ぼっち・ざ・ソリスト!   作:マイケルみつお

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6話 哀れなヒモ!

 「あらいらっしゃい! ってそちらの二人は初めましてだよね? 初めまして! ヒモの姉の明海です! よろしくね!」

 

「こ、こんにちは......ご、後藤ひとりです」

 

「初めまして! 喜多っていいます!」

 

「(Aki様のおうち! 私、もう死んでもいい!)」

 

「......どうしてこうなった」

 

ヒモの家に普段よく来る虹夏とリョウに加えてひとりと郁代も来ていた。彼女達も美人だったからか、明海がやたら張り切っている姿を見てヒモはこめかみを抑える。一体どうしてこのような状況になったのか? その理由を説明するために話は数時間前に遡る。

 

──────

 「多分合格って事だよ」

 

「だからさっきからそう言ってるだろ!」

 

結束バンドの演奏が終わった後、星歌がメンバーそれぞれの悪かった点を次々に言い始めたためメンバーはオーディションは不合格だと勘違いしていた。そんな時、不意打ちで合格を告げられたため各々は変なテンションになってしまった。

 

「もうお姉ちゃんは分かりにくいよ!」

 

虹夏は分かりにくい姉に文句を言い、

 

「私は合格だと思ってた」

 

リョウは本音か建前か分からない自信を誇り、

 

「(Aki様の前でかっこ悪い結果にならなくて本当によかった!)」

 

特に言葉にしていない郁代はキターン! としていたがそれは内心は饒舌だったからで、

 

「あばばばばば」

 

ひとりはダムっていた。

 

 

 

 

「オーディション終わった。ヒモ、お弁当」

 

「よくぼっちちゃんのアレ見た後すぐにご飯の話題出せるねリョウ」

 

ステージを片づけてすぐに、手を差し出して弁当をねだるリョウに虹夏は引いていた。

 

「ご、ごめんなさい......」

 

「(さっき店長さんにも凄い目で見られたし......オーディションの最後であんな醜態を晒して......!)」

 

ダム掃除を終わらせたひとりは俯いた声で詫びた。

 

「す、すっごく緊張したもんね! 後藤さん! 私も吐きそうなほど緊張してたもの!」

 

尚、ひとりをフォローした郁代が緊張していた理由はひとりとは異なったものである。

 

「で、ヒモ。弁当は?」

 

リョウはオーディションにヒモを誘う時に弁当を持ってくる約束を取り付けていた。が、彼が大きな重箱を持っているようには見えない。

 

「(私は昨日、ヒモの家で夜ご飯を食べてから今まで何も食べていない!)」

 

リョウの弁当に対する執念は異常なものであった。

 

最初に弁当の話題を出して、ヒモに対してリョウが弁当を要求する手を差し出してからちょっと経つが、ヒモが弁当を用意する気配はない。

 

「あ、ごめん。普通に忘れてた。仕込みは8割ほど終わらせてるけどここには持ってきてない」

 

「「「嘘............」」」

 

リョウだけではなく複数人のショックの音が会場に響き渡った。

 

「じゃあ今からヒモの家に食べに行く」

 

だがそんな中でもリョウの復活は早かった。ここ数日、ヒモから雑な扱いを受けていたためか精神攻撃に対する耐性をリョウは獲得していた。

 

「............」

 

尚、聞き耳を立てていたがまだ仕事が残っているためSTARRYから離れられない星歌は死んだ目をしていたという。

 

こうして結束バンドとヒモは(リョウが先頭を歩いて)ヒモの家へと向かった。

 

話は冒頭に戻る。

 

──────

 ヒモが台所で調理をしている間、結束バンドのメンバーと明海は二階の明海の部屋にいた。

 

「そうなんです。最近ヒモが厳しいんです、一体どうして......?」

 

「それ絶対リョウが悪いからだよ! 明海さんもそう思いますよね?」

 

メンバーの中でも明海と初対面ではないリョウと虹夏は何の緊張もなく明海と会話していた。当然初対面の相手と会話などできないひとりはその様子をただ眺めるだけであった。

 

「(え、なんでリョウさんと虹夏ちゃんはヒモさんのお姉さんと知り合いなの? 二人とヒモさんはこの前が初対面だったみたいだけどもう家族ぐるみで仲良くなったの? )」

 

やはり自分とは違うんだなと二人に対して絶望する。

 

「(って言うかヒモさん、お姉さんからもヒモさんって呼ばれてるの? 私は家族からはちゃんと名前で呼ばれてるけどうへへへへ。それもだし、これってもしかすると友達のお家訪問って事なのでは? うへへへへ。あれ? 私とヒモさんって友達って事でいいんだっけ?)」

 

ひとりと同様、明海とは初対面だが、しかしひとりとは違ってコミュ障ではない郁代は何の話題を選ぶかについて考えていた。

 

「(私も明海さんと仲良くなって先輩達みたいにこの家の常連になりたい! (キターン))」

 

だが憧れの人の家族。万が一にも下手な事を言って嫌われるのだけは絶対に避けなければならない。郁代はかつてなく慎重に話題を選んでいた。

 

それぞれ内心で思っている事は違ったが、奇跡的に陽キャとコミュ障という、正反対の二人が同じ行動をとった歴史的な瞬間であった。

 

「あ、そういえば明海さんに聞きたい事が」

 

初対面の二人とは違って先ほどから会話を続けていたリョウは、先程から何度かヒモに尋ねたが、しかし適当にかわされて聞けなかったあの事について明海に尋ねる。

 

「さっきヒモがバンドやってるって聞きました。明海さんとしかバンド組まないのって......」

 

リョウがヒモのバンドについての話題を出した瞬間、明海の顔が曇った。

 

「それ、私のせい...なんだよね......」

 

リョウの言葉を受けて明海は神妙な顔つきを浮かべる。そのあまりの真剣さにリョウは地雷を踏んでしまったのかと珍しく自らの言葉を反芻する。

 

「私の両親、家にいなくてさ。今までヒモと二人で過ごしてきたんだ」

 

複雑な家庭の事情。ヒモと明海の苗字が違う事から何かがあると結束バンドのメンバーは前々から感じ取っていた。

 

「私にはもうヒモしかいなかったから......せめてヒモだけは他の人に取られたくない! って思って......小さい頃から色々とやってきたんだよね......」

 

明海はヒモをシスコンに育てあげる事でヒモが自分から離れないようにした。結果としてヒモは異性はおろか、同性であっても他人に対してあまり踏み込まないような性格となり、今日まで友達と呼べるような関係を学校で築けてはいない。

 

「身内だから......ってのもあるかもしれないけどヒモってかなり好物件だと思うの。顔もいいし勉強もできるし料理もできる。何かあったとしてもおばあちゃんの旅館を継げるから将来性と安定性もあるしね」

 

過保護シスコンに育てられたヒモが、姉を支えるために必死に努力した結果である。

 

「だけど私のせいで今まで彼女ができた事ないんだよ......。私も大人になって振り返って......本当に悪い事したなって。だからリョウちゃんが最初に家に来てくれた時、ヒモとそういう関係なら応援しよう! って思ったんだ。

 

まあ、それも考え直してみればヒモの気持ちをまた無視した事だと気づいたんだけどね。私、いつも失敗して......。だから皆、そんな彼氏彼女とか気にしないで友達としてでいいからヒモと仲良くしてくれると嬉しいなって」

 

「大丈夫。私はどんな理由だろうと毎日ご飯を食べに来る」

 

「それどうなのさリョウ......。でも私も同じです。一緒に演奏して凄く楽しかったです。ヒモ君が嫌がらない限り、私はまた一緒に演奏したいなと思っています」

 

誰かが言った。「バンドとは第二の家族のようなもの」だと。リョウは置いておいて虹夏は、一緒に演奏をしたヒモに対して少なくとも好意的であった。願わくばまた一緒に演奏をしたいと本心から思っていた。

 

「私も! ヒモ先輩とはいつまでも仲良くしたいと思ってます!」

 

まごう事なき本心である。

 

「わ、私もです......」

 

口籠もりながら答えたひとりであったが、今の明海の一連の言葉を聞いて彼女はヒモに対して親近感を抱いていた。同じ一人だという事で。

 

「そういえばヒモ君が今まで恋人いないってのは聞きましたけど裏を返せば明海さんも今まで彼氏いなかったって事ですよね?」

 

明海もかなりの美人である。ヒモをいいあだ名! と言うくらいには感性が一般とかけ離れていたり家事が全くできないなどあるが、しかしそれでも今まで恋人がいないと言われれば驚くものである。

 

「ん? 私普通に彼氏いた事あるけど」

 

「「「「え?」」」」

 

「あ、ヒモには内緒だよ? 私が彼氏いたなんて知らないから」

 

「「「「............」」」」

 

結束バンドのメンバーはヒモが哀れに見えてならなかった。




江ノ島の回のアニメでカップルの会話に虹夏も白くなってたから多分虹夏に彼氏はいないんじゃないかな?誰だよ虹夏に彼氏がいるとか言い始めたやつ。

最初のライブの時のきくりとの会話を見るにリョウって一応敬語も使えるのかって。明海との会話もそんな具合です。

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