良心と痛み、愛する気持ちがあるから   作:戦場を翔ける天使

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不穏な空気と恩返し

 

 

 「うーん、腕が何かむずむずするような感触が残っている……」

 

 あの後、起きるまで2人はくっついたままだったので両腕がしびれた状態で目が覚めた。そのため、寝返りを打てなかったので腕以外のところにも嫌な感触が残ったままであった。

 

 今日から授業がスタートする。一応この高校は進学に力を入れているため、授業もそれ相応のものになると考えられる。1年の場合文理選択はなく、どのクラスもほぼ同じ科目でスタートすることになり、最後のクラス分けと学年末の両方を兼ねた試験によって2年以降のコースが決まる形となる。そのため、最初のこの1年が非常に重要となってくるのだ。

 

「頑張りますか」

 

「おはよう嘉義君!」

 気合を入れるために自分に言い聞かせていたら、僕を呼ぶ声がした。この明るい声の主は記憶にある人間から探せば一人しかいない。というよりも面識がある人間のなかでは……

 

「おはよう赤沢さん」

「おはよう!何だか元気ないように見えるけど、どうしたどうした?」

「いや、今日から始まるのかーってただ思っただけ」

「ふーん、ていうか最初から気にしすぎじゃない?しっかりやれば悪い方向にはいかないでしょ」

「そうだけど、2年のコース決めがここから始まってると考えるとそうも言っていられないからな……」

「もうそんなこと考えてるんだ、偉いね嘉義君。この学校レベル高いからウチ考えてなかったよ」

「はは……」

 そう言われると確かにそうだよなと思う。この高校は2年からコースが決まる。無論、普通のコースでも授業の質は高いのでそれでも良いのだが、難関校を目指す生徒だとモアハードを求める者も多い。2年からのA組の難関コースがまさに国立や難関を目指す生徒にピッタリなのだ。難関コースは一つのクラスしかないため、そこを目指している生徒はもうここからスタートしているといっても過言ではないほどの競争率なのだ。

 

「じゃあ嘉義君も頑張らないとだね!」

「その通り。もう戦争みたいなことをやらなきゃならないから大変だよ」

 

「おはよう鈴」

 

 朝から過酷さを感じてしまうような話を2人でしていたらまた別の誰かが赤沢さんに話かけてきた。声の主の顔を見てみるとブロンズのロングヘアの女子生徒がいた。

 

「あ、おはよう夏美!今日は遅かったじゃん、どうしたの?」

「少し寝坊しちゃってさ、ってそいつ誰?」

「夏美もう忘れたの?嘉義君だよ!」

「あぁ、昨日メッセで言ってた珍しい名前の男子だっけ?」

「そうそう!」

 

 何やら彼女は赤沢さんの友人らしい。珍しいは珍しいが言うほどのことだったのだろうか?とか考えていたら、夏美という女子が突然顔を近づけてきた。

 

「……」

「(何なんだ?)」

「ふーん」

 

 結構至近距離で見ている、いや、観察しているようにも見えるが何のつもりなのだろうか?近いので甘い香りが鼻をくすぐってくる。

 

「パッと見は何かさえない感じだし。鈴がわざわざ声を掛けるような良さもなかった」

「はっ?」

 

 今彼女、中々失礼なこと言わなかったか?初対面なのに。まぁ特に顔がかっこいいとか突出した魅力はあるとは思っていないけれども。

 

「初対面の人間にそれは無礼過ぎない?僕も顔はかっこいいとは思ってないけどさ」

「別にアタシは思ったことをただ言っただけ。何か文句ある?大した魅力なさそうだし」

「ちょっと夏美!」

 

 お互いに何も知らないというのに決めつけるようなことを言うのはさすがに反論せずにはいられない。察したのか、赤沢さんは止めにかかるが僕と彼女の一触即発の危機にクラスが凍り付いてしまった。

 

「君はもう少し礼儀をわきまえることを覚えた方がいいと思うよ。お互いにどういう人間かわかっていない状態なのに暴言じみたことを吐くのはどうかと思うが」

「別にアンタなんかにするつもりはないし。大した魅力ある訳じゃないのに、鈴だけじゃなくて白露さん?とかとも仲良くなろうとしていることにムカついている」

「夏美やめなよ!嘉義君に失礼でしょ!」

「うるさい鈴、これはアンタのためでもあるんだから」

 

「互いをよくわかっていないのに自分の勝手な考えだけで交流していいかを君が決めるって、どうしてそんなことが出来るのかな?何か赤沢さんもかわいそうだね」

「はっ、どういうこと?」

「だから、君を通してじゃないと関わっていいかいけないかを決めることが出来ないってことだよ。一体何の権限があってそんなことを……!?」

 

 まだ言いたいことはあったのだが、それを遮るかのように彼女は僕のシャツを掴みかかる。その表情を見ると怒っているのか、僕のことが気に食わないかのようににらみつけている。

 

「ホントあんたって生意気でムカつく!鈴がかわいそう、こんな奴を引くなんて。一発殴らないとこっちの気が済まない!」

「夏美、お願いだからもうやめて!」

 

 

 

 

「嘉義君と本気でやり合おうと思っているのなら、素直に引いた方がいいと思うわ」

「はっ?」

 

 殴られると覚悟していたが、そのギリギリで誰かが止めるかのように彼女に声を掛けていた。声がした方を向いてみると

 

「何?白露さん」

「その手を彼の胸倉から離しなさい」

 

 何と白露さんであった。だが、その表情を見るに先日のクールとおっとりさを兼ね合わせたようなものではなかった。クールではあるが、何か怒りのようなものを感じる。

 

「アタシとこいつの問題なんだから部外者は黙っていてほしいんだけど?」

「あら、私から見たら一方的に嘉義君に暴力をふるおうとしているように見えるけど?」

 

 先程までは僕と彼女のにらみ合いだったのに、気が付いたら白露さんが僕の代わりになってしまっているように見える。何故だろうか?僕の時よりも、空気が凍りついたような感じがしてならない……

 

「最初から見ていたわけではないから、事情はよく分からないけれど何故あなたは嘉義君を殴ろうとしていたのかしら?マシな理由でなければ許さないわよ」

「面倒くさ……アタシの友達とのことで言い合いになっただけ、それでムキになったで理由になる?」

「……」

「何も言わないってことは、理由として認めてくれたってことで良い?確かにガキっぽいけど……」

 

 先程の威勢が弱くなっていくかのように彼女は答えるのだが、白露さんは黙ったままだった。一体何を考えているのだろうか?

 

「朝から一体何が起きているんだ?」

「「「!?」」」

 

 冷たい空気から生まれた緊張感をさらに高めるかのような低めの女性の声が教室に響き渡る。その声の主はおそらく……

 

「これからHRだというのに、君達は何故にらみ合っている?授業初日から喧嘩でもしたのか?」

「い、いえ……喧嘩ではなく、ちょっとした言い争いで」

「そうか、しかし君達以外のそこの2人もこれに関係していたのではないか?」

「あ、はい……元は僕が挑発してしまったことが原因だったので……」

「そこの赤い髪の君はどうなんだ?」

「う、ウチは嘉義君と夏美を止めようとして」

「まぁ良い、詳しくは後で聞くとしよう。今すぐでもいいのだが、先日休んでしまったからまだ顔と名前を覚えきれていないものでな」

 

「入学式以来だなみんな、改めて自己紹介だ。私はこのE組の担任である杉原玲だ。この1年間よろしく」

 

 

 銀色のロングヘアで身長も高めのこの女性。この人がこのクラスの担任である杉原玲だ。その顔を見ると、美しさとキリッとした男らしい目つきえを持った女性で並みの男子よりも強そうな風格を持っていそうだ。

 

 

 

「……で?嘉義と赤沢が会話しているのを見て、浅木がそれに割って入った。それに疑問を持った嘉義が反論して口論に発展。白露と赤沢はそれを止めようとしたっと。これで合っているか?」

 

 その後、HRで杉原先生に自己紹介、午前の授業を行った後昼休みに4人で呼ばれることになった。説教とまではいかなくても、この程度のことで言い争ったのかと少し呆れ気味の様子であるようだ。正直、高校生で喧嘩で呼び出されるのも少し情けなく感じてしまう。

 

「とにかく、こんなことで私は君達を呼び出したくないんだ。嘉義も浅木も反省することだ。仲良くやっていけとは言わないが、ずっとギスギスしていてはお互いストレスになるぞ。まったく、高校生にもなって……」

 

「「すいませんでした」」

 

 

 

「嘉義くんも浅木さんも本当にごめんね!」

「いや、こちらもすまなかった。赤沢さんと白露さんも呼ばせてしまって」

「ほら、夏美も2人に謝らないと!」

「……」

「夏美!!」

 

「ごめん、白露さん。何か巻き込ませちゃって」

「嘉義くんにも!」

「……すいませんでした」

 何か不服そうではあるが、浅木さんは僕にも頭を下げ謝った。その後、赤沢さんをおいて歩いて行ってしまった。一人残された赤沢さんは再び僕達に

 

「夏美が本当にごめんね。でもね、あんな感じだけど結構友達を思うところはあるんだ。前に色々あってあんな感じになっただけなの、だからあまり責めないであげて」

「赤沢さん。いくらそんな事情があって暴力をふるおうとしていたことは帳消しにはできないわよ。そこはわかってる?」

「もういい、今回の一件はここまでにしよう。こっちにだって非はあったのだから」

「ごめんなさい嘉義くん……」

 

 その後、赤沢さんは浅木さんを探しに歩きだしていった。僕達も教室へ戻るために歩きだす。その時白露さんが僕を呼び留める。

 

「嘉義君はあんなことされたのに怒らないの?」

「怒るも何も、その原因をこっちだって作ってしまったのだから彼女が一方的に悪いなんて言えない」

「でも、浅木さんも幼稚ね。気に食わず、軽く何かを言われただけであんなことをしようとしていたのだから」

「それ以上はいいよ、さっき言っていた色々あったって。それが何なのか知らないで浅木さんが怒った理由を決めるのは良くない」

「そうだけれど……」

「ところで一つ聞きたいんだ」

「何かしら?」

「何故あの時、君は割って入って来たの?」

 

 そもそもの話、彼女は何故あんないざこざに入って来たのだろうか?別に割って入る理由もなかったはずなのに。僕自身が援軍を求めていたわけでもない。

 

「あの時の恩返しだからっていえば納得してもらえる?」

「恩返し?」

「うん、痴漢から私を助けてくれたでしょ?あの時とても怖かったの。助けを呼びたくても呼べなくて、お尻の触り方も段々ひどくなって何も出来なかった。けれど、嘉義君はそれに気が付いて助けてくれた。同じ高校生だけど、その勇気が嬉しかった。だから、困っているのを助けたくれたのに見て見ぬ振りをするのが出来なかったの」

 

「そうだったのか……もしかして白露さんからしたら困っているように見えたの?」

「うん、だから私も嘉義君がしてくれたように助けになれたらと思ったの」

「ありがとう白露さん」

「お礼は大丈夫よ。私は嘉義君に短い間にいろんなことをしてもらったから、またいつかお礼はさせて」

「気にしなくて大丈夫だよ。見返りを求めてやっている訳じゃないから」

 

 僕は自分が持つ力を自分のためだけではなく、困っている人のためにもなれるように使って生きてきた。それが普通のことだと思っていた人生だったために、こういうことを言われるとどんな反応をすればよいかわからなくなってしまうことが多い。しかし、ありがとうと言われただけでも、あの時の判断は間違っていなかったと安心できる。あの善行がこうやって今につながったことに、僕は嬉しく思えた。

 




ちょっとした修羅場みたいなものを描いたつもりだったのですが、こんなものでしょうか?浅木の気に食わなかったからといって排除しようとする動きは自分でもやりすぎな気がします。また次回もよろしくお願いします。
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