ぼっち・ざ・ソリスト!   作:マイケルみつお

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17話 バッドエンド!

「ありがと。でもヒモ君忙しそうだし──手伝わせてよ!」

 

「「「「((((おおおおお!! マジかぁ!!!!))))」」」」

 

ヒモと虹夏の会話は廊下の角から顔をひょこりと出した4人の老人によって盗み見られていた。ヒモ達が満室の客を捌くために四苦八苦している中、一体この老人達は何をしているのか? 否、正確には旅館は満室ではない。

いくら夏休みとはいえ平日真っ只中に全ての客室が埋まる程の客は流石に訪れない。この旅館の宿泊費が決して安価ではないという事も要因の一つだろう。

しかし予約サイトを見てみれば満室と書かれており、また現に旅館内も大勢の人間で溢れているではないか。

その答えは単純(シンプル)。──サクラだ。

 

老人達はヒモがバンドメンバーを連れてくるという事を聞いた瞬間、ある事を即断した。半分もないが残っていた空室を全て満室扱いにして、それを悟られぬために事情を知る両老人の友人を招待した。

ヒモの事は両老人の友人の老人達も知っていた。幼き頃よりヒモの世話をしていたのは老人達だったから。老人の情報網(ネットワーク)は凄い。家庭内で話した独り言が次の日には隣、向かい、はすむかいの老人達に知れ渡っている事などザラである。老人情報網(ネットワーク)秘密(プライバシー)など存在しない。老人怖い。

ヒモと血は繋がっていなかったが彼らもヒモを全うに育て上げるという点に於いては同志だった。

サクラの老人達に用役(サービス)は必要ない。満室に見せかけた状態を作り出した老人達は、ヒモに敢えて重い仕事を割り振ってからその様子を観察していた。

否、正確にはヒモを観察していた訳ではない。ヒモが重労働をしていたのは練習部屋の近く。ヒモに気づいたバンドメンバーがどんな反応をするかを老人達は観察していた。

 

そして現れたのは虹夏だった。何やらすれ違いがあったようで、それでも自分達の練習よりもヒモの手伝いを買って出た少女。その、言葉に偽りなく献身する彼女の姿を見て──

 

「(晶羅ぁいい友達を持ったなぁ)」

 

「(そうじゃ。あの子が連れてくるバンドメンバーの子じゃ。変な子な訳があるまいて)」

 

「(まるで天使じゃあ......)」

 

「(ママぁ!)」

 

完全に当初抱いていた疑いは晴れていた。ある者は涙を浮かべ、ある者は死んだ母を思い浮かべていた。

 

「(儂らが間違えておったな。晶羅は大丈夫じゃ。彼女達はあの子を惑わせたあいつらとは違う)」

 

「(そうじゃな。そうと決まれば行こう。もうあの子達には音楽をさせてあげようじゃないか)」

 

4人は華麗に掌を返し、それぞれの持ち場に戻っていった。

 

──────

「すっごく重いねぇ」

 

ダンボールなため、中身が何かは分からないがヒモは祖父母に言われた通りの物を運び、虹夏はそれを手伝っていた。が、回数を重ねる毎に彼女の顔には疲労が、額から流れ落ちた汗が胸元を濡らす。

運んでいるものは凄く重く、少女の細腕に耐えられるものではない。溜まる疲労は注意力を乱し、筋肉が発する悲鳴を素直に受け取ってしまう。

 

「きゃっ!」

 

一瞬の油断、虹夏は荷物を離してしまった。虹夏の支えを失った荷物は重力に従って自由落下を始める。ダンボールに何も書かれていなかったため何が入っているのかは分からないが......

 

「(もし割れ物だったらどうしよう......)」

 

虹夏は顔を青くしながらも手を伸ばす。しかし悲しいかな、伸ばした手は生憎間に合いそうにない。

 

「(ごめんなさい......!)」

 

虹夏は目を閉じた。しかし割れ物が割れる鋭利な音も、ズドンという鈍い音も聞こえてこない。恐る恐る虹夏が目を開くと──

 

「ふぅ、危なかったのぅ」

 

老婆が間一髪で虹夏の落とした荷物を支えていた。

 

「ご、ごめんなさい! 私、その......」

 

虹夏は荷物を落とさなかった事に安堵した後、老婆に対して即座に謝罪した。老婆がいなければ荷物を落とした事は明らかだったから。そんな虹夏を見たヒモの祖母は......

 

「(いい子じゃのぅ。素直にすぐ心から謝れる子はそうはいないわい。私達の見立てはやはり......いかんいかん、そうじゃないな)」

「気にせんでええ。元々あんたは善意で手伝ってくれとったんじゃ。感謝こそすれどあんたを責める訳がないじゃろう」

 

「どうした! 虹夏大丈夫か!?」

 

老婆が虹夏を宥めている内に、音に気づいたヒモが全速力で向かってきた。そんなヒモが見たのは、目尻に涙を浮かべる虹夏の肩をポンポンと叩く自らの祖母の姿で──

 

「(え? マジでどんな状況? おばあちゃんと虹夏って何か接点あったっけ? さっきが初対面だったよね??)」

 

全く意味が分からなかった。

 

 

 

 

「取り敢えずさ、そういう事だから。今日のお客さんは皆、私達の知り合い。だから晶羅、もう彼女達のとこに戻って大丈夫さよ」

 

老婆は虹夏を宥めた後に、後からやってきたヒモに対してそう言う。老婆含めてヒモの祖父母達は既に「結束バンド」を疑っておらずヒモの無事を祝って宴会を行っている。ヒモに任せた仕事は必要ではあるがそこまでの緊急性、優先度は高くないもの。

 

「じゃあそろそろ行くかの」

 

「え?」

 

「マジか」

 

自分達よりも小さく、腰も曲がり始めた老婆が、ヒモと虹夏でも苦戦したほどの重さの荷物を軽々と運ぶ姿を見て二人は思わず声を漏らす。

 

「ちょ、ちょっとおばあちゃん!」

 

「その......重くはないんですか?」

 

そして思わず留子を呼び止めた。老婆の神秘に至るために。

 

「腕だけで運んだらそりゃあきついだろうねぇ」

 

留子は荷物をまるで抱え込むようにして持っている。

 

「体幹を使うんじゃ。体幹で荷物を支える。体幹には腕の何倍もの筋肉があるからのぅ。こうして......」

 

留子はヒモと虹夏に動作が分かりやすいように手本を見せる。

 

「こうやって持つものを身体の正面に捉えて重心をやや身体側に傾けるんじゃ。腕は基本的に物を持ち上げる意識ではなくあくまで落とさないように支えるようにして添える感じじゃ」

 

「なるほど......」

 

「これが......おばあちゃんの知恵」

 

この知識が今後役に立つかどうかは分からないが、とにかくヒモと虹夏はまた一つ生活の知恵を手に入れた。

 

──────

「取り敢えず虹夏、ありがとね」

 

ヒモと虹夏に先人の知恵を伝承した留子が去って行ってからヒモは改めて虹夏にお礼を伝えた。

 

「ううん。さっきも言ったけどヒモ君のおかげでここに来れたからね! 何か力になれたのなら良かったよ!」

 

「お礼、か......」

 

そう言ってヒモの目に映るのは重労働によって服を汗で濡らした虹夏。このまま『結束バンド』の練習に戻ってもまた汗をかくだけなのかもしれないが......

 

「(ここは温泉旅館。温泉を勧めたら喜ばれるかな? あ。虹夏は喜多さんと一緒で温泉にテンション上がっていたよね? じゃあ大丈夫か!)」

 

「虹夏、今何時か分かる? ちょっと今携帯持っていなくて」

 

「ん? ちょっと待ってね? えっと......もうすぐ11時になる頃合いかな?」

 

「(え、もうそんな時間......?)」

 

旅館に着いてからもう1時間が経過していた。充実していたとはとても言える状況ではなかったが、しかしヒモにはあまりにも早く感じた。そして時刻が11時に近づいた場合、一つの懸念が発生する。

 

「(もうすぐチェックアウトの最終時間か......。間に合いそうにないね)」

 

ここの旅館ではチェックアウトを迎える11時より大浴場の清掃を開始する。したがって虹夏を風呂に誘う事は時間的にできそうにない。

 

「(あ、でも貸切風呂の方は大丈夫かな?)」

 

ヒモの旅館には男女別の大浴場の他に貸切風呂が存在する。大浴場と比べるとややこじんまりとしているが。貸切風呂を利用するためには予約が必要であるため、清掃時間は明確には定められていない。予約が入っていなく、また従業員(スタッフ)の手が空いている時に清掃をする具合だ。少なくとも連泊客が利用する事を考えて大浴場の時間とは重ならないようにしてある。つまり......

 

「(貸切風呂なら大丈夫そうかな?)」

 

記憶を辿っても今の時間帯に予約は入っていなかった。

 

「虹夏はお礼だ、って言ってくれたけどさっきのお礼として──」

「(ちょっと待て! これってもしかして......)」

 

「......?」

 

最後まで言い切る前に、ヒモはある重大な事に気づいた、気づいてしまった。

 

「(女子に風呂を勧めるなんてこれ、セクハラなんじゃないか!?)」

 

セクハラ。その単語が脳裏に過り、ヒモの顔は青くなる。神に誓ってヒモがセクハラをしたいという訳ではないが、年頃の男女。言葉一つで関係を断たれてしまう可能性もあった。いくら温和な虹夏とはいえ、怒ればどうなるのか。ヒモは悪い想像をしてしまう......。

 

──ヒモの妄想──

 

「え......ヒモ君それは......ちょっとないかなーって......」

 

言葉は穏やかなものではあったがヒモに向ける虹夏の視線は冷ややかなものであり、明らかにヒモの発言にドン引きし、嫌悪感を全身で示していた。

ヒモは失念していた。虹夏は確かに穏やかで温和で天使のような存在だが──人間だ。幼馴染のリョウや廣井きくりにごくたま見せる表情から分かる通り、彼女も毒を吐く。そしてその毒は日頃吐かないからか、毒素が濃縮されている事が多い。

 

そして『結束バンド』はメンバー同士の仲も良い。虹夏がヒモを貶める事を狙った訳ではないがふとした会話の中で、ヒモが虹夏にセクハラした事はメンバー全員に知れ渡ってしまう。

 

「ちょっとそれは先輩......。いくらAki様だからって──いえ、Aki様だからこそ幻滅しました。ファンやめます」

 

郁代はヒモに対して蔑んだ視線を向けながら両中指をたて......

 

「ヒモさんその......」

 

ひとりはついにヒモと目も合わせてくれなくなった。そして......

 

「ヒモ、虹夏にそういう事したんだ。キモ」

 

ヒモとキモの語感が似ているからか、以後リョウは──

 

「キモ、ご飯持ってきて」

 

ヒモの事をキモと呼ぶようになった。

 

『結束バンド』との関係は崩壊し、唯一口を利いてくれるのはリョウだけ。そんなリョウも食事を持参しなければまるでそこに何も存在しないかのように振る舞う。視線を合わせないどころか存在を認識さえしてくれない。

 

言葉の綾というものか、表現の難しさと言うべきものか。何にせよ、ヒモはたった一度の過ちによって友人を失う事に──

 

──「ぼっち・ざ・ソリスト!」完──

 

「ああああああああああああ!!」

 

「ちょ、ちょっとヒモ君!? どしたの!?」

 

ヒモは過去最大級のひとりのような発作に襲われた。




Q, もし1番最初にヒモに気づいたのがリョウだったらどうなっていましたか?
A, 『ぼっち・ざ・ソリスト! 完』になっていました。

本作で描くキャラの中で誰が好きですか?(活動報告のヒロインアンケートとは別物です)

  • ヒモと友達に中々なれないぼっちちゃん
  • みんなの虹夏ママ
  • ヒモの料理が恋しい山田リョウ
  • ガチ熱狂ファン喜多ちゃん
  • 初期構想じゃクズ設定なんてなかった明海
  • ヒモの顔見た瞬間素面に戻る廣井きくり
  • 弁当恋しい伊地知星歌
  • Akiは女性だと信じていたPA
  • マウントヨヨコ
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