BetterFly   作:Flyer

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|登場キャラクター

・カミア
テルルの知り合い?

・シェーレ
組織のボスであり、イオの姉。


優しさは描かれざる白

「私の自慢の妹ですよ」

彼女は言った。胸に手を当て、感情的だ。

「どんな子だったの?よく知らないんスよね」

お気楽そうにもう1人が言う。ここはどこか、知らない場所だった。

「えぇ。恐らく、テルルさんから聞くあの子の印象はとても柔らかいものではなかったでしょうし、良いものでも無かったでしょう。しかし、彼女は昔は...」

そう言いかけて、彼女は語り口調を一度中断してしまった。カミアは彼女のことを一瞥するとその目が少々怖がっているように見えた。

「とても活発で、少なくとも私に対しては優しかったのです」

カミアはこの2人の過去について興味はあったが詮索する気は無かった。しかし本人が話すのならそれに乗じる他ない。この場所は2人以外誰もおらず、ただ白い広い部屋なのかすらわからない大地。ホログラムの映せそうな天井があった。

「ボクの聞く限り、確かに良い印象は無いんスけど...何で変わってしまったんスか?」

シェーレは頷いた。指輪を弄りながら答える。

「抑圧されていたのです。我々2人とも。原因は知りませんが親、もしくはそれを操る何者かが我々に知識を強制しました」

カミアは喋らない。似たような事案、いや、方向性は違えこそ結末が同じでありそうな事を既に知っている。

「...正直、私も記憶が曖昧です。プライベートや趣味、羽を休める時すらありませんでしたから。必要もないのに目まぐるしくて、そんな中でもその経験が今の私を模っているのは嫌な皮肉です」

「知識が普通の人の何倍もあるなら、有利じゃないッスか。得には一応...」

歯切れの悪い言葉をカミアは言った。姉は深く頷き、指輪から手を離す。

「損な面も勿論ありますよ。妹であるあの子は途中でこの生活を諦めました。そうして集中した視線が今の私の現状です。その知識を活用するには相当の前準備が必要なものですから、今はただ座っていることしかできないのですよ」

彼女は言ってのけた。カミアは率直に疑問を投げかけた。

「どうやってイオさんは逃げられたんスか?相当束縛性な親な気もするから簡単には離してくれないんじゃないッスか?」

「私があの子への誕生日の日に久しぶりに外に出たいと申し出たのです。妹を残し両親と私とで出かけましたが、前日に計画を練っていました。車での移動時間を推理し、最大距離離れたタイミングであるだけを持って窓から脱出する。そこから走っていけばバス乗り場が見つかりますからそうしておこう、と」

カミアは納得したように何度も頷いた。シェーレは続ける。

「自己犠牲の精神というのは私も妹も嫌いでした。しかし、あの時やったことは正に私の犠牲あってのことですからなんとも」

「じゃぁ、シェーレさんはどうやって抜け出したんスか?」

姉は短く笑い、答える。

「親は死にました。何ででしたか。煙草の不始末でしたかね。私は遠くにいましたから被害を免れましたが、共々居間にいたそれらは一酸化炭素中毒により苦しんだそうです」

さぞどうでもいいような口調で彼女は続けた。

「居間から声が聞こえてきました。『助けてくれ』や『熱い、燃える』などが。それのした報いとは私は思いません。床に散らばった多種多様なゴミのせいですぐにそれらは燃え広がりましたが、数分後、消防車が数台家に集まり、水を撒き始めました。見たこともない人たちが家の周りに集まり、心配そうな目でこちらを見ていました。『放っておいてくれ。あれがただの灰となるまで放っておいてくれ』と願っていました。私は救助され、栄養失調や神経衰弱などの理由から点滴やリハビリなどが行われましたが、これからの私の人生を憂う人はこう言いました。『ご不幸でしたね』と」

カミアは固唾を飲んでいた。壮絶、というよりは色の無い過去。イオという存在に依存しかねない空っぽな人間だ。

「それは...大変だったッスね。イオさんのこと大切に思っているっていうのは伝わったんスけど...」

「えぇ。私は彼女に見えない優しさを何度か無遠慮に提供していました。それが功を奏したのか彼女は今では仲間を持ち、居場所を見つけ、日々目標を持って前に進み続けてくれています。私は、成長を見守っているだけで良いのです。自分が姉だということを無理に知らせては過去の想起を誘発させてしまいますから、無理に言う必要はないのです」

傍聴人にはそれが自分自身でなく、彼女自身に言っていることだと把握した。悩み悩んで、ただ越えてはいけないラインを見定めると、それは案外近かったのだ。彼女にできることといえば環境を提供することぐらいで、それはとっくに終わらせてある。言う通り、見守るしか無かった。

「私から質問しても良いですか」

シェーレは形式上遠慮しがちに言った。カミアは親指を突き立て、了承を意味した。

「あなたの想像で構いませんが私がいつか行くであろう天国とは、どんな場所ですか」

カミアはお気楽なオーラを纏っていたが、その時一瞬それがブレた気がした。ただ、どうしてもお気楽に答える。

「良いと思う人には良いと思える場所じゃないッスかね。規律やらなんやら厳しいだろうけどそれを違反しなければ快適に過ごせると思うッス」

その言葉を聞いたシェーレは安心したように胸を撫で下ろした。

「良かった。私自身、天国に行けるかどうかはわかりませんが、少なくとも地獄よりかは良い場所であると思いたいですね。そもそも、カミアさんに聞くべきでは無かったとは思いますが」

そう言い終わると、後ろに体を傾け、大きく息を吐く。これからの行動、彼らの行動、我々の行先、全てが不安だが、そう考えていては老けに老ける。

「ともかく、私の妹は自慢のできる妹です。カミアさん。重ね重ね申し訳ありませんが、彼女がもし迷っていたり、窮地に陥ったりしたときはそっと声をかけてあげてください。それが私のしてきた付き合い方です」

カミアは今度は前を向いて頷いた。

「けど、シェーレさん。ボク思うんスけど」

カミアはいうのを少し躊躇った。未練を残すかもしれないからだ。ただ。結局言うことにした。

「多分イオさんにはシェーレさんが必要ッスよ」

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