~零side~
俺があいつを殺してから1年が経った。
俺はこの汚れた街、スラム街で生きてきた。別に大したことはしていない。なにせ雑魚ばかりだからな。
「にしても、今日は嫌な天気だな。」
朝からしとしと降る雨に不快感を覚えながらも、俺は今日も1日の食料を求めて街に出る。
「全く、くそったれた街だぜ。」
その日の食料を手に入れるには誰かから奪わなければならない。俺は確かにもともと好戦的な性格だった。そう、『だった』のだ。俺はあいつを殺して以来、あまり戦う気が起きなくなっていた。
まあそれもそうだろうな。なにせあいつが俺の一番のライバルであり、親友であり、そして何より良き理解者だったのだから。
あの日、俺はあいつを殺した。何かの間違いだったのだろう。そう思いたい。突然俺に刀を向けてきた。そして俺は自分の身を守るために刀を抜き、あいつを殺した。
「皮肉なもんだよな………」
俺はあいつを殺した。一番のライバルであるあいつを殺した。もうこれ以上力はいらない。そう思った途端に手に入れたのが『万華鏡写輪眼』だった。
結局残ったのは虚無感と、不要な力と、4本の刀。そして命。本来ならこの命は残らないはずだった。
京極家の、いや、藤原家の掟では同族殺しをしたものは殺される運命にある。だが俺はそうされなかった。いや、できなかった。なぜなら俺が強すぎたから。
「いつまで生きればいいんだろう………。」
母さんは最後の最後まで俺の味方をしてくれた。
俺が万華鏡写輪眼を開眼したと知ると、俺が殺したあいつの眼を俺に移植した。あいつもまた、万華鏡写輪眼の開眼者で、京極家の中でも実力者として名が通っていた。
その行動の意味が分からなかった俺は、母さんに聞いた。
「あなたの光をなくさないためよ。酷かもしれないけど、あなたには生きてほしい。京極家を追放されることになってしまったけど、それでも生きてほしい。」
結局これが母さんと交わした最後の言葉だ。俺は本当は死にたかった。でも母さんが『生きてくれ』と俺に言った。俺の味方をしてくれた。だから今生きている。
逆を言えばこれ以外に俺の生きる意味はない。
「さて、行きますかね。」
今日のこの日が俺の人生の第二の転機だった。
~???side~
「ここどこ?」
私は家族と一緒にお出かけをしていた……はずだった。
いつの間にか家族と離れて薄暗い道に来ている。
「お父さん、お母さん、どこ………」
私は不安でいっぱいになって、ついに涙が零れ始めてしまった。
「うぅっ……グスッ………ふぇ~~~、お父さん、お母さ~~ん!」
私は自分の泣き声のせいで、自分に近寄る数人の足音を聞きのがしていた。
~零side~
「今日の獲物は………」
今日の食い扶持を確保するために、この薄汚れた街をひたすら歩き続ける。その時だった。
「きゃああぁぁぁぁぁぁぁ!」
幼い女の子の声が聞こえる。
「嫌っ!だ、誰か助けてええぇぇぇぇぇぇ!」
俺は声のする方へと走った。
女の子は案外近くにいたようで、20秒近く走ったところにいた。
そこには、大人3人が1人の少女を取り押さえようとしていた。
「お父さん!お母さああぁぁん!」
「このガキッ!うるせえぞ!」
「嫌っ!やめっ!んんんーーーーっ!!!」
1人の大人によって口を塞がれ、少女は暴れることしか出来ない。
しかしここはスラム街。生き残っている大人というのはホームレスのおっちゃんか
今少女をとらえようとしている3人は屈強とまでは行かないまでも、それなりに荒らして稼いでいるみたいだ。
そんな男たちに少女の力で敵うはずもなく、されるがままになっていた。
「人情も忘れちまった哀れな奴らか………。」
かくいう俺も人情に溢れているわけではないが、なくしているわけでもない。
「しかたない。めんどくさいけどあの女の子が可哀想だからやるか………。」
俺は4本の刀の中から、1本だけを抜き、ゆっくりと大人たちに近づく。
「あんたら、それぐらいにしとけよ」
すると、3人の大人が一斉に俺の方を向く。
「あぁん?なんだこのガキ?」
「弱そうなガキだなぁ?王子様気取りかぁ?」
「一丁前に刀なんて持ちやがって。しかも4本も持ってるぜ?こりゃあいいカモじゃねえか!」
少女を抑えてた男が手を離す。少女は地面にペタンと尻餅をついた。だが、どうやら腰が抜けてしまったようで立ち上がれていない。
「へへへっ、痛い目見てもらうぜ?」
「まったく、黙って見てればよかったものを」
「さ~て、お仕置きの時間ですよ~」
3人が手をポキポキ鳴らし、ニヤニヤしながら近づいてくる。
俺はわざと無言で答えずにただただ相手をじっと見つめる。
「おい、無視してんじゃねえぞガキ!」
「ぶっ殺されてぇのか!」
俺の態度が気に食わなかったのか、3人とも怒り出して、俺の方に突進してきた。
「………遅い」
こんな奴らに写輪眼なんぞを使ってやる必要はない。
3人が俺につかみかかろうとした瞬間に横を通り抜け、全員の背中を峰打ちする。
ドサッ
3人が声もなく倒れる。俺は少女の方へと近づいた。少女に右手を差し出し、そのまま引っ張り上げる。
「大丈夫か?」
「あ、ありがとう。君、強いんだね?」
「………まあな。それよりどうしてこんなところにいる?捨てられたのか?」
「ち、違うよ!迷子になっちゃただけ!」
「そうか。」
その時、遠くから大きい呼び声が聞こえた。
「七夏~、七夏~!」
「どこにいるんだ~!」
大人の男性と女性の声だ。
「あ、お父さんとお母さんの声だ!お父さん、お母さん、私はここだよ~!!」
その声を聞きつけたのか、息を切らしながら先ほどの声の持ち主と思われる2人が来た。
「「七夏!」」
「お父さん、お母さん!」
どうやら少女の名前は七夏というらしい。少女が両親に抱き着いた。安心からか、涙を流していた。
俺はその光景を見て刀を鞘に収めた。
「もう何してたのよ!こんなところに来ちゃって!心配したんだからね!?」
「ごめんなさい………。迷子になっちゃった………。」
この温もりはもう俺には無いもの。このままここに居続けるのは精神的にキツい。俺は確かに戦闘能力は高いがそれでもまだ11歳だ。誰かに甘えたくなる時もある。
このままここにいると、今の俺を保てなくなってしまいそうだ。
俺はそのまま踵を返し、自分の住処へと帰ろうとした。
「ケガはなかったかい、七夏?」
「うん!あの男の子が悪いおじさんたちから守ってくれたの!」
「なに!?」
………この流れは非常にまずい。
「ちょっと待ってくれ!」
………やっぱりこうなったか………。
「この子を助けてくれて本当にありがとう。何かお礼をさせてくれないか?」
「いえ、たまたま通りかかっただけです。ですからお礼はいりません。」
「せめて、せめて食事だけでも一緒に食べないか?」
ピクッ
食事だと?今日の飯の心配がなくなる?
「………分かりました。ご一緒させていただきます。」
「そうかそうか。それじゃあ私についてきてくれ。あ、自己紹介がまだだったな。私は八代 要(やつしろ かなめ)だ。要さんとでも呼んでくれ。」
『八代』か…………。この人、十師族だな。
十師族には俺の苗字を名乗るわけには行かない。名乗った瞬間にどうなることか分かったものじゃない。
「……零です。よろしくお願いします、要さん。」
「よし、それじゃあ行くとするか!おーい、麻美、七夏~!これから零君と一緒にご飯を食べることになったぞ~………」
要さんは奥さんと娘さんのところにすぐさま走って行った。
「家族………か………」
母さん、元気かな?元気だといいな。
俺はほんのわずかな時間だけ、自分の母に思いを馳せた後、要さんの後を追った。
京極家はとてつもなく大きいです。
強いて言うなら京極家の中で10以上の家族がいます。という設定です。