ネオの精神修行スタートしたばっかりで、大変申し訳ありませんが、
えっと…アステールやオーステルン覚えてるよね……?最近出てないから、忘れてないよね…??
北の果てに造られた、元新人類共同居住区〈アステール〉。
今は、スターダスト率いる新人類勢力の中心地となっている六芒星の街は、今日も賑わっていた。
ーーーー1年半前に、イースターがスターダストを発足させて、旧人類勢力との戦いを始めてから、アステールは〈スターダスト本部〉として、エージェント達の拠点となっている。
さらに、激化する戦いから身を守る為、戦力を持たない移動要塞都市の人々は、このアステールに要塞都市ごと身を寄せていた。
…複数の移動要塞都市が、常にアステールにある様なモノだ。
これにより、元々高い防衛能力を誇っていたアステールの守りは、更に盤石となっている。…それこそ、この一年半の間、連邦が一切手出し出来なかった位には。
また、超弩級移動要塞都市であり、元イースター本部を擁立していた〈オーステルン〉も、常にアステールに留まっている。
更に更に、同じく反連邦側の超弩級移動要塞都市である、〈フィンディアス〉・〈トーリー〉の両要塞都市も、アステールの守護についていた。
これはアステールを守るだけでは無く、要塞都市上に住む市民達を守る為でもある。…戦う力を持たぬ者が、戦いに巻き込まれないようにする事。ーーーーソレを、ゼウスは徹底していたのだ。
ーーーーそして、今ここに居る移動要塞都市はこれだけでは無い。
今はカノンがリーダーを務める〈教会国家グローリー〉、五王国新人類同盟の盟主アーサーを王に抱く〈神聖国家ブリタニア〉、アーサーの盟友でもある『ソロモン』を王とする〈レシアル国〉も、アステールに集っていた。
……つまり、ほぼ全員大集合である。
彼女らの要塞都市がここに来た理由は、殆どが資源補充の為だ。
連邦戦力との戦いだけで無く、ここ最近活発化し出した〈壊獣〉との戦い……ソレにおけるスターダスト陣営の戦力消費は、かなり激しい。
無論、旧人類側も壊獣には悩まされているようだ。……最近は、旧人類より壊獣と戦っている機会の方が、多いかもしれない。
「ーーーー壊獣の活発化…ねぇ。」
オーステルンの艦長〈ゼウス〉は、アステールに新造された巨大な建物ーーーー〈スターダスト本部〉の一室で、そう呟いた。
部屋の中には、今アステールに集っている超弩級要塞都市の艦長達が揃っている。……此処までのメンツが一堂に会する機会など、そうそうないので、折角だからとゼウスが彼等を誘ったのだ。
「…今はそれより、ネオの方が心配ですよ。…俺は。」
椅子に座っていたハレルヤが、そう口を開く。ーーーー隣では、バサラとアミダが激しく頷いていた。
…彼らは旧日本領を解放した後、スターダストの〈ウルトゥル・カデンス支部〉が持つ移動要塞〈アーク・オブ・ハープ〉で、物資補給の為にアステールに立ち寄っていたのだ。
理由はやはりと言うか、道中で壊獣との激しい戦闘が起きた為ーーーーである。
「…ネオ様の安否も勿論ですが、これ以上壊獣の被害が大きくなると、我々は戦いどころでは無くなります。…両者とも、共倒れになってしまうかも…。」
そう憂いを帯びた顔で呟くのは、〈ウルトゥル・カデンス支部〉を総括する女性ーーーー〈ベガ〉だ。若いながらも、強いリーダーシップを持つ、優秀な人材である。
「我が国、ブリタニアもだ。…此処まで頻繁に壊獣が出てきて貰っては、旧人類と戦う前に疲弊してしまう。」
少し離れた所で、アーサーがそう言った。
「壊獣の活性化の原因は一切不明。…困ったものね。」
オーステルン〈中枢〉のメンバーであるアフラ・マズダーが、ゼウスの隣でため息を吐いた。
「…ま、それは向こうも同じだがな。ーーーー壊獣の脅威は、等しく
ここでオーステルン副艦長〈ケラウノス〉が、そう口を開く。
隣でアステールの王〈ポセイドン〉と副官の〈トライデント〉が、険しい顔で頷いた。
「それに対抗しつつ、旧人類勢力とも戦わなくちゃあならん。」
「大変だよねぇ、まったくさぁ!まじウケないんですけどぉー?」
続いて、アーサーの隣に座っているソロモンが、ゼウスに話しかけた。
「…ゼウス様。ーーーーアステールの方の資源補充は、間に合っているのでしょうか?…こうも私達が補給を繰り返していけば、例えココが資源豊富な土地だとしても、やがて枯渇してしまうでのは…?」
ゼウスは、隣のケラウノスと顔を見合わせる。
「ーーーーそれに関しては、
そうケラウノスが答えた。
すると、フィンディアスの艦長〈ヌアザ〉が、ケラウノスに問いかけてくる。
「ーーーーだが、このまま戦いが長引けば、いずれ無くなるのだろう?」
「……まぁ…いずれ、無くなるだろうな。」
ケラウノスが苦い顔で肯定した。
勿論、此処以外にも物資の供給場所はある。ーーーーしかし、戦争が長引けば、資源の少ない所から尽きていくだろう。
…都市間を繋ぐインフラが空輸以外機能せず、そもそも空輸すら〈壊獣〉の襲撃を受ける可能性がある今の世界では、そう簡単に物資を他の場所へ運び出すことすら出来ない。
「…難しいな。連邦も未だ健在だし、11王国連盟も勢力的には旧連邦を上回ってる。戦争は、最低でもあと一年は続くぞ。」
そう呟くのは、トーリーの若き艦長〈ルー〉。彼の側の副艦長ブリューナグも、賛同の意を示すように頷いていた。
ーーーーと、ここで静かな女性の声が部屋に響く。
「…壊獣によって消耗が強いられている今、両者の戦い方は変わっていくでしょうね。」
……発言したのは、元グローリーの大司教〈フェルシア〉だ。
彼女は車椅子に優雅に座り、後ろには助手のジョルノロキアと元〈カノンシリーズ〉のカノンⅡが立っている。
ーーーー現司教のカノンが、行方不明のネオを探しにグローリーを離れているので、その間フェルシアがグローリーの臨時司教になっているのだ。
座っているのは車椅子なのにも関わらず、まるで玉座に座っているような優雅な物腰で、フェルシアはゼウス達に話しかけていく。
「ーーーー今までのような大掛かりな物量作戦から、少数精鋭による局所戦闘へ。そして防衛兵器の使用は、対壊獣戦のみの使用へと切り替わる…。限られた資源の中で、どうやって戦っていくか。…
「アンタは何を楽しんでんだよ…。」
若干呆れた様に呟くゼウス。
「だがまぁ…フェルシア殿の言う通りだろうな。」
アーサーが、渋い顔をしながら頷いた。
「ーーーーつまるところ、無闇矢鱈に戦力を使うわけにもいかない、と言う事だ。これは我々で何とかするしかあるまい。…
そんな彼女の力強い声が、彼らの集う広い部屋に響いた。
頷く王達。
その後も、旧人類や壊獣との戦いを巡り、彼ら彼女らの話し合いは続いていくーーーーーーーーーーーー。
ーーーーーーー王達の長い話し合いは終わった。
各王達が部屋から退出していった後、ゼウスは1人部屋に残り、部屋の大きな窓からアステールの街を見下ろしていた。
「……会議は終わったのね。ダーリン?」
…自分に話しかけてくる声に気付いて振り返れば、ソコにはゼウスの妻である〈ヘラ〉が、部屋の出入り口に立っていた。
「ヘラ…。」
ヘラは、ゼウスの隣に立って、一緒にアステールの街並みを見下ろす。
街中を行き交う人々と、彼らが紡ぐ営みの音が、微かに聞こえてきていた。
「どう…?私達、これからも大丈夫そう…?」
ヘラの問いかけに、ゼウスは小さく頷く。
「あぁ。……何とかしてみせるさ。新人類の為に。」
そう言うゼウス。彼の側に体を寄せて、ヘラはアステールの街を見つめながら、そっと口を開く。
「…たとえ世界が混乱に満ちていても、人々は今日を生きる。……朝起きて、仕事をして、家に帰り、眠りにつく。そして明日が来る。……当たり前だけど、かけがえの無い繰り返し。……私はそれを守りたいわ、ダーリン。……本当に…大丈夫よね…??」
ゼウスは、ヘラを安心させる様に抱き寄せた。
「ーーーーあぁ。大丈夫だ。必ず、俺たちに未来は来る。」
そう言った時、ゼウスはふと言いようの無い直感の様なものが、胸の片隅にひんやりと横切るのを感じた。
ーーーーもしかすると、自分達はとんでもない思い違いをしているのではないか?
ーーーーもしかして、自分達…いや、
「ーーーー
そんなビナーの声にダアトが顔を上げると、酷く心配そうな顔を浮かべている彼女と目が合った。
ダアトは顎をさする。
「…そうだなぁ……。だいぶと長くかかっとる様だ。ーーーーしかし、彼女が挑んでいるのは、この世界の負のループそのもの。差別と争いの歴史だ。…それを止める為の言葉となると、納得のいくものが見つかるまで、かなり長い間夢の中を彷徨う事になるだろう。」
そう言って、ダアトは洞穴の奥へ目を向ける。
ーーーーネオが試練に挑み始めてから、2週間が経過していた。
今もまだ洞穴の最奥で、彼女はシコウの玉座に座り、夢の世界を彷徨っている筈だ。
シコウの玉座に座っている間、眠りにつく者の身体代謝は限りなくゼロに近い状態となり、衰弱する事はない。
ーーーーとは言え、2週間も目覚めないとなると、流石に心配だ。
「……たのむぞ…ネオ。僕はお主に、賭けてみたのだから…………」
ーーーーーーーーダアトの呟きが、そっと溶けて消えた。
◇◆◇
…………ネオは夢を見ていた。
長い、永い夢。
何度も何度も、場面や設定を変えては、ありとあらゆる形で夢は現れる。
……そしてネオは、無限に続く夢の中を彷徨っていた。
(私の言葉。私の心。ーーーー争いを止める為の声。…悪夢の訪れを止める為の言葉…!それを見つけないとーーーー)
ネオは、色んな夢の中で、常にそれを願っていた。
そして夢は、ネオにあらゆる形で語りかけてくる。
『ーーーー君が始めたんだよ。ネオ。この屍を見ろ!人がゴミの様だ!』
ある時は死体の山の上に立つ人の言葉で。
『この先、戦争激化注意。速度落とせ。』
ある時は道端の道路標識で。
『続いてのニュースです。激化する新人類との戦争により、女性や子供を含む多くの死傷者がーーーー』
ある時はテレビのニュースで。
『ーーーーうえぇーーーーーーーんっっっっ!!』
ある時は、親の骸を抱いて哭き叫ぶ旧人類(ーーー或いは新人類)の子供の姿で。
あらゆる夢が、ネオの心に突き刺さった。そして、彼女の心に問いを投げかけ、心を抉っていった。
どの世界でも、いつの時代でも、争いが生み出す業は深く、禍根は永遠に残る。ーーーーこれを止めたいと願うのなら……お前はどうする?
……これは試練。乗り越えなければ、自分の望むモノは手に入らない。
(ーーーー私のせい。私の罪。…私は………!)
分かっていても、難しい。そして悔しい。ーーーー争いはどうやったら止まるの??
綺麗事でも良い。…ネオは自分の声を…あの憎しみを終わらせられる声を、ただひたすらに求めていた。
『ーーーー誰しも、何かを忘れているんだよ。』
ふと、そんな声がネオの耳に入ってくる。
ーーーー顔を上げると、そこはアステールの霧の森の中だった。
…そして、目の前には白いコートに身を包んだ少年…ニュウが立っている。
辺りは満天の星空。…夜風に木々がそよぐ音が、耳によく響く。
(ニュウくん……。)
夢の中とは分かっているが、ネオはそれでも彼に会った時に安堵した。
夢の中のニュウは、ネオの目を見つめながら語り掛けてくる。
『死んでしまった僕をリバースで助けた時、ネオは何を思ったっけ??』
(何を…思ったか…)
ーーーーあの時は、ただ彼に死んでほしく無かった。
生きてて欲しかった。
だって、あの時、私の胸には、貴方へのーーーー
(…………好き、って……。だから…離れ離れは嫌だ、って…。)
『……ソレこそが、この世界で1番強い感情さ。』
夢の中のニュウは、ネオの手を握ってそう言った。
夢の中とは言え、ちょっぴり気恥ずかしくなったネオは、微かにはにかんで、目線を落とす。
すると、今度はまた別の声が聞こえてきた。
『ーーーー誰にも譲れない。強い想いを持つ事だ。ネオ。』
(……!アーサーさん…?)
ーーーー振り返ったネオの目の前には、アーサーの姿があった。
夢の中の彼女は、現実の彼女と何ら変わらない強い光を湛えた瞳で、ネオをしっかりと見つめて口を開く。
『強い想いを持ち、声を上げ続ける事だ。…私は、人は心の奥底で分かり合えるモノだと、信じて疑わない。』
…この言葉を、前に現実の彼女からネオは実際に聞いた。
『ーーーー君の心からの言葉は、きっと人々に届く。』
夢の中のアーサーは微笑むと、さぁ…っ、と霧の様に消えていった。
(……誰にも譲れない…強い想い……。)
1人、彼女の言葉を呟くネオ。
ーーーーそして、彼女の夢はまた変わり出した。
でも、今度の夢は、彼女に問いかける様な夢では無い。……今まで起きた出来事を、追体験する様な……そんな夢だった。
自分が産まれた時。
産まれてすぐに離れ離れになった、名前も顔も、今生きているのかすら知らない両親の影。
連邦で過ごした日々。
ーーーー実験の数々と、自由への憧れ。
研究所から解放された時。
天聖ケテルと名乗る男が、差し出した手。
その手に従っていっても、ネオは自由を手に入れられなかった。
だから、また逃げ出した。ーーーーそして、イースターに出会った。
そこで得た『自由』。
知らなかった事がいっぱいあった。『初めて』が、いっぱいあった。少なくとも、寂しくはなかった。
………そして、あの日『
…彼と交流する内に、ネオは知らず知らずの間に変わっていく。
ーーーー変わり出したのは、『自分の内面』。…連邦の研究所という閉鎖的な世界でのみ構築された所為か、年齢に反してネオのアイデンティティは希薄だった。
しかし、彼との出会いが、急速にネオの心を構築していく。
強い感情の芽生え。
それに戸惑いながらも、自覚して、向き合っていこうと思った矢先に、彼を失いかけた。
………でも、それが逆にネオを強くした。
(貴方をもう2度と失わない為の力を、私は望んだ。…ずっと、ずっと生きていて欲しいから。)
ネオは、洪水の様に流れる記憶の中で、ただ彼だけを見つめて呟いた。
(今思えば……私の全ては、貴方によって形作られたのかもしれない。ーーーーそして、今の貴方は私の力で生きている。)
彼がネオの心を創り、その心からネオは力を得て、その力で『あの日』彼は蘇った。
ーーーーーーーー夢の場面がまた変わる。
そこは、かつてニュウの仲間達を解放する為に戦った場所でもある、空飛ぶ連邦極秘研究施設〈タルタロス〉の上だった。
………ネオは〈スピードモード〉の翼を広げたニュウに抱き抱えられて、タルタロスの真上の空に浮かんでいる。
そして、ニュウの体からは、暖かい炎の様なものが溢れ出ていた。
……これと良く似た場面が、現実でもあった筈だ。
(……そうだ…この温かい感情の炎は……他者への愛だって、
…包み込む様な、柔らかな安らぎを感じさせるこの感情が『愛』ならば、確かにコレは世界で最も強い感情なのかもしれない。
……この炎なら…私だって持ってる。
ーーーー彼が抱くモノに、負けないぐらい強い炎を。
『貴方を望んだら、ダメですか………?』
ーーーーフラッシュバックするその問いかけは、タルタロスが地に堕ちる時、ニュウがネオに言ったセリフだ。
…つまり、
(うん。良いよ。)
そう、ネオは答えた。あの瞬間に、彼との関係は確定した。
彼が言ってくれた『好き』に、ネオもまた答えた。
ーーーー世界でただ1人、心を分かち合える魂。
それが彼であり、そしてーーーー
(……だって、私も同じだから。)
そうだ。
この想いは、譲れないし、強い想いだ。
『ソレを世界に届ける言葉に出来るかい??』
ーーーーうん。出来るよ。
…次の瞬間、ネオの悪夢は美しく荘厳に砕け散った。
その日、ダアトは《シコウの玉座》が壊れるのを感じた。
「ーーーーむ!!コレは…シコウの玉座が崩壊したか!」
シコウの玉座が壊れたと言うことは、その役目を終えたという事に他ならない。
「ビナー!ネオが目覚めたようだ!」
「っ!本当ですか?!」
駆け寄ってくるビナーに、ダアトは頷いて見せた。
「あぁ!…迎えにいくぞ。2週間以上の眠りだ。いくらシコウの玉座に生命を維持する力があるとは言え、少しは休ませなければ。」
「分かりました。迎えに行きましょう!」
頷いたビナーを連れ、洞穴の最奥の一室へ向かうダアト。
辿り着いた先で、ネオはーーーーーーーー
…………まだ眠っていた。
「…むむ??」
「??…まだ、眠っていらっしゃる……のでしょうか…?」
驚き、足を止めるダアトとビナー。
ダアトはネオの体を見つめる。
その体は微かに透けていた。…さらに、砕け散った筈のシコウの玉座の残骸が、未だ消えずにネオの周りを漂っている。
…近づくと、形容し難いモノーーーー星の力??ーーーーをダアトは感じた。
「……確かにシコウの玉座は役目を終えた。……だが、コレは…。」
ここで、彼の持つ《虫の知らせ》が、ネオに今何が起きているのかを察知する。
ダアトは、頭の中に浮かんだ突拍子も無い可能性に、疑心暗鬼ながらも自らを納得させる様、呟き始めた。
「……ま、まさか…《星の意思》か?ーーーーーーーー全ての新人類は、セラムキューブを介して星から力を得る。…その応用で、僕のセラムキューブを介し、
コレが本当なら、今ネオは夢の中でーーーー
「お主は今、星と話しているのか………ネオ。」
◇◆◇
ぴちょん…………。
鏡の様な水面が揺らぐ。
「ーーーー!」
ネオは、目を開いた。
「……此処って……。」
目の前に広がるのは、何処までも続く水平線と、宇宙の縮図の様な夜空の星々。
ーーーーニュウを蘇らせた時に自分が居た、あの不思議な世界だ。
しかし、違う所もあった。
空に、無数の
更に、星の花の幻影が驚く程近くに有る。
「コレは……。」
ネオが呟いた瞬間、足元の水面が揺らぎ、まるで巨大なスクリーンパネルの様になって、彼女の足元に映像を映し出す。
「……!!(…この景色は…地上?)」
映し出されたのは、地上の景色だった。
緑豊かな大地。…そんな大地を、夥しい数の壊獣が埋め尽くしている。
ーーーーーーーーそして、壊獣と人間が戦っていた。
あちこちに爆ぜる戦火。……人間達の必死の抵抗も虚しく、夥しい数の壊獣によって、人間達は殲滅されていく。
(…戦ってる…!まさか…悪夢の世界…??)
『ーーーー
「?!」
ふと、横から声が聞こえてきたネオは、弾かれた様に顔を上げた。
目の前に、顔が一輪の花になっている女性が居る。
彼女も、ニュウを蘇らせた時、この不思議な世界に居た筈だ。
「……貴方は……。」
『ーーーー私は〈星の花〉。こうして話を
そう言って、胸に手を当てる女性ーーーー改め、〈星の花〉。その声は、ネオの魂に直接響いていた。
「…貴方が……星の花……。貴方が、私に歌いかけていた存在……。」
そう呟きながらネオは星の花を見つめ、次に地上に目を戻し、地上の惨劇を見つめながら口を開く。
「ーーーーーーー何が起きてるの?何が、
星の花は静かに答えた。
『古き世界の終焉よ。ーーーーコレは、
顔を上げるネオ。
「…?ーーーーどういう事?」
星の花は、星空を見上げ、話し続ける。
『………全ては、この星の上で生きる
「…進化の為の…絶滅行動……。」
鸚鵡返しに呟くネオ。
『……そして、星の頂点に君臨した生命に対する〈試練〉でもあるわ。』
ーーーー瞬間、足元の景色が変わり出した。
「…?!」
地上の景色は消え失せ、代わりに不思議な壁画の様なモノが現れる。
ソレには、セラムキューブを手に持った新人類らしき人の絵が、手に銃を持った旧人類らしき人の手を握り、壊獣と戦っている様子が描かれていた。
『…星のセラム。壊獣ノーマン。ーーーー其れ等は全て、神が人類に用意した
壁画が変わる。
空に浮かぶ様に描かれた星の花に、無数の人間が向かっていた。
集団の先頭には、無数のセラムキューブを従えた少女が居て、反対側に描かれた壊獣と戦っている。
集団の後ろの人たちは、両手を合わせて祈っている様だった。
そして、壊獣達の絵の後ろ…星の花の根元に、顔が花になっている女性の絵があって、先頭の少女を出迎えるかの様に両手を広げている。
『変わる世界。力を持つモノと、持たぬモノ。壊獣の脅威。……それら全てを乗り越えて、人類が一丸となり試練に立ち向かう。』
星の花の声が響く。
『そして、変わりゆく世界の中で、人類は考えなければならない。ーーーー即ち、
ネオは、固唾を飲んで星の声を聴いていた。
『…人ひとりひとりに、理想の世界の願いは違う。…だから、人類は一つになって、世界を行く末を決めなければならない。ーーーーー異なる願いを纏め、話し合い、そして〈人類の総意〉として纏まった全人類の願いを、人類の代表として星に選ばれた〈星の子〉が、〈
星の花はネオを指差した。
『この世界では、それはアナタの役目。』
ネオは、ゆっくりと言葉の意味を考える。
「…私が……人類の願いを、星の花に届けに行く……?」
星の花は頷いた。
『そう。貴方が全ての人類を代表して、私にどんな世界を創りたいのかを伝えるの。人々の願いの声を。』
「願いの声………。」
ネオは静かに呟く。
ーーーーすると、また足下の映像が変わる。
今度は、世界のどこに居ても何故か見える不思議な柱ーーーー〈アメノミハシラ〉の映像が現れていた。
『アメノミハシラは、人々の願いの声がどの様なモノなのかを、星が知る為の〈集音器〉の様なモノ。…アレが世界のどこに行っても見えるのは、
星の花が、アメノミハシラを指差す。
『
星の花は両手を緩やかに広げた。
『そして、星の子が私に新たな世界の願いを告げた時、新しい世界の〈
喜びに笑っているかの様な星の花だったが、不意に暗い顔に変わって俯いた。
『ーーーーだけど、どうやらこのシステムを創った存在は、少し展開を見誤った様ね。………人類は試練の為に協力せず、互いに争いを始めてしまった。』
「…………。」
ネオも俯く。…まさか、自分達の行いが星の意思と真逆の事をしていたとは、全く思わなかった。
星の花が、そんなネオの頭に慰めるように手を置く。…思ったより、温かい。
『…そんな顔をしないでね、ネオ。始まりは貴方じゃ無い。もっと前から、試練は意味を成していなかった。…始まった瞬間から、既に間違った道だったのよ。』
そう言って、星の花は続ける。
『……そしてアメノミハシラは、争いの中で互いの人類が望む怨嗟と悲しみの願いを聞いてしまった。…ソレが人類の総意だと結論付けたのよ。ーーーーつまり、人類は滅びを望んでいるのだと。……ならば、成す事は一つ。
「そんな……。」
壊獣によって次々と人が死んでいく悪夢を思い出したネオは、思わず首を横に振っていた。そして、星の花に向かって口を開く。
「ーーーーでも、なんで滅びは始まったの…?貴方の話を聞く限り、〈最後の審判〉は、星の花に人類の総意を伝えに行く為の試練の筈。…今の状態では、ただ人類を滅ぼす為に始まってるとしか思えない……。」
星の花は頷く。
『流石ね。その通りなの。……だから、
…あの夢とは、ネオがダアトの住処で目覚める前に魘されていた、あの悪夢の事だろう。……確かに、夢の中でそんな声を聴いた。アレは、星の花の声だったのだ。
『おそらく、神は人類に見切りを付けたんだわ。……もしかすると、
そう言う星の花。それを聞いたネオは、また別の疑問を星の花に問う。
「…止められないの?…星の花である貴方は、星の意思なんでしょ??最後の審判も、全ては貴方が始める事なんじゃーーーー」
星の花はゆっくり首を振った。
『無理よ。…ごめんなさい。私は謂わば『歯車』なの。試練の開始と、試練の終わりを執り行う為の役割を、神から与えられた歯車。私の意思に関係なく、審判は始まらなければならない。…例えそれが、正しく無かったとしても。』
ネオは黙り込んだ。世界の滅び…それが始まる事はもう決定されている……と言う事実が、心に重くのしかかった。
(…いや…。でもーーーー)
ふと、ネオは気付く。
「…
星の花が、微かにピクリと動いた。
ネオは続ける。
「最後の審判の元々の目的は、星の子と人類が〈星の花〉の元へと向かう為の試練。それが今、人類を滅ぼす為のモノに代わっている。…ならば、その時に貴方の元へ行った場合…何が起きるの?」
星の花は少し考えてから、静かに頷いた。
『…星の花の元へ星の子が来た時点で、創星がスタートする。でも、創星は人類の総意を基に行われるもの。…アナタ1人で創星を始めるのには、人類の総意として神に認識されてしまった〈滅びの願い〉を、アナタが1人で覆さなければならない。ーーーー生半可な覚悟では、既に決まった運命を覆す事など不可能よ。アナタは…運命を覆す為の『言葉』と『意志』を持っているの???』
星の花からの問い掛けに、ネオははっきりと頷いた。
「
ーーーーそう、今なら持っている。
なにせ、たった今〈試練〉の中で見つけたばかりだ。
争いを止める為の声を。
ーーーー意志を。
そして、願いを。
この声はきっと、星にも届く。
『そう………。アナタは、見つけていたのね……。』
それを聞いた星の花は、満足した様に深々と頷いた。そして、厳かな声でネオに告げる。
『ならば行きなさい、ネオ。
ネオは頷いた。
「うん。待っててね。星の花。」
星の花は、微かに微笑んだ。
『………アナタが、滅びを受け入れてくれなくて良かった。…まだ、人類を信じていられる。』
……全身から、感覚が急速に失われていく。更に、視界も急速に遠ざかりつつあった。
ーーーー夢から覚めるのだ。
『だけど、急いでね。ネオ。』
自分の視界がゼロになる瞬間に、ネオの脳裏に〈星の花〉が希う様な声で囁いてくる。
『既に滅びの運命は決まっている。間も無く、現実世界のアメノミハシラは崩壊し、〈滅びを齎す最後の審判〉が始まるわ。ーーーーーーー急がなければ、本当に世界は終わってしまう…!』
ーーーーその声を最後に、ネオの意識は今度こそ明るい世界へと覚醒するのだった……………
◇◆◇
「ネオーーーー」
自分を呼ぶ声が聞こえる。
「ネオ!大丈夫か!?」
瞳を開ければ、自分を覗き込む老人の亀の様な顔が目の前にあった。
「………あ。ーーーーダアト、さん…?」
やけに重たい瞼を擦りながら、ネオは身を起こす。
目覚めた場所は、試練を始めた時と同じ所だった。
周りに咲く光る花々が、変わることの無い幻想的な景色を生み出している。
「良かった…今度こそ、本当に目覚めたんですね…。」
ダアトの後ろで膝をついていたビナーが、若干潤んだ瞳でネオに話しかけてきた。
ネオは、軽く首を振りながら立ち上がる。
「………どれぐらい、寝てた?」
「ーーーー2週間じゃ。」
ダアトの答えに、ネオはかなり驚いた。
「にしゅ…2週間??ーーーーそんなに寝てたなんて……急がないと…!」
そう言うネオに向かって、ダアトが口を開く。
「…その様子だと、無事『答え』を見つけた様だね。」
ネオは頷いた。
「うん。…2人のおかげ。感謝してる。…本当にありがとう。」
深々と頭を下げるネオ。
そんな彼女に、ダアトが歩み寄った。
「さて。僕は君がどんな夢を見たかはわからないけど、僕の虫の知らせが囁いているんだ。ーーーー何か、途轍もなく大きなコトが起ころうとしているんだね?」
顔を上げたネオは、軽く微笑む。
「…さすが、ダアトさんだね…。ーーーーほんとに勘が良いよ。」
「それぐらいしか、取り柄が無いがな。」
ダアトも軽く笑う。話を聞いたビナーも微笑んでいた。
「ーーーー私は行くよ。争いを止める為に、何をすべきかは全部分かった。ーーーーだけど、先ずは仲間たちの元へ帰る。それからだね。」
そう2人に言うネオに、ダアトは強く頷き返す。そして彼女の胸に、激励するかの様に自身の杖を、軽く当てた。
……そして、ゆっくりと言葉を紡いでいく。
「………頼んだぞ。ネオ。僕はかつて、君と同じ様に世界の為に〈天聖〉を生み出した。…しかし、うまく行かなかった。理想は捻じ曲がり、平和は遠くなってしまった。負のループは止められなかった。そして、僕は逃げ出した……。自分の声が、届かなくなったからだ。」
「ダアトさま……。」
ビナーがダアトの肩に、そっと手を置いた。
ダアトは、ネオの目をまっすぐ見つめて続ける。
「届かぬ声に悩む。お主も同じだ。……だが、お主は乗り越えた。僕と違って。ーーーーお主ならば、僕が成そうとして失敗した《争いの無い世界》を創れるかも知れぬ。………もう一度言う。頼んだぞ。ネオ。」
ネオもまた、彼の目をまっすぐ見つめて頷いた。
そして、ネオは踵を返す。
ーーーー地下から、地上へ。
まるで滑走路に並ぶ誘導灯の様に、洞穴の道を照らし出す光る花々の道を行き、今ネオは外の世界へ舞い戻った。
譲れない想いと、星に告げる為の
原作設定改変祭りの会場はこちらです。…もう跡形もないっす。
あと、夢の中で見つけたネオの『答え』は、また最後に明らかになるでしょう。
……さて、最後の審判関連の話は、もう何がなんやらと言った感じですね!作者たる私も分かってません!(開き直り)
以下、端折った説明↓
神(星)『人間は死にたいそうや。ほな、望み通り殺すで〜!最後の審判やー!』
星の花『(本当は嫌だな……)私の所に来たら、理想の世界を創れるんご。最後の審判も、新しい世界が始まれば止まるやろ!』
覚悟決めたネオ『じゃ、行くね♪』
こんな感じ。余計わからん。
さて、こう言う拗れまくった展開を、神を使って強引にまとめる展開には、名前が付いています。
その名も、〈デウス・エクス・マキナ〉。3章時点で、既にこうなる事は決まっていました。だから、48話でこの概念を先出しておいたんです。99話のタイトルにもなってます。…だから好き勝手に拗らせれたんだよ
では、また次回。……次回で、多分〈章間〉はラストです。次回が終わると同時に、〈最終章〉が始まります。
期待せずに待っててね〜〜ノシ