ぼっち・ざ・ソリスト!   作:マイケルみつお

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前話で明海はクズというコメントを頂きました。ありがとうございます。補足しておくと意図的に行ったのではなくヒモを離したくないという潜在意識から無意識的に行っていたという事です。自分の描写不足で申し訳ない(それでもクズなのは変わらないけど)。


7話 優しさと甘さは言い得て別腹!

 「ヒモさんも私と同じでぼっちだったんだ」

 

ヒモの家で解散し、電車に乗って帰宅したひとりは自室の防虫剤の匂いが充満した押入れの中でギターを握りながら考え込んでいた。明海の話を聞く限りだとヒモも自分と同じでぼっちなのではないのかと。そして......

 

「同じぼっち相手なら友達になりやすいのでは?」

 

リア充や陽キャ相手だと話す事すらできない自分だが、ぼっち相手なら勝機はあると考えるひとり。相手の足元を見て友達になれるか考える、これが後藤ひとりの友達作り! まさにフォロワーを増やすために敢えてフォロワー数の低いユーザーにアプローチをかけるが如く悪魔の所業! 

 

「うへ、うへへへ。これで私もバンドメンバー以外の友達が。そして今までと違って誘われる側じゃなくて誘う側だうへへ」

 

ひとりの妄想は止まらない。

 

「友達が欲しい人に手を差し伸べる......。これは最早陽キャなのでは?」

 

まだヒモに声をかけてもいない段階で既に数段階上の妄想、これこそ後藤ひとりの真骨頂! 

 

「うへへへへへ」

 

止まる事を知らないひとりの大妄想。最早誰も彼女を止める事はできない! 

 

「ひとりちゃ〜ん、ご飯よ〜」

 

「アッハイ」

 

止まった。

 

──────

 「でもぼっち同士だったらお互いに友達を求めているだろうし丁度いいと思うんだよね」

 

家族で夕食というワンクッションを挟んだおかげで今のひとりは妄想という名の幻覚に侵されずに物事を考えられている。

 

「最初、リョウさんも同じ匂いがした。でもリョウさんはぼっちというより一人好きって感じで......ぼっちと一人好きには天と地ほどの大きな隔たりがある!」

 

もうあの時みたいな勘違いはしない! とひとりは心に決めていた。

 

「でもヒモさんからはリョウさんみたいな孤高! ってイメージはないし......どっちかというとリョウさんより私に近い気はするよね」

 

ひとりは自分がちょっと酷い事を言っている自覚がなかった。

 

「とにかく善は急げ! このアクションが私の明るい未来を切り拓くよね!」

 

ひとり達が生きるのは高度な文明が発達した現代社会。ひとりは現代の友達とのコミュニケーションがスマホでのメッセージによって成り立っている事を漫画で学習している。

 

「そして! 私は既にヒモさんの連絡先を知っている!」

 

ひとりもヒモも『結束バンド』のグループロインに追加されている。そして同じグループに属する者はお互いの連絡先が分かるのだ。これは友達作りにおいて大きすぎるアドバンテージ。グループチャットのメンバー一覧からヒモのアカウントを呼び出し追加......

 

「そういえば確か友達追加した時、相手に通知がいくんだよね?」

 

最初に虹夏と連絡先交換をした時にそうだったので間違いない。

 

「......あれ? そういえばいざ追加したとしてどんなメッセージ送ればいいのかな? バンドに関する内容だったらグループに送れって言われるかもしれないし......」

 

思考を張り巡らせていく内にひとりはある事に気づく。

 

「......私、そう言えばヒモさんとバンド......音楽の事でしか話した事がない......」

 

リアルで少し話した事があろうと、グループで話した事があろうと、個別メッセージを送る事は簡単な事ではない。今更ながらひとりはそんな(彼女にとっては)当たり前の事実に直面する。それはひとりにとって高すぎる壁だ。越えようとするなら命すら危ない。

 

彼女は無言でロインをタスクキルした。

 

「ま、まあ! 向こうも友達になりたい! と思っているだろうし少し待っていれば向こうから連絡が来るよね!」

 

お互いがぼっちで友達を作りたがっていると考えたひとりはそのままスマホを握りしめながら布団に入った。

 

 

 

 

「ハイ。結局メッセージは来ませんでっしたぁ。最初から分かってましたよー、そんな事」

 

結局ヒモからメッセージは届かなかった。そもそもヒモは昨日、ロインを起動すらしなかった。

 

「......学校行こ」

 

全てを諦めたひとりは登校の準備を始めた。

 

──────

 教室に着いた。ひとりはクラスに友達がいない。いつも通り朝のホームルームが始まるまで机に突っ伏して寝たフリをする。それは昨日、妄想で思い描いた自分像と遠くかけ離れた姿であった。

 

「(あれから何回かメッセージを書いては消してを繰り返したけど結局送れなかった......)」

 

文章を何度も確認し、失礼のないようにひとりは推敲を重ねた。

 

「(やっぱりダメだぁ......)」

 

だが結局、メッセージを送るどころか友達追加すらできなかった。

 

「(誰かに相談してみる......? あ、そうだ! 同じ学校だし喜多さんに相談してみよう!)」

 

「「((あ、後藤さんが立ち上がった))」」

 

まだ授業が始まるまで時間がある。そんな中、寝たフリをしていたひとりが突然勢いよく立ち上がった事でクラスの何人かは「後藤さん」を話題にし始めた。勿論そんな事、ひとりが知る由もないのだが。

 

郁代のクラスまでさあ行こう! と右足を勢いよく振り上げたまさにその時! ひとりの脳裏にはある映像が流れた。

 

「(ダメだ......。喜多さん、ヒモさんの熱狂的なファンだからそんな事言ったら絶対話が大きくなる......)」

 

郁代のヒモに対する熱弁をつい思い出してしまい、ひとりは二歩目以降の歩行動作をする事ができないまま硬直してしまった。

 

「(ヒモさんが羨ましいなぁ。私にもあんな熱狂的なファンが欲しいなぁ)」

 

「「((え、なんで後藤さんさっきから片足立ちしてるの??))」」

 

ヒモがひとりの言う「(熱狂的とまでは言えないかもしれないが)ファン」に当たる事を知らないひとりは、郁代に相談するという手段も絶たれてしまい、万策が尽きてしまった。

 

「「((あ、後藤さんまた寝た))」」

 

こうなってしまえば授業が始まるまでまた寝たフリをするしかない。

 

後日、自分が「片足立ちの人」と呼ばれている事をたまたま聞いてしまい押入れの中で枕を濡らす事になるのはまた別の話である。

 

──────

 「じゃあ今日はこれで終わりかな? おつかれー!」

 

「お疲れ様です!」

 

「ん」

 

「......お、お疲れ様です」

 

結局その後は何も起こらずひとりは下校しSTARRYにてバンド練習も終わった。......いつもの日常と何も変わらず。

 

「お腹空いたしヒモの家でご飯食べてこよ」

 

「(最近給料が減ってる気がする......)」

 

そんなリョウの言葉に虹夏はメモを取り出しながら呟いた。

 

「あ、そういえば今日月末だね。じゃあ私も行こうっと」

 

ヒモの家に虹夏も付いていくという事を聞いて熱狂的ファン(郁代)が反応した。

 

「先輩達も行くんですか! わ、私もお供させて下さい!」

 

結束バンド四人中三人の同行が決定した。

 

「(この流れ、乗るしかない!)」

 

「あ、わ、わたし......」

 

「ぼっちちゃんも来る?」

 

「ハイ」

 

「(虹夏ちゃん! ありがとうございます!)」

 

こうしてひとりは自分で一歩たりとも踏み出していないというのに前に進む事に成功した。

 

──────

 「ヒモ、ご飯食べに来たよ」

 

「イ、インターホン鳴らさずに合鍵で入るなんて......先輩、ワイルド!」

 

客であれば通常インターホンを押して中の住人に扉を開けてもらう事が普通なのだが......リョウは合鍵を使い、その来客らしからぬ行動に対してなぜか郁代は目を輝かせていた。

 

「だ、誰もいないですね......」

 

「リョウ? まさかと思うけど今日来る事ヒモ君には......」

 

「勿論言ってない。大体いつもヒモか明海さんいるから」

 

リョウから返ってきた返事に虹夏は肩を落としロインでヒモに状況を説明。夕食の買い出しに明海と出かけておりあと十分ほどで帰宅すると返信がきた。

 

「じゃあ先に入って寛いでおこう」

 

「あんたは常識を身につけなさい」

 

そもそも赤の他人に合鍵を渡す明海が全ての元凶なのだが......虹夏がリョウの首根っこを掴んで家の敷地外まで引き摺っていった。尚、なんだかんだ言ってリョウ達よりヒモが大切な明海。ヒモが一言言えば......厳密に言うとリョウとそういう関係になる事はないと伝えれば合鍵問題は解決する。

 

反対にヒモの方は明海がリョウに渡したので自分からはあまり強く言えない、といったところから二人の間で精神的なすれ違いが起こっている。

 

 

 

 

「あ! リョウちゃんだ! 他のみんなもいる!」

 

待つ事10分。ヒモと明海が帰宅した。

 

──────

 温かいものが食べたかった明海が鍋を所望し、6人で鍋を囲んでいた。

 

「真冬じゃないけどこの時期に食べる鍋は美味しい」

 

「冬の食べ物といえば鍋とかおでんとかがありますけど......おでんはコンビニに一年中並んでますし......鍋に季節は無いのかもしれませんね!」

 

コンビニでおでんを買った事のない郁代がリョウに答えた。

 

「それにしても落ち着くねぇ。なんだか自分の家みたい」

 

「違う。虹夏の家じゃない。私の家」

 

「お前の家でもないぞ」

 

リョウ、虹夏、郁代は完全にヒモの家に馴染んでいた。

 

「(え......喜多さんもいつの間にかこの家に馴染んでる......。っていう事は私だけ?! で、でもっ! 四人中三人がこの家に馴染めたんならもう一人もなし崩し的に馴染めるかも......)」

 

そう思っていたがいつまで経ってもひとりから緊張は消えなかった。

 

「(ですよねー。分かってましたよそんな事)」

 

虹夏達に付いていけば、あるいはヒモの家にまた来れば......彼と友達になれるかもしれないという彼女の甘い考えは見事に粉砕された。まさに万策尽きた状態(二回目)。

 

「(あ、美味しい)」

 

ひとりはもう何も考えずに食事を楽しむ事にした。

 

 

 

 

「そうそう! 私とリョウが学校同じで、ぼっちちゃんと喜多ちゃんが同じ学校!」

 

ひとりが食事を楽しむ中、会話は学校の話題、「がこばな」に移り変わっていた。

 

ヒモが通う高校はリョウや虹夏が通う学校よりも偏差値が高い所謂進学校。学校が社会の中心である高校生である彼、彼女達にとって他校の生活というものは強く興味をそそられる話題である。虹夏達はひとりの「がこばな」に話題の矛先が向かないよう細心の注意を払いながら話を進めていった。

 

「やっぱり校則とか厳しいの?」

 

「うーん......校則とかあんまりないんだよねぇ......。基本自由、みたいな?」

 

思春期は反骨心が尖っており「禁止」されるとむしろやりたがるものである。最初から禁止などしなければダサい格好も周りの目を気にしてかしなくなる。そういった考え。

 

「授業中とかもきちんと理解していれば他の人に迷惑をかけない限り大体何やってもいいし......」

 

あくまで「きちんと理解していれば」という前提があるため怒られないからといって授業を聞かない生徒はあまりいない。

 

「ヒモ君は学校でどんな感じなの?」

 

「どんなって......普通だと思うけどなぁ。登校して授業受けて帰るくらい。部活とかやってなかったらそんなもんじゃない? 虹夏達も似たようなものでしょ?」

 

「うーん......確かにそう言われればそうかもしれないけど......あ、昼休みとか! 昼休みは何をしてるの? クラスの子とどんな事してるのかな? って」

 

他校の流行りも知っておきたい虹夏であった。

 

「授業で分からない時があったら教科書を確認したり......クラスの人から話しかけられればたまに遊んだりするけど......基本は図書館とか......あ、屋上のドアの前の踊り場とかにいるかな?」

 

「屋上の踊り場?」

 

「うちの学校、屋上は解放されてないんだよね。うちのクラスから階段を一階上れば着くんだけど、電気が切れてるから誰も来ないんだよ。だからマット敷いたり色々して寛いでるよ」

 

「......なんかどこかで聞いた事があるセリフだ......」

 

その話に聞き耳を立てていたからか、ひとりのアホ毛がピクリと反応した。

 

「ヒモ、何で部活入らなかったの? ......今はバンドしてないのに」

 

リョウが一番聞きたかった事。それはすなわちヒモがバンドをしていたという事。彼女は郁代と違ってヒモのステージを見た事がなかった。

 

「えっと......シンプルに時間がないというか......」

 

紐川家の家事担当はヒモである。というのも明海にやらせると余計な仕事が増えるだけなのだが......。

 

ヒモの朝は早い。学校が始まる時間よりも早く起きて(明海は当然寝ている)運動し、前日仕込んでおいた朝食を仕上げてから学校に向かう。彼は料理に対しては並々ならぬ熱意を抱いており時間的に困難などの理由がなければ手を抜きたくないと考えている。

 

学校では先ほど言ったような過ごし方をし、下校したら掃除洗濯夕食作り、翌朝の朝食仕込みなどの家事を済ませ、それらが一段落すれば宿題など勉強の時間に入る。全てが終わればおおよそ9時を回っているがここでようやく自由時間。本を読んだりピアノの動画撮影などを始める。

 

休日は母方の祖父母の旅館の手伝いに行く日もあれば一日中ピアノなどの趣味に勤しむ日もあり......毎日数時間を部活に費やす事は不可能なのである。

 

「そっか。でもそれなら今度のライブには来れるよね。チケット私から買って」

 

他人と合わせる技術こそまだ未熟ではあるがそこさえ改善できればヒモはひとりと同じく原石の塊だと思っていたリョウ。バンドに加入させる事は今日は諦めたもののチケットの金づるにできないかと思考を転換した。

 

「学校......屋上の前の踊り場......。うん、インプット」

 

尚、先ほどから会話にちっとも参加しない郁代。彼女はヒモのプライベート情報を一言一句インプットするのに必死で会話などできる状態ではなかった。

 

──────

 「どう? 美味しい?」

 

「グェ......アェ? あ、あ、、、ハイ......」

 

会話もひと段落し、腹も膨れてのんびりしている中、ヒモは先ほどから一言も発していないひとりの元を訪れた。

 

「さっきから入りにくい話をしてごめんね」

 

「(私の心配してくれてた! ヒモさんいい人!)」

 

昨夜、ヒモを友達に誘って()()()自分、とひとりは妄想していたが事実は逆だったかもしれねぇ......。

 

「(い、今がチャンスだ......。向こうから話しかけてきてこんな状態......二度とないかもしれない......!)」

 

「あ、あの!──」

「山田とかから何かされてない?」

 

ひとりの一世一代の告白はヒモの言葉に遮られた。

 

「いや、ぼっちさんお願いされたら断れないだろうし山田......典型的なバンドマンからすればいいカモだろうからさ」

 

「え、いや......私は特には......」

 

「(そのカモってどっちかと言えばヒモさんの方では?)」

 

尚、ひとりがリョウに貸した昼食代はまだ返ってきていない。

 

「あ! 忘れてた! はいこれヒモ君。今月のお金ね! 一応回数数えてはいるけど合ってるか確認して!」

 

ヒモとひとりのリョウの会話に何かを思い出したのか、虹夏はリュックサックの中から茶色の封筒を取り出しヒモに渡した。

 

「に、虹夏ちゃん、それ......何ですか?」

 

封筒の中の野口さんと小銭を数えるヒモを差し置きひとりは虹夏に尋ねた。

 

「リョウの食費だよ! 月末にリョウがヒモ君の家でご飯食べた回数を数えてSTARRYのバイト代から天引きしてるの!」

 

「ヴェッ?!」

 

「(リョウさん知らなかったの?!)」

 

「いや言ったよね? 私。材料費とかあるし、せっかく作ってヒモ君が赤字になるのはおかしいじゃん? それに安すぎるくらいだよ! こんなに美味しいご飯が一回200円だなんて! 外で食べたら10倍以上は確実にするよ! ......今思い返してみればその時上の空だったような気もしなくはないけど」

 

虹夏の発言を受けてひとりは慌てて自分の財布を開く。

 

「す、すみません! 私も何回かお世話になったのに......今払います!」

 

「いや、大丈夫だからぼっちさん。そんな月数回とかだったら喜んでご馳走するし......」

 

「でも......」

 

「これ、山田が来た回数。ね? 全然違うでしょ?」

 

「こ、これは......」

 

虹夏から貰った封筒。カレンダーのほぼ全ての日にちに丸が書かれていた。

 

「......ほぼ毎日、そして旅館の手伝いに行かない休日にはほぼ毎食やってくる」

 

流石にひとりや虹夏達とは話のレベルが違った。

 

「ぼっちさんはまだバンドを組んだばかりで、ロックの世界に入ったばかりであまり分からないかもしれないけどバンドマンという人種を普通の人間と同じように考えたらダメなんだ。奴らは常識が通じない。一度優しさを見せればどこまでもつけ込まれ食い尽くされてしまう」

 

ヒモは明海を通して生粋のバンドマンと多く接してきた。ヒモが他人と合わせられない理由の一つにバンドマンに隙を見せたらダメだという気持ちがある。

 

尚、明海も中々のバンドクズではあるがヒモにとってはそれはそれ、これはこれ。姉の明海はセーフなのである。

 

「優しさと甘さを履き違えたらダメだ。奴らは一度隙を見せれば搾り取れるだけ搾り取っていくんだからな」

 

そこにはヒモのバンドマンに対する確かな哲学があった。




尚、一食200円という良心的すぎる価格設定では大した抑止力は期待できない模様
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