あの後、僕たちの交流は始まり駅に着き電車を待っていた。互いの最初の印象と本心がわかったのか、先ほどの真剣な空気から和やかなものに変わっていた。
「嘉義君はどこから通っているの?」
「僕は世田谷だな。自由が丘と駒沢の間くらい」
「結構近いのね。私は経堂と千歳船橋の間くらい」
「そんな離れてないのか。登校も大変じゃないね」
「電車が混んでいることを除けばね」
代々木までは同じ路線だが、彼女は別の駅で乗り換えだ。意外なことに同じ区に住んでいたとは。そんな感じで僕は話を続ける。
「白露さんはどうしてそんな白いの?」
「それはわからないわ。病気かと思ったけど医者は否定してたし」
「もしアルビノならば、目の色素も薄くないとおかしいか。目は見える?」
「えぇ見えるわ」
「なら違うのか。そういった体質?」
「そうかもしれないわね。真実は永遠に出ないかもしれないわ」
アルビノではないということは、おそらく病気でもなくただの性質なのかもしれない。
そんなことを考えていると、電車がホームに滑りこんできた。ドアが開き電車に乗り込んだ僕たちは、空いている席に並んで座った。
先程の続きのように、その間にも気になることを聞いてみたりした。
「白露さんは妹とかいるの?」
「姉さんがいるわ。同じこの学校に通ってる」
「本当?姉妹揃って同じ高校ってすごいね、頭が良いんだね」
「そう?親が勉強にうるさかったし2人そろって勉強熱心だったってのもあるから」
「その気力ほしいな。僕は勉強するけど妹たちに負けるからね頭の良さは」
「嘉義君もいるのね」
「妹が2人。再婚した時に今のお母さんが連れてきた。義妹ってやつ」
「そうなのね。前のお母さんは?」
「病気で亡くなった」
あまり過去のことを言いたくなかったので嘘をついてしまった。病気じゃない。巻添えを食らったのだ。ただ今それを話すと空気が悪くなりそうに感じたのであえて伏せた。
「ごめんなさい、あまり聞いてほしくないことを聞いてしまって」
「いや気にしなくていい。妹のことを話せばどちらにせよ聞かれることはわかっているから」
「じゃあ、ここだから降りるよ。また明日」
「えぇ今日はありがとう。さようなら」
僕は電車を降り彼女と別れた。別れ際、彼女に手を振ってあげたら振り返してくれた。少し電車を見送った後、僕は渋谷まで出て自宅のある世田谷の町へ直帰した。
自由が丘に着いた僕は改札を出て家へ向けて歩き出した。すると後ろから肩をたたかれたので振り返ると見覚えのあるショートカットの人物がいた。
「兄貴」
「何だ、藍奈」
嘉義藍奈、彼女は僕の妹でこの家では三女だ。今日から中学生なのだが、都立中学に進学したので電車通学をしている。今日は僕と同様、始業式だけなので授業は無かったようだ。
「早かったね、もう少し遅いかと思った」
「お前のところも早かったな。少し距離あったよね?」
「顔合わせみたいなものだったし、今日は楽だった。明日からは授業始まる」
「友達は出来たの?」
「初日からは難しかった。一応進学に力入れる学校だから真面目な人多かったし、普通の中学とはやっぱり雰囲気違った。兄貴はどうなの?」
「一人だけなら出来た。しかも女子」
「は、本当?」
そのことを聞いた瞬間、藍奈は僕の手を引き歩き出した。しかも早歩きで。
「藍奈!あまり引っ張るな、制服が伸びる!」
「そんなの知らないし」
ぶっきらぼうに言うことから、藍奈は少し不機嫌なのがわかる。ムスッとした顔がわずかながらに見えた。
「何でそれだけで怒る!友達が出来ただけじゃないか!」
「私の勝手だし。何かイラっとしただけ。特別トーク力があるわけでもないのに初日の数時間の間にアンタが異性の友達作ったことに」
「色々あったんだよ!別にやましいこととか良くない方法とかではないからな!」
そんな感じで終始不機嫌な妹に引っ張られながら歩いて10分くらい、僕たちはようやく自宅に到着した。今日はまだ昼なのに妙に疲れた気がする。玄関に入って靴を脱いで色々やった後、リビングのソファに座ると……
「蒼やん、さっきの話、詳しく聞かせて♪」
「お、おぅ。その前に膝の上に乗らない、隣でもいいじゃない」
「嫌、ウチは蒼やんと一緒にいたいからこうしているの」
始まった、これが藍奈の本性なのだ。普段、外にいるときや僕がいないときはクールでキツイ感じの振る舞いをするが、家にいるときはこうやって甘えてくるのだ。クーデレってやつなのか?冷たさと甘さを兼ねている妹、それが藍奈なのだ。蒼やんと呼ぶのは兄ぃ呼びだと子供っぽいし、兄さんやお兄様だと中学生で堅苦しすぎるという理由らしく、考えに考えた結果これになったらしい。
「それにしても驚いたよ、蒼やんに女子の友達ができるなんて。今までの人生でも指で数えられるくらいの数しかいなかったじゃない異性の友達って」
「おそらくその通りだと思う」
「でもどうやってその人と友達になったの?」
やっぱり聞いてきた、変な経緯でなったことではないので話したくない訳ではない。しかし、僕を長年見ている藍奈には驚きよりも疑問や不思議さの方が先に頭の中で思うみたいだ。
「声掛けられたという訳でもなくこっちから掛けたでもなく……」
「ラッキー現象みたいなやつ?」
「断じてそれでもない!」
「だとすると……何?」
「痴漢されているところを救ったら偶然同じ学校だったんだ」
「シチュエーションが特殊……。ていうか、よく見つけたね。混雑している電車の中から」
「SOSの視線を感じたからね。それで見回したら見つけられた」
「やるじゃん」
経緯をようやく話し終えたと思った矢先、興味津々の藍奈はまだ気になることがあるためか、話を終わらせる気はまだないようだ。
「で、その人どんな人なの?」
「簡単に表現すると、めっちゃ美人な白雪姫」
「本当?」
「肌や髪が本当に白かった。後ろ姿だけ見たら瑠璃乃そっくり」
「それはすごいね。会ってみたくなってきた」
そのことを伝えると藍奈は目をぱっちり開かせ、ニマニマしながらグイグイ迫って来た。ちなみに藍奈は僕の膝の上に座っている、つまり向きを変えて向き合った状態なのだ。流石に妹相手でも異性と至近距離で向き合うのは恥ずかしさがある。しかも甘い香りが鼻をくすぐる。
「ねぇ、あの人のこと気になっちゃった?」
「あ、あぁ。失礼だけど藍奈や瑠璃乃とか以外で初めて興味持った」
「ふーん、そうなんだ。何か妬いちゃうなー、蒼やんが女性に目線を送るの」
「別にまだ好意があるわけじゃない。だからそこまで気にしないでくれ」
「そういう訳にもいかないじゃん。だってそんなことしてたら取られるかもしれないから」
「取られるって……」
何年も一緒にいたからわかったことだが、藍奈は僕を信頼し別れが来るその時まで愛を捧げたいし、それを捧げてほしいという気持ちが強いということを。それは兄としても嬉しいことではあるが、長く続くとそれを引きずることになってしまうため早いうちに切らねばならないという気持ちもある。
「ウチにとっては家族や兄という枠組みでは抑えられないほど一人の男性って言えるほど思いが強いの。同級生の告白もあったけど、そんなものじゃ超えられないくらいあなたがかけがえのない人なの、蒼輔兄さん」
「藍奈……」
藍奈は自身の想いを伝えるとその勢いのまま顔を近づけてくる。
「あ、藍奈!」
「黙って目を瞑って、それに動かないで」
「随分と長い間密着して、その勢いでキスでもしようとしていたのかしら?藍奈」
「あー、帰ってきちゃった。お帰り瑠璃」
「お帰り瑠璃乃」
「兄さんも藍奈もお帰りなさい」
藍奈がこのまま迫ろうとしていたのと同時にドアの開く音がしたのでそっちの方向へ顔を向けると、買い物袋を片手に不機嫌そうな顔をしているもう一人の妹、嘉義瑠璃乃の姿がそこにはあった。
この話を見たら藍奈は最初からこんな感じかと思われてもおかしくはないと考えています。藍奈の過去もいずれ描けていければと思います。今回はここまでです。次回はもっと愛している二女が登場します。