ぼっち・ざ・ソリスト!   作:マイケルみつお

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更新が遅れてしまいすみません。


20話 すれ違い!

「(あああああああああああああ!!)」

 

声にこそ出さなかったが郁代は内心ひとりのような発作に襲われた。郁代に究極の選択が迫られる。ヒモか、「結束バンド」か。音楽がトラウマとなってしまったヒモとこれからも仲良くしていくためには──楽器を捨てなければならない。

しかしそもそもAkiとして活動をしないヒモに対して、郁代はこれまでと同じような目を向ける事ができるか。

確かに、最初はヒモの事を憧れのAkiとして見ていた。リョウに対して抱いていたような信仰に似た感情を抱いていた。

しかしヒモが初めてのライブで助けてくれたり共に時を過ごしていく中で、等身大の「ヒモ」と過ごしていく中で抱いていた感情は変わっていった。

 

「(わた......しは......)」

 

郁代は断言する事ができる。仮にヒモが楽器を手放したとしても、これまでのようにヒモと接する事ができる、と。だが彼女とヒモを結びつけてきたのは音楽。音楽によって二人は今日まで距離を縮めてきた。郁代がヒモに対して変わる感情はないだろうが郁代の側には変わる要素はある。音楽を辞めた自分が、それまでと同じように彼と接する事ができるのかという疑問だ。

それに「結束バンド」の皆と離れるのも今の郁代にとっては耐えられない。ヒモと並んで憧れの対象であったリョウは勿論、ひとりの事も最近大切な仲間だと意識し始めた。一度裏切った「結束バンド」をもう一度裏切る事など郁代にはできない。

 

「(ごめんなさいヒモ先輩......!)」

 

失意を胸に、郁代は決意した。そしてその言葉をヒモに伝えるべく今も曇った顔をしているであろうヒモの方へと振り向く。

 

「え?」

 

が、郁代の妄想は全て杞憂でしかなかったようだ。なぜなら......

 

「皆演奏お疲れ〜! いや〜やっぱり合わせる練習しとかないとキツいもんだね〜」

 

ヒモの顔からはちっとも負の感情は見えなかったから。

 

──────

「(これは──不協和音(ノイズ)だ。僕が叩く全ての音が、結束バンドにとって不協和音(ノイズ)でしかない)」

 

鍵盤を叩いた時、ヒモの中に宿ったのは間違いなく負の感情だった。

 

「(何で......どうして......!)」

 

自分の演奏技術に少なからず自信を持っていたからこそ、演奏中は確かに絶望した。独奏者であろうと演奏者に変わりない。自分が思い描いた演奏をする事ができないという事実は間違いなくヒモの何かを傷つけた。

そしてAkiとして、ソロ演奏において感情を音色に出す事に長けているヒモだからこそ、その感情は音を媒介して「結束バンド」の皆にも伝わってしまった。現に郁代はヒモの音色からひとりのような発作に追い込まれた。

 

が、ヒモの絶望もそこまでだ。ひとりと違って自らの演奏の不出来を知ったところで演奏が終われば大した感想もない。なぜなら──

 

「(僕はあくまで独奏者(ソリスト)だから)」

 

自分はあくまで独奏者であり、合奏者ではないという事を自覚していたから。誰かとバンドを組んで演奏して(チヤホヤされたい)というひとりのような希望をヒモは抱いていなかった。むしろ今回の失敗によって自分に合奏のセンスはないと明確に自覚した事は良かった事とすら思っている。

 

──ヒモがバンド演奏を望まない限り、何の問題もないからだ──

 

 

 

 

ライブが終わり、時計を見てみればもう時刻は夕方に差し掛かっている。外を見てみれば青空が広がっていた景色には夕焼けが差し込み、遠く映る富士山にも影が差し込んでいた。「結束バンド」がここに到着してから数時間が経ったが──帰りの電車の時間も考えるとそろそろだろう。

 

「ライブ終わって時間も丁度いいね。温泉に浸かっても帰りの電車には間に合うかな?」

 

「「「「......は?」」」」

 

箱根から東京方面の時刻表を脳内で割り出し、帰りの提案をしたその時──空気が凍った。

 

「......帰りって、ヒモ君、何言ってるの?」

 

「......え? いや、皆帰らないの?」

 

どこか話が噛み合わない。

 

「いや、そういう訳じゃなくてさ......今日って泊まりじゃないの?」

 

「......え?」

 

今度はヒモが驚く番だった。

 

「泊まりって......今日は日帰りじゃないの?」

 

「えぇっ! で、でも喜多ちゃんがってぼっちちゃんが......」

 

「そ、そうですよ! 先輩泊まりだって言って......ませんでしたね......」

 

詳しくは15話を確認して頂きたいが、電車の中で2人の間にはすれ違いが生じており、そして幸か不幸かこれまで日帰りか泊まりか、といった話題はグループロインの中では出てこなかった。

 

『いきなりすみません喜多さん。今グループロインにあげられた箱根って泊まりですか?』

 

グループロインの中で出てこなかったため、分からなかったひとりが郁代に尋ねた──個別ロインで。

 

『後藤さん! そうよ! ヒモ先輩のお宅に一泊二日! そういえばグループロインにあげられていなかったわね......』

 

『分かりました。虹夏ちゃんとリョウさんにも伝えておきます』

 

『ありがとう後藤さん!』

 

こうして悲劇は生み出された。

 

 

 

 

「(どうしようか......)」

 

4人分の宿泊の準備など突然にはできない。居住部に布団を敷き詰めれば可能かもしれないが──ちょっと準備が必要だ。

客室はどうか。ヒモの祖父母達が色々動いた結果、幸か不幸か客室は空いている。しかしヒモの祖父母が経営しているとはいえ、ヒモはあくまでお手伝いでしかない。ヒモの独断で彼女達を泊めさせる事はできない。旅館経営はあくまで仕事だ。公私混同は許されない。そしてわざわざ遠くまで来てもらった彼女達に金を出させる訳にもいかない。(特に山田リョウには払えない)

 

「(やっぱり帰ってもらうべきか......)」

 

理屈で考える最適解は「結束バンド」の4人に帰ってもらう事だ。まだ帰りの電車には間に合う。今日はヒモも帰る前提だったので明海の食事の準備もしていない。姉至上主義(シスコン)(養殖)のヒモにとって明海を放置する事はできない。

 

「(しかし......)」

 

それらを差し置いたとしても、ヒモは目の前で外泊を望んでいる彼女達の期待を裏切りたくなかった。

 

「そんならウチに泊まっていきなさんな」

 

「おばあちゃん!?」

 

そんな彼ら彼女らを救ったのは──留子だった。

 

「さっきから話聞いとったけど、ウチに泊まってもらえばいいじゃないの晶羅」

 

「でも......」

 

自分の伝達ミスによる尻拭いならやめて欲しい。郁代が勘違いした事も、ひとりが誤解した事も全てはヒモは最初のグループロインで知らせなかった事が問題だ。旅館経営はあくまでビジネスだ。孫への同情からくるものならやめて欲しかった。

 

「安心なさい」

 

「え?」

 

が、そんな孫の胸中程度、祖母の留子が見抜けぬ訳が無い。

 

「「結束バンド」だったよね? さっきのライブ、凄く良かったよ。──そういえば、いつもライブやる時はチケットが必要なんでしょ?」

 

「え、ええ」

 

当然の事ながら今回のライブにおいてチケットなどない。

 

「じゃあ私達はチケット代──何か対価を差し出さないといけないね」

 

そこまで言われ、ようやくヒモは祖母の言葉の真意を理解する。

 

「......ごめんね、おばあちゃん」

 

──────

「おなかすいたぁ」

 

空腹と重労働の疲労のあまり、吉川明海はリビングのソファにうつ伏せになって行き倒れていた。

 

「ヒモぉ......」

 

弟が帰宅しない。食べ物を作ってくれる人が中々帰宅しない。メッセージを何件か送っているのだが──返信はない。一応家には(料理ができない明海のために)インスタント食品はあるのだが、そうなるとヒモの夕食を食べる事ができない。姉至上主義の彼は何も言わないが、明海が自分が作った夕食をあまり食べないと──露骨に凹む(本人は隠しているつもりだが)。

そんな事で明海は限界に達しそうな食欲に生命の危機を感じていたが、怒らせると地味に怖い(本人は隠しているつもり)弟への恐怖心から耐えていた。

 

「うぅ......」

 

そんなこんなで空腹と耐えていた明海だったが──スマホに届いたメッセージによってその葛藤が全くの無駄であった事を悟る。

 

「そっか。今日はヒモ、リョウちゃん達と箱根に泊まるんだ。私以外にそこまで仲良くできる子達ができたのは喜ばしいけど......もう少し早く連絡して欲しかったなぁ......」

 

グスンと両目に涙を浮かべていた明海は、フラフラしながらも台所に向かった。やかんに水を注ぎ火をつける、明海は家事が全くできないためお湯を沸かした。火をつけて数秒、まだやかんの中の水がグツグツと泡をたて始める前に明海のスマホが着信を知らせるために鳴り響く。

 

「えっと......パパ?」

 

やかんの火はそのまま(良い子は真似しないで下さい)明海は電話をとった。

 

「もしもし、どしたのパパ?」

 

『お前にしては電話出るの早かったな』

 

電話口から聞こえてきたのは──宛先の通り、ヒモと明海の父の声だった。

 

「丁度手に持ってたからね。で、どしたの?」

 

『ああ。お前、ピック忘れてたぞ。今家の前まで来てるから──ちょっと取りに来てくれ。晶羅、まだ起きてるだろ?』

 

「昼の練習の時かな......? そういえば今日はヒモいないから大丈夫だよ!」

 

『あいついないのか。珍しいな。どこにいるんだ?』

 

「おばあちゃんの旅館だって。今日は泊まりって私もさっき聞いたんだ」

 

『そっか。じゃあ今から家まで持って行くよ』

 

ヒモが今日いないのならば──両親は久しぶりに帰宅する事ができる。

 

「そういえばパパ、もう夜ご飯食べた?」

 

『いやまだだが......。もうこんな時間だがまだ食べてないのか? ああ、さっき晶羅が帰らない事を知ったって言ってたな。だからか』

 

「そういう事。私もパパもママも皆料理できないし──どこか食べに行こうよ」

 

『じゃあ外に車停めてるから。準備できたら出てこい』

 

「分かった」

 

こうして明海は両親と共に夕食を食べに向かった。




明海のキャラ付けですが散々迷った結果、当初の方向性でいきたいと思います。彼ら彼女らを表すキーワードは「誤解。すれ違い」です。

本作で描くキャラの中で誰が好きですか?(活動報告のヒロインアンケートとは別物です)

  • ヒモと友達に中々なれないぼっちちゃん
  • みんなの虹夏ママ
  • ヒモの料理が恋しい山田リョウ
  • ガチ熱狂ファン喜多ちゃん
  • 初期構想じゃクズ設定なんてなかった明海
  • ヒモの顔見た瞬間素面に戻る廣井きくり
  • 弁当恋しい伊地知星歌
  • Akiは女性だと信じていたPA
  • マウントヨヨコ
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