ぼっち・ざ・ソリスト!   作:マイケルみつお

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作中の大露天風呂のイメージは「ゆらぎ荘の幽奈さん」のあのお風呂です。若しくは山形県の蔵王温泉大露天風呂を見てみて下さい。


22話 いや・ダメ・やめて!

有言実行。リョウは客室での宣言通りひたすらおかわりを繰り返した。隣の虹夏が全力で止めたが──リョウは止まらなかった。

虹夏は頭を抱えて「リョウのバカァ!」と叫んでいたが──なぜかヒモの祖父母はいっぱい食べるリョウに好感を抱いたようで虹夏の心配は杞憂に終わった。

 

食事が終われば次はお風呂だ。虹夏は既に一回入ったが、しかし今度は貸切湯ではない。貸切湯ではない通常の浴室は内湯の他に──大露天風呂が存在する。

否、厳密にいえば露天風呂ではない。この旅館が箱根温泉郷の中でも少し離れた場所に位置する事から実現可能なのだが──屋根がない。男女の敷居を除いて遮るものはほとんどなく、入浴者はまるで大自然と一体化するような、圧倒的な解放感を楽しむ事ができる。そう、厳密に言えば露天風呂ではなく野天風呂なのだ。

旅館の正式名称は「大露天風呂」なのだが──せっかくなのでここでは勝手に「大野天風呂」と呼ぶ事にしよう。

 

場面は移り変わる。「結束バンド」の一同は大野天風呂に向かうために着替えの浴衣等含めて準備をし始めていた(虹夏は新しいのを貰った)。そんな中......

 

「うぅ......苦しい......」

 

「いやあんなに食べるからでしょ」

 

先ほどおかわりしまくっていたリョウはとてもお風呂に行ける状態になかった。

 

「リョウってどれだけ食べても大丈夫みたいな設定じゃなかったっけ?」

 

「......私は金欠キャラであって大食いキャラではないから」

 

「たし......かに......」

 

虹夏は納得してしまった。虹夏とリョウは幼馴染だが──確かにリョウが量を食べていた記憶はない。

 

「だから温泉行くのちょっと待って虹夏ぁ」

 

「ダメ。リョウの自業自得なんだから」

 

が、だからといって虹夏が妥協しなければならない理由にはならない。虹夏は現代日本人の中では希少な面と向かって「NO」を言える人物だった。

ともすれば次にリョウが狙うのは──

 

「ぼっちぃ」

 

「「NO」が言えないぼっちちゃんを狙わない!」

 

「NO」が言えないひとりだった。これで虹夏は自分の時と合わせて2回も「NO」を言った事になる。現代日本人の希望たる虹夏に恐れるものは何もない。

虹夏もひとりも潰された。最後にリョウが狙うのは──

 

「いくよぉ」

 

「(しまった! 喜多ちゃんは!)」

 

ひとりと違って郁代は「NO」を言う事ができるが──しかしリョウに対してある種信仰のような感情を抱いている。本人が「NO」と思っていなければ虹夏の伝家の宝刀(NO)も発動条件を満たさない! 

 

「フッ」

 

虹夏は全身で「ぐぬぬ」を表現してしまい、リョウはそんな虹夏に対して勝ち誇ったような顔をした。

そう、郁代を味方につけたリョウの勝ちで終わ──

 

「いえ......。リョウ先輩の調子が戻るまで時間もかかりそうですし......」

 

「「!?」」

「あるぇ?」

 

大方の予想に反し郁代の回答は「NO」だった。虹夏だけでなくひとりも驚嘆するほどに。

 

郁代のリョウに対する信仰が解けたのか? いや、そういう訳ではないようだ。依然として郁代はリョウに対して変わらぬ信仰を捧げている。信仰は(まだ)解けていない。

では何があったのか? 

虹夏はリョウの行動を「自業自得」と評したが郁代は少し違う。明らかに常識はずれのおかわりを繰り返すリョウに対してヒモの祖父母は好感を抱いていたが──ヒモは違った。

喜多は見た。ヒモの「こいつマジかよ......」といった視線を。

 

郁代の中ではリョウと同じくヒモも信仰の対象だ。信仰と信仰がぶつかりあい、郁代の脳内で宗教裁判が開かれた結果──今回だけは郁代はリョウの味方とならなかった。

 

「......と、思いましたけど......。伊地知先輩ももうちょっとリョウ先輩に優しくしてもいいのでは......?」

 

としても、依然として郁代がリョウに対して信仰を持ち続けているのは変わらない。いくら決心したとしても「NO」を突きつけた後に郁代を襲ったのは罪悪感と後悔だった。

 

「喜多ちゃん。ダメなバンドマンにはしっかりと「NO」を突きつけないと! 彼氏にしちゃいけない3BのBってベーシスト、ベーシスト、ベーシストの事だから!」

 

「にじかぁ」

 

「うっ......」

 

「伊地知先輩、言葉と表情が噛み合っていませんよ......」

 

リョウの自業自得なのは間違いないが、しかし冷静になって考えてみれば虹夏達がリョウを置いて行かなければいけない理由もない。

 

「(そう、これはわざわざリョウに厳しくする必要がないだけで......)」

 

虹夏は必死で自分を正当化し始めた。

 

「......30分だけだよ」

 

「虹夏大好き」

 

虹夏陥落。リョウは純粋に嬉しいのか、勝ち誇ったのか、どちらとも取れるような器用な表情を浮かべた。

 

「(......伊地知先輩、何だかんだ言ってリョウ先輩に甘いですよね......?)」

 

 

 

 

「遅い。早く行くよ虹夏」

 

「え、まだ三十分経ってないけど......?」

 

結局あの後虹夏が折れ、結束バンドのメンバーは客室でくつろいでいたのだが──まだ三十分も経たない内に突然リョウはそう言い放った。

 

「もうお腹は大丈夫だから。早く行こうよ虹夏」

 

「え、まだ時間あったから準備できてないよ......」

 

女子の準備はすぐには終わらない。行かない事が決定した事から虹夏は準備を一度中断してしまった。しかもリョウは何の前触れもなく、しかも誰にも気づかれないようにモソモソと動き始めたものだから他のメンバーはリョウに気づく事ができなかった。既にリョウだけが準備万端している。

 

「にーじーかーはーやーく」

 

「絶対おかしいでしょこれ!」

 

──────

虹夏の準備が(最後に)終わって一同は大野天風呂に向かい始めた。客室の鍵は「結束バンド」の常識担当、虹夏の荷物の中。

木組みでできた道を歩きながらついに到着する。この中に男はいないので必然的に一同は左側の赤の暖簾に進む。

暖簾を潜ると、長方形の踊り場のような空間から一段、段差で空間が仕切られており、その横には何やら腕二本分程度の感覚で区切られている棚が。その段差のところに置かれている張り紙によれば──どうやらここで上履き(スリッパ)を脱ぐようだ。

 

「何もないみたいだね」

 

上履き(スリッパ)は一足もない。つまり貸切という事。メンバーの期待(テンション)は自然と盛り上がる。

 

「あ、帯忘れた」

 

上履き(スリッパ)を脱いで進んだ先、衣服を脱いで置いておく黄緑色の籠と鍵付戸棚(ロッカー)が立ち並ぶ脱衣所に到着した時、自らの荷物の中を見たリョウは突如としてそう言った。

 

「「............」」

「リョウ先輩......」

 

それが本当に半ば虹夏を騙し討ちした上でドヤ顔までした人間のする事かと、虹夏だけでなくひとりですらリョウに対して半目を向けざるを得なかった。

 

「にじかぁ......」

 

過去の成功体験からリョウは虹夏を道連れにできないかと考えたが......

 

「ですよねー」

 

無言で鍵を手渡そうとする虹夏にあのリョウも流石に折れた。

 

「わ、私もお供しますからリョウ先輩!」

 

敗北者となり肩を落としてトボトボと来た道を戻っていくリョウの後を──狂信者(郁代)は追って行った。

 

「わ、わたしは......」

 

「ぼっちちゃん」

「はっ、ハイ!」

 

「先に温泉、行こっか?」

 

「ハ、ハイッ!」

 

 

 

 

「リョウはあんなんだからさ。一々甘くする必要なんてないからね?」

 

「ア、ハイ!」

「(何だかんだでリョウさんに一番甘いの、虹夏ちゃんだと思うけど......」

 

郁代だけでなくひとりからもそう思われていた。

 

「あれ? ぼっちちゃん、何でまだ服脱いでないの?」

 

虹夏は浴衣を纏っていたため帯をほどけばしゅるりとすぐに脱げる、という事もあったのだがひとりの方はまだ簡装(ジャージ)留具(ファスナー)さえ下ろしていない。

 

「脱がないと入れないけど.....?」

 

「す、すみません。その......家族以外でお風呂に入るなんて今までなかったので恥ずかしくて......!」

 

「同じ女の子なんだからさ! 気にしない気にしない!」

 

「ちょっ! 虹夏ちゃん!?」

 

じれったいひとりを待っていられず虹夏はひとりの留具(ファスナー)に手をかけた。

 

「脱ぎます! 自分で脱げますからぁ!!」

 

ひとりの抵抗虚しく無情にも留具(ファスナー)が下された結果──

 

「虹夏ちゃん?」

 

「」

 

虹夏の表情から色が消えた,。

 

 

 

 

「(え、何あれ)」

 

ひとりの留具(ファスナー)を一番下まで下ろした虹夏が目にしたものは──

 

「(ぼっちちゃんって着痩せするタイプだったんだ......)」

 

ひとりの大なる双丘だ。自然と虹夏は自分のものと比べてしまう。そこには確かに女としての格の差が存在した。

 

「虹夏ちゃん!? ど、どこに......」

 

「......先に行ってるね」

 

「アッ、ハイ」

 

上の簡装(ジャージ)留具(ファスナー)だけ下ろされたひとりを放置して、虹夏は背中に哀愁を漂わせながら一人浴室へと向かった。




前話に引き続きで察した方もいらっしゃるかもしれませんがタイトルのフォーマットを変更しました。戻すかもしれませんがよろしくお願いします。

本作で描くキャラの中で誰が好きですか?(活動報告のヒロインアンケートとは別物です)

  • ヒモと友達に中々なれないぼっちちゃん
  • みんなの虹夏ママ
  • ヒモの料理が恋しい山田リョウ
  • ガチ熱狂ファン喜多ちゃん
  • 初期構想じゃクズ設定なんてなかった明海
  • ヒモの顔見た瞬間素面に戻る廣井きくり
  • 弁当恋しい伊地知星歌
  • Akiは女性だと信じていたPA
  • マウントヨヨコ
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