ストライクウィッチーズの二次創作でオリジナルウィッチのおはなしです

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気の抜けたラムネの様に

『貴女を探しに参りました』

彼女が私を訪ねてここにきて最初に言った言葉だ。

航空ウィッチの端くれ、戦果も地上ネウロイ1体の私に、他所の国の陸軍の士官クラスの機械化歩兵が訪ねてきたと思えばいきなりこう言うものだから私はとても驚いてしまった。

何の御用でしょうか?と私は彼女の顔をあまり見ずに聞く。

その士官は『実は私の隊の直協機として、部下になってはくれまいかと引き抜きに来たんだ』

と答えた。これはたまげた。私は対地魔女ではない、偶々あの日爆弾を抱えてたから対地をやっただけであり普段の私は空のエースを目指すものだ。陸軍のしかも直協機?エースなんて夢の夢の夢である、そんなのは勘弁だ。

仮にも上官なので私は丁重にお断りしたつもりだったのだが、何故かコイツは『せめてランチだけでもどうかな?』と食い下がってくる、こうも熱心に勧誘されては「女だけど顔は悪くないしそ少し位なら仕方ないかな」と思ってしまうもので結局ランチならと着いていくことにした

そしたらコイツは駐屯してる街で一番凄い立派なレストランに連れていこうとするもんで後々が怖くなって咄嗟に『格式高そうで居づらいから嫌です』とことわった。

そうしたらコイツは意外なことに『ふむ、ならば構わない。君が望むならばここではない場所にしようか』って言って気楽に過ごせる位の場所に連れていってくれた。

ランチが終わったから帰ろうと思ったのだがコイツは「もう少しだけもう少しだけでいいからさ」を続けてきた。私も押しには弱く「判った判った」とついつい乗せられてしまい何だかんだ一緒に過ごしてしまった。二人で歩く最中私がボソッと言ったことをコイツはこと細かにその地獄耳で聞き取っては「よしそうしよう」と色々な所に連れていってくれた。

最初は気味が悪く早く別れたいと思ったいたのだが、一緒に過ごし話してるうちにコイツがとりあえずの上部はとても気さくで優しい性格の人間であるのが感じられた。自意識過剰かもしれないが私を「そういう目」で見てるって事もわかったのだがそこは敢えて感じぬ察せぬでスルーしたけど。

そんなこんなですっかり気を良くした私はコイツとその1日を過ごしてティータイムにディナーまで食べてしまった。今思えば完全にアイツの流れにのせられていたし、まさしくチョロい女であった筈である。

すっかり夜までコイツと遊び倒し酔いに酔いまくった私をコイツは家までしっかり送ってくれた、ヤるなら幾らでもヤれただろうしチョロい私は簡単に堕ちただろう。

しかしエスコートも完璧なコイツは『こんな夜更けまで連れ回してしまってすまな

かった。今日はありがとう』と深い礼をし去って何もせず去っていったのだ、何だかんだ紳士な奴である。

その後も私はソイツとは時折休みには遊びに出る友人の様な関係へとなったが私は直協機にもならないしソイツの嫁にも彼女にもならずに居た。アイツは私の部屋を訪ねて来ては私の隊の話、愚痴等をうんうんと反応を示しながら聞いてくれては苦笑いをしたり相談に乗ったりしてくれた。後年には離れた配置になっても手紙も交わし、居なければ寂しくすら感じる様な親友の様になっていった。

 休みにはわざわざ集まり遊び倒し飲み潰れるそんな楽しいアイツとの休日が当たり前になっていたとある日、アイツは今思えば普段より暗い様子で私の部屋へと来た。何か言いたげであったので「何かあったのか」と聞いたが「いや、なんでもないよ」と結局最後まで言うことは無く、いつもの様に私の愚痴や他愛ない話を聞いて帰っていった、しかしその日を境にぱったりアイツは訪ねて来なくなった。私も年度始めに配置換えがあり身の回りのことや忙しくなっていたこと、ネウロイの出現頻度が上がったことからアイツを気にしつつも連絡をとる暇もなく日々を過ごしていた。

そんな年の夏の暑い日である、私宛てに一通の手紙が届いた。わざわざ小綺麗な白い封筒に入れて送ってきたのは半年近く連絡のとれなかったアイツであった。「大分久しぶりに連絡を寄越したな。私にどうしても会いたくなったのかしら?それとも遂に愛の告白かしら」なんて自信過剰な、自分のそうあって欲しいという密かな願いの混じった考えで私は本文を読み始める。

その内容は届けに来た隊員の神妙な面持ちの意味を私に痛感させ、人生で初めての体から血の気が引くと言う感覚をしっかりと教え込んだ。もう頭の中がアイツのことでいっぱいに埋まった。たったの1年そこら付き合い、ちゃんとしっかりとデートらしく出かけたのはあの日だけ、それだけの付き合いだった。しかし、アイツは私の自由

をいつでも尊重してくれ、私になるべく付き添っては愚痴や相談を聞いてくれた。

思い返せば深い仲であった筈なのに私ばかりがアイツに多くの悩みや愚痴を打ち明

けて、その度にアイツは優しく時に厳しくも私が楽になるように悩みを解決する答えを私にくれていた。アイツだって悩みや愚痴はあった筈、でもアイツは私のを聞くばかりで自分のことはあまり話さなかった。あの日だって私になにかを伝える為に来ていた筈だ。でもいつもの様に私の愚痴や相談を聞いて解決するだけで帰っていっていた。だから私は「彼女(アイツ)」の詳しい事や伝えたかった事、そしてあれだけ深く関わって来たのに下の名前すらを知らない。

なんということだろう。なぜ私は彼女の名前を聞いておかなかったのか、何故彼女も私に言わなったのかは判らない。

そして今、私が彼女にその答えや名前、悩み愚痴を聞き出すことがもう二度と叶わないという事実だけが確定された。何度手紙に目を通しても、時間をあけてみても内

容は変わることはない。内容の変わらない手紙は送り主こそ彼女の名だったが内容は私が期待した愛の告白でも昔ながらの雑談でもなかった、更にはその紙にかかれているのは彼女の字ですらなかったのである。そこに書かれていたのはタイプライターで打たれたたった3行の冷たい字で、私が彼女に2度と会うことが叶わない事がわかる文が書かれていただけだった。

その後に彼女の同僚に話を聞いた所、特にネウロイの侵攻が激しい欧州方面に派遣される前の準備で忙しい中あの日私に会いに来てくれていた事を知った。彼女は同僚に死んだら私に渡してくれと遺書を預けていたようでそれもくれた、私は同僚と二人でそれを読んだ。

「エルネスタ・カッシネッリへ

私は実に自分勝手だ。私には家族がいないんだ、だから私が死んでも悲しむ人は少ない。でも、誰かに私が生きていたということ、普通に話して普通に笑う軍人じゃない女としての面を誰かの記憶に残したいと思った。

その時に一番に浮かんだのが本来あの日死ぬ筈だった私を爆撃で救ってくれた君だったんだ。すぐに私は君の所属を調べて会いにいった、その時にその瞬間私は君に一目惚れをしてしまったんだ、女と女なのにおかしいよね、笑っておくれ。でも君と過ごした日々は最高の日々だった、これは間違いない。軍人なら戦地で死んでこそ誇りなんだと思ってた私に生きることの喜びを教えてくれて毎回の休日を楽しい物にしてくれた君には感謝をしてもしきれないんだ。あの日私は君に告白をするつもりだった、でも勇気がでなかった。結局は最後の思い出が微妙になってしまってすまない、それに君にこんな重い私の人生の証人なんて役割を身勝手に押し付けてしまった。でも、もちろん君が覚えていてくれなくても恨まない、ただ少しでも私を覚えてくれさえすれば私は幸せものだよ。

最後になるけど私は本当に君を、エルネスタを愛してたつもりです。さきに逝ってます、ゆっくり来て出来ればその時にお返事を聞かせてください。

奥井 紀子」

手紙を読み終えた私は泣くことすらできなかった、あまりに衝撃的だった私に会ってきた最初の目的はこんな理由だったのだ。でも彼女の望みはしっかり叶ったことになる、彼女、紀子という存在は私、エルネスタの中に深く突き刺さり抉り二度と取れる事が無いように刻みこまれたのだから。

 

 あの夏から数年、なにも変わることない夏の夜の蒸し暑さに包まれた部屋で天井を眺める。体を起こし窓辺に並べた二本のラムネのを順に手に取り栓を開け、片方をアイツの戦った地面へと滴しながら瓶を自分の口に着けて煽る。扶桑人のアイツが教えてくれた店の少し炭酸の強いラムネはなんだか涙の味がする気がした。




私の初めて書いた小説です


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