教室は静まりかえっていた。理由は簡単だ。クラスの注目の的だった女子生徒が一人の男子生徒をロックオンして話をしていたからだ。しかもクラスメイトに囲まれていたのにもかかわらず、それを掻い潜るかのようにこちらに向かってきたので、そこにいた生徒はみんな
「覚えていたの?」
「もちろんよ、朝にあんなことをしてくれたら忘れないわよ。それに言ったでしょ?[助けてほしいときはいつでも力になる]って。そこからあなたに興味を持つようになったの、たった一回会っただけなのにそこまでやろうとするあなたの姿勢に。だから私はあなたに声をかけた、それで今ここにいるってことよ」
「そ、そうなのか?……。そんなことで興味を持つものなのか?」
確かにあの時はそう言った。勿論自分の力を人のためにつかって良いことに繋がればとは考えていたわけで、でもそれが何故興味を持つことにつながるのか?
「そうね、でも普通そんなこというのってあまりないじゃない。もしあったとしても弱っているところを狙ってくる人間もいる、けどあなたにはそれがなかった。だからよ、私欲のためでなく純粋に人のためになろうとしている。その姿に興味を持ったの」
「そうか……」
朝の僕の行いは彼女から見たらそういう風に見えていたのか。そういう風に思ってくれるだけでも嬉しい。彼女の眼は僕の言葉を信じているように真剣な眼差しをしていたので、僕は……
「ありがとう。良い感じに思ってくれているだけでも十分に嬉しいよ。これからよろしく白露さん」
「えぇ、私もよろしく。あと嘉義君、一つお願いがあるの」
「何かな?」
「私のこの学校最初の友達になってほしいの。ダメかしら?」
「えっ?」
この展開は一体何なのだ。痴漢から助けただけでここまで興味を持たれるものなのだろうか?お礼を言いに来ただけだと思っていたからこのお願いに対してどう答えればよいのか?……
「……」
「やっぱりダメ?……」
「いや、そんなことはない。僕で良いのかい?最初の友達が」
「えぇ、勿論よ」
「ならよかった。改めてよろしく」
「私もよろしく」
そう言って白露さんはニコっと笑みを表して僕のもとを去っていった。断るつもりは1ミリもなかったが、シュンとしてしまった表情を見てしまうと罪悪感が芽生えてしまう。もしあそこで断るものなら大変な目に遭っていたかもしれない。
また休み時間が終わりみんな自分の席に戻る。少し雰囲気がさっきとは違っている。白露さんが僕にピンポイントで話しかけたことで、男子は羨ましさと「何であいつが?」という少し妬みと不満が混ざったような視線を送ってきている。女子の方はそんな感じはなさそうだが、「どんな人なの?」という不思議に思っている様子がうかがえる。
微妙な空気の中三限が始まった。なんていうのか、悪い意味で注目を集めてしまった……
この後、嬉しさと嫉妬心を与えてしまった後悔二つの心情が僕を締め付けながら最後の委員会決めになるのだった。
今日最後の時間だった委員会決めも終わり、初日は終了となった。特別、この学校特有の委員会があったわけでもなく普通の学校と同じようなものばかりだった。ちなみに学級委員は長谷川君が自ら立候補したので、男子はすぐに決まったが女性陣はなかなか決まらず、3週目でようやく決まったという感じだ。こういうのを見ると、集団をまとめる役なんて望んでなる者はそうそうといないと改めて何もない人は即下校になる…が、僕の場合はそうはいかない。何故なら委員会活動に参加することになったからである。(強制ではない)別にやろうと思って立候補したわけなのでそこは気にしていない。ある点を除いては……
「(まさか図書委員で一緒になるとは……)」
そう、まさかの白露さんと図書委員被りである。そんな忙しいことしないだろうと思って適当に選んだはずなのだが、ここで一緒になるってなんか都合良すぎないか?ただ図書室で貸し借りの管理や本を整理するだけの仕事の委員会なのに、少しドキドキしている。これから委員会の説明があるので、図書室へ向かっているのだが……
「(それにしてもかなり注目されているな白露さん)」
さっきからずっと思っていたのだが、本当に注目されている。しかも学年問わずだ。たまに聞くけれど、本当にあるときはあるのだなと感じてしまう。でも様子を見てみると、彼女は気にしていないというか、興味がなさそうな感じがしている。ただ慣れているのか?このような視線や注目に。
「嘉義君」
「お、おぅ。どうしたの?」
「のんびりしてたら遅れるわよ」
「すまない。急ごうか」
急ぐよう催促されたのでペースを上げる。この後、特に会話も無く図書室へ向かった。
「(30分で終わったな。そんなに時間が掛かることがなくて良かった)」
今日のミーティングは仕事内容についてと簡単な自己紹介、当番の日を決めるだけで終わった。何と、僕と白露さんは金曜日の担当を一緒にやることになった。この学校では、委員会は前期後期ともに担当することとなる。楽な委員会なら良いが、学級委員といったまとめ役や面倒なところに入ると後々後悔する可能性もあるので慎重にやるかやらないかを決めなくてはならない。そう考えると図書委員は比較的楽な部類に入るだろう。
「(白露さんはどこだ?)」
今僕は委員会を終え、白露さんを探している。図書室へ向かう途中から気になっていたことなのだが白露さんの、注目されていても何とも思わないような表情について、彼女はどう思っているのだろうか?僕もかつて、悪い意味では注目されてしまったことがあるので、良い方だとどうなのかが気になって仕方ない。昔からああなのだろうか?そんなことを考えながら僕は彼女を探し、校内を歩き続けた。
「(全然見つからない……)」
今屋上にいるのだが正直に言う、探すのが面倒になってきた。何故ならこの学校、都心にあるのに敷地が広くて全部めぐるだけでも疲れてくるからである。
「(もう帰ったのかな?)」
ほぼ全部見て回ったがいる気配が全くないのでもう諦めて明日あったら聞いてみることにしてみた。そのため、下駄箱のある入り口まで向かうため屋上を去ろうとしたら聞き覚えのある声が僕を呼んだ。
「やっと来た」
「えっ?」
声のした方向へ顔を向けると僕が会いたかった人がそこにいた。
「ここにいたのか」
「私は終わった後ずっと待っていたのだけど」
「それはないよ。もうへとへとだよ……終わってから校内歩きまわっていたのだから」
「それは大変だったね。私は少しあなたを見ていたわよ。校庭をキョロキョロしながら探していた姿を、ちょっと面白かった」
「それはないよ……」
まるで彼女に遊ばれているかのようだ。ここで待っていたということは用があって、僕が探していたことを分かっているのか?
「俺が白露さんを探しているのは用があったからだよ」
「でしょうね。それは何なの?」
さっきの気になっていたことを僕は聞いてみることにした。
「結構興味を持たれやすく注目を浴びるような君だけど、それをどう思っているのかい?」
「そうね……」
先程の微笑んでいた様子が一気に固くなり真剣な表情になっていた。あまり突いてほしくない点だったのだろうか?
「簡単に言えば、そんなことは興味ないの」
「興味ない?」
「そう。小さい頃からずっとそうだった。男子は容姿だけを見て詰め寄ってくるし、女子は私だけがちやほやされるから勝手に妬んで仲間外れにされたことだってあった。そんな人間達が本当にくだらないと思っているの」
「そうか……」
そういうことだったのか、大方わかったかもしれない。外見が良いから注目され深くまでは知ろうと思う者が少なく、しかも寄ってくる異性の大半は彼女を自分のものにしたいという恋という名の下心を持っていることをわかっていたということだ。それならば彼女も男と関係を持とうとは思わないし、嫉妬する同性からは良い目で見られない。勝手に崇拝され特別な存在のように扱われる、彼女からしたら迷惑なことだ。その気持ちがわからない訳ではないけど……
「確かに白露さんの言う通り、人気のものやことに勝手について行っていい思いをしようと考える輩なんて一杯いると思う。そんな浅はかな考えを持っている輩なんて僕も馬鹿らしいと思うよ、それは同感だ」
「そうでしょ?だから「でも1人でずっと過ごすことを正当化できるものではないと思うな」……それはどういうこと?」
「だってさ、困ったときに頼りたくても頼れない、愚痴を聞いてくれる友達が一人もいないってとても寂しいものだと思うよ?一人でも大丈夫って強がったっていずれ限界がきてつらいと思うようになるよ」
「私は別に気にしていない。だから大丈夫「強気にならないでよ。それに白露さん、朝自分が言ったこと忘れたの?この学校最初の友達になってほしいって。あれは冗談なのかい?」
「!!」
これは一つ勝負に出てみる。僕は覚えていた、彼女が囲まれていたにも関わらずそれを抜けて直接会いに来てそれを言ったことを。もしもそれがその場しのぎのために言ったことならば、僕はもう交流をしていくつもりはない。朝の件だって裏があってやったことではないし、彼女について知りたいと思ったが最初から自分のものにしようという考えはなかった。それなのに、それを下心あってやったこととみなすなら自分の良心を踏みにじられたと思ってもいいだろう。
「もし朝の言動が君の気を引くためにやったと思っているのならば、僕はあの言葉を拒否するし困ったときも力にならな…「待って!それは違うわ!」
「ごめんなさい嘉義君、確かに最初は善行を利用して言い寄ろうとしたのかもしれないとは思っていたわ。けれど、学校までの道であなたの話を聞いて、初めて異性に対して心を開けると思ったの。それなのに、初めてだったから私はどう向き合っていけばいいのかわからなくて、朝にあんなことを言ったけど少し迷ってしまったの……」
「そうだったか。すまない、こっちも意地悪をした。僕も最初、痴漢から助けただけで何故あんな風に考えたのかわからなかったから、だから確かめたかった気持ちもあった」
これで分かった、お互いが思っていたそれぞれの印象やその人への考え。お互いに信じることが難しかったということを。無理はないと思う。過去を見てみても、彼女は簡単に異性を信じられなくなっていたし、それで今朝僕がしたことや考えを初見で見てすぐに信じることは難しかったはずだ。しかも彼女の顔は、罪を感じたせいなのか少し悲しそうな様子で、瞳が少し潤っていた。
「少しは信じることは出来そうかな?」
「うん、ごめんなさい嘉義君。あなたの良心を踏みにじろうとしてしまって。信じることが出来る人を失ってしまうところだった」
「気にすることはないよ。白露さんの過去を知ったらそういった考えが見方になってしまうのは無理ないと思う」
お互いに謝りあい、変な空気は消し飛んだ。こんな形ではあるものの僕は彼女に言いたかった一言をかける
「僕はあなたとこれから仲良くなっていきたいです」
「もちろんです。私もよろしくお願いします」
少し強引になってしまったかもしれないが、僕たちは互いに最初の友達となった。