色々あった先週が終わってまた新しい一週間が始まった。結局あの後に痛みや以上は見受けられなかったので、病院に行かずに普通に休日を過ごし今日を迎えた。今も痛みが出るとかはないので、このままで大丈夫そうだ。今週からは本格的に授業も始まるだろうから、気を引き締めていかなくてはならない。白露さんも同じコースを目指す以上、友人であるけどライバルという関係にもなる。
「おはよう嘉義くん!」
「おはよ……」
そんなことを考えていたら前からこっちに向かってくる2人の女子高生の姿があった。よく見ると、赤沢さんと浅木さんだった。赤沢さんはとても元気で笑顔なのに対し、浅木さんはあんまり機嫌が良くなさそうだ。
「ちょうどおんなじ時間だったね、いつもこの時間なの?」
「まぁ、そんな感じかな」
「こっちは地下鉄だから混んでて大変だよー」
元気な一面はわかるのだが、混雑している電車に揺られてここまで来たこともあって少し疲れた様子が見える。
「浅木さん、赤沢さんはいつもこんななの?」
「は?まぁ、明るい感じではあるよ。ていうか何でアタシに振ってくるの?」
「良いじゃない、一緒にこうやっているわけだし。仲間外れにするのもよくないかなーって思ったからさ」
「別に求めてないし……」
「いいじゃん夏美、嘉義くんだって放っておけなかったって言ってるんだから、お話して学校行こうよ」
「……分かったから」
「何か最近提供がとてもはやいクレープ屋があるって聞いたから行ってみた本当にそうだったよ」
「嘉義くんも行ったの?そうだよね!早いけど丁寧で美味しいからまた行きたいなーって思ってたんだ!」
「ほかにもパティシエが作るクレープもあるらしいからね」
「そうなの!?行ってみたーい!」
赤沢さんとはスイーツ系の話で盛り上がっている。自称するのも何だけど、甘いものを自宅で作ることがあるのでそういったものにも興味を持ちやすい性格だと考えている。まぁ流行などは赤沢さんや浅木さんの方が詳しそうなので話題が尽きにくいので、話のネタに困ることはなさそうだ。
「意外……」
「何だって?」
「意外だって言ってるの!そんなスイーツに興味あるような顔してないから」
「そんな大声で言わなくてもいいじゃない」
「別にいいでしょ!」
「まだあの事で怒っているのか?」
「それはアンタの想像にお任せするわ」
あの一件以来、この状態が続いている。赤沢さんが中和剤みたいな役割を果たしてくれるので揉めることはないのだが、この微妙にギスギスした感じは長く続くとつらくなってくる。どうにか和らげてはいきたいが。
僕は当たり前のように学校へ向かい授業を受けるだけの午前中を過ごし、昼休みは弁当を食べた後図書館で自動車雑誌を読みながらゆっくりしていた。
「(R34も悪くなさそうだな、もし資金がたまれば購入したいな)」
自己紹介でも言ったことなのだが、父が車の沼にはまってしまったことにより僕もその影響を受けてしまった。僕の場合、エキゾチックなものを好むので一般車の車種については詳しくは知らないことがある。しかし、父はそういった業界に一時期いたのでそういう点は詳しい。一般からスーパーカーの分類まで知っているのが父だ。
「34Rか~、憧れるよね~。俺もいつか乗ってみたい車なんだけどさ」
「んっ?」
唐突に声を掛けられたので後ろを向いてみると、少しにやついて立っている奴がいた。写真を見て車種が分かったので自動車に興味がある人物であると考えて良いだろう。
「何だ、いきなり?」
「いやー、すまんすまん。自動車雑誌を読んでいる同じクラスメイトがおったから気になって声掛けただけだ。気にしないでくれ」
「E組の生徒?」
「そうそう、嘉義、俺は
「お、おう」
同じクラスに車好きがいるのは嬉しいものだ、結構面倒な趣味になるので気が合いそうな人間が一人二人いると話し相手が出来るので気が楽になる。でも、彼自己紹介の時にそんな話をした覚えはなかったはずなのだが……
「最初の時、そんな話した?」
「いや、してない。俺が恥ずかしい思ってるわけじゃないが、他人から見れば面倒なことしてるイメージ持たれそうだから言わんかっただけ」
いや、言いたくない気持ちは分かったけれど、理由はほぼ同じな気がする。だってお金かかるし、色々大変だから車が趣味って地味にハードルが高いから同居人がいたら始めるには相当な勇気がいる。
「ひっそりと隠した俺と違って嘉義は羨ましいや」
「何で?」
「あんなこと素直に言うか?いやらしいゲームとか好きは流石に引かれるだろうが、車好きはオタク感あって抵抗持たれそうだから、言いにくいところはあるのよ。ただ、お前さんは普通に言ったからそんなこと気にしていないのかーと思ったからさ」
「恥ずかしくないでしょ。本当に好きならば周りの目をそこまで気にしないし、それを愛する気持ちは本物であるから隠す理由なんてないはずだ。こういった趣味はみんなが好むものじゃないし、流行で決めるものではないからそれに合わせて好きになるやつなんて、本気で楽しむ心はないと思ってる」
「そこまで言わなくてもいいじゃないか……ま、同じクラスで車好きがいるのは良かったわ、よろしく頼むわ」
「よろしくねー」
「早速何だが、嘉義は34rが気になるんか?」
「めちゃめちゃ気になってるわけじゃないけど、Mスペックなら」
「ラグジュアリー志向の34ね、俺はVスぺの最終型かな」
「サーキット寄りの34か、悪くないね」
「嘉義は家で何か乗っている車種があるのか?」
「家がNSXを2台所有してるよ。確か、02Rと後期Sだったな。あと997gt3も持ってる」
「全部希少やないか!何でそんな持ってるんだ!?」
「親父が大手の役員になったってのもあるかな」
「大手は儲かるんだな、こっちはシビックやインテのRを手に入れるので手一杯なのにな」
「そうなのか?親父稼ぐけど車と家族以外にお金かけないな」
「本当羨ましいわー、今度見せてくれん?」
「良いよ、その代わりネットに流さないでね」
「わかった。それは絶対守る」
やっぱり感覚が少しずれていると感じた。確かに3台のうちのどれかなら現実的だが、すべて所有していると言われると流石に驚かれても無理はない。元々車と飯以外の趣味があまりなかったということもありできたことでもある。そんなことを考えていると昼休みの終わりを知らせるチャイムが鳴り、図書館から人がいなくなり始めた。
「俺らも戻ろうか」
「そうしよう」
昼休みを終え午後の授業を乗り切った僕は、放課後に何か用があるわけではないので帰ろうかと思ったが、不意に図書館に行きたくなったのでそこへ足を運んだ。そこで適当に何冊か本を読んで帰ることにしよう、昼休みに読み終われなかった雑誌でもよいし、過去問を覗いてみるのも良いだろう。
「(あれは……白露さんか?)」
どうやら知っている顔の者がいたようで、白露さんが小説なのか何の本かは分からないが、読書しているようだ。隣は空いているのでそこに座ることにしよう。
「あら、嘉義君も本を読みに来たの?」
「まぁ、そうだね。放課後暇だし何か時間つぶしでも出来たらと思って」
「そうなのね。私も今日は何もないからゆっくりしていくの」
「お互いそういう時間なんだね」
やはり放課後だからなのか図書館に人の姿は見受けられず、数えられるほどの人数しかいない。それはそれで落ち着くのだが昼休みの賑わいを見た身からすると、少し寂しさを感じてしまう自分がいた。
「嘉義君は自動車が好きなの?」
「えっ?まぁそうだね。親父がマニアってのもあってそれに感化されたのかな」
「さっきから雑誌と、昔の車両の解説本を読んでいるから。何が描かれているの?」
「昔の国産スポーツカーについてだよ。雑誌はGTRっていうモデルなんだ」
「そんなに前のものなの?」
「一時期あったスーパーカーブーム程じゃないけど、それでも1990年代のものかな」
ふんふんと白露さんは聞いてくれるけど、やはりわかっている感じではなさそうだ。昼休みの時の長田と違って、自動車についてわかっているわけではないので会話を続けるのが少し難しく感じる。マニア寄りの話をしなければ大丈夫だと思われるが。
「お父さんも好きって言っていたけど、今は何か乗っているの?」
「あぁ、国産のスポーツカー2台とドイツのスポーツカーに乗ってるよ。国産の方はかれこれ10年以上乗り続けているよ」
「そんなに乗っているの?」
「全然乗れるよ。部品とお金が調達できればいけるよ」
「聞くだけだとハードルが高そう……」
「そこは大変だけど、愛着がわいていって長く乗りたくなる気持ちが強くなっていくよ。一緒に沼にはまる?」
「遠慮しておくわ」
あの後、僕と白露さんはお互いの本の好みを話しつづけた。白露さんはミステリー、料理系で僕は工学や社会、料理と。まさかの料理で一致するとは嬉しかったので今度は料理のジャンルで話し合っていた。あれから多分1時間以上も一緒に話していたと思う。お互いの好きな料理や得意料理を知ることが出来た。
「ねぇ」
「どうしたの?」
「あなたと出会ってから、異性の人と一緒にいる時間が増えたような気がするの」
「他の人とはそうではなかったの?」
「勿論、他にも過ごした人はいたわ。けれど、少なかった」
「そうですか。嬉しいよその中に入れて」
「でももし、あの時に出会ってなかったらどうなっていたのかしら?」
「結果論だけど、図書委員で一緒になったらこうやって話したりする時間が出来たんじゃないかな?」
「そうかしら?もしかしたらあり得るかも」
「うん、こうやって話せてよかったよ」
「私も楽しかったわ」
新しい友人も蒼輔と同様に自動車が好きな青年でした。今後も所々こういったマニアックな場面もあります。因みに、今回出てきた車種のメーカーはホンダ、日産、フェラーリです。興味を持たれたらぜひ車両の画像を見てみてください。物語のイメージがわきやすくなると思いますので、今回もありがとうございました。最後に今日登場した新しい友人である長田勝造を紹介します。
蒼輔と同じクラスメートで同じく自動車が好きな男子高校生。自分自身も将来は蒼輔のようにスポーツカーを所有したいという思いがある。勉強は普通で平均的。ルックスは黒の短髪で身長は標準並みだが、運動はまぁまぁ出来中学の始め頃までは野球をしていた。今は部活もスポーツもやっていないが時々ランニングや軽い筋トレはしているらしい。