モンスターストライク 〜星ノ呼ビ聲〜   作:犬社長

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もしかしなくても、ダアトの一人称は『僕』だった。…直しときました。

あと、書き忘れていましたが、ネオが目覚めたのは『ネオが行方不明になってから、1週間後』です。

つまり、前回の話の2週間前ですね。

そこんところ、宜しくです。

って事で、記念すべき100話目、どうゾ↓


章間〈審判前夜〉
100話〈ココロ、強きを求めて〉


 

 

 

 

「て…天……聖…??」

 

 

未だぼんやりとした頭のまま、その言葉を反芻するネオ。

 

(……え、天聖?!)

 

 そして、その言葉の意味を理解した瞬間、彼女は2人から距離を取ろうとしてーーーーーーーー

 

 

「痛っ?!」

 

 

思いっきりその場に崩れ落ちた。

 

「これ。…まだ動くで無い。お主は、生死の境をついさっきまで彷徨っていたのじゃから。」

 

 ペタペタと足音を立てながら、ダアトと名乗った小柄な老人が側にやってくる。

 

 ネオは痛みに顔を顰めながら、周りを見渡した。

 

ーーーー辺りは薄暗いが、とても広い。……天井を見上げると、荒削りな岩肌が見えた。

 

……ココは、洞穴の中の様だ。

 

「……ココは…何処?」

 

その声に、ダアトは静かに答える。

 

「…特に名前は無い。ただの渓谷の洞穴だ。……ま、僕達の()()()ではあるがのぉ。」

「……?」

 

 首を傾げるネオ。ーーーー続いて、彼女は今自分が傷だらけな事に気付いた。

 

 包帯代わりなのだろうかーーーー大きな長い葉っぱが身体中に巻き付けてある。

微かに、青臭い生薬の様な香りもしていた。

 

「……()()()()、お主が樹海から流れる川の上に浮かんでいるのを、ビナーが見つけてな。」

 

ダアトが、杖でネオの身体を触診しながら話す。

 

「…死んでいるのかと思ったが、まだ生きている事に気付き、僕達の住処に運び入れたのだ。」

 

ーーーーつまり、彼等は自分を助けてくれた…という事だ。

 

それに気付いたネオは、そっと息を吐いた。

 

「……そう……。ありがとう…ございました…。」

「構わん。」

 

 一通り触診を終えたダアトは、ビナーを手招きする。ーーーー彼の隣にやってきたビナーの手には、白いコートが抱えられていた。

 

「…あ!」

 

 声を上げるネオ。ーーーーツギハギだらけで、ボロボロの白いコートを、ビナーが申し訳なさそうにネオに差し出す。

 

「ごめんなさい。…頑張って直してみようと思いましたが、既に大部分が破れてしまってて…。」

 

首を振るネオ。

 

「ううん。大丈夫。…ここまでしっかり残ってたら、()()()できるから。」

「「??」」

 

 首を傾げた2人の前で、ネオはボロボロのコートを〈再構築〉する。…コートが一瞬形を崩したーーーーと思った瞬間、ボロボロだったコートは再構築されて、新品同然の白いコートに戻った。

 

「…これは…!」

「なんと!……流石じゃな…。」

 

 驚く2人の前で、ネオはコートに袖を通す。……うん、いつものコートだ。

 

 そして、彼女は姿勢を正して座り直した。最初立ち上がろうと思ったが、かなり体力を消耗しているらしく、立つ事が出来なかったのだ。

 

「……先ず、私を助けてくれた事に改めてお礼が言いたい。ありがとう。」

 

そう言って、頭を下げるネオ。

ダアトとビナーは、2人揃って首を振る。

 

「なに。当たり前の事をしただけじゃ。」

「…でも、貴方達のお陰で私は生き延びた。…あのままだったら、確実に死んでいたから。」

 

ダアトは顎に手を当てて口を開く。

 

「ーーーーむぅ。……しかし、お主はどういう成り行きであの川を、そんなに大きな怪我を負った状態で彷徨っていたのじゃ?」

「それはーーーーーー」

 

 ネオは、2人に説明を始めた。…しかし、思ったより2人は今の世界情勢に詳しく無い様だ。

 どうも2人の世界情勢知識は、2年ぐらい前に止まっている様である。

 

 

「ーーーーふむむ……。いかんな。ーーーー新聞もラジオの電波も届かん奥地で生きていると、だいぶと世間に疎くなるわい。ま、この一年半の間に世界が変わりすぎたのか…?」

 

ーーーースターダストについてや、連邦が今どうなっているか、と言う事の説明を受けていたダアトは、少し困った様な顔で呟いた。

ビナーが隣で口を開く。

 

「仕方ありません。私たちが姿をくらましたのは、天聖達が事件を起こす前だったのですから。」

 

 それを聞いたネオは、さっきから疑問に思っていた事を、口に出す事にした。

 

「貴方達は、さっき天聖と名乗った。……でも、連邦が討伐した〈新人類優勢思想〉の『悪しき天聖』達の中に、貴方達の名前は無い。……貴方達は、一体何者なの?どうして、此処に居るの??」

 

 ダアトとビナーは、互いの顔をチラリと見合わせる。そして、ダアトは重々しく喋り始めた。

 

「………悪しき天聖は9人。しかし、本来の天聖は11人居たのだよ。…僕達を含めてな。」(11話より)

 

ビナーが話を継ぐ。

 

「…私たちは、もともと新人類優生思想なんてモノを持っていませんでした。…むしろ、旧人類の為になろうとしていたのです。」

 

そう言って、彼女はダアトを手で指し示した。

 

「ーーーーダアト様は、新人類が力を持ったのには、必ず理由がある筈だとお考えになりました。…やがてダアト様は、力を持たぬ旧人類達を星のセラムと壊獣の魔の手から守る為、我々に神が力を与えてくれたのだと、そう考える様になったのです。そしてダアト様は、自分に賛同してくれる者達を集めて、旧人類守護の為の組織を作り上げました。ーーーーそれが、天聖の始まりです。」

 

驚くネオ。

 

「…それは、つまり…。貴方達が最初の天聖だった…という事?」

「その通りだよ。」

 

 ダアトは目を瞑って頷いた。そして、静かに話し始める。

 

「ーーーー『力を持たぬもの』。…確かに、僕は旧人類の事をそう言った。ーーーーしかし、それは断じて、旧人類を下等生物だと言う言葉では無かった…。むしろ、守り抜くべき大事なモノとして思っていたからこその言葉だった。」

 

 そう言って、ダアトは持っている杖を見つめる。…その時ネオは、その杖がセラムキューブで創られている事に気付いた。

 

「旧人類が新人類を恐れるのは、力を持つ者への恐怖から。……僕達が旧人類に力を貸し、共に壊獣の脅威から戦い、そして世界中の全ての新人類が、自らの力を世界の為に使えば、自ずと恐怖も無くなっていく筈だーーーーと、僕は考えていた。」

 

ーーーーしかし、とダアトは呟く。

 

「うまくは行かんだ。ーーーー天聖ケテルを筆頭に、9人の天聖達は僕の教えを曲解し、自分達に都合の良いように捻じ曲げ、過激な思想に堕ちていった。…()()()()()()()()()()、遂に僕とビナーは追放されてしまった……………。」

 

 そう言って俯くダアト。彼は心底落胆し、自らの不甲斐なさを悔いている様だった。

 

「情けない事じゃが、身の危険を感じた僕はビナーを連れて彷徨った末、ここに辿り着いた。…さっきも言ったろう?ココは『隠遁先』だと。ーーーー以来、僕達は人里離れた此処で、ひっそりと生きておる。…もはや、こうして生きている意味すら見出せぬまま。」

 

 そう言ってダアトは黙り込んだ。…彼の心の揺らぎを示す様に、セラムキューブから出来た杖が、ノイズ混じりに揺れている。

 

「しかし……」

 

 だが、次に彼が口を開いた時、その声に暗い感情は無かった。

 

「ーーーーもしかすると、僕達がココに居た事には意味があったのかも知れぬ。」

 

そう言って、彼はネオを指差した。

 

「ーーーーつまり神は、僕達とお主を引き合わせる為に、僕達をココに住まわせたのかも、という事じゃ。ーーーーこれは、大いなる運命の始まりかものぉ。」

 

ネオは首を傾げる。

 

「…?」

 

すると、ダアトは微かに微笑み、ネオに驚くべき事を言ってきた。

 

「ーーーー今まで聞いてきた話には出て来なかったが、お主は〈星の歌声〉を聞く者だろう??」

 

「…!?」

 

目を見開くネオ。

 

 彼女は、2人に世界情勢の説明をしている時、自分については一切語らなかったのだ。ーーーーしかし、ダアトはネオが何者なのか看破してみせた。……それにーーーー

 

「星の歌声……。まさか…貴方も星の花のシグナルを…??」

 

驚愕の混じったネオの声に、ダアトは首を振る。

 

「ーーーーいや、違う。僕には声や歌は聞こえん。だがな…ちょびっとばかし、勘が鋭いんじゃ。…虫の知らせ、とでも言おうかのぉ。ーーーー星が誰かに語り掛けている、それを昔の僕はなんと無く理解していた。……そして今、お主の()()()()()()、はっきり分かったんだよ…。お主こそが、星の歌声を聞く者なのだと。」

 

……サラッと、とんでも無い事を言われた気がする。

 

「ゆ…()()()()()()???」

 

唖然としたネオの前で、ダアトはそっと頷いた。

 

「あぁ。そういえば、僕の能力をまだ言ってなかったの。ーーーーーーーー僕の力は、()()()()()()()()()()()()()()()()()()……と言うものじゃ。…正直な話、この世で最も恐ろしい能力だよ。」

 

ダアトはそう言って、杖を軽く振る。

 

…瞬間、ネオの目はダアトに釘付けになった。…何故だろう?彼の一挙手一投足に、どうしようもなく惹かれてしまうーーーーーーーー

 

「この力……使い用によっては、この世界の全ての人類を、自分の言いなりにする事だって出来る。ーーーー今の様に、な。」

 

 パチン、とシャボン玉が弾けた様な感覚がして、ネオは思わずハッとなった。

 

ーーーーダアトから、不思議な魅力の様なものが一気に消え失せたからだ。

 同時に、今まさに自分の精神が操られていたのだと、ネオは自覚する。

 

「気付かなかったじゃろう?…自分が僕の術中にハマった事さえ。」

 

 ネオは頷いた。…確かに、これは恐ろしい能力かもしれない。

 

「…そう言う事じゃ。ーーーーむろん、僕はこれを乱用したくなかった。…この能力の恐ろしさに気付いていたからこそ、僕は躊躇ったのじゃ。…天聖として皆を纏め上げる時、少しばかりこの力に頼ったがの。」

 

そう言って、ダアトはため息を吐く。

 

「今思えば、もう少し強めに能力を使っておくべきだったかも知れん。……そうすれば、ケテルの奴らが過激派に堕ちる事も無かったのに………。ーーーーいや、いかんな。話が脱線した。戻そう。」

 

ダアトは姿勢を正した。

 

「ーーーー取り敢えず、さっき言った『夢を覗き見る事』も、思考と精神に干渉する能力の延長だと考えてくれれば良い。余りにもお主が長い間魘されていたので、ココまでお主を苦しめる夢とはなんなのか、僕はどうしても気になってしまったのだ。」

「……。」

 

ーーーー真っ赤な空の下で、次々と壊獣に殺されていく人々。……そんな悪夢を思い出し、ネオは少し俯いた。

 

ダアトは、真剣な顔で話し続ける。

 

「お主が見た悪夢。……それを通して、僕も星の声を盗み聞いた。ーーーーあの悪夢は現実となる……そうだろう??」

 

ネオは力無く頷いた。

 

「…そうみたい。ーーーーアレを止める為には、私が今の世界を変えないと…。」

 

ダアトは腕を組んだ。

 

「一つ聞こう。ーーーー今のお主に、それは出来るのか??」

「ーーーーーーーー…。」

 

ネオは黙り込む。

 

 あの悪夢は、この星を今満たしている《怨嗟の声》を、星が聞いた事で引き起こされる筈だ。

 

 怨嗟の声を止める為には、世界各地の戦いを止める必要がある。

 

 そして戦いを止める為には、両者の戦いを辞めさせるに足る『言葉』が必要だ。

 

……しかし、何を言えば戦いは止まるのだろう??ーーーーそもそも、この戦いを始めたのは自分達だと言うのに。

 

「私は……私たちは、世界を巻き込んだ大きな戦いを一年半前に始めた。……虐げられた新人類の為に…。」

 

ネオはそっと呟く。

 

「ーーーー優生思想の二の舞にはならない様、肝に銘じていた筈だった。…私たちが戦うのは新人類の自由の為であって、旧人類を滅ぼす事じゃ無い。………憎しみだけで、戦っちゃいけないって。」

 

ーーーーでも、あの悪夢の中は、互いの滅びを願う声で満ちていた。

 

「……始まってしまったものは…もう、止まらない。…私は1番近くで、互いを憎み、傷つけ合う者達の声を聞いた。……アレこそが悲しみの輪。……これじゃ…何も変わらない。…それに私は気付いた。ーーーーどうにかして、変えないと……!」

 

 潰えぬ悲しみの輪。ーーーーこれを打ち破る為の力を、ネオは今求めていた。

 

 しかし、ネオの意志は、精神は、打ち破るための言葉(ちから)を、見出す事が出来なかったのだ。

 

「私の心は弱い。……最初からそうだったんだ。ずっと……。」

 

「ーーーーーーーー()()()()。」

 

 不意に、ダアトのハッキリとした声がネオの暗い思考を遮った。

 

「え?」

 

顔を上げるネオ。

 ダアトは、強い意志の宿る瞳で彼女を見つめ、口を開く。

 

「お主は、夢の中でも嘆いていた。ーーーー怨嗟の声を止めるための言葉が無い…と。自分の心が弱いと。」

 

彼は杖をそっと地面に刺す。

 

「ーーーーだから、僕は()()()()()()()()()()()()。ネオ。」

 

ーーーーそして、彼はネオに手を差し出した。

 

「僕の力を貸そう。ーーーー僕に宿った、他者の思考と精神に干渉する能力で、お主の心を鍛えようじゃないか。…お主が、自分の声を世界に届けられる様になるまで。」

 

「…!」

 

ネオは目を少し開いた。

ダアトは話し続ける。

 

「ーーーー悪夢の訪れを止めるには、お主が、お主の声で、世界に語り掛けなければならない。…つまり、僕がお主の精神に無理やり干渉して言わせた言葉では、人の心は動くまい。ーーーーだから、僕はお主の心に《試練》を与える事にした。…これなら、試練を乗り越えた先でお主が身につけるモノは、全て純粋なお主の言葉になる。……あくまでも、僕は試練を与えただけだからな。」

 

ネオは彼の言葉を吟味する様に頷いた。

 

「私の心を……強くしてくれる…という事?」

「強くなるかどうかは、お主次第だ。僕は心に試練を与えるだけ。乗り越えられるかどうかも、定かでは無い。ーーーーだが、試す価値はある筈だ。どうだ?どうする??」

「…………ーーーー。」

 

ネオは自分の手のひらを見下ろした。

 

……そして、軽く目を閉じ、ぎゅっと手を握り締める。ーーーー目を開いた時には、彼女の目には確かな意志が宿っていた。

 

「するよ。ーーーー私が私の言葉を見つけるまで、どんな事だって。それで世界を救えるのなら。……そして、早く皆んなの元へ帰るんだ…!」

「よし!よく言った!ならば早速ーーーー」

 

「待って下さい、ダアト様。」

 

 立ち上がりかけたダアトを、今まで黙って話を聞いていたビナーが制す。

そして、彼女はネオを指差した。

 

「まだ、彼女の体力は立ち上がれる程回復していません。ーーーー強き精神は強き肉体にこそ、宿る物です。取り敢えず、立てる様になるまで身体を休めないと。」

「む……それもそうか。ーーーー確かに、今のお主は立つことすら儘ならないのだったな。心の試練は、負荷も大きい。ビナーの言う通りだ。僕も気が急いていたよ。」

 

「ーーーーいや…別に、大丈夫だけどーーーー」

 

「ダメです。」

 

 ネオの声は、ビナーによって遮られる。そして、彼女はネオの側に近づくと、包帯代わりに巻いてある長い葉っぱを取り始めた。ーーーー彼女の側には、幾つかの壺が置いてあり、薬の匂いがする。

 

「貴女は酷い怪我を負っていました。…()()()()()()()使()()()()()、やはり限度があります。」

 

 ビナーはネオの体の包帯を外し終わる。ーーーー自分の体についた、まだ赤い生傷を見て、ネオは顔を顰めた。

 

「ーーーー銃弾を胸に受けた上、至近距離から爆発に巻き込まれた火傷と裂傷。そして、複雑骨折。……1週間でココまで回復した事が、逆に奇跡です。」

 

 ビナーはそう言って、自分のセラムキューブを展開する。…彼女が念じると、桃色のキューブは丸いハート模様の球体に変わって、ネオの傷口にそっと触れた。

 

 暖かな光が広がり、痛みが和らぐ。ーーーー回復に特化したセラムの力だ。

 

「……この光…暖かい……。」

 

 思わずそう呟くネオ。彼女はネオの体に薬を塗ると、新しい葉を巻きつけ、そっと彼女の頭を撫ぜた。

 

「…今は安らかに眠って下さい。ーーーー大丈夫。悪夢は今は見ませんよ。」

 

 ビナーの癒しの力が体全体に広がって、ネオは唐突に睡魔を覚える。

 

「……ぅ…分かっ…た。」

 

 なんとかそう言う事が出来たネオは、そのままビナーにもたれかかる様に眠りについた。

 

 そんな彼女の寝顔を見ながら、ビナーはダアトに語りかけるのだった。

 

「ーーーーこの人は、歳の割には重た過ぎるものを背負って生まれた様ですね。ダアト様。」

 

 ダアトも、寝息を立てるネオの顔を覗き込みながら、そっと頷く。

 

「あぁ。………世界も残酷な事をするのぉ。」

 

 

 

……そして2人は、暫く彼女を見つめていたーーーーーーーー

 

 

 

 

 

 

 

◇◆◇

 

 

 

 

 

 

 

ーーーーこうして、ネオは2人の元天聖の元で、自らの体の傷が癒えるのを待つ事になる。

 

 

 その間に住む事になったダアト達の洞穴は、意外にも居心地が良かった。どういう原理かは知らないが、洞穴の中には光を放つ花が無数に咲いていて、辺りを常に幻想的に照らし出している。

 

 また、思ったよりも外が近いらしく、鳥の囀りや川の流れる音が常に洞穴の中を満たし、新鮮な空気がいつも洞穴に流れ込んでいた。

 

 

「…地下には水脈があって、畑もダアト様が作ってるんですよ。」

 

 

 ある日、(ーーーーいつも運ばれてくる食事は、一体どこから手に入れてくるのだろう?)とネオが抱いた疑問に、ビナーがそう答えてくれた。

 

「ーーーー星のセラムは地に溜まる性質があります。…私たちが住んでいる渓谷は、星のセラムに常に満たされ、強い自然が息づいている……。まさに星の恵みですね。ーーーー旧人類にとっては、死の世界ですけれども。」

 

ネオを治療しながら、ビナーはそう教えてくれる。

 

「なるほど……。自然の中の暮らし…という事なんだね…。」

「そう言う事ですね。…きっと、貴女の体もすぐに良くなる筈ですよ。」

「そっか。……良かった。」

 

 彼女の言う通り、傷ついたネオの身体は驚異的な速度で回復していく。

 

「ーーーー早いですね……。貴女の体は再生能力が強いとは思っていましたが…まさかこれ程とは…。」

 

ーーーーネオがココで療養を始めてから4日が経った時、ビナーはネオの体を見て、かなり驚いていた。

 

…彼女の体から既に生傷は消え失せ、瘡蓋すらほとんど残っていない。ビナーにとっても、かなり驚異的な回復速度だった。

 

「ーーーーコレは貴女のおかげ。…本当にありがとう。」

 

ーーーー5日目にはもう立てる様になったネオ。回復した彼女は、ビナーに深々と頭を下げる。

ビナーは首を振った。

 

「いえいえ。……コレは貴女の意志が成し遂げた、奇跡の回復です。私の力など、微々たるものですよ。」

 

「ーーーまさに『微ナー』……なんちゃってな。」

……ダアトが茶化した。

 

「…変な事言わないで下さい、ダアト様。」

 

 ピシャリと言い切るビナー。ダアトが、ウケなかったか…と言った顔つきで、奥に引っ込んでいく。

 

そんな彼に、ネオは声をかけた。

 

「ダアトさん。」

「ん?」

 

足を止め、振り返るダアト。

 

「…私の体は回復した。…もう、立ち止まっている理由は無い。……《試練》を、受けさせて欲しい。」

 

 ネオの真っ直ぐな瞳を、ダアトはしっかりと見つめてから、そっと口を開いた。

 

「あぁ。分かっている。明日だ。…明日、試練について話そう。今はまだ休みなさい。」

「…でも、ニュウくんや、イースターの皆んなが私を探してる筈…。少しでも早く、私はーーーー」

 

そう言うネオを、ダアトは優しく遮った。

 

「焦らない方が良いよ。ネオ。あともう1日、活力を蓄えておいた方が良い。…心の試練は、お主が思っているより、過酷なモノになる筈だから。」

「………!」

 

 そこまでして自分の身を案じてくれているのなら、これ以上引き下がらない訳にもいかず、ネオははやる気持ちを抑えて、そっと頷いた。

 

「…よし。ならば今日の夕食はご馳走だな。お主の全快祝いとしよう!」

 

 ニヤリと笑うダアトに、ビナーが少々呆れた様に呟いた。

 

「……ダアト様が食べたいだけなのでしょう?」

「良いじゃないか、良いじゃないか。ーーーーネオだって、食べたいと思ってる筈だ。な?な??」

 

 若干の圧を感じながら、ネオは微笑んで頷いておいた。…ま、悪くは無いだろう。

 

「ほら、見たかビナー!ネオも『そうだそうだ』と言っておる!」

 

ビナーは、ダアトを宥める様に手を揺らす。

 

「…わかりました、分かりましたよダアト様。…そのかわり、手伝って下さいね。」

「うむうむ、勿論だとも。腕を振るわせてもらうぞ。」

 

そう言って、夕食の準備に取り掛かり出す2人。

 

 ネオも2人の手伝いをするべく、後に続いて歩き出すのであったーーーー。

 

 

 

 

 

 

 

 

◇◆◇数時間後◇◆◇

 

 

 

 

 

 

 

 

 

………夜風が、自分の髪を靡かせる。

 

 

 

ーーーー現代文化水準に比べれば質素だが、美味で健康的な夕食を終えたネオは、一人で洞穴の外に出ていた。

 

 

…洞穴の出入り口は、シダ植物によって自然の緑色のカーテンが下されているかの様な状態となっており、すぐ側にはサラサラと流れる大きな川がある。

 

 空を見上げれば、満天の星空と、思ったより近くに〈アメノミハシラ〉が見えていた。…意外と北極に近いのかもしれない。

 

ーーーー星空と同じくらい、星のセラムもよく見える。

 

(……綺麗な景色……。アステールの〈霧の森〉で見る空と一緒だ。…この景色も、ニュウくんに見せれたらな………。)

 

「んん…霧の森、か。良い名前だの。…僕も行ってみたいよ。」

 

…唐突に、横からダアトの声が聞こえてきて、ネオはギョッとした。

 

「わ。ビックリした。……急に現れて、思考を読むのやめて欲しい。」

 

 プライバシーも何もあったもんじゃない、と苦言を呈したネオに、ダアトは愉快そうに笑う。

 

 そして、ネオの隣に座り込むと、彼女と一緒に夜空を見上げだした。

 

「……自然は美しい。たとえコレから僕達がどうなろうと、この自然だけはずっとこのままだろう。…そう思わないかい?」

 

そんな彼の呟きに、ネオは小さく頷く。

 

「そうかもね…。滅んで終わるつもりはないけれど。」

 

ダアトは深く息を吐いた。

 

「……僕も、滅びたくはないよ。どうせ終わるのなら、静かに息を引き取りたい。……その望みくらいは、叶えさせて欲しいものだ。」

 

 そう言う彼の隣で、ネオは星空を見上げながら、小さく手を握り締める。

 

(……私は必ず、自分の言葉ーーー『声』を見つけ出す。星にも届く、私の声を。…そしたら、もっとニュウ君とーーーー)

 

ーーーー心の中で決意を固めるネオの隣で、ダアトが微笑んで呟いた。

 

「…ほんとに良く、彼の事を考えてるのぉ。お主は。…老体には眩し過ぎるアオハルエナジーを感じるよ。」

「あぅ…!(…そうだ…思考は読まれるんだった…っ。)」

 

思考を読まれると言う事を、つい忘れがちなネオ。

 赤くなってあたふたする彼女を、少々ニヤリとした顔で見ていたダアトは、そっと彼女に手招きした。

 

「…さて、夜風は冷えるだろう?…戻って寝なさい。」

「うん。ありがとう。……でも、もう少しこのままで居るよ。」

「…そうか。分かった。だが、風邪は引かないようにな。……病は能力では治らん。」

 

 そう言って、ダアトは洞穴の中に戻っていく。彼が去った後も、暫くネオは夜空を見上げていた。

 

 何故か今は、星の歌が聞こえない。ーーーーいや、ココ最近はずっとそうだった気もする。

 

 星が歌わなくなったのも、もしかするとネオの見た悪夢の訪れに、関わっているのかもしれない。

 

 

「……あの悪夢を現実にはさせない…。」

 

 そう独り言を呟いて、空の向こうに鎮座する光の柱ーーーーアメノミハシラを見つめるネオ。

 

 

 アメノミハシラは動かない。……まるで、何かを待っているかのように。

 

 

 

 

 

 

◇◆◇

 

 

 

 

 

 

ーーーーーーーー次の日。

 

 

 

 朝食を終えたネオは、今まで足を踏み入れた事も無い、洞穴の奥の方へ案内されていた。

 

…幻想的な光る花が咲いている洞穴の深部で、ネオとダアトは向かい合っている。側には、ビナーも居た。

 

 

ーーーーコレから、精神の修行が始まるのだ。

 

 

「さて……と。」

 

ダアトが杖を手に持って、ネオに語りかける。

 

「コレからお主は、おそらく長い夢を見る。ーーーーその内容は、お主しか知りようのない事だ。そして、それを乗り越えた先に、きっとお主が求める『言葉』がある。……良いな?」

「うん。…大丈夫。」

 

若干の不安はあったが、それでもネオは頷いた。

 

 

「よろしい。ーーーーでは、始めるとしようか。」

 

 

 満足そうにダアトは頷くと、不意に自分の杖を放り投げる。

 

 

 投げられた杖は、ネオの前で組みかわり、その形を変えていった。

 

……そして、変形が終わった時、ネオの前にはもう杖は無く、代わりに薄っすらと光を湛えた不思議なモノが浮かんでいた。

 

 

…二つの天秤をクロスさせ、真ん中に一段高い台座を置いたような形をしたモノ。おそらく、真ん中の台座には座れるのだろう。

 

 

ーーーーそんな不思議なモノの前に立って、ダアトはネオに話しかける。

 

その顔には、確かな疲労が見えていた。

 

 

「……コレが、お主に試練を与えるモノ。…精神と思考の試練の象徴ーーーーーーー《シコウの玉座》だ。」

 

 

「……シコウの…玉座…。」

 

 思ったよりも大きいソレに近づいたネオは、そっとダアトの言葉を繰り返す。

 

「コレに座り、目を閉じればお主の精神は、夢の中へと旅立つ。次に目覚める時は、試練が終わった時だ。……さぁ、座り給え。」

 

 ダアトに静かに促され、ネオは《シコウの玉座》の上に腰掛けた。…かなり冷たい。

 

「ネオさん…」

 

 目を閉じかけた時、ネオに向かってビナーが話しかけてきた。

 

閉じかけた目を薄く開くと、ビナーと視線が合う。

 

「頑張って下さいね。」

 

「……うん。」

 

ネオはそっと頷くと、今度こそ目を閉じる。

 

「…《汝、シコウの玉座にて、己に挑む者なりーーーー》」

 

 

 視界が暗がりに閉ざされた中、ダアトの声が響きーーーーーーーー

 

 

 

「《ーーーー光、在れ》!」

 

 

 

ーーーーーーーーネオの意識は、果てなき深層心理の彼方へと飛んでいった。

 

 

 

 

 

 

 







ここに来てまさかの修行展開。


 元々この2人の天聖は登場させる気なかったのに、良い仕事しますねぇ〜。

ちな、《シコウの玉座》の『シコウ』がカタカナなのは、思考と至高を掛けてるからです。言葉の遊び心だいじ()

では、また次回お会いしましょう。歓喜(フロイデ)
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