の放課後は試験の見直しで分からないところを先生方に聞いて回っていたので、普段より遅くなってしまった。それもあり、母の方が早く帰ってきていた。

 

「大変だったわね、今ご飯用意するから待ってて頂戴」

「分かったわ。けど私も手伝う」

 

 

 

「冬美は学校に慣れた?」

「大丈夫よ。別に変わった学校じゃないし」

 

 こういう会話を出来る時間は本当に少ない。両親は共に働いているし、ある程度の役職に就いていることもあって小学生の時よりも一緒に入れる時間が少なくなってしまった。だからこういった時間があるだけでも少し嬉しく思ってしまう。勿論、こういったほのぼのとした親子の団らんばかりではないけれど。

 

「勉強の方はどうなの?水本は進学校だから競争も激しいって聞くけど」

 

 また始まりそうだ、母は昔自分が勉強を必死に取り組んだからこそこうやって厳しく当ってくる。自分たちが大変な思いをさせないためだと、小さい頃に母からそう言われた。気持ちはわかるけど、正直今そのことを話したいとは思わない。一緒に居られる時間が少ないから今は普段の日常の話を交わしたいのに

 

「試験があったけど、クラスでは2位でした」

「そう、1位は誰だったの?」

「今仲良くしてくれる男友達よ」

「あら、男友達が出来たの?驚いたわ。良いことだけど、次はその子に勝ちなさい。分かったわね?」

「はい、分かりました」

 

 

 

 私が帰って来た時、先に冬ちゃんが母と試験の話をしていた。私は驚いた、何せほとんど1位を取って来た冬ちゃんが2位だと聞いて。話を聞く感じ、男友達が1位だと言っていたがおそらく嘉義くんではないかと思う。話が終わったのか、冬ちゃんが出てきた。

 

「いつもと同じ感じ?」

「えぇ、難しい学校だから少しくらいは励ましの言葉くらい欲しかったわ」

「そうだよね~。じゃ、私も行ってくるね」

 

 

「楓も良い状態を保ってるわね」

「勿論、私だって頑張ってるしね」

「良いことよ、でもね」

 

「一年の時は今の冬美の方が良いと思うわね」

「ははっ……そうだね、入ったときは真ん中くらいだったからね」

「全く、楓ももっとやりなさい。冬美は頑張っているわ、このままだと」

「分かってるってば、私も負けないように頑張るから」

 

 

 そう言ってリビングを後にしたが、やっぱりいつも通りというのか。大方想像はついていたけど、悲しさしかなかった。私は頑張ってもほめてもらえるが、冬ちゃんほどではない。確かに、私も冬ちゃんと同じころと比べても出来は良いとは言えなかった。それでも一生懸命にやって来たのに、彼女の方が良い目で見られてきた。私だって頑張っているのに。どうしてあういう風にしてもらえないのか。

 

「(どうしたら冬ちゃんみたいになれるのかな……)」

 

「(姉さんの背中を追ってもどうして近づけないの?)」

 

 

「「(どうしたら良いの?憧れの人に近づくには……)」」

 

 

 二人の想いは似たようなものであるけれど、少しずつすれ違い離れて行ってしまっている。これを引き留めるのは一体誰なのだろうか?

 

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