あの後、大きなトラブルもなく授業を受け、帰宅を繰り返してもう金曜日になっていた。何もなければどこか寄り道する、自習でもするということが出来るが、僕の場合そうはいかない。何故なら今日は図書委員として放課後に活動することになっているからである。
「(いざその時になると、面倒くささも感じてしまうな)」
こういうことを思ってしまうことがある。楽で大したことはないだろうと思ってその選択肢を選んだら、結局そんなことはなかったということがよくある。実際に活動してみてどうかを決めればよいだろう。そんなことを考えていたら図書館に着いた。
「遅いわよ、嘉義君」
「遅いというか、君が早すぎるだけだよ」
何と、もう居たのである。よくよく考えてみれば帰りのHRが終わった後、白露さんを見かけなかったのでもう図書館へ向かったのかと思っていたが、本当に居たのだ。しかもまだ活動が始まるまで時間があるのである。
「4時からでしょ?まだ早いんじゃないか?」
「別に私の勝手でしょ?自己紹介の時も言ったけど私本読むのが好きだし、ここは落ち着く場所だから好きなの」
「そうですかい」
「嘉義君も同じじゃないの?」
「僕は特にやることがなかったからそれで」
「なら一緒みたいな感じね」
「そう思っているならそう思ってください」
まぁ、お互いやることがなかったのでここに来ただけのようだ。
「それじゃ、今日よろしく」
「えぇ」
「……暇だ」
新学期が始まったばかりなのか、そもそも図書館に生徒が来ないのかは分からないが、あんまり生徒が来ない。生徒が来ないために場所がわからなくなった本を元に戻す作業も指の数で数えられるくらいしか行っていない。
「嘉義君、足を組まないの」
「すいません」
「そんな態度で委員会活動なんてしないでしょ」
「……その通りです」
司書さんと白露さんに同時で叱られてしまった。足を組むのはさすがに良くなかった。しかし、こんな暇な中じっと貸出の手続きが来るのを待つのもつらいし、本を元の場所に戻したくてもそれが来ないのですることが本当にないのである。他の委員会活動に比べれば身体的には楽だが、精神的には少しつらく感じてしまう。今日に限った話ではあるが。だが、白露さんはそれでもピシっと背筋を伸ばし、座って待機している。これには自分も天晴と言いたくなってしまった。
「白露さんは偉いね、こんな時でもちゃんとしていて」
「当たり前じゃない。仮にも委員会としての活動なのよ?」
「は、はい……」
「杉原先生が見ていないからっていい加減すぎる仕事はしないで頂戴」
反論の余地もない正論、本当にその通りだ。成績に関わることではないにせよ、委員会活動は学校運営に関わるものでもあるので、こんな態度で活動されては迷惑極まりないのである。
この後も静かな状態が続く。特に図書委員らしい仕事をしないで今日の当番が終わってしまいそうだ。だがここで司書さんが僕達に一仕事を与える。
「本当は別の日の人にお願いしようと思ったけど、今日出来そうだから2人にお願いしようかしら」
「何でしょう?」
「奥の方に過去問とか置いてあったでしょ?それを今年度版に入れ替えてほしいの」
「過去問って進路指導室にありませんでした?図書館にも置いてあるんですか?」
「そうなんだけど、図書館にも置いて勉強できるようにさせたいんだって」
「へ―、わかりました。2人でやります」
「よろしく頼むわ」
残り30分のところで過去問の整理という仕事を任された僕たちはその場所に向かって作業を始めた。
「やっぱセンターや個別全部含めると重いものだな。箱を抱えるのでも思ったより大変だったよ」
「ありがとう、ほぼ持ってくれて」
「気にしなくていいさ、大丈夫だろうと思って持ったら重かっただけだから。早く終わらせちゃおう」
「そうしましょう」
「嘉義君、次この大学の文系学部の過去問をとって」
「はいよ、順番に文学、外国語、社会、経済、商学、って続いているよ」
「ありがとう」
白露さんが適格に指示をしてくれるおかげで、思ったより早く作業が進んでいる。このままいけばあと数分で終わりそうだ。
「(あ、電工技術大学だ)」
たまたま目に入った大学の過去問は、元々父が通っていた理工系の国立大学だ。僕もそこへの進学を考えているので、作業中だというのにそのことを忘れうっかり過去問を開いてしまった。
「嘉義君、続けて理系学部の過去問を上げて頂戴」
「……」
「嘉義君、過去問が見当たらないの?」
「……」
「嘉義君?まだ?」
「……」
「嘉義!!」
「はい!!」
しまった。まだ作業中だというのに夢中になって過去問を読んでしまった……我に返ったとき、急いで作業に戻ろうと白露さんに声を掛けようとしたら
「……」
「すぐに理系のやつ出します!!」
完全に怒っていた。ニッコリと笑っているのではなく、獲物を狩るかのように目を細めて僕を睨み付けていたのだ。普段は淑やかでクールだけど、どこか和やかな雰囲気を醸しだしている彼女だが、この時はもう完全に鬼嫁みたいな怖さを感じてしまった……
「早く終わらせたいの、こんなことで時間を無駄にしないで頂戴!!早く本を出して!!」
「イエス、マム!!」
こんな大声を聞くと流石に驚く。これはただではすみそうにない。
「やっと終わったわね」
「は……はい……」
あの後、ご立腹な白露さんが参考書を渡す役になり、僕が並べる役として作業を再開した。入れるだけなら良いのだが、怒っている白露さんの怒涛のスピードに押されかなり疲れるものになった。ただ本を並べるだけのはずなのだが……
「嘉義、あなたがさぼるからいけないのよ、自業自得」
「そこまで言わなくてもいいじゃないか……白露さん、こんな厳しさも持っていたの?」
「私はただ委員会としての職務を真っ当しただけに過ぎないわ。嘉義、あなたはそんなことも真っ当できないのかしら?」
先程からお怒りのようだ。しかも君付けをやめてしまっているし、正直言うと本当に怖い。昨日の浅木さん何か比べものにならないくらい。
「申し訳ありませんでした」
「全く……次からは気を付けて頂戴」
少しは怒りが収まったようで安心した。しかし、穏やかな人を怒らせると怖いというのはこういうことなのだろうと改めて知ることが出来た。そんなことを考えていたら白露さんが問いかけてきた。
「嘉義君は理系の大学を目指しているの?」
「あぁ、国立理系だし就職や研究もしっかりしているからね」
「もしかして難関コース目指しているの?」
「そうだよ、白露さんは?」
「私も同じ、難関コースへ進級するつもりよ。将来慶林大学を目指しているから」
「じゃあもうライバルになるのか」
「つらいけど、お互い目指したい道のためだから仕方ないわ」
「大変だけど、一緒に頑張ろう」
「えぇ、私も負けないわ。一緒に頑張りましょう」
白露さんも同じコースを目指していたとは……僕も将来のためにここは譲れない。それは白露さんも同じだ、彼女も目指したい道があるのだ。ただけり落とすのではなく、お互いを刺激して向上させていきたい。
「あら?」
「どうした?」
「あそこ、本が棚の上に残されたままになってる」
「本当だ、回収しよう」
「大丈夫、私がとるわ」
「届くか?」
「えぇ」
「大丈夫そうか?」
「えぇ、もう取れたからあとは降りるだけだから」
本は無事に回収できた。台を使ったのでそれでとりもうあとは降りるだけ、難しいことをしなかったために油断したのだろうか、彼女は足を踏み外してしまったのだ。
「あっ!」
「危ない!」
もしこのままバランスを崩した状態で落ちたら尻もちを搗くか、狭いこの場所で棚に頭を打つ可能性があった。僕も無意識に動き出した。
「うぐっ!」
「嘉義君!?」
白露さんは、ギリギリ抱きしめ僕が身代わりになったこともありなんとか事故は避けることが出来た。しかし僕は軽くではあるものの、倒れた衝撃で棚に頭と腰をぶつけてしまった。幸い、あたりが強くなかったので怪我するほどではなかったが、一瞬の眩みと多少の痛みが頭と腰に来てしまった。
「大丈夫!?怪我はない?」
「あぁ、何とか。白露さんは大丈夫か?」
「私も大丈夫、立ち上がれる?」
「いける」
ちなみに、現在の体勢は棚にもたれかかっている僕の上に白露さんがのっかっている状態だ。そのため、白露さんを立たせるために上にあるものを押し上げる感覚で手を挙げてしまい……
「ひ、ひゃん!!」
「あっ……」
やってしまったのだ。その際に僕は白露さんの柔らかいお尻を思いっきり触ってしまったのである。しかもしっかりと鷲掴みするような感じで触ったのだ。一歩間違えればお縄だ。
「すまない、これはわざとじゃない!事故なんだ!触りたくて触ったとかではない!」
「……」
「白露……」
「気にしないで、あなたがそんなことをするような人じゃないって信じてるから……」
顔を赤めているが、怒っている様子ではなさそうだ。いくら事故であるにしても、これは女子からしたらいきなり触って来た変態と思われてもおかしくはなかったが、今回は許されたようだ。
「すまなかった、白露さん」
「もう大丈夫よ、それにありがとうまた助けてくれて」
あの後、委員会活動も終わり2人下校中、先程の件でお互いに謝ったり感謝したりしながら歩いていた。今日は先日の件よりも大変だったかもしれない。退屈だったのに急に忙しくなり、白露さんを怒らせた挙句、お尻まで触るなんて、彼女が害を被りすぎているような気がする。
「今日は大変だったね」
「そうね。誰かさんが仕事を投げ出して、しかもセクハラ行為までしてきたから」
「あれは事故だ、意図的に触ったんじゃない」
「ふふっ、でも面白かったわ。嘉義君があんなに振り回されるのを見て」
「おもちゃ扱いしないでくれ」
「ごめんなさい。やっぱり面白いから。でも、最近嘉義君に助けられてばかりだわ。今までになかったもの、危険を顧みないで助けようとする人は」
「ま、僕がそれを望んだだけだよ。そんなに気にしないで」
「ふふっ、本当にありがとう、嘉義君!」
最後の一言を満面の笑顔で放った彼女。それが本当に写真で納めたくなるくらい綺麗なものだったために、守りたいと心の中でつぶやいた。
実際に図書委員として活動したことがあるのですが、本を返す作業や元通りにする作業、面倒くさいです。ここまで一緒に何かをやることは少なかったです。しかし、l図書館に人がいなければ結構楽な部類に入ると思います。今回は少しハプニングを付け加えてみました。これは蒼輔自身も普段は暴行、セクハラには走らないよう気を付けてても、時として考えていなかったところでそういうことを起こしてしまう弱点を描いてみました。