ぼっち・ざ・ソリスト!   作:マイケルみつお

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前回に引き続きまた更新遅れてすみません


21話 名手・ざ・虹夏!

「わぁ! 凄いお部屋ですねー!」

 

ヒモの祖母に連れられて「結束バンド」の四人はある客室に到着した。窓からは手入れがなされている日本庭園と、その奥に広がる富士山を臨む事ができる。

スリッパは4足、押入れの中に収納されている布団も4組あるためここは4人部屋であるのだろう。つまりヒモはいない。ひょんな事から男子と女子が同じ部屋に! なんて展開にはならなかった。

これはアニメではなく現実だ。現実の世界はそんなラブコメみたいな展開に帰着しない。

 

「でもこんな部屋、ライブをしただけなのに使わせてもらっていいのかな?」

 

そんな中でも彼女達、特に虹夏と郁代にはこんな良い部屋を(名目上はライブの対価とはいえ)無償で使わせてもらっていいのかと申し訳なさそうな、ヒモのような顔を浮かべていた。

 

「ヒモのおばあさんが言ってたから大丈夫だと思う」

 

「いつもはアレだけど、リョウのそういうところは今日に限っては見習わないといけないかもね」

 

「先輩素敵です!」

 

リョウの言う通りこれは留子から言い出した事。「結束バンド」側に何か遠慮しなければならない理由はない。安定的なリョウの図々しさが今日この時だけは正しいと虹夏は思った。郁代は言わずもがなだが。

 

「あれ? そういえば私達さっきから3人で話してたけど「結束バンド」って確か4人だったよね......?」

 

「そういえば先ほどから後藤さん、会話文にもモノローグにも出てきませんね......」

 

この部屋は先も述べたが4人部屋。ひとりだけが仲間外れの一人(ぼっち)部屋を渡された訳ではない。

 

「ぼっちはあそこ」

 

そんな中でもやはり同類(陰キャ気質)のリョウだけはひとりを見失わなかったようで、彼女の指差す先を見てみると──

 

「あぁ落ち着くぅぅぅ! うへへ」

 

客室の押し入れの中で頬擦りし続けるひとりがいた。

 

 

 

 

「す、すみません。せっかくの旅行なのについ自分の中の世界に入ってしまって......」

 

「落ち着いてぼっちちゃん! 誰も責めてないから!」

 

旅行での禁忌「集団旅行なのに自分の世界に入って雰囲気を台無しにしてしまう」(日本陰キャ協会調べ)を犯してしまったとしてひとりは発作を起こそうとしていた。が、熟練の内野手のように手慣れた手つきで軽快に虹夏が処理した。

 

「そ、そういえばぼっちちゃんさ! 夏休みももう折り返しだけどバンド練習以外は最近何してるの?」

 

「い、伊地知先輩それは......!」

「あ、やっちゃった」

 

虹夏はひとりの発作を手慣れた手つきで抑え、流れるように話題を転換した。......が、転換してきた先がまずかった。

 

「バンド以外は......その......特になにも......」

 

「(しまったぁ......)」

 

むしろひとりの発作が悪くなるほどの暴投。ランナーは更に進む。いつもの虹夏であればこんな初歩的なミスは犯さない。今日が始まってから色んなイベントがあり、虹夏も混乱していたのかもしれない。が、とにかく今はひとりのカバーに入るべきだ。虹夏と、そして郁代が脳内で次の話題を考え始める。

 

「あ。といっても昨日ヒモさんが家に遊びに来てくれました。お父さんとお母さんも「娘を頼むぞ」って言ってくれましたしうへへ」

 

「......え?」

 

が、ひとりのカバーは必要ではなかった。

 

「(考えてみれば私も男子の先輩を家に招いたりバンドメンバーとお泊まりしたりとかなりの青春をしているのでは......!?)」

 

と、発作をセルフイマジネーションで克服したからだ。

 

「(え、ヒモ君ぼっちちゃんとそんなに仲良かったっけ??)」

 

次に介護が必要となった要介護者は虹夏だ。

 

 

 

 

虹夏はヒモの事を一緒にライブをした──厳密には違うがバンドメンバーのような存在だと認識している。

そしてヒモと出会ったきっかけは自分の姉、星歌と明海。「結束バンド」の中では1番自分がヒモと親密なのだと思っていた。最初のライブをした時は、確かに虹夏がヒモと最も繋がりが太かっただろう。

 

「(でもいつの間にかリョウはヒモ君の家に上がり込んで明海さんとも仲良くなってたし......)」

 

勝手に上がり込んだ上に図々しいの権化のリョウ。ヒモからの親密度はあまり高くないどころか最近本気で合鍵を取り返そうと計画している。

 

「(喜多ちゃんも何かヒモ君と秘密を共有してるようだし......)」

 

初対面でいきなり「ファンです!」宣言されヒモはドン引き、半ば口止めのようなものだが。

 

「(で、今回はぼっちちゃん......。あんまりあの2人、接点ないと思ってたんだけどな......)」

 

確率はかなり低いだろうがひとりがまた例の発作を起こしてヒモが人命救助を行いに行った後、実は虹夏が思うような事は何も起きなかった可能性も無くはない。まあ年頃の男女、いくらひとりであろうと何も無かったという方が不自然なのだが。

 

だがその繋がりがどうであれ、虹夏にとってはヒモと3人がそれぞれバンド以外の何らかの繋がりがある事が問題なのだ。

 

「(私にはそれが......ないから)」

 

 

 

 

「(あー......伊地知先輩悩んでる......。多分そういう事、ですよね)」

 

この中で唯一、郁代だけが虹夏の内心を、一部とはいえ推し量る事ができた。なぜ気づいたのか? 昨日、郁代も虹夏と同じ境地に辿り着いたからである。

 

『いや、そうじゃないんだ。今からぼっちさんの家に行くんだけど場所が分からなくて』

 

郁代はメールでそう言われていつもの発作に陥り、なんと隣県の金沢八景まで散歩してしまった。で、帰りの電車でヒモに何があったのかを聞き出しており今の発言の事も聞いている。

 

「(『娘を頼む』って、それ発作が起こった時の人命救助の意味でしょ後藤さん......(ヒモ視点の情報)。凄く誤解を生む言い方だったわよね......)」

 

郁代が虹夏の誤解を今すぐ解く事は簡単だ。真実を全てバラせばそれで済む事だから。ただそれをしてしまうと、後藤ひとりは自らのロインの誤爆によって精神が不安定となり、ヒモがわざわざ自宅まで心配しにいったという(平常運転で今更言われても「あ、そうなんだ」としかなりそうにないが)不名誉な事実を暴露する事になってしまい折角落ち着いたひとりの発作再発に繋がりかねない。

 

ひとりの精神の平穏か、虹夏の誤解か。郁代に選択の時が訪れる。

どちらを選んでも誰かが傷つく。誰かを郁代が傷つける。

 

「(私はどうすれば......)」

 

「『娘を頼む』って──どうせぼっちの発作を頼むって事でしょ」

 

そんな郁代の苦悩など全く知らないリョウは──何の躊躇いも見せずに言い放った。

 

「あ、あああああああああ!!」

 

「ちょっ! リョウの人でなし!!」

 

リョウの暴言が直撃しひとりは今日一の発作に追い込まれ、虹夏は自分の誤解が解けた云々よりもひとりを死に追いやったリョウに対してまるで「殺人者」に対する視線を向ける中......

 

「(ありがとうございますリョウ先輩!!)」

 

郁代のリョウに対する好感度は上がった。

 

──────

「そういえばお腹空きましたね」

 

時が経過しひとりと虹夏が復活した。ひとりは時間経過で復活し(復活速度は素人目に見ても格段に成長している)、虹夏はリョウの言葉に加え──

 

「(冷静になって考えてみるとぼっちちゃんとヒモ君にそんなフラグ、全然立ってなかったね!)」

 

と気づく事ができた。虹夏はヒモは勿論ひとりの事も気にかけていて、よく見ていた。一度冷静さを取り戻しさえできれば「あり得ない」と結論づける事ができる。

完全に立ち直った虹夏は郁代の問いに答える。

 

「そうだね。お昼、何だかんだでちょこっとしか食べてないし」

 

「結束バンド」は当初日帰りの予定で、食事の予定もなかった。急遽増えた4人分の食事は、今ヒモと祖父母達が作っている。

 

「えっと......夜ご飯って何時だったっけ?」

 

「18時から21時までのところ、私がヒモに圧力をかけて17時半からにしてもらった。あと24分36秒」

 

虹夏の問いに答えたのは──先ほどから17時半までのカウンドダウンアプリで秒刻みに時刻を確認している──リョウだった。その食いつきの凄まじさは瀕死のひとりを放置して黙々と一人食べ続けていたライブの打ち上げの時を彷彿とさせる。

 

「あのリョウ先輩、一応確認しますけどヒモ先輩の家では......」

 

「............」

 

日付は8月の月頭! つまりヒモの堪忍袋の緒が切れて、毎月数回以上はお金を払わなければ食べられなくなったリョウであっても──今空腹に喘いでいる事は不自然なのだ。

 

「......出禁になった」

 

「「「え?」」」

 

月頭になるとヒモのご飯が食べられるようになるという事は──言い換えると月末は禁断症状に襲われるという事である。

月末になると......

 

「ヒモ、お腹空いた。まだ月明けてないけどたった1日。ご飯作って」

「お腹空いたヒモ。まだ1週間あるけどたった1桁しかないならおまけでご飯作って」

「おかえりヒモ。まだ月末どころか全然日数あるけどお腹空いたからご飯作って」

 

無論ただの一度たりともヒモが折れる事はなかったが、しかしなぜかエスカレートするリョウの要求に──ついにヒモは悟った。

 

「月末って縛りがあるからこんな事になっているのか......」

 

「流石ヒモ分かってる。じゃあご飯──」

「もう月頭もご飯なしね」

 

「え......」

 

こうしてリョウは確実に食べれた月頭の、サブスクの無料ユーザーのような恩恵すらも失い──事実上の出禁状態となってしまった。

 

「それはリョウが悪いよ。自業自得。リョウが悪い」

 

「こうなったらおかわりしまくって他の宿泊客の分も食べ尽くす」

 

「絶対やめてよ! 恥ずかしいからぁ!」

 

「夕食まであと15分12秒あるけど──もう行こうよ。15分前なら出来上がってるかもだし──できてなくても私達が早くきたら焦って早く出来上がる」

 

「絶対ダメだからぁ!」

本作で描くキャラの中で誰が好きですか?(活動報告のヒロインアンケートとは別物です)

  • ヒモと友達に中々なれないぼっちちゃん
  • みんなの虹夏ママ
  • ヒモの料理が恋しい山田リョウ
  • ガチ熱狂ファン喜多ちゃん
  • 初期構想じゃクズ設定なんてなかった明海
  • ヒモの顔見た瞬間素面に戻る廣井きくり
  • 弁当恋しい伊地知星歌
  • Akiは女性だと信じていたPA
  • マウントヨヨコ
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