~零side~
「「「ごちそうさま(でした!)」」」
「………ごちそうさまでした」
俺は今八代家に招待されて、ご飯をご馳走になったところだ。
手作りの飯なんて1年ぶりだ。それに他の人と一緒に食べるのも。
「どうだった、零君?口にあったかしら?」
要さんの奥さんの麻美(あさみ)さんが微笑みかけてくる。
「ええ。とても美味しかったです。ご馳走様でした。」
「そう?それは良かったわ。」
『フフ』と笑いながら食器を片付ける。
懐かしいな、この温かみ。俺が失ったもの。もう二度と手に入らないもの。
「零君、この後少し話があるんだが、構わないかな?」
「ええ。この後することもありませんし。」
「そうか。それなら後で私の部屋に来てくれ。…麻美~!後で私の部屋に零君を案内してくれないか~?」
「は~い。わかりました~。」
要さんが台所で洗い物をしている麻美さんに聞こえるように大声で言うと、麻美さんも要さんに聞こえるように大きい声で返事をする。
「じゃあ麻美が洗い物を終えたら一緒に来てくれ。」
「分かりました。後でお伺いします。」
「零君を連れてきました。」
「入ってくれ。」
やはり
扉を開けると、そこには要さんが座っていた。
麻美さんは用事を終えて帰ろうとしていた。
「あ、麻美もいてくれ。」
「分かりました。」
俺と麻美さんは部屋の中へと入り、俺が要さんの前に、麻美さんが要さんの横に座った。
「それで、話というのはなんでしょうか?」
「まず、今日は七夏を助けてくれてありがとう。あそこはスラム街の中でも特に治安の悪いところでな。あのままだと、冗談抜きで七夏の命はなくなっていたかもしれない。本当にありがとう。」
要さんが頭を下げる。それに合わせて麻美さんも頭を下げてくる。
「いえ、偶々あの場に出くわしただけですのでそこまで畏まらないでください。こんな小僧に頭をさげることなんてありませんよ。」
「そのことなんだが………零君、君はなんであんなところにいたんだ?」
要さんが険しい顔になる。
「さっき『小僧』と言ったが君は何歳なんだ?」
「………11歳です。」
「11歳の君が、なんであんな治安の悪いところに?それに、君の腰にささっているその4本の刀は何だ?」
「………」
「そして最後に、君の苗字は何だ?」
ばれている。この人を舐めていた。流石
「どういうことです?」
「………この子がもしかしたら他の
「!!」
麻美さんの顔が驚愕の表情へと変わる。
「分かりました。すべてお話します。」
「……そうか。だが安心してくれ。君の正体が分かったところで私たちは何も手を出さないし口外もしない。何せ君は七夏の命を救ってくれた恩人だからな。」
そして俺はすべてを打ち明けた。
「………そうか、君は京極家の………。」
「ええ。それも1番の友を殺して追放になった者です。」
「だがそれは君も追い込まれていたのだろう?それならば仕方ないとまでは言えないが、ごく普通の選択肢だとは思うぞ?」
俺はこの言葉に驚くばかりだった。11歳の小僧が『人を殺したことがある』などと言えば、普通は誰でも驚くものだ。しかし要さんは違った。こんな俺のことをしっかりと見つめてくれている。
「それで、君はこれからどうするんだ?」
「どうするも何も、またあのスラム街で今まで通り暮らしていくだけですよ。」
「そ、そんなの良くないわ!」
「俺もそう思う。………どうだ、零君。この家の養子にならないか?」
俺が………この家の子供に?二度と手に入らないと思っていた家族がもう一度手に入る?でも、もし俺がこの家に力を貸したと思われたら………。ああ、この家が
「僕にとってとても良い話なのですが………お断りさせていただきます。」
「な、なんで!?」
「落ち着きなさい、麻美。それで、わけを教えてくれるか?」
「はい。僕がこの家の養子になったら、この家に迷惑をかけてしまいます。特に、もし僕が存在が京極家に伝わって、この家に力を貸しているとでも勘違いされたらどうなるか………。
「ああ。だが私はこんな子供を放っておくことは出来ないのでな。京極家への言い訳は私が考える。だから俺の、いや俺たちの子供にならないか?」
なんで、なんでこの人はこんなに俺のことを………?
ここまで言われたのは人生で2回目だ。京極家では『兵器』として大事に扱われていたこの力。今は1人の子供として扱ってくれている。
単純な『言葉』かもしれない。それでも要さんがかけてくれた『言葉』は、母さんが最後の別れの時にかけてくれた言葉と同じくらい心に響くものだった。
「正直に言ってくれ。またあのスラム街に戻りたいのか?俺は七夏を助けてくれた君を救いたい。そして七夏と姉弟になってほしい。そうでなくても、仲良くなってほしい。そのための1番の手段がこれだ。君はどう思っているんだ?聞かせてくれないか?」
「俺は………俺は………。」
この日、涙を流しながら言った言葉は
『八代 零になりたいです………。』
2095年 2月
「行ってきます。」
「「行ってらっしゃい!頑張るのよ!!(頑張ってね!!)」」
母さんと姉さんに見送られながら、国立魔法大学付属第一高等学校の入試に向けて家を出る。
俺がこの家の養子になってから約5年程。この八代家の人は皆優しい。
父さん、母さん、姉さんは勿論、使用人の人等々、この家に関わる人全てが人間味に溢れる人ばかりだ。
これも父さんの人柄の良さが関係しているのだろう。
俺と姉さん、つまり七夏姉さんはというと、俺が養子になりたての頃は、人殺しの過去を負い目に感じていた俺が姉さんを避けていたため、あまり仲が良くなかった。というより、姉さんは一生懸命俺に近づこうとしていてくれたが、俺がなるべく姉さんに会わないようにしていたため、2人の距離が近づくことはなかった。
だが俺が13歳つまり中学1年生のとき、その関係が一変した。
俺は小学生のころはあまり明るくなく、姉さんは『みんなの前でも暗かったから、てっきり元から暗いせいで私ともあまり話さないのかな~』と考えていたらしい。『それでも、やっぱり話してもらえなかったのは悲しかったけどね』とジト目で睨まれたのも今となってはいい思い出だ。
そんな俺も中学生になり、やっと『普通の』学校生活に慣れ、友達と普通の中学生らしくバカらしいことをたくさんやっていた。それでもやはり姉さんには負い目からあまり仲良くできなかった。
あれはある日の夕方だった。家に帰ると姉さんが玄関で俺を待ち伏せしていた。そして俺が帰るやいなや、俺の手を掴み姉さんの部屋へと連行された。
「ねえ、零君。なんで零君は私のこと避けるのかな?」
「え、いや、そんなつもりは………。」
「避けてるよっ!!!」
珍しく姉さんが叫ぶ。目には涙が浮かんでいた。
「私、弟が出来てうれしかった。それも私を助けてくれた優しい男の子が弟になる………その話を聞いたとき、私はすごく嬉しかった。」
姉さんが俺の肩を掴む。
「でも、零君は私の前で明るくしてくれない!ねえなんで!?私のことが嫌いなの!?どんくさい姉なんて嫌なの!?ねえ、なんで!?理由を教えてよ………。」
確かに、俺がここの養子になったころは姉さんどんくさかった。でも中学生になるころには姉としての自覚からか、頼りになる姉になっていたのだ。そんな良い姉さんを、俺は………。
(俺、最低だ………こんないい人を泣かせるなんて………)
「ち、違うんだ、姉さん。俺、俺………」
本当のことを話して安心させてあげたい。でも話して怖がられたくない。
どうしようか迷っていた時、姉さんが俺を諭すように声をかけてくれた。
「お願いだから話して?怒ったりしないから………。」
「でも、話したらきっと怖がられる………。」
「怖がったりしない!私ね、零君の優しいところいっぱい知ってるよ?だから絶対怖がったりしない。ね?話して?」
「………姉さん、僕はね………人を殺したことがあるんだ。」
そこから俺は、まるですべてを白状する容疑者のように話した。話している最中、全く姉さんの顔を見ることが出来なかった。話し終わってからも、拒絶されるのが怖くて顔を上げられなかった。その時だった。
俺の頭をふわりと柔らかいものが包む。そして頭に何か温かいものが落ちてくる。
「ごめんね、零君。話すの、辛かったよね?ごめんね、私が問い詰めたばっかりに………。本当にごめんね………。」
姉さんが泣いていた。そしてあろうことか俺に謝っている。
「なんで………なんで姉さんが謝るの?悪いのは俺なのに………。」
「零君は悪くないよ………。そんなに自分を責めないで………。」
この日、俺は本当に姉さんの『弟』になった。
姉さんが俺を救ってくれた。いや、俺の心を救ってくれた。
だから俺は姉さんのために尽くす。俺の命も、この力もすべては姉さんのために。
本当は高校なんてどこでもよかった。でも俺のすべてを姉さんのために使うには一高に行くのが最善の選択だった。だから俺は今一高の入試へと向かっている。
「姉さんの顔に泥を塗らないためにも
姉さんは『一高に入ってくれるなら私はどっちでもいいよ』と言ってくれたが、やはり姉に身を捧げようと言うからにはやはり一科生になった方がいいに決まってる。
「まあ普通にやれば大丈夫かな~。」
少し面倒に思いながらも、俺は試験会場へと向かった。
1か月後、『一科生』と書かれた合格通知が家に届いた。