フラグ一級建築士レイ
「準備はできているだろうな…さっさとついてきたまえ」
翌朝、昨日と同じように部屋に通されるなり、スネイプは私──レイ・エルバに高圧的に言い放った。
ああ、なんていうんだろ…すっごくスネイプだ。解釈通り、うん。
って、そんなこと呑気に考えている場合ではない!
落ち着け私、昨夜のシミュレーション通りに今日を乗り切るんだ!
このジメジメ教師をうまく躱せることができれば、快適なホグワーツ暮らしに一歩近づけるはず…!
というのも、昨日スネイプが帰ったあと、私は考えたのだ。
学校がストーンウォールからホグワーツに変わるってだけで、ちょーっとマジカルパワーが使えるってだけで、別にこの世界での生活が大変なものだと決まったわけではないのでは、と。
面倒事は気合で避け、ひっそりと存在感を消すように過ごせば、きっと私の平凡で平穏なぐうたら生活は守られるはずだ。
そう、絶望するのはまだ早い
そして私は、スネイプに付いて外に出た。
昨日が雨だったこともあり、ムシムシとしたいや~な天気だ。
それなのに、この男はなんだってこんなに全身黒ずくめでいられるのだろうか…
スネイプは孤児院を出ると、まっすぐ人気のいない路地裏へと向かった。
そして、周りに人がいないことを確かめると、私に腕を差し出す。
「時間がもったいないから付き添い姿現しで向かう。我輩の腕を掴め」
姿現し…ああ、あのシュポって瞬間移動するやつだっけ。
私はこくんと頷き、スネイプの腕を掴んだ。
★★★★★★
シュポっというよりバチンっみたいな音がし、ギューッと引っ張られるような感覚とともに、私とスネイプは先程とは景色の違う路地裏に移動した。
「…ぁ」
「…吐き気等はないか」
着地とともによろけた私を、なんとびっくり、スネイプが支えてくれる。
しかも体調の心配…だと…?なんか思ってたんと違うな。
よろけた以外はなんともないことを軽く頷くことでスネイプに伝えると、スネイプはすぐに大通りの方へせかせか歩きだしていった。
大通りには外から見ても摩訶不思議な店がたくさんあり、まあまあ奇抜なファッションの人々でごった返していた。
ここがかの有名な…ダイアゴン横丁?だっけ?
「ここがダイアゴン横丁だ。ここですべてが揃う。先ずは援助金を受け取るために銀行に行く」
ダイアゴン横丁で合ってたみたいだ。ハリポタに興味なかったのに、案外私覚えてるな。
んでもって、スネイプはそう言うやいなやまたせかせかと歩いていく。
…ちょっ、さっきから思ってたけど速くないっすか…?
私が小さいあんよで必死についていった先は、大きな白い建物。
入っていくと小さいゴブリンたちがせわしなく働いていた。おお、映画で見たとおりだな。
ここで待ってろとスネイプに言われたので、私は端っこでステイ。
しばらくすると、膨らんだ袋を持ってスネイプが戻ってきた。
「これが一年分の資金となる。くれぐれも無駄遣いは控えたまえ」
「…はい」
受け取ると見た目より重くて取り落としそうになった。魔法でもかかっているのだろうか。
銀行を出た私はスネイプに連れられて書店、洋装店、雑貨屋などをまわって行った。
ふーむ、今んとこハリポタキャラとのエンカウントイベントは発生していないな…(スネイプを除く)
これはもしや…ハリーたちとは違う世代か…?あの呪いの七年間とは無縁に生きられるのか…!?
これはありえる…期待できるぞ…!あわよくばヴォル氏が討伐されたその後の世代とかがいいな〜
あのトカゲ君がいないだけで平穏に生きられる確率ぐんと上がる気がするし!
自分の未来に希望を見出し、ちょっと気分が良くなった私は、初めてこちらからスネイプに声をかけた。
「次って…杖、ですか?」
「!…そうだ」
あっ、今ちょっと驚いた顔した。…え、話しかけただけで?
そんなこんなで着いた先はオリバンダーの店。紀元前382年創業…?よく物理的に潰れないな、この店。
そんなことを思っていると、スネイプがこちらを見ながらこう言った。
「…我輩は少々別の用事がある。杖は一人で買いに行け」
「…は、はい」
おん…どっか行っちまった。まあでも杖の買い方もなんとなく映画で見たし、いけるやろ。
よしっと意を決して、ふっるい店に恐る恐る入る。
…誰もいねえ。気配も感じないわ。オリバンダーさん、いるよね…?
少し進むと、奥からすっとおじいさんが顔を出した。
「いらっしゃい。ホグワーツの新入生かね?」
「は、はい…杖、買いに来ました」
「これはこれは、お人形のように可愛らしいお嬢さんですな。私はオリバンダーと申します。では早速、杖を選びましょう。杖腕は?」
杖腕…ようは利き手の話だろう。
「右、です」
「では寸法を測りましょう…腕を伸ばして」
言われたとおり腕をすっと伸ばすと、洋装店で見た自動で測る巻き尺が私の身体をあちこち測り始める。
…どう考えても髪の長さは杖に関係なくないか?巻き尺くん。
「ここの杖は、杖の一本一本に魔力を持った様々な物を芯に使っております。そして、同じ杖は一つとしてありません。さらに、杖は持ち主を選びますので、他の者が他の魔法使いの杖を使っても、決して自分の杖ほどの力は出せないのです」
オリバンダーさんは奥をごそごそを漁りながら説明してくれる。
持ち主を選ぶ、ねえ…。木の棒に選ばれるって思うとなんだかいい気はしないが、杖というのはもっとこう…繊細で神秘的なものなんだろうな。
そんなことを考えながら、私の鼻の穴の大きさを測りだした巻き尺をはたき落としていると、オリバンダーさんが奥から箱を持ってきた。
「まずは…スギにドラゴンの心臓の琴線、25cm、ややしなる。握ってみてくれますかな?」
言われたとおり握ったが、特に何も感じない。
確か映画だと、ハリーが合わない杖を振って店を破壊してたな…ちょっと振ってみて大丈夫だろうか。
そう思いながら私は控えめに振ってみる。…何も起こらんな。
すると、オリバンダーさんが私からひょいと杖を取り上げる。
「ふむ。これではないようですな。それなら…クルミの木にユニコーンの尻尾の毛、20.5cm、頑固」
差し出された杖を握ると…なんだろう、ちょっと不快感を感じるな…。
私が杖を返そうとする前にまた取り上げられてしまう。この人ほんとに謎いな、見ただけでわかるんか。
「これもだめなようだ…では次は…」
そうして私はいろんな杖を握っては取り上げられてを繰り返した。
「…あの…」
「まあお待ちを、お嬢さん。必ず合う杖が見つかるはずですから」
そう言ったオリバンダーさんはこころなしかさっきより楽しそうだ。
…もう試した杖の数、結構なものになってるけど…。
私に合わなかった杖が机に何本も積まれているのを疲れた気持ちで眺めながら、奥で箱をガタガタいわせているオリバンダーさんを待つ。
「…ふむ、ここまで合わないとなると…まさか…」
あれ、この流れ、見たことあるな。なんか稀な杖でも渡されるんか?
思い詰めたような顔をしたオリバンダーさんが、箱を持ってくる。
「…まさかとは思うが、試してみる価値はあるだろう…お嬢さん、この杖に私は直接触れることが出来ない。箱から取ってくださるかね?」
「…はあ」
まてまて、この人でも触れられないとか、やっばい杖なんじゃないの??触れた瞬間死んだりしたらやだよ???
…さすがに杖に殺されることはないか。
私が恐る恐るその杖を取ると…
「!?」
これだ。この杖だ。
私はすぐにそう感じた。
心臓がギュッと掴まれるような感覚がするが、その杖は私の手にピッタリとハマり、まるで私の身体の一部のような心地がする。
オリバンダーさんは目を見開いて、私を見つめた。
「これは…なんと言ったら良いのだろうか…。お嬢さん、その杖は月桂樹に麒麟の角を使っているんだ」
「キリン…?」
あの首の長いやつ…ではないだろうな。おそらく、伝説とされてるほうだろう。
「麒麟は伝説の聖獣だ。麒麟を傷つけたり、屍を見たりすることは不吉だと言われておる。つまりこの杖は、聖獣が芯材とした神聖なものでありながら、聖獣を傷つけてつくられた不吉なものとなっていてな。…この杖に触れることが出来たものは少ない。しかも、触れることが出来たものは皆行方不明になったり突然死してしまったりと不幸な目にあっているのだ」
…嘘でしょ、なんてものを渡してくれたんだこのジジイ。
「しかし、この杖が触れたものを拒まなかったのは初めて見た。もしかしたら、この杖に使われた麒麟がお嬢さんを気に入ったのかもしれんな…いやはや、なんてこった」
気に入った…?よくわからないが、死亡フラグは立たずに済んだのか…?
「さらに言うと、木材となっている月桂樹は癖が強くてな。所有者に非常に忠実で、他の者が杖を奪おうとすると勝手に雷が落ちる始末だ。まさに、誰にも扱えない伝説の杖として長らくこの店に放置されてきたのだが…まさか合う人が見つかるとは…お嬢さん、大切に扱うんだぞ」
「は、はい…ありがとう、ございました」
私は色々言われて混乱しながらも、代金を払おうとする。だが、
「代金はいらんよ。その杖に合う人が万が一現れたら、無償で渡すことになっていたんだ」
と、オリバンダーさんが言うので、私は戸惑いながらもペコリとお辞儀をして店を出た。
「…随分とかかったな」
「…あ…すみません」
やっべ、スネイプのこと完全に忘れてた。何本も試してたし、こりゃ随分待たせただろうな〜…。
ちらっとスネイプの顔色を伺うが…あれ、別に怒ってなさそう。
「…杖がすぐに決まらない者はたくさんいる。むしろ、それだけの時間をかけて見つけた杖なのだ。大切にしたまえ」
「は、はい」
…なんとまあ、スネイプの言わなさそうなセリフ…解釈違い…。
もしかして、私が思うよりスネイプって気難しくないのかもしれないな。
そんなことを考えながら、私は歩き出したスネイプに付いていく。
「これで必要なものはすべて揃ったな。我輩も暇ではない。さっさと…エルバ、どうした?」
スネイプは、歩きだしてすぐに立ち止まった私のほうを振り返る。
「…ペットか。…欲しいのか?」
「…えっと、あの…だめ、でしょうか?」
「…好きにしたまえ」
おお、いいのか。てっきり無駄遣い〜とか言ってくると思ったのに。
ここであまり時間を食うとスネイプが苛つきそうだが、問題ない。なぜなら、私が立ち止まったのは一目惚れした子がいるからだ。
『魔法動物ペットショップ』に入った私は、外からも見えたケージに近づく。
そこには、黒い立派な翼を持った大きな鷲がいた。
森羅万象に興味がない私は、もちろん動物にも興味がない。前世で猫を飼っていたが(弟の強い要望で)、とくに可愛がることはなかった。キュートだとは思うけれども、それまでだ。
それなのに、私はこの鷲に惹かれた。こんな感覚初めてだ。
ただ…
「…」
…でかい。外から見たときよりも随分とでかかった。そりゃそうだ、鷲だもん。
この子を連れて行くのは流石に無理だろう…と、諦めて常識に沿ったペットを探そうとしたその時、
『なんだ、買ってくれないのか…せっかく久々に気に入った人間だったのにな』
「…え?」
ん??今の声、誰だ??スネイプ…じゃないし。
まさか…
『おっ、戻ってきた。ほらほらお嬢さん、俺を買わないかい?迫力があってかっこいいだろう?』
「…しゃ、しゃ…」
喋ったあぁァァァァァァァァァァァ!
『…えと、鷲さん…?』
『うおっ、喋った』
いや、それこっちのセリフや。
『…人間の言葉が、喋れるの?』
『ん?何を言っているんだい、お嬢さん。君が私らの言葉を操っているんだろう?人間と話すなんて初めてさ』
「え?」
私は驚いて口を抑えた。…あれ、今私、何語喋ったって??
『いやぁ、君のことはさっき目があったときから気に入ってたんだが、まさか言葉が通じるとはなぁ。ますます気に入ったよ』
『…私も、鷲と喋れるとは思わなかった…』
なぜかはわからないが、目の前の鷲と喋ろうと思って口を開くと、鷲語?が喋れてるみたいだ。
何だその能力。転生の副産物か??やっぱり転生にチート能力は付き物だったってことか??
正直いってそんなものはいらないが…まあ鷲と喋れるくらいで問題が起きることはあるまい。
とはいえ、言葉が通じるなら、ますます欲しくなったな…。
「…エルバ、先程から鷲の前で何をブツブツ呟いている」
「…いえ、なんでも、ないです」
ふむ、やはりスネイプには聞こえていないようだ。
「…あの…ペットに鷲は…無理ですよね?」
「大きすぎる。どこにいさせるつもりかね?」
だよね〜
どうしたものか。やっぱり普通にフクロウとかにしとくかな…。
私がちょっと名残惜しい気持ちになりながら黒い鷲を見つめていると、スネイプがなんだか苦々しい顔をして話しかけてくる。
「…そんなに気に入ったのかね?」
「…まあ」
「…ホグワーツに被害を出さないよう完璧にしつけができると言うならば、飼えないこともない」
え、まじで?いいの!?
パッと顔をあげて、ほんとにいいの!?って目でスネイプを見つめると、ふいっと顔を背けられた。
それを肯定ととらえた私は、さっそく鷲に話しかける。
『あのね、私についてきてくれる気は…ある?』
『お、買ってくれるのかい?ようやくこのせっまいケージから出られるな。答えはもちろん、喜んで、さ』
『えっと、私が行くところは学校で…いろいろルールがあるから。だからその、私との約束を絶対に守れるなら、連れていけるよ』
『もちろんさ。俺はプライドが高いが、俺が選んだご主人には忠実だ。ご主人との約束は必ず守るし、いかなる時もご主人の助けになろう』
『そっか』
私はスネイプに向き直り、買うことを告げた。スネイプはとくに何も言わなかった。
お金を払い、鷲のケージをカートに乗せてもらい、どうにかこうにか押していく。
おっっっっっもい…分かってたけど。
なんか荷物を軽くする魔法とかあるかな…覚えたら便利そうだ。
うんしょうんしょと押していると、二回目のなんとびっくり、スネイプが荷物を何個か私からひょいと取り上げた。
「あ…ありがとうございます」
「…ふん」
うーん、塩対応のくせになんだかんだ優しい…こんな人だったのか、スネイプって。
昨日から身構えまくっていた過去の私を思い出して、心のなかで苦笑する。
買い物を終えた私達は、来たときと同じ路地裏に戻ってきた。ちなみに、今度はよろけなかったぜ。
さてと…鷲さんはどうしようか。部屋には入らないし、ホグワーツでも放し飼い?とかになるだろうから、中庭に連れて行こうか…。
そんなことを考えながら孤児院に向かっている途中、スネイプに引き止められる。
「エルバ」
「…?」
「…入学祝いだ」
そう言って差し出されたのは、小さな箱。
にゅう…がく…いわい…????
世界中を探してもこの言葉がこれほどまでに似合わない男はいないというのが私の見解だが…
これはどういった…???
混乱して、箱、スネイプ、箱と視線を動かしたあと、恐る恐る受け取った。
「…ありがとう、ございます」
一瞬そのまま仕舞おうとしたが、ここが英国であることを思い出す。
「…開けてもいいですか?」
スネイプが頷いたので、ゆっくりと開けると、中から出てきたのはきれいな懐中時計だった。
「…わ…」
蓋は星を散りばめたような装飾。紫色の文字盤には穴が空いているところがあり、歯車が見える。
えぇ…めちゃめちゃにセンスいいじゃん。たっかそー…。
「すごく…綺麗、です。いいんですか…?」
「ああ。…では、我輩はもう行く。次は9月1日に迎えに来る」
「はい」
私はペコっと深くお辞儀をして、スネイプが姿現しで消えるのを見送った。
そこは孤児院までちゃんと連れてってくれないんだ…。
孤児院に戻ってきた私はどうにかして荷物を片付け、鷲を中庭に放してみる。
『ケージも部屋も狭いだろうから…放してて大丈夫?』
『ああ、ご主人。心配しなくても、ちゃんと戻ってくるからな。いや〜、久々に思う存分飛べそうだ。感謝するよ』
『よかったね。…そういえば、名前どうしよう』
『ご主人がぜひともかっこいい名前をつけてくれ』
う〜ん、かっこいい名前…ねえ。私に名付けのセンスがあるのだろうか…。
私は、鷲が上空を気持ちよさそうに飛んでいるのを眺めながらじっくり考える。
……
よしっ!
『おーい…テオ、なんてどう?』
『ふむ、なかなかいいじゃないか』
おお、気に入ってもらえたみたい。
地面に降り立ったテオは嬉しそうに目をパチパチさせた。
『テオ、これからよろしくね』
『よろしくな、ご主人』
テオに餌をあげて部屋に戻ってきた私は、ベッドにドサッと倒れ込んだ。
いやはや、なんともまあ濃い一日だった…。スネイプへの印象がガラッと変わるわ、鷲とおしゃべりできるという謎のマジカルパワーが見つかるわ。
…前世も今世も引きこもりの私には苦行だったな。
私は今日買った教科書の中から『ホグワーツの歴史』という本を取り出す。
映画でしか見たことがないが、これから行く学校はなかなか愉快でめちゃくちゃなところであることは知っている。いろいろと事前に学んでおいたほうがいいだろう。
そう思って買った本を早速開きながら、私は体力を使い果たした身体をベッドに預けるのだった。
前回のレイちゃんの紹介に追記…
レイちゃんはナルシストで人見知りです。
他人と話すときは極限まで声が小さくなります。あとちょっとどもります。
そして表情筋はアバダケダブラ
今の所投稿頻度は早め…早め?私の中では早め…ですが、次第に落ちていきます。断言。
そういえば私、学校なんかで長距離走るとき、最初運動部の速い子達より飛ばしてイキるクセに、すぐバテて後ろ走ってた子たちに「遅っw」って言われながら追い越されるタイプだったなぁ…
あ、ここまで読んでくださりありがとうございます。
次回も期待しないでくださいね。