作者はクラシックピアノの知識はありますがバンドのキーボードに関してはニワカです。もし今後、間違った事などがありましたら教えて頂けると助かります。
1話 独奏者(ソリスト)とバンドは噛み合わない!
「え? じゃあボーカルとギターの子がいなくなったの? ライブ明日じゃなかった? 虹夏ちゃん大丈夫なの? 店長」
「だからサポート頼んでんだろ? 明海、ボーカルもギターもできるだろ? あいつらにとって最後の思い出づくりのようなライブなんだ。せめて悔いが残らないようなステージにして欲しい」
ライブハウス、STARRYにて。店長の伊地知星歌と、ここのライブハウスでよくライブをするバンド『Sea Throw』、通称「シール」のベースボーカルを務めている
「店長シスコンだからね〜」
「それ以上言ったら出禁な」
冗談だとしても笑えないので明海は追求をやめた。が、あくまで「言う」事しか言及されていない。
「その目もやめろ!」
向けていた生暖かい目に関しても注意を受けた。
「って言っても私明日はちょっと用事があるからねー......あっ! それならヒモ呼ぼうか?」
「ヒモ......ああ、お前の弟か。というかお前、自分の弟をあだ名で呼ぶなよ。しかも苗字から派生した最早悪口だぞあれ。お前の家庭がちょっと複雑で姉弟で苗字が違うからってあれはないだろ......」
「えぇ?! でもカッコいいじゃん「ヒモ」って!」
「普通に哀れだぞあいつ。......まあどうでもいいか。確かにあいつもギターボーカルできたな。連絡頼んでもいいか?」
こうして本人も、そして欠員が出たバンド「結束バンド」のメンバーの誰の了承もないまま臨時メンバーが決定した。
──────
「(僕の名前は
おかしくない。大概において姉の明海の感性は一般的にズレており、晶羅は常識的である。しかしズレている環境の中にいれば常識人は変人となるのであって......つまり晶羅は無自覚の被害者なのである。
晶羅は京王井の頭線の電車に乗っていた。学校が終わった頃にいきなり姉から「知り合いの妹の子が出るバイトのサポート行ってあげて!」と言われたからである。
紐川晶羅。旧姓、吉川晶羅は(売れない)バンドマンの両親の元に生まれた。その環境からか音楽に小さい頃から熱中してきた。父、母、姉が全員ロックにご執心の中、晶羅はクラシック音楽にハマり、幼少期をクラシックピアノと共に過ごしてきた。が、本人は音楽で将来食べていくつもりはなく、高校受験に専念するためにピアノ教室を辞め、引退した。
しかし引退したはいいものの、物心がついてからピアノと関わらない生活に晶羅は数ヶ月も経たずに耐えられなくなった。将来ピアニストになるつもりはない。全く関係ない職種を晶羅は希望している。
「(だけどピアノは弾いてもいいはずだ!)」
そう結論つけた晶羅は教室に通わず独学で続け、そして趣味と実益のために動画投稿サイトでピアノチャンネル『Aki』として活動している。プロ並みと呼ばれるほどに確かな演奏技術とカメラが手先しか映っていない事から(晶羅の手は細く長い)天才美少女ピアニストとして有名である。チャンネル登録者は100万人超え。
尚、動画編集は全て姉がやっており、エゴサーチなどもした事がないため自身が「天才美少女ピアニスト」と呼ばれている事を晶羅は知らない。
が、そんな事は関係ない。今日はギターボーカルとしてのサポートで来ているのだから。
「こんにちは。久しぶりです」
久しぶりのSTARRY。以前、似たような状況で姉のバンドにサポートで入った時ぶりの訪問だ。道を覚えていると自信満々の晶羅であったが下北沢駅を出てから二分で無言のままナビゲーションアプリを起動した。
「久しぶりだね晶羅君......って! なんで泣いているんだ!」
「身内以外に名前で呼ばれたのは久しぶりなので......すびばせん...」
晶羅は先にも述べたが名前で呼ばれる事はほとんどない。おそらくその内、地の文からも「晶羅」という表記は消えるかもしれない。彼の学校での挨拶をダイジェストでお送りすると......
「よおヒモ! 早かったな!」
「あ、ヒモ君おはよう!」
「早く席につけヒモ。それからこれ......皆に
「おはようございますヒモ先輩!」
別に虐められている訳ではない。所謂愛のあるイジりというものでクラスメイトや先生、後輩達はヒモに対して悪意を持ってはいない。
この名前で呼ばれ始めて10年以上は経つ。姉はかっこいい名前と言ってくれ、
「(僕の事を名前で呼んでくれる人は店長のような希少種か、会ったばかりの人間だけだから)」
「もっと出会いが欲しいな......」
「なんか危ない事言い出したぞコイツ」
ついヒモの口から飛び出た言葉に星歌は軽く引いた。それに気づいたヒモは口紐をきつく結んだ。
「あ、すみません。で、僕がサポートに入るバンドはどこですか? 一応ギターは持ってきましたけど」
「ああ......。申し訳ないんだが虹夏が新しいギターのメンバーを連れてきたようでな...。ま、まあ! せっかく来てくれたんだから顔出してくれよ!」
ヒモは戦力外通告を受けた。
「え? じゃあお姉ちゃん、私達のためにギタリスト探してくれてたの?」
ヒモは自己紹介をし、店長から姉を経由してここにやってきた事を説明した。
「あ、あぁ......」
金髪のドラムスティックを持った少女の生暖かい視線を向けられて星歌は咄嗟に目を逸らす。
「あ、まだ自己紹介が遅れてたね! 私は伊地知虹夏! ドラムやってるよ!」
「(伊地知......ああ、姉ちゃんが言っていた店長の妹かな? 全然似てな──いや、これ以上考えるのは辞めとこう。嫌な予感がする)」
あと少し考えていたらシスコンの星歌に看破されていた。この世で最も怒らせてはいけないのはシスコン、ブラコンという人種である。
「私は山田リョウ。ベース」
「(無口系キャラかな?)」
「変人って言ったら喜ぶよ〜」
「変人じゃないよ〜」
「(すっごい笑顔だ)」
そして最後のピンク色の髪の女子に目を向ける。
「......」
「......?」
「......?」
「......!」
「(え、これ私自己紹介しないといけないんだよね? えっと......何て言おう...。自己紹介の印象ってすっごく大事って聞くしここでミスしたら嫌われちゃうかな? バンドメンバークビ? ......ってそもそも私のせいで紐川さんが......というより紐川さんが来たからもう私いらない子? 登録者数三万人なのに? ギターヒーローなのに??)」
「聞いて下さい。『籠から飛び出た小鳥の末路』」
「いや何でギター弾き始めた? ひとりちゃん。自己紹介だよ! それじゃあ
「......ごっ...後藤...ひ、ひとりです......」
その場にいたメンバーはひとりが、リョウのような変人ではなくただのコミュ障である事を悟った。
「という訳でギターのひとりちゃんね! さっき公園で知り合ったばかりなんだけど」
虹夏の補足によってひとりがギタリストである事をヒモは確認した。
「じゃあ僕帰っていいのかな?」
「(......バンド、したくないし)」
ヒモは帰る準備をするためバッグのヒモを結び始めていた。
「あ、せっかく来てくれたんだし私達の演奏聞いてくれない? お姉ちゃんからかなり音楽に精通してるって聞いたし」
「まあ、それくらいなら」
せっかく来たのに何もしないで帰るのも目覚めが悪い。特にこの後予定もなかったためヒモは承諾した。
「...ん? 演奏しないの?」
「...ん? 本番はまだだよ?」
「......」
彼女達はヒモからチケット代を巻き上げる魂胆だった。
──────
「じゃあ取り敢えず合わせてみよっか!」
元々後藤ひとりは結束バンドのメンバーではなかった。彼女と虹夏、リョウは数分前まで初対面だったのだ。彼女達は今日新しく加わったひとりのレベルを知らなかった。
「(そもそも知らない相手をバンドに加えるのもアレだけど......)」
その確認も兼ねた練習なのである。
「(私は大丈夫! 私はギターヒーロー! 登録者数三万人! うへへ、みんなからチヤホヤされたらどうしよう、うへへへへ)」
「ひとりちゃ〜ん。危ない顔してるよ〜」
ひとりの妄想が終わったのか、全員が準備を終えて演奏に入る。
「「......下手」」
「......」
「(えっ? どうして? 私、ギターヒーローなのに! 登録者数三万人なのに!)」
ひとりは動画投稿サイトなど、個人での演奏に関しては高い技術を持つが仲間と併せて演奏した事はない。
自分で自分を慰める経験はいくらでもあるが、実際に異性とそういう経験がないよう──
「(そこまでにしとけ)」
ひとりは高い技術を持ってはいたが周囲の音と合せる技術は持っていなかった。故に、バンドメンバーの虹夏とリョウからは下手くそ認定されてしまったのである。
「(僕と同じ......?)」
が、演奏を外から、客観的に見ていたヒモは二人とは別の結論に達した。彼は童貞なのである。
「(それは......否定しないけど今は関係ない)」
ヒモとひとりは生粋の
「ちょっと後藤さんいい?」
「......」
「(やっぱり下手だったんだ! そっか......紐川さんは私に......こんなミジンコにギター取られて......私に恨みを抱いているよ......。はっ? 違う違う! 私がこんなにミジンコだからギターは紐川さんになって......つまり私クビ? お役御免? お払い箱? 捨てられちゃう?! いや、それならまだいい方かも......。『こんなミジンコが調子に乗って人の役割を奪おうとしてたで賞』で死刑になって文字通りクビにされちゃうんだ......)」
「......せめて散る時は潔く」
「ちょっと待って何言ってるの?」
ひとりが変な事を言い始め、ヒモは困ったが......
「(そういえばさっきからこういう人だったな)」
と思い至り、話を続けた。
「一回、一人で弾いて欲しいんだ」
「......」
「(そうか。これは懲罰なんだ......。ミジンコの私を公衆の面前に晒して散々笑った後に首を刎ねるつもりだ......。散り際の美学。せめて最期だけでも華々しく!)」
「(あ、ひとりちゃんが起き上がった)」
「(やってやる! やってやる! これが最期だ死なば本望!)」
ひとりは演奏を始めた。
「(あれ?)」
「(......さっきと全然違う)」
「(......やっぱりそうか)」
ひとりのソロ演奏は、登録者数三万人のギターヒーローの名に恥じぬものであった。
──────
「後藤さんは
「さっきはリズムが合ってなかった。多分ひとりは周りの音が聞けてないんだと思う」
ヒモの意見にリョウが同意した。ヒモとひとりに隠れてこの女も完全に独奏者タイプなのである。
「別に独奏者タイプが悪い訳じゃない。間違いなくバンドの個性になる事だから」
「(うへへ)」
「(私の独壇場)」
独奏者タイプが悪くないと言われひとり、そしてリョウが喜んだ。
「ただ流石に合わなさすぎると個性じゃなくて
ノイズを利点だと認めるのなら感性が個性的すぎるから。自分達と特殊性癖者を集めてライブすればいいだけ。
ノイズがダメだと分かった上で、それでも変えないのならば、それは向上心がないという事だから。
ヒモはピースサイン......右手で数字の2のポーズをとる。
「選択肢は二つ。一つ目の選択肢は今から猛特訓して後藤さんが最低限バンドに合わせられるようになる事。今後、後藤さんがバンドメンバーに加わるのならこっちの方がいいと思うし正道だと思う。ただし本番は後少ししかない。どう考えても間に合わないし現実的じゃない」
ヒモは中指を折りたたむ。
「もう一つの選択肢は......言うならばバンドの矜持に反するかもしれないし、今後のバンド活動には何もならないかもしれない。あくまで今回だけの付け焼き刃。それに伊地知さんや山田さんは嫌がるかもしれない」
ヒモはここまでバンドに助言するつもりは本来なかった。
「(でもここで何も言わなくて
ひとりのソロギターがヒモの気持ちを変えた。
「(あのギターは僕よりも......いや、プロレベルにすら届きうる。独学でここまで上達するギタリストが日の目を見ずに摘まれていくのは惜しすぎる)」
ヒモはひとりのギターのファンになっていた。
「もう一つの選択肢は......後藤さんのギターソロに伊地知さんと山田さんが合わせる事。ギターを主役にライブをする事」
「ぼっちちゃん」呼びに慣れすぎて虹夏の「ひとりちゃん」に違和感を感じていたのは僕だけではないはず......。次話でちゃんと「ぼっちちゃん」呼びになります。
他作品のようにヒロインアンケートを開催するか迷っていますが、開催する事になったら回答よろしくお願いします。
ログインしていない方でも感想を書けるようにしています。感想を書いて頂けるとすごく嬉しいのでよろしくお願いします!
twitterもやっています。フォローよろしくお願いします @hanvanpan