「それじゃあまだ皆揃ってないけど......」
「「「「「乾杯!!!!!」」」」」
「結束バンド」のメンバー4人ともう一人を併せた5人が居酒屋に集まっていた。
「後でお姉ちゃん来るけどご馳走してくれるって! だから好きなの頼もう!」
「先輩太っ腹だよね〜! いっぱい飲もう〜」
「あなたは自腹で払って下さい」
「お姉ちゃんと似た目をするようになったね」
もう一人、とは廣井きくりであった。きくりはひとりと路上ライブをした時以来、彼女に注目している。
「(この子は絶対に上がってくる! 私の予感は当たるんだ!)」
と確信しているから。
「ていうか、この方誰ですか?」
きくりの事を唯一知らなかった郁代が尋ねる。
「誰よりもベースを愛する天才ベーシスト! 廣井きくりで〜す!」
ジョッキ片手に彼女は答える。
「(え? いつビール注文したの?)」
一体いつ注文したのか、その早技に、その瞬間を観測できた者などいない。そして次の瞬間には......
「は〜美味しかった〜! おかわり!」
まだ他のメンバーは食べ物どころか飲み物も注文していないというのにきくりは二杯目に突入しようとしていた。星歌やヒモといった、ストッパーがいないきくりはまさに無敵状態だった。
「そういえばヒモ君は?」
STARRYでは結局見つける事ができなかった、そして打ち上げにも来ていない事からライブに来なかったのではないかと虹夏は心配する。
「ヒ、ヒモ先輩は会場にいましたよ! 私達の演奏が終わった後、私見つけました!」
「衝立越しに」という枕詞が必要ではあるが事情を知っている郁代がフォローする。
「晶羅君はちゃんとお前達のライブ観にきてたぞ。......ってまだ来てないのか?」
「お姉ちゃん!」
STARRYでの仕事を終わらせた星歌とPAが合流した。彼女達よりも先に店を出たヒモがなぜまだ来ていないのかは星歌達も郁代も知らない。
──────
一方その頃ヒモは......
「本当に覚えてないの!?」
「い、いやその......」
STARRYでAkiだと見破られた少女に路地裏に連れ込まれていた。
「なんでこんなところに......?」
「ライブハウスの前で言い合いしていたらめ、迷惑じゃない!」
尚、少女の本心は「遅くまでライブハウスに居ついていたし怒られたら怖いでしょ!」である。
「(だとしても......本当に思い出せない......)」
目の前の彼女は先ほど、自分と同じ中学出身だと名乗った。中学校の名前も合っていた。つまり人違いという線は消えた。
「(僕は同じクラスの人の事を忘れるほどの薄情者だったのか......)」
「存外自分は最低な人間なんだな」と自嘲する。
「そ、その名前とかは......」
「大槻ヨヨコよ。思い出した?」
「(大槻ヨヨコ......)」
その名前に一瞬何かがよぎった気がしたが......しかし思い出せない。何しろ顔と名前が全く一致しない。彼女の口ぶりでは自分と彼女は直接話した覚えがありそうなのだが......会話の記憶が全く出てこない。
「本当に思い出せないのね」
「......すみません」
散々リョウやきくりに対して「クズ」だと内心思っていたが......自分も案外変わらないらしい。
「その......できれば何年生の時に同じクラスだったとか......どんな話をしたのかとかあったら教えて......頂けませんか? 頑張って思い出すから」
ヒモが通う中学は学年が上がる毎にクラス替えを行う学校だった。そして学年毎にクラスの雰囲気も異なっていたため何年の時かを指定されれば思い出しやすいと考えた。
「クラスなんて聞いても分かる訳ないじゃない。三年間クラスが被った事なんてないんだから」
「えっ......」
「それに「どんな話をしたか」なんて私にも分からないわよ。あんたとは今日初めて話したんだから」
「............」
大槻ヨヨコ。彼女は......他人に対して自分が何か優れていないと気が済まないタイプの人間だ。良く言えば向上心の塊。悪く言えばマウント癖の塊。彼女は中学三年間の定期テストでヒモに勝つ事ができなかった。
しかし彼女が最も自分の誇りにしているのは勉学よりも音楽。
「(私はあいつよりも音楽が上手!)」
と、楽器未経験者(と思われる相手に)音楽でマウントをとって精神の平穏を保っていた。だが......今日のライブで彼の正体を知ってしまった。
Aki相手に音楽でマウントなど(少なくとも現時点では)とれる訳がない。
「あんた中学三年間の合唱コンクールで一回も伴奏した事なかったじゃない!」
「いやあの時はクラスに「ピアノ得意です! 伴奏やります!」って言ってる女子がいたから。それに
尚、この時の彼はまだ「Aki」ではないため正体などないが、彼と仲がいい人間はヒモがピアノを上手に弾けるという事を知っていた。尤も、中学では仲がいいどころか、他人も他人であったヨヨコがその事を知る由もないのだが。
ヨヨコはテストの張り出しで自分が彼を知っているのだから相手も当然と思っていたが......完全な一方通行だったようである。
「で、なんで天下の「Aki」が突然ライブなんてしようと思ったの?」
「それは......」
「言わないと正体バラすわよ」
「ッ!」
「!」
この瞬間、ヨヨコのマウント取りたい欲は満たされた。正体を話してしまえばマウントが取れなくなるので絶対に口外しないが。
「ぼっちさん......って言っても分からないか。まだ周りと合わせる能力については荒削りだけど絶対将来伸びるギターの子がいて......オーディションを受けて初めてのライブで客が全然いないとかだったらキツいなと思──」
「ちょっと待って。それって後藤ひとり?」
「え? そ、そうだけど」
「......ッ!」
先日、ヨヨコが慕っている廣井きくりが「面白いギターの子見つけたよー!」と言っていたが......それがひとりだった。ヨヨコにとってはひとりはヒモと同じで
「ちょっと待って。今、後藤ひとりの事「ぼっちさん」って呼んだよね? もしかしてあだ名? ......そういえばライブでもそんな名前で紹介されてたような......」
あだ名の定着! ご存知彼女はこんな性格なのでひとりと同様友達が少ない。彼女と違ってコミュニケーションが全くとれないという訳ではないが三人以上の集まりだとこけしのように固まるし、分かりにくすぎるツンデレのせいで友達も少ない......というかいない。「あだ名で呼ばれる事」はぼっちにとって憧れの象徴なのだ! (日本陰キャ協会調べ)
「私にあだ名をつけるのよ。そうしたら「Aki」の事、絶対に口外しないから」
「............」
そう言われてしまえば考える他ない。
「(あだ名か......。最近気づいた事は、バンドマンってクズタイプと別に変人タイプも存在するんだよね。目の前の彼女は......どちらかと言えば後者かな? ぼっちさんも「ぼっち」って名前で喜んでたし......その路線で考えるかな)」
「ガチぼっちさん」
「はっ倒すわよ」
却下だった。
本作で描くキャラの中で誰が好きですか?(活動報告のヒロインアンケートとは別物です)
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ヒモと友達に中々なれないぼっちちゃん
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みんなの虹夏ママ
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ヒモの料理が恋しい山田リョウ
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ガチ熱狂ファン喜多ちゃん
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初期構想じゃクズ設定なんてなかった明海
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ヒモの顔見た瞬間素面に戻る廣井きくり
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弁当恋しい伊地知星歌
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Akiは女性だと信じていたPA
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マウントヨヨコ