ぼっち・ざ・ソリスト!   作:マイケルみつお

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2話 目かくし!

 「(どどどどうしよう......。人前に出るなんてや、やっぱり難しいしもしステージで失敗して......ネットに挙げられて拡散されたりしたらどうしよう......)」

 

ライブ前練習が終わった。とてもじゃないが完成したとは言い難く付け焼き刃にしか過ぎないが、見栄えだけは曲として成立するくらいにはなった。

 

練習が終わったという事は本番まであと少しという事である。しかし技術面での練習に費やすあまり、精神面に費やす時間をひとりは確保する事ができなかった。そのため空のポリ袋に頭まで入って現実逃避している。

 

後藤ひとりは極度のコミュ障である。これまで人の前で演奏する経験がなかった彼女の最初のライブは......準備万端とは程遠いものである。常人であっても緊張しない方が難しい。つまりひとりがバグらない訳がない。

 

「どうしようどうしようどうしようどうしようどうしよう......」

 

「ひとりちゃんがバグった?!」

 

「何それちょっと面白そう」

 

一人(虹夏)はひとりを心配し、一人(リョウ)は面白がっていた。そしてもう一人(ヒモ)は......この場にすらいなかった。

 

「やっぱりまだバグってたか」

 

「あ、戻ってきた」

 

「もう! 紐川君どこ行ってたの? ひとりちゃん大変なんだよ!」

 

ヒモは右手に何かを持って帰ってきた。

 

「店長から借りてきたよ。濃いサングラス。ほら、会場は暗いからこれかけてたら客席は見えないんじゃないかと思って。ステージ自体は明るいからこれをつけてても自分のギターとか周りを見る事はできると思うよ」

 

「おー! ナイスだよ紐川君!」

 

「(早々にひとりちゃんを見捨てた薄情者とか思ってごめんね!)」

 

こうしてひとりはみかん箱を被る必要がなくなった。

 

 

 

 

 

 

自分達の出番を控え室で待つ5人。ひとりはまだ本番までは時間があるというのにサングラスを装備完了していた。

 

「(うへへ。私だけの世界〜)」

 

「そういえばライブの時、どうしよっか? 名前。ひとりちゃんと紐川君はあだ名とかある?」

 

ヒモは音楽に関わる時には、動画投稿サイトなどでは『Aki』という名義で活動している。が、今回このライブで『Aki』を使おうとは考えていなかった。

 

「(今の僕は100%の実力をバンドでは発揮する事ができない。妥協した演奏に名前を使いたくない)」

 

ヒモはAkiでもなく、そして本名以外を希望した。だがあのあだ名以外ができればいい。

 

「あだ名はないよ」

 

ヒモは嘘をついた。

 

「晶羅......アキ......。うーん......イマイチ。紐川......ッ!?」

 

何かを思いついたようなリョウにヒモは全てを察した。

 

「ヒモ。うん、これがいい。面白い」

 

「ちょっとリョウ! それは流石に......」

 

「じゃあ後回し。ひとり......ひとりぼっち......『ぼっち』とか?」

 

「さっきから悪口しか言ってないよね?!」

 

「ぼっちです!」

 

「あ、喜んでる......」

 

半ば悪口に近いようで、しかし一発で覚えてもらえるようなリョウのネーミング。そして片方は既に了承している。

 

「(他の出会いが欲しい......)」

 

「......僕もそれでいいです」

 

ヒモは虚空を睨んだ。

 

──────

 「こんにちは!『結束バンド feat.ヒモ』です!」

 

ライブが始まった。ステージの後方中央にはMCを務めるベースの伊地知虹夏。そして右側前方にはベースの山田リョウ。左側前方にはギターを構えたコミュ障の後藤──

 

「(うへへへ、初めてのライブうへへへへ)」

 

濃いサングラスをかけ、観客の姿など目に見えないひとりは怪しい笑みを浮かべていた。

 

「えっ、ちょっと何あのギター。何か笑ってるんだけど」

 

「怖いんですけどあのギター。大丈夫かしら......」

 

その奇妙なギタリストに会場がザワザワしていたが視界が制限されており、テンションマックスだったひとりはその事に気づかなかった。

 

そしてひとりと虹夏のちょうど真ん中あたりでキーボード(STARRYのもの)が弾けるように立っているのはヒモである。

 

なぜヒモが『結束バンド』と共にステージに立っているのか? 話はライブ前練習に遡る。

 

 

 

 

「もう一つの選択肢は......後藤さんのギターソロに伊地知さんと山田さんが合わせる事。ギターを主役にライブをする事」

 

返ってきた反応は冷ややかなものであった。

 

「うーん......」

 

虹夏は肯定とも否定とも曖昧な態度。自分達のバンドで、貴重なライブなのになぜ今日出会ったばかりの子を引き立てる演奏をしなければならないのか。そしてなぜそれを今日初めて出会った人に言われなければならないのか。

 

しかし今日出会ったばかりのひとりに対してかなりの負担をかけていたという負い目もあった。

 

「主役は私」

 

リョウは明確な否定。彼女には絶対の自信がある。彼女は自分一人でも会場を沸かせるだけの自信があった。ひとりの引き立て演奏をするなど絶対に首を縦に振らないだろう。

 

「今日初めて加わったメンバーを中心に演奏をするなんて変だよね」

 

「やる」

 

リョウはちょろかった。

 

「(え? 私を中心に? 私に? なんで? もし私がやって何かあったら恨まれちゃうよ!そして私はバンドを追い出されちゃうんだ。あ、そっか......これが紐川さんの復讐......。私を晒し者にして恨みも集めてきっと神奈川の川崎辺りで闇討ちする気なんだ......)」

 

「あばばばばばばばば」

 

一番猛烈に反対していたのはひとりであった。彼女はリョウみたいに変人と呼ばれる事を望んでいない。言うならばリョウみたいにちょろくはないのだ。彼女が首を縦に振る事などあり得ない。

 

「後藤さんのギター、凄く感動したんだ。僕だけじゃなくて伊地知さんや山田さんもそう思ってるはず。後藤さんに助けて欲しいんだ」

 

「(私に......? 助ける......?)」

 

「うへへへへへ」

 

後藤ひとりもまた、ちょろかった。

 

「それじゃあ一回やってみようよ。伊地知さんと山田さんは後藤さんのギターに合わせてみて」

 

 

 

 

「「「「............」」」」

 

「(全っ然合わない)」

 

元々虹夏は光る潜在能力はあるが未だ荒削り。ひとりのプロ並みの演奏を自分で聞いて判断し、合わせる事など技術的に困難である。

 

リョウは元々自分を中心に世界が回っていると本気で考えている人間。そもそも他人に合わせるという能力に欠けていた。

 

「(ちょっと安直すぎたかな......? いや、そもそも僕が言い始めた事だいくらバンドの事だからといってここで放り投げるのは流石におかしい)」

 

「ちょっと試したい事がある」

 

紐川晶羅は独奏者(ソリスト)である。これまで誰かと演奏した機会は姉としかない。元々ピアノ専門であったが姉の影響でバンドの楽器はどれもできるようになった。動画チャンネル『Aki』で知られるようにピアノはプロ並。他のギター、ベース、ドラムもプロレベルには届かないがそれでも高校生レベルは超える技術を持っている。

 

が、それはあくまで独奏の場合。姉の明海を除いて息のあった演奏ができる相手がいないヒモは集団で演奏をした場合、ひとりと同様に大きくレベルが落ちてしまう。尤も、それはバンドの1パートとしての話であって演奏に合わせるだけなら、他人の演奏をしっかりと聞く事ができる能力は虹夏、リョウよりも優れている。

 

だからこそヒモは参戦した。キーボードを持っているがそれはあくまでひとりのペースに虹夏とリョウが合わせやすいようにするため。

 

 

 

 

演奏(本番)が始まった。

 

「うわっ! 凄い!」

 

「なんかプロみたい!」

 

「あの奇妙なギターの子、めっちゃ上手くない?!」

 

虹夏は言った。今日来ているのは彼女の友達くらいなもので音楽に対して知識などないような客ばかりだと。『結束バンド feat.ヒモ』の演奏はギターを中心にまとまっており......いや、ギターの演奏をより良くするための演奏のため不協和音も存在せず観客達の耳に心地よさを与えていた。

 

が、バンド経験者には分かる。

 

「(これはバンドじゃない。ギターのためにまとまった......ギターのためのライブ。ベースもドラムも......そして特にあのキーボード全部がギターのためだけに演奏している)」

 

しかしこの場の大多数の客にそのような事分かる訳が無い。最初はテンションも静かであったが曲が進むにつれ、会場のボルテージは高まっていった。その歓声につられるようにメンバーのテンションも上がりそして楽曲のクライマックスを迎えた。が、その時

 

「あぅ」

 

「(後藤さんの演奏が乱れた!)」

 

これまでミスがなかったひとりの演奏が崩れた。視界を制限する事でひとりは観客の存在を完全に忘れ普段通りの演奏をする事ができていた。が、大きくなった歓声。ひとりは聴覚から観客の存在を認識してしまった。

 

今回はギターを中心とした構成。ギターが崩れてしまえば全体も大きく崩れる。

 

「(ぼっちちゃん! あと少し! 頑張って!)」

 

虹夏はひとりを立て直すべくドラムに込める力をあげてひとりの目を覚まそうとする。

 

「(ぼっちが崩れた。曲は後少し。......でも立て直せそうにない。後は私のベースで)」

 

リョウはひとりが曲の終わりまでに立て直す事は不可能だと判断し、ギターに合わせるだけの演奏をやめた。

 

「ちょっと何これ......?」

 

「何かさっきまでと全然......」

 

先ほどまでの協調など欠片もない。まとまりなど見る陰もない演奏。

 

「(ギターを中心とした構成は崩壊。後藤さんは多分立て直せない。伊地知さんはまだ必死に呼びかけているけどドラムの音が大きくなっているだけで逆効果。山田さんはもう自分のソロだと思っている)」

 

もはやバンドとして一つの楽曲を演奏していない。メンバーそれぞれが同じ楽曲を、それぞれソロで演奏しているようなものだ。

 

「(面白い)」

 

最早ヒモにできる事は一つしか残されていなかった。

 

「(やってやる)」

 

これまでの単調な譜面は一転、楽曲のメインを奪うかのような激しい演奏へと化した。

 

「えっ、何これ......」

 

「キーボードの人もすっごく上手い」

 

「でもこんなの......」

 

キーボードが、ベースが、つられてドラムが。一つに固まるのではなくむしろソロで殴り合っているような。音が完全に喧嘩し合う演奏が始まった。

 

「でも......あれ? バラバラなはずなのに......?」

 

「バンドとして成り立っていないはずなのに......」

 

リョウが一人、ソロで荒らしていた状態からヒモが加わった。そしてその熱量に虹夏と、遅れてひとりがつられた。一つの楽曲としてまとまりの欠片も見えない。協調などありはしない。だが......

 

「何か......」

 

「凄い......」

 

観客の心は揺さぶられていた。

 

 

 

 

演奏が終わった。観客は呆然とするのみ。拍手をして称賛するべきなのか? でもバンドとしての演奏とはとても言えなかった。しかし確かに心は揺さぶられた。

 

パチパチパチ

 

そんな中、一つの拍手がライブハウスに鳴り響く。音の発生場所を遡って見てみれば......星歌の姿が。

 

拍手は木霊し増幅し......ライブハウスを埋め尽くした。

 

──────

 どう評価したらいいのか分からないライブが終了した。ステージを降り、控室にて『結束バンド feat.ヒモ』は反省会をしていた。

 

「いやー、何と言うか......。でも最後のとこ、すっごく楽しかった! ヒモ君がぼっちちゃんに合わせるって言ってくれなかったらあんな演奏できなかったよ! ありがと!」

 

「うんうん。え、ちょっと待って?」

 

「最後はいい勝負だった。ヒモ、次は負けない」

 

「うんうん。え、今何て言った?」

 

ヒモは気づく。

 

「(完全に『ヒモ』が定着してしまったなぁ)」

 

そして残りのメンバーはどうかと視線をひとりの方に向ける。

 

「あばばばばば」

 

「え? どうした後藤さん?!」

 

ひとりはSNSを見ていた。先ほどのライブ。インパクトが大きかったようでライブを聞いた観客のある呟きがひとりのスマートフォンに表示されていた。

 

 

『サングラスをかけて目は見えないけど何かニヤついてて気持ちが悪い頭のおかしなギタリストがいた』

 

「あぅ!」

 

ひとりは壊れた。

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