チョコ嫌いの弟がバレンタインに貰ったチョコを横流ししてくれてホクホクなのです。
ホワイトデーの出費が私持ちになるのが玉に瑕
翌日の朝、私──レイ・エルバはあくびを噛み殺しながら大広間へと向かった。
昨日の夜の不本意な大冒険のおかげで寝不足なのだ。
大広間でハリーとロンを見つける。
昨日あんな事があったばかりだと言うのに、清々しい表情をしてやがる。
あーあ、これ以上絡まれないといいけど…
二人からできるだけ離れた席に座りながら、私は憂鬱な気分になるのだった。
★★★★★★
あれから数日後、ハロウィンの日がやってきた。
豪華な飾り付けやかぼちゃだらけのごちそうにみんなはだいぶハイテンションのようだが…私はこういう行事は大の苦手だ。ついでに言うと、かぼちゃも。
朝っぱらからこんなもそもそした食事なんか取れるかっつーの!
心のなかで悪態をつきながら、カボチャジュースを気合で胃に流し込む。
こんなに浮かれた空気だというのに授業があることも解せない。
今日はいつにも増して、気分の晴れない一日になりそうだ。
時は呪文学の授業中。
本日の呪文は、あの有名な浮遊呪文。ランダムで二人ペアを組まされたのだが、なんとびっくり、ピンポイントでハリーとになっちまった。
嫌なこととは続くものである。
そもそも『ペアを組む』とか『グループになる』とか、そういうのは陰キャには辛いものがある。
ダチでもないやつとどうやって喋れってんだ。そう考えたら、ハリーと組まされたのはマシだったのかな…。
「ウィンガーディウム・レビオーサー!…うーん、うまくいかないな」
私の心が弱っている間に、隣のハリーは練習を始めていた。なんだか発音が間違っているが。
発音といえば、言語どうなっとるんだろうな。英語は別に苦手じゃないけど、ここまで馴染めるのはやっぱ転生あるあるってことなんやろうなぁ。鷲語とか理解できちゃうくらいだし。
「レイ、どうしたの?さっきから何見て…あ、ロンとハーマイオニー?」
「…」
私は虚空を見つめて考え事をしていただけだが、ハリーに言われて二人の方に目線をやった。
「ちょっとロン!危ないからそんなに杖を振り回さないで頂戴!あと、発音が間違ってるわ。『ウィンガーディアム・レヴィオーサ』よ。あなたのは
「あーはいはい、そんなに言うならやってみせろよ!」
ロンに怒鳴られたハーマイオニーが、少し咳払いをして呪文を唱えた。
「
すると、ハーマイオニーの目の前にあった羽がふわふわと浮いていく。
フリなんとか先生が目ざとくそれを見つけ、拍手をした。
「おお!みなさん御覧なさい!ミス・グレンジャーがやりました!」
それを聞いたハーマイオニーがドヤ顔でロンの方を見やり、ロンは怒りで震えながら机に伏せてしまった。
「あれは…なんというか、ひどいや。ロンが茹でタコみたいになってる」
「…あなたも発音、ちょっと違うけど」
「え、ほんと?…ちょっとレイ、やってみてくれる?」
おおっと、墓穴掘っちまった…。
ここで注目は浴びたくないが…手加減って難しいんだよな。
「…ウィンガーディアム・レヴィオーサ」
発音を注意した手前そこを間違えるのは恥ずかしいので、杖の振り方を変えながら浮くなぁぁぁ!と念じる。
結果的に少し羽が動いた気がするが、浮くことはなかったのでホッと胸をなでおろした。
「あれ、私は振り方でもおかしいのかな〜…」
そうわざとらしく呟きながら、ハリーとこれ以上会話することないように教科書へと視線を落とすのだった。
授業が終わったあと、私はハリーに捕まらないうちにさっさと教室を退散した。
ハリーはロンと合流したらしいが…
「まったく、あいつは悪夢みたいなやつだよ!あんなんじゃ、絶対友達なんかいないだろうな!レイもあいつと同じ部屋でよく我慢できるよ!」
声でけーよロン、めっちゃ後ろから聞こえてくるんだが。
というか、これ知ってるぞ。たしか、ハーマイオニーに聞かれて泣かれちゃうんじゃなかったっけ。
前世知識を思い出していると、予想通りハーマイオニーが泣きながら私を追い越していった。
あーあ、やっちゃったねぇ男子たち。
…そういえば、こんなことがあるのになんであの三人は仲がいいんだろう…?
★★★★★★
「お願い!ハーマイオニーを説得してくれない?」
「…はい?」
正気か???
今日の授業をどうにか全て乗り越え、忌々しいハロウィンパーティーとやらが行われる大広間へ向かっている途中、ハリーたちに捕まったと思いきや急にこんなことを言われた。
「レイも知ってるよね?あのハーマイオニーが授業に来なかったんだ。流石にちゃんと謝ったほうがいいと思って…」
「…じゃあ自分たちで謝りに行けば?」
「それがさ、あいつ女子トイレでずっと泣いてるらしくて…僕達が行くわけにはいかないだろ?」
うわあ、トイレに篭るとかそんないじめられっ子の典型みたいなことしないでくれよ。
「これからパーティーだしさ、仲直りには丁度いいと思うんだ。連れてきてくれるだけでいいから、お願い!」
はぁ〜?おま、泣いてる女がどれだけめんどくさいか知らないだろ。
ああ、嫌なこととは続くものであるな(二回目)
勿論、そんな面倒なことしたくないのでぜひとも断らせていただきたい。
そう思ったのだが…
「レイはハーマイオニーと同じ部屋でしょ?こんなこと、レイにしか頼めないんだ」
くっ…この感覚…っ!
弟におねだりされているみたいで…無下に出来ない…っ!
年下に弱い&
「…わかった」
「よかった、ありがとう!」
…あーあ。
こちら、レイ・エルバ。
実況は女子トイレからお送りしています…なーんてな。
はぁ…。
冗談はともかく…ハリーたちと別れた私は、さっさとハーマイオニーを引きずり出してこようと早速女子トイレに来ていた。四つある個室の一番奥が閉まっている。おそらく、ここの中に居るのだろう。
「…ハーマイオニー?」
「…その声は、レイ…?」
よかった。これで全然知らん人だったら恥ずか死ぬところだったぜ。
「呼びに来た。ハロウィンパーティー、始まるよ」
「ほっといてよ」
ま、パーティーごときじゃつれないよな。
「…ロン、反省してたよ。謝りたいって」
「そんなの知らない!グスッ…どうせレイだって、私のこと頭でっかちで性格悪いやつだと思ってるんでしょ!」
「…」
あ゛〜めんどくせぇぇ…。
難しいお年頃なんだろうけどさぁ、もう少し可愛げがあっても良くないかね。
とりあえず、ここは慎重に言葉を選んでいくしかない。
「…私は尊敬するよ。教科書丸暗記するほど努力できるところとか、人のために親身にアドバイスできるところとか」
私のことは巻き込まないでほしいけどね。
「おせっかいも頭でっかちも見方を変えれば長所でしょう。お子様のロンにはわかんなかっただけじゃない?」
「…」
さあ、どうだ!?
慰めるなんてらしくもないことさせられたんだ。これで機嫌治んなかったらお手上げだぞ。
「…そっか。ありがと、レイ。そんなふうに言ってくれて」
よし、私の言葉のチョイスは間違ってなかったようだ。
ハーマイオニーが個室の鍵を開けて、目を擦りながら出てくる。
「戻れる?」
「ええ、もうだいじょう…ぶ…」
そう言いながら顔をあげたハーマイオニーが、私の後ろを見て固まった。
…ん?どうしたのだろうか…あれ、なんだか異臭がするような…?
ものすごく嫌な予感がしながら私はゆっくりと振り返る。
そこに居たのは…トイレの天井まで身長がある、キモい顔をした化け物だった。
ハーマイオニーが鋭い悲鳴をあげて床にへたり込む。
ああ…思い出した。
ハロウィンの夜、ハリーたちはここでトロールと戦うんだ。
なんでこんな大事なこと、覚えていなかったんだろう…。
って!
そんな事考えてる場合じゃねええ!!
どっどうすればいいんだ?ファイティング?棍棒vs素手??
待て待て、もちつけ(おちつけ)私は魔女だろうが。
まずは…は、ハーマイオニーを守らんと!!
さすがに原作キャラを死なせるわけにはいかん!!
トロールが腕を振り上げ、重そうな棍棒をこちらに叩きつけようとする。
私は咄嗟に杖を出し、呪文集で得た知識から思いついたものを叫んだ。
「
私の魔法が見事直撃した棍棒が、私達に振り下ろされる前に粉々に爆散する。
っすぅ──…あっぶねえ。
これ失敗してたら死んでたんだが??今だけは魔法の才能をくれた神様に感謝するわ。
武器がなくなって間抜け面で自分の手を見つめるトロールをよそに、私は急いで脱出しようとハーマイオニーを振り返る。
「立てる?」
「あ…ごめんなさい…腰が、抜けて…」
はーまじかよ。
仕方ない。ここでノックアウトするか、注意をひいてトイレから連れ出したろう。
私は素早くトロールの横を抜け女子トイレの入り口に立つと、また適当に呪文を放った。
「
今度もしっかりと直撃したが、あまり効いた様子がない。
これは…私の力量が足らんのか??あわよくば気絶しろって思ってたのに、全然それどころじゃないんだけど。
しかし、呪文を撃ってきた私に怒ったようで、トロールがこちらに振り向く。
よし、こうなったら鬼ごっこだ。私は死ぬほど足に自信がないが、廊下をバタバタ走ってりゃ先生たちが気づくだろう。
そう思って急いでトイレから出ようと扉に手をかけた。しかし…
「…開かない」
入ったときには開いていた鍵がしっかりとかかっている。
誰かが外からかけたのか…いや、嘘でしょ。
慌ててトロールに向き直ると、やつは素手で私を殴ろうと拳を振り上げていた。
私は咄嗟に横に飛び退き、トロールの拳が地面にめり込むのを見送る。
よし…一旦冷静になれ。トロール自体に呪文が効かないなら、やつ以外に作用する呪文で足止めすればいい。
まずは…
「
トロールの真下の床をとゅるっとゅるにしてやる。
私の予想通り、トロールは足を滑らせ仰向けにすっ転んだ。アホめ。
頭でも打ったのか、トロールが静かになった。
「
さらに、足を縛る。よかった、効くかわからんかったけどちゃんと縛れたな。
一応腕も縛るか。
「
ちょっと解けそうで心もとないが、しばらくは立てないはずだ。
ほっと息をつき、拘束されたトロールを横目にいそいそと杖を仕舞っていると、
「「ハーマイオニー!!レイ!!」」
トイレの扉がバンッと開いて、ハリーとロンが駆け込んできた。
おっせーよお前ら!!本来トロールと戦うのは君たちだろーが!!
「大丈夫、二人共!…ってあれ、これトロール?」
「…閉じ込められたから、縛り上げた」
「ええ…?」
簡潔に状況を説明すると、二人は唖然として固まった。
「ハーマイオニー、もう立てる?」
「…え、ええ…」
手を貸すと、彼女はふらつきながらも立ち上がった。
はー生還。今回ばかりはまぢで死ぬかと思った。
っていうか、冷静にトロールを縛り上げた私、すごくない???私ったら戦闘の才能まであるのかも…。
そんなことを考えていると、バタバタと足音が聞こえ先生方が入ってきた。
「まあこれは…!なんてことでしょう!」
やっべ、私も怒られるじゃん。先生が来る前にずらかればよかったぜ。
「一体これはどういう状況なんですか、四人共?説明しなさい」
「あーこれはその…」
マクゴナガルに睨まれてハリーがなにか言いかけるが、後ろからハーマイオニーが声を上げた。
「私のせいなんです、先生!」
「グレンジャー…?どういうことですか?」
「本で読んだんです!それで、トロールを倒せると思って…レイは私を止めようとついてきてくれて。結果的に…レイが居なかったら、私は死んでました。彼女が一人で退治してくれたんです。ハリーとロンも、私を助けようと来てくれて…」
うわあやめろおお!
ハーマイオニーがかばうことを知ってたから黙ってたけど、私が一人で退治したの下りはいらないのよ!!
先生にめぇつけられちゃうでしょうがっ!!
案の定、先生方が驚いたように私を見やる。ひええ…。
「…なるほど、よくわかりました。ですが、トロールを倒すなんて無茶をしたものです。貴女は確かに他の生徒より優秀ですが…過度な自信は身を滅ぼします。ミス・グレンジャーは五点減点です」
その言葉にハーマイオニーはしゅんとなる。
そして、マクゴナガルはハリー、ロン、私を順番に見て口を開く。
「ポッターたちは運が良かっただけです。野生のトロールと対峙して生き残れる一年生などそうそう居ません。ましてや退治するなど…」
最後の言葉は私に向けられたものだった。ていうか、なんかスネイプの視線がめっちゃ痛いんですけど。
「しかし、友人を助けようとするその勇気に免じて、五点ずつ三人にあげましょう」
その言葉にハリーとロンは顔を見合わせて嬉しそうにした。
…この二人、来ただけで何もやってないのにちょっとずるくないか…?いやまあ、私というイレギュラーがいたから仕方ないのかもしれないが。
「…さ、さあ、もう寮におかえり。ぐ、ぐずぐずしていると、トロールがお、起きてしまう…」
く…クレイルだっけ?ターバン先生がどもりながらそういった瞬間、トロールのうめき声が聞こえたので私達は慌てて女子トイレをあとにした。
結局寮に戻る途中で、三人はお互いに謝り仲直りをした。
ちなみに、トイレの鍵を閉めたのはハリーたちだったらしい。トロールを閉じ込めようとして、私達も一緒に閉じ込めちゃったというわけだ。
は〜おかげで死にかけたわ。まあ、結果オーライなので許すが。
さらに、ハーマイオニーには私の華麗なるトロール退治について根掘り葉掘り聞かれた。なんであんなに呪文知ってるの?とか、授業じゃ全然出来てなかったのに上手くない?とか…。本番に強いとかなんとかいってどうにかごまかした。非常に疲れた。
寮に戻ると、トロール騒ぎで中断になったらしいパーティーの続きが行われていた。
夕飯を食べていない私は談話室の端っこの方でかぼちゃパイをつつく。
にしても、三人が親友なのは今日のことがきっかけだったんだな。
まったく…私はなぜこうも重要なことは覚えていないのだろうか。マジ、生死に関わるから勘弁してほしいわ。
あーあ、とうとうこれで紛れもなく四人ズッ友!みたいになっちまった。
一体どこから間違えたのだろうか。…この世界に転生したあたりからかな(白目)
…私の願い、平凡で平穏なぐうたら生活はいったいいつになったら叶うのだろうか。
いたずらの権化であるウィーズリーの双子が派手に花火をちらしているのをぼーっと眺めながら、私は心のなかで大きなため息をつくのだった。
やけに細かく覚えてるなと思ったら、大事なことは抜けてるタイプのレイちゃん。
おかげで今回も巻き込まれてしまいました。
あ、ここまで読んでくださりありがとうございます。
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次回も期待しないでくださいね。