~零side~
「それで、相談ってなにかな?」
今俺は姉さんの部屋にいる。そして姉さんに相談に乗ってもらっている。相談というのは生徒会についてだ。
「生徒会のことなんだけど………。」
「生徒会!?零も入ってくれるの!?」
姉さんが目を輝かせて俺に聞いてくる。
「い、いや、俺はただ会長に声をかけられただけなんだけど………。」
「それってもう誘われたも同然じゃない!ねぇ、入るの?ねぇ、入ってくれるの!?」
嬉しそうな姉さんの顔が目と鼻の先にまで迫る。
「ね、姉さんには悪いけど正直なところ入りたくないんだけど………。」
姉さんの顔が一瞬で凍り付く。
「………零、それはどういうこと?」
俺の肩をがっちりと掴む。そしてギリギリと握ってくる。
「い、痛い痛い痛い!姉さん、指!指食い込んでる!」
「ねえ、零?何で生徒会に入らないのかな?まさかめんどくさいとか言わないよね?」
はい、まさにその通りです。だけどここでそれを白状すると俺の明日はなくなってしまう可能性が………。
「い、いやそれは………。」
「ま、まさか私と同じ空間で過ごすのが嫌なの!?零にも姉離れの時期が来ちゃったの!?」
姉さんがあたふたする。『ど、どうしよう!?』といいながらしばらくあたふたをつづけた後、ピタッと止まった。勿論、その間俺はどうにか姉さんに話しかけようとしたが、あまりの慌てっぷりに俺の言葉は聞こえていないようだった。
「ね、姉さん?」
「………ふぇ~~、嫌だよ~~~零に嫌われたくないよ~~!」
「え、ええ!?」
姉さんがいきなり泣き始めた。
「ちょ、ちょっと待ってよ姉さん!誰も姉さんが嫌とか言ってないじゃん!むしろ大好きだよ!」
俺の言葉を聞くと、まだ少しだけ『ヒック』という声が聞こえるが、泣くのを止めた。
「………本当?」
「うん、本当に本当。俺は姉さんが大好きだから。」
「……あははっ、ありがとう」
姉さんが目にたまった涙をぬぐいながら微笑んで言う。
(うっ!こ、この笑顔は………反則級に可愛い!!!)
心の中で俺が悶えていると、姉の笑みが急に恐怖を含んだものとなる。
「それで、なんで零は生徒会に入らないのかな?」
「え、えっと、それは………。」
――――――俺は姉さんだけを護りたいんだ――――――
~翌日~
今日もいつも通り姉さんと一緒に登校し、校門のところで別れた。その後、教室につくとそこはカオスだった。
なぜかというと、1-Aの生徒(大部分が男子)がとある1つの席の周りに群がっているからだ。
俺はそれを無視し、自分の席に座る。
「授業か………鬱だ。」
高校生としてありきたりかつ超不真面目な発言をした後、机に突っ伏した。
え?なぜ突っ伏すのかって?そんなの決まってるじゃないか。寝るためだよ。………だが俺の思い通りには事は進まなかった。
教室内のカオスと俺の席は離れていたため、悪影響を受けることはないだろうと思って突っ伏していたのだが、なぜか徐々にその喧騒が俺に近づいてくる。
何だろうと思って顔を上げてみると、その中心には昨日見た女性が凛とした佇まいで立っていた。
「………えっと………」
寸前まで眠ろうとしていたため、意識が少しぼやけていて名前を思い出せない。
「司波深雪です。昨日、お兄様と一緒にいらっしゃいましたよね?」
「あ、ああ、達也の妹か。八代 零だ。零って呼んでくれ。」
お互いに握手を交わす。
そんな時、この友好的な雰囲気を大馬鹿野郎がぶち壊した。
「司波さん、終わったかな?じゃあ次は僕たちの相談に乗ってくれないか?さっきからずっと待ってたんだ。」
俺と司波さんが握手している手を引き離すかのように森崎が間に入ってくる。
「え、あ、あの………。」
司波さんが急な出来事に戸惑う。
「あっちで僕たちの相談に乗ってよ。」
「ま、まだお話が………。」
「そんなの後でいいじゃない。私たちの方が先だったんだしさ。」
司波さんの意志に反して、クラスメイトたちは司波さんを連れて行った。
~昼~
「先ほどはすみませんでした。私から話しかけたというのに………」
昼、俺は司波さんと一緒に食堂へと向かっている。え?姉さんはどうしたのかって?姉さんは生徒会役員だから生徒会室で食べるんだとよ。俺も一緒に食べないかって誘われはしたが、生徒会役員と一緒に飯なんか食べてたらいつ生徒会へと引きずり込まれるか分かったもんじゃない。だから断った。
ということで、俺は達也たちと一緒に食べたかったという理由もあり、司波さんと一緒に行動している。
「いやいや、あれは司波さんが悪いんじゃないよ。司波さんの自由を奪ったあの馬鹿どもが悪い。」
「まぁ、随分と口の悪いこと。皆様に言ってしまおうかしら?」
手を口元にもっていってクスクスと笑う司波さん。
「それは勘弁!…これはここだけの話な?」
そんな彼女に俺は右手の人差し指を口に立てて、声のトーンを落としてつぶやく。
「分かっていますとも。ですが、その代わり………。」
司波さんが手を降ろし、急に真剣な面持ちになる。
「な、なんだ?急に改まって」
「………私のことは深雪とお呼びください。」
「は?」
斜め上を行く言葉に思わず素っ頓狂な声をあげてしまう。
「零さんは兄と面識があるのですよね?」
「あ、ああ。」
「それなら、兄と私とを区別するためにも下の名前で呼んでいただきたいのですが………ダメでしょうか?」
身長の差から、上目づかいで俺を見てくる。………はぁ、俺ってこういうのに弱いんだよな。
「ああ、分かったよ。これからは『深雪さん』と呼ばせてもらうよ。」
「ふふっ、ありがとうございます。零さんって意外に女性に弱いんですね?」
………見抜かれた。俺ってそんなに分かりやすいか?
「勘弁してくれ」
両手をあげて『降参』のポーズをとる。司波………おっと、深雪さんって結構お茶目なんだな。今日1番の発見。
食堂についた。この高校の食堂はとても綺麗だ。というよりオシャレだ。
おそらく1世紀ほど前の社会人が見たら『これが高校生の学食かよ』と思うほどだろう。といっても1世紀前のことなど知るはずもないのだが。
俺と深雪さんがそれぞれの昼食を受け取り、達也たちを探す。すると、なぜかあっという間に
(ん?そう言えば昨日深雪さんってエリカたちに対して…………あれ、もしかして深雪さんってブラコン?)
少し親近感を覚えながら深雪さんについていく。達也たちが座っている席にたどり着くと、そこには昨日会った美月とエリカ以外にもうひとり男子が座っていた。
「お兄様!」
「深雪。」
「ご一緒してもよろしいでしょうか?
「深雪ここあいてるよ。」
「ありがとう、エリカ」
エリカが少し横にずれてスペースを作る。エリカって活発なんだけどこういうところは気が利くんだよな。
「達也。」
「零か。ちょうどよかった。レオ、こっちが俺の妹の深雪で、そっちが昨日知り合った零だ。」
どうやらこの新入り(?)はレオというらしい。
「はじめまして。八代 零だ。零と呼んでくれ。」
「俺は西條 レオンハルトだ。レオって呼んでくれ。」
「はじめまして。司波「司波さん」……?」
またもや空気を読まずに深雪さんの自己紹介をぶった切った馬鹿野郎が出現。しかもさっきと同じ声ときた。
「もっと広いところに行こうよ。」
「邪魔しちゃ悪いよ。」
そこには先ほどと同じ集団が立っていた。しかも先頭の男はさっき見たやつと同じだった。
深雪さんは少し戸惑いながらも、
「いえ、私はこちらで………」
彼らのお誘いを断る意思を表した。
すると、1番前にいた男が意表を突かれたかのように『へっ?』と声をあげた。
彼は達也たちを見回した後、呆れたように言った。
「司波さん、ウィードと相席なんてやめるべきだ。」
「はぁ?」
その言葉にエリカが『何言ってんのあんた?』みたいな表情でその男をにらみつける。
すると今度はその少し後ろにいた男が前に歩み寄りながら言う。
「一科と二科のけじめはつけた方が良い。………一応ここに一科生がいるみたいだけど、それでも僕たちと一緒に食べた方が司波さんのためだ。」
「なんだと?」
今度はレオが『上等だ。喧嘩なら買ってやる』と言わんばかりに席を立ち上がる。
「あ、あの………。」
一触即発の雰囲気に深雪さんがオロオロし始める。その時、ガタッという音が鳴った。
達也が立ち上がった時の椅子の音だった。
「深雪、俺はもう食べ終わったから先に行くよ。」
達也はそう言ってその場を去って行った。
「ちょ、ちょっと達也君!」
達也の行動に全員が呆気にとられていたため、エリカの叫びがその場に響いた。
「お兄様………。」
深雪さんの寂しそうな呟きは俺の耳へとしっかりと届いていた。
~放課後~
下校時間になり、待ち合わせをして姉さんと一緒に帰っている。
「姉さん、この学校の一科生ってみんなあんなに選民思想の強いやつらなの?」
「どうしたの急に?なにかあった?」
「それがさあ、今日の昼こんなことがあってさ………。」
俺は昼食の時のことを話した。
「それは酷い話ね。やっぱり1年生は特に強くなっちゃうのね………。」
「ん?てことは2年生になったら酷くなくなるの?」
「まあなくなるとまでは言えないけど、1年生の時に比べたらやっぱり少なくはなるわね。」
「へぇ~そうなんだ。まあどうでもいいけど。」
『どうでもよくないでしょ!』と姉さんに突っ込まれながらも、笑いながら校門へと向かって歩く。姉さんとこうして話す時間は本当に至福のひと時だ。
『いつまでもこれが続けばいいなぁ~』とか幸せボケな考えをしながら歩いていると、校門の方から何か言い争いのような声が聞こえてくる。
「いい加減にしてください!なんでそこまでしつこく深雪さんに付き纏うんですか!?」
この声は………美月か?
声のする方に目を向けると、そこにはこれまた昼と同じような光景になっていた。
「ねえ零、あの集団はあなたの知り合い?」
どうやら俺の表情がいつもの無関心を貫く時のものとは違っていたみたいで、姉さんにばれたようだ。
「みたいだね。クズの一科生集団と、優しい二科生の親友たちの争いみたいだ。」
「そう。なら助けてあげないとね?」
「うん。ありがとう、姉さん。」
「でも『クズ』って言う発言はいただけないよ?」
「ご、ごめんなさい。」
俺は謝りながら姉さんと一緒にその言い争っているところへと足を進めた。
~第三者side~
「僕たちは司波さんに相談したいことがあるんだ!」
「そうよ!少し時間を貸してもらうだけなんだから!」
一科生の集団が二科生の集団に詰める。
「お兄様………。」
深雪が達也に『どうしましょう?』と困った顔を向ける。
「謝ったりするなよ、深雪」
「はい、ですが………。」
今度は心配そうな顔をエリカたちに向ける。
「とにかく、深雪さんはお兄さんと一緒に帰ると言っているんです!何の権利があって2人の仲を引き裂こうって言うんですか!?」
美月がとても真面目な顔で一科生に対抗する。しかし、ただ1人その美月の発言を聞いて間違った方向に考えが飛躍している者がいた。
「い、嫌だわ美月ったら!いったい何を、何を勘違いしているの!?」
そう、深雪だった。
「深雪、なぜお前が焦る?」
達也の一言により深雪は一応もとの方向へと戻ってはきたが、それでも動揺を隠せずにいる。
「へっ!?あ、焦ってなどおりませんよ?」
「そしてなぜ疑問形?」
そんな兄妹漫才を傍目に、一科生と二科生の口論は続く。
「これは1-Aの問題だ!ウィードごときが僕たちブルームに口出しするな!」
一科生の先頭に立つ森崎駿が怒鳴るように言い捨てる。その言葉にエリカとレオがムッとする。
「同じ新入生じゃないですか。あなたたちブルームが今の時点で一体どれだけ優れているというんですか!」
「………まずいな。」
達也がぼそりと呟く。
森崎は美月の言葉にイラついた表情を見せたが、すぐにニヤリと笑みを浮かべる。
「どれだけ優れているか、知りたいか?」
「はっ、おもしれぇ、是非とも教えてもらおうじゃねえか。」
売り言葉に買い言葉。レオが森崎に食って掛かる。
「良いだろう。だったら教えてやる!」
森崎が指をほぐすように動かすと、周りの一科生が全員身を引く。
「これが………才能の差だ!」
森崎が腰から拳銃型CADを抜いた。
「うおおおぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉっ!」
それと同時に、魔法も発動させずにレオが突っ込む。森崎が引き金を引く。
「お兄様!」
レオの危険な行動に美月が驚き、達也はすぐさま行動に移した。
右手を上げ、魔法を発動させようとした。その時だった。
エリカが一瞬で間合いを詰め、警棒のような形状をした棒で森崎のCADを叩き上げた。
「くっ!」
森崎は一瞬の出来事に反応できず、二科生ごときにやられたせいで悔しさを顔に浮かべていた。
「この間合いなら体動かした方が速いのよね」
「くっ!」
「それは同感だが、今お前俺の手ごとぶっ叩くつもりだったろ?」
「あら~そんなことしないわよ」
レオの言葉に、エリカが『おほほほ』とわざとらしく誤魔化すように言う。
「誤魔化すんじゃねえ!」
エリカとレオが夫婦漫才(?)をしていると、一科生の内の1人が魔法を発動させる。
「ウィードのクセに!身の程を知れ!」
魔法を発動させようとしたとき、あのエアクラッシャーがやってきた。
~零side~
「はい、どーん」
少し経緯を観察するためにわざとここまで出なかったが、流石にここまでの行動となると見逃せないな。
俺は魔法を発動させようとしていた男子の背中を思いっ切り蹴とばした。
「痛ぇ!なにすんだてめぇ!」
「お、お前、八代じゃないか!なんでブルームのお前がウィードの肩を持つようなことしてるんだよ!」
たしか、こいつは森崎だったっけ?まあそんなのはどうでもいいが、こいつらの選民思想にはほとほと呆れるぜ。
「それはお前らがあほなことをしていたからだ。」
「なんだと!?」
「お前らは一科生ごときで選ばれた人間気取りか?一科生も二科生も関係ない。入ってからいかに鍛錬を積むかで3年後の魔法師としての実力が実際に現れるようになるんだ。」
俺がそう言うと森崎は理解してくれたのか、俯いて二科生たちの方を向く。
だが、俺の言葉を理解しなかった俺に蹴られた一科生の馬鹿野郎が怒りに任せて魔法を発動した。
「ふざけんな!俺は一科生なんだ!優等生と言って何が悪い!そこのあんたも一科生ならなんか言えよ!」
そのバカ野郎の一声に反応し、数人の生徒が一斉に姉さんへと魔法を発動しようと手を向けた。
こいつら、姉さんに手を上げようとするなんて何してやがんだ?
俺は一瞬で1人の男子生徒の距離を詰め、その首を左手一本で掴むとそのまま持ち上げる。男子生徒は宙ぶらりんになり、手を外そうと両手で俺の左手首を掴む。だがその程度でほどけるはずがなく、苦しそうに足をばたつかせる。
「てめぇ、なに姉さんに魔法を向けてくれてやがる?自衛以外での魔法の使用は禁止って知らないのか?それとも死にたいのか?俺はお前のことを何とも思っていない。お情けがかけられると思ったら大間違いだ。」
「う、うううう。た、助けて…………」
首を掴まれた男性の様子を見て、魔法を発動しようとしていた男子生徒たちが全員恐怖から魔法をキャンセルしてしまった。
「『助けて』だぁ?そこは謝罪するのが筋ってもんじゃないのか?」
「ご、ごめんなさい………お、お願いですから、手を………手を放してください。」
「零、やめて。私はそんなことを望んでいないわ。」
姉さんから声をかけられたため、すぐさま手を放す。『ドサッ』と音を立てて尻餅をつく。
「ごめんなさい、姉さん。」
俺が姉さんの方を向き、一科生の奴らに背を向けると、先ほど魔法をキャンセルした男子生徒たちがチャンスとばかりにもう一度魔法を発動しようとした。
「危ない!」
そう言って一科生のある女生徒が魔法を発動する。茶髪で二つ括りにしている女の子だった。
その時、急に全員の魔法が別の魔法で弾かれた。
男子生徒たちは全員そのまま倒れ、女生徒は別の女生徒に受け止められた。その時『ほのか!』と言われていたので、あの茶髪の女の子の名は『ほのか』というのだろう。
「誰だ?」
俺が疑問に思ってあたりを見回していると、姉さんが答えてくれる。
「あの人たちよ。」
そう言って姉さんが指さした方向を見ると、そこには昨日見た生徒会長と、別の先輩が立っていた。
「やめなさい。」
昨日とは違った厳しい声色だった。
「自衛目的以外での魔法による対人攻撃は犯罪行為です!そこの君も、暴力行為は許されたことではありません!」
「風紀委員長の渡辺 摩利だ!事情を聴きます。ついてきなさい!」
なんと風紀委員長まで出てきやがった。
ああ、まためんどくさいことになっちまった………。