さらば、世界
ーーーー焼け爛れた様な身体に、圧倒的破壊の力が宿る。
「ひやっっっっ、はぁぁぁぁぁぁぁッ!!!」
狂った様なーーーーいや、もう既に狂気に堕ちている笑みから溢れ、辺りに響き渡る狂声。
ソレと共に迫り来る燃える弾丸を、アルスラーンはスレイヴエッジで弾きながら走っていた。
相手は、フォリー壊によって更なる
「しっっ!!」
《分身弾》に先行させつつ、分身の影に隠れる様にして刃を振るう。
「おっと!ーーーー無駄ってモンだぜ!!」
しかし、ニルヴァーナ廻のひと蹴りで分身は蹴り飛ばされ、振るったスレイヴエッジも、彼の燃え盛る片腕で止められた。
「!!」
「死ねぇ!!」
ーーーーパァンッッッ!!
そのままニルヴァーナ廻が発砲。
眉間目掛けて放たれた弾丸を、素早く体を逸らすことで回避したアルスラーンは、再び分身を自分の横に生み出すと、ソレでニルヴァーナ廻を殴り付けた。
「んぐ…!」
殴られたニルヴァーナ廻は距離を取る。ーーーー彼の手からスレイヴエッジを取り戻したアルスラーンは、分身と並んで身構えた。
「良いよなぁ。…分身。いつでも2人になれるもんなぁ…!けどーーーー」
ニルヴァーナ廻がそう言って、こちらに燃える片腕を向けてくる。
その掌から、弾け飛ぶ様に炎が噴き出した。
「ーーーー今の俺にとっちゃ、一つ的が増えた様なもんなんだよ!くたばれ、〈スパークバレット〉ォ!!!」
「…ッ!」
飛んでくる炎の弾丸を、スレイヴエッジで弾き飛ばすアルスラーン。しかし弾数が多く、全てを弾き飛ばする事が出来ずに何ヶ所か被弾してしまう。
前のパラージショットガンとは勝手が違う様だ。
(熱い……足と肩を撃たれたかッ…!)
分身も、スパークバレットに貫かれて崩れ落ちる様に消滅してしまった。
更に、ニルヴァーナ廻は何処からともなく髑髏のような形の金属の玉を取り出して、ソレを此方に投げてくる。
金属製の髑髏の内側にはメラメラと燃える火が篭っており、あれが何であれ、碌な物では無いと言う事をアルスラーンは素早く察した。
「爆ぜやがれ!!!」
ーーーーズドンッッッ!!!!
ニルヴァーナ廻の声と共に、アルスラーンの周囲で爆発する金属髑髏。……髑髏の正体は手榴弾だったのだ。
飛び散った金属の破片が彼女の脇腹を抉り、辺りに吹き荒れた熱が彼女の服の彼方此方を焼いた。
「がっ……!」
微かに口元から血が溢れる。ーーーーそれを拭い、アルスラーンはスレイヴエッジを構えた。
赤雷の治癒能力で、自らの傷を塞いでおく事も忘れない。
「……んだ。体力回復も出来るのかよ。万能じゃねぇか。」
ニルヴァーナ廻が、少し虚をつかれた様に呟いた。…タルタロスで相対した時には、確かに赤雷の治癒能力を見せていなかったかもしれない。
「でも、力の使い方的にあんまりポンポン打てる様なモンでも無さそうだなぁ。…回復能力特化じゃないだろ?」
ニルヴァーナ廻の指摘は正しい。アルスラーンの赤雷の力は、確かに回復がメインでは無いのだ。しかし、アルスラーンは軽く肩を竦めるのみだった。
「自分の能力の詳細を喋る気にはならないのでね。」
「ひひ…。それもそうだな。」
微かに笑ったニルヴァーナ廻は、アルスラーンへ再び攻撃を開始する。
今度は、髑髏手榴弾とスパークバレットによる同時攻撃だ。
(ーーーー手榴弾は分身に…!バレットは剣で弾く…!!)
素早く状況を判断し、能力を行使するアルスラーン。
分身弾に手榴弾を受け止めさせ、自分はスレイヴエッジでスパークバレットを弾いていく。
更に、攻撃を弾きながら自らの身体に赤雷を纏わせ、攻撃終了のタイミングを見計らって一気に距離を詰めた。
弾丸の様に前に飛び出す彼女の身体。纏った赤雷が尾を引くその様は、赤い流星の如し。
「ーーーースカーレット・アンフィテアトルムッッッ!!」
「げ。」
目の前に迫ったニルヴァーナ廻の顔が、驚きに見開かれた。
そして、アルスラーンの渾身の一撃が、ニルヴァーナ廻の片腕をザックリと斬り落とすーーーーーーーー
「がぁあぁあぁぁぁ!!!!いっってぇッッッ?!?!」
腕を斬り落とされたニルヴァーナ廻は、傷口から血を噴き出させながら大地を転がった。
そんなニルヴァーナ廻へ、アルスラーンは更に突撃していく。此処で彼女は決めるつもりなのだ。
「ーーーーアァアァァ!!くそっ!やってくれるじゃねーか!」
夥しい量の出血の中で、ニルヴァーナ廻はなんとか立ち上がった。
そしてまだ残っている方の腕で銃を構える。
「ーーーーだが、腕は一本でも有れば銃は撃てんだよ!!勝負はまだ着いてねぇ!!!」
ーーーーそして発砲。
次々と撃ち込まれる弾丸を、アルスラーンは弾いたり避けたりしながら走り続ける。
あっという間に、ニルヴァーナ廻とアルスラーンの距離が縮まりーーーー
……
「はっ!?」
目を見開くアルスラーン。
そして、避けることもできない様な目と鼻の先で、手榴弾が爆発した。
ドコーーーーンッッッ!!!!
爆発に巻き込まれ、吹き飛んでいくアルスラーン。咄嗟に顔はスレイヴエッジの腹で守ったが、それ以外の部分はマトモに爆発を喰らってしまう。
「あぐっ……!?」
大地に叩きつけられたアルスラーンは、血反吐を吐きながら楽園の大地を転がる。
それを見たニルヴァーナ廻は、未だ血を流す腕の傷口を抑えながら、狂った様に笑った。
「ヒャハハハハッ!!!ーーーー油断したな!?手榴弾はまだ残ってたんだよ!!」
至近距離から爆発の衝撃を受けたアルスラーンは、脳震盪を起こしたのか体の動きが覚束無い様だ。
そんな彼女に向かって、銃を構えるニルヴァーナ廻。
「この勝負は俺の勝ちだ!あばよ、獅子皇!!」
そしてその引き金が引かれるーーーーーーーー
ーーーーハクビの鋭い一撃が、ソワンを襲う。
「無駄デス!!重力の檻に囚われるのデス!」
瞬間、ハクビの全身に凄まじい重力が掛かった。
ソワンが自身の周囲に展開している〈重力バリア〉に囚われたのだ。
「……ぬ。」
体の動きが鈍くなったハクビへ、松葉杖型に変化したセラムキューブを突き出してくるソワン。
「ハクビ!!」
ハクビの骨を折らんと突き出されたその一撃は、サクアが身を挺して割り込んできた事で不発となる。
サクアの交差した腕とぶつかり、その骨を砕くソワンの杖。サクアが苦悶の声を漏らした。
「ぐっ…!」
「っと!邪魔デスね!」
サクアの腕で突きを止められたソワンは、忌々しげに顔を顰めた。
そこに、重力バリアの外側から輝く光弾が飛んで来る。
重力バリアの外側から、《グリッターボール》で2人を援護するフェムトの攻撃だ。
「…!!フェムトも邪魔デス!!遠くからポンポンと!!」
飛んでくるグリッターボールを杖で防ぎながら、ソワンは苛立ったように叫んだ。
フェムトのグリッターボールの威力はかなりのモノで、フォリー壊から力を得たソワンでも無視出来ないのだ。
尚且つ、近付かなければ攻撃できないハクビとサクアとは違い、重力バリアの届かない遠方から一方的に攻撃できるフェムトは、今のソワンにとって最優先で潰さなければいけない相手となっている。
「お前から先に倒すのデス…!!」
ソワンは大地を蹴る。
重力バリアがソワンと一緒に動き、フェムトを呑み込んだ。
「うっっ!!」
飛躍的に増加した重力が彼の肉体に降り掛かり、フェムトに膝を付かせる。
「その頭、砕き割ってやるのデスよ!!」
そして殺意の篭った鋭い横凪の一撃が、フェムトの頭部に叩き付けられた。
「がはッッ?!」
咄嗟に左腕を持ち上げて、頭蓋を破壊される事は防いだフェムトだったが、代わりに左腕を砕かれてしまった。
ーーーー吹き飛ばされて、地面を転がるフェムト。ーーーーそこにソワンが追撃の一撃を放とうとして………
「ーーーーさせないから!!」
「きゃっ!?」
サクアの飛び蹴りでソワンは蹴り飛ばされた。
空中で一回転して着地するソワン。
「痛いデスね…!腕が折れたんだから、大人しくしているのデス!!」
そうサクアに向けて言い放ったソワンだったが、サクアは気にしていない。
骨を砕かれ力無く体からぶら下がる腕もそのままに、サクアは眼光鋭くソワンに飛び掛かった。
「ッ!!手負いなのに、まるで猛獣…!」
その気迫に一瞬怯むソワン。
かつて、連邦政府によって動物の遺伝子を身体に合成させられたサクアは、星のセラムに耐性を得る代償として、獣の特徴を自らの身体に持つ様になった。
しかし、それにはメリットもある。
「うるるるッがぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!!!!」
ソレこそが〈
ーーーービキビキビキッ、と音を立てて伸びるは獣の爪。骨が折れていたはずの彼女の腕が、メキメキと音を立てて動く。
そしてその腕が勢いよく振るわれると、爪が宙に描いた軌跡が飛ぶ斬撃となってソワンの体を切り裂いた。
「ぎゃッ!?コレは、衝撃波なのデス?!」
体を切り裂かれたソワンは、グラリと体勢を崩す。
そこに一気に詰め寄るサクア。
そして、全身を縛る重力の束縛すらモノともせず、ソワンの体に爪の
「ーーーーバーサーク・ラッシュッッッ!!!!!」
ーーーーザシュザシュザシュッッッッ!!!!
彼女の四肢が躍動し、ソワンの漆黒の肉体を切り裂いては抉り取っていく。
鮮血が、落ちる花びらの様に舞った。
「ぎゃぁあぁッッッ?!痛い!痛いのデス!!離せっ!」
ソワンが振り回した杖を蹴り上げて止め、脚の骨にヒビが入るのにも構わず、真上から叩き下ろす様な踵落としをソワンの顔面に決めるサクア。
ーーーーメキッッ!!!
「がはっっ?!」
嫌な音と共に、ソワンの顔が衝撃で歪んだ。
(あ……ワタシ…死ぬのデスか……?)
歪む視界の中で、ぼんやりとそう思うソワン。
そして、彼女の視界に迫る爪の煌めきが宿りーーーーーーー
「嫌だーーーーせっかく人を辞めてーーーーまだ、博士の世界を、ワタシ見てなーーーーーーーー」
ーーーーーーーザクッッ!!!
ーーーーそして、ソワンの首はサクアの爪で切り裂かれるのだった。
空がーーーーいや、世界が軋んでいる。
キラキラと燃える〈星の花〉を背景に、空に巨大な翼を広げて浮かび上がるフォリー・ソレイユ壊。
コロナを噴き出す金環日食が彼を見下ろし、朝と夜が混ざり合った空を彩る天の川が、彼の背後を横切る様に煌めいていた。
「……とんでもない姿になりましたね…。」
ニュウがフォリー壊を見つめて、冷や汗を微かに流しながら呟く。
「…そうだね。」
ネオが頷いた。そして、
また、彼女の周囲に無数の武器たちが亜空の彼方より顕現し、彼女の周りを素早く回り始めた。
2人が戦闘体勢をとった事に気付いたフォリー壊は、鋭く輝く眼光を2人に注いだ。
「…ふふふふふ。互いに準備は万端…。さぁ、神話の戦いの再現と行こうか…!」
ーーーーーーーーそして、上空から無数の斬撃が降り注ぐ。
「シールドッ!!!」
ーーーーガガガガガキィンッッッ!!!!
ニュウが素早く展開した無数の青紫の盾が斬撃を防ぎ、ネオが空中に創った足場を駆けて、上空から攻撃を放つフォリー壊へ向かっていく。
「ーーーー
右手に生み出した緑の長槍を、一気にフォリー壊目掛けて投擲。
「ふぅん!!」
放たれた槍を、星の腕で弾き飛ばすフォリー壊。
そこにネオが、巨大な青い斧ーーーー
ーーーーガキーーンッッッ!!
激しい火花と共にぶつかり合う
再び始まる鍔迫り合い。しかし、さっきとは違ってネオとフォリー壊の力は拮抗している様だ。
「…!?さっきより、重くなってる…?」
驚くネオに、フォリー壊が笑いの籠った声で返す。
「その通りさ、ネオ!ーーーー私はケテルの心臓から、更なる神の力を引き出したのだ!!そして、その力はこんなモノではない!!」
ブンッ!!!ーーーーと振り払われるネオ。
「ネオさん!」
すかさず飛んだニュウがネオを片手で受け止め、フォリー壊目掛けて〈レールガン〉から牽制の射撃を行う。
「ふん……キミは神々の戦いにお呼びでは無いぞ、ニュウ。ネオとの繋がりを通して力を増したとて、キミはネオ程の力を持っていない。ーーーーお互いにとって邪魔になるだけさ。」
レールガンの神速の弾丸を剣で打ち払いながら、フォリー壊は苛立つ様に口を開いた。
ソレを否定するは、ネオの言葉。
「…ニュウくんは、私と一緒に戦ってくれてるんだ!邪魔なんかじゃない…!」
そう言い切った彼女は、再び空に足場を創ってフォリー壊へと駆けて行った。
「ーーーーーー私と彼で、貴方を倒す!!」
その言葉と共に振るわれる
フォリー壊は束ねた〈星の腕〉で
ーーーーズドンッッッッ!!!
辺り一帯に激突の衝撃波が走り、楽園に生える木々を揺らした。
ーーーーそして、今度はネオが鍔迫り合いに勝って彼を吹き飛ばす。
「…ぬぅ。」
翼を広げ、空中で踏み留まるフォリー壊。
そこへ向かうネオとニュウ。
フォリー壊がリレーションカッターや、スクランブルレーザーなどで2人を迎え撃つが、2人は互いに空で連携を取りながら攻撃を交わし、フォリー壊へと迫る。
(なんだか、体が軽い…!ーーーーニュウくんと、戦いの中で感覚を共有してるみたい…!お互いの事が、手に取るように分かる……繋がってる!)
空に創った足場を蹴り、飛んでくる斬撃とレーザーの雨を避け、時にはニュウが創った盾すらも足場にして、軽快に跳び回るネオ。
今まで感じたことの無い、彼との一体感がネオの中に満ちていた。
「感情の高まりによるステータスの強化…それに加えて、〈三位一体〉の繋がりが齎らす感覚の相互強化か………厄介だな。」
フォリー壊が、考え込む様に呟いた。ーーーーそして、彼は次の行動に移る。
「ならば、キミたちは分断するに限るな。ーーーー壊獣よ!!顕現せよ!!〈受星壊胎〉!!」
聞いた事の無い技名発声と共に、ネオとニュウの間を分断する様に〈星のセラム〉が現れた。ーーーーまるで、天の川で分断されてしまったかの様だ。
「…!ニュウくーーーー」
ネオが振り返った瞬間、星のセラムが壊獣へと変化する。
『キュオオオオオオオオオオオンッッッ!!!!』
振りまかれる壊獣達の絶叫。
現れたのは五ツ星級の壊獣と、まさかの〈絶級〉であった。
「なッ!?ーーーー絶級まで!?」
少なからず驚くニュウ。
現れた絶級は、裁断の化身〈ディヴィジョン〉・守護霊龍〈ジパング〉・放縦の巨鳥〈タモアンチャン〉の3体。
その3体は、顕現するなりニュウへ襲い掛かってきた。
「やべっ…?!」
ディヴィジョンが生み出す真っ赤な鋏が、ニュウの機械の翼を切り落とし、ジパングが放つ業火のブレスがニュウの盾を溶かした。
そして、タモアンチャンの鋭い爪の付いた脚が、ニュウを蹴り飛ばす。
「がはっ!」
血を吐きながら吹き飛ばされるニュウ。
そして、翼の片方を斬られて動きが覚束無い彼に、五ツ星級の壊獣達が一斉に群がるのだったーーーー
◇◆◇
「ニュウくん!!」
彼の姿が壊獣の群れの向こうに消える。
ソレを目を見開きながら見ていたネオ。そんな彼女に、フォリー壊が翼を広げて襲い掛かる。
「よそ見をしている暇は無いぞ、ネオ!!私とキミは戦わなければならんのだからな!!」
「っっ!?」
フォリー壊が振り回す真紅の剣。
無造作に振られた剣には圧倒的な破壊の力が篭っており、空振った一撃ですら斬撃破を伴って地上を切り刻んでいた。
ソレを避けながら、天空で幾度となくフォリー壊と切り結ぶネオ。
いつの間にか2人は浮遊大陸の上空から離れ、周囲を覆う〈セラムの根〉までやって来ていた。
「ーーーー壊れろ!〈壊星ノ剣〉!!」
「ッ!〈
フォリー壊の一撃が、ネオの
飛ばされたネオは、空を這う〈セラムの根〉の内の一本の表面に叩き付けられた。
「ぐっ!」
そこに飛び込んでくるフォリー壊。ネオは素早く身を翻した。
セラムの根の表面を破壊しながら、フォリー壊がネオの居た位置に降り立つ。
…セラムの根の上で向かい合う両者。
遠くには、イースターの仲間達が戦っていると思わしき、爆発の閃光が見え隠れしている。
そして、根の下の大地には無数の壊獣達が蠢いていた。
「素晴らしい光景だな。ネオ。コレがこの世の終わりの形。世界終焉シナリオの内の一つという訳だ。人の生きた証を悉く消し去り、人類を滅ぼす。星の意思とは、思い切ったマネをするモノだ。」
不意に、壊獣に満たされた大地を見ていたフォリー壊が、そんな事を言ってくる。
ネオの視界で、壊獣と空中戦を繰り広げていた混成空軍の機体が、壊獣の攻撃に呑まれて爆ぜていった。
限りなく襲いくる壊獣達。今、世界中が同じ様な壊獣の群れに包まれている筈。……確かに、世界の終わりの形なんだろう。
ーーーーだが今はまだ、ソレを受け入れる訳にはいかないのだ。
「…でも、私たちはこの終わりに抵抗する。何故貴方はそうしないの?」
ネオの問いかけに、フォリー壊は笑うだけだ。
「ーーーー最初に言っただろう?私は全てを知りたいのだ。この身でな。完全な神となれば、これから先何度も私は世界を生み出し、何度も世界を壊すだろう。……滅びのプロセスすらも、私にとってはただの実験だ。サンプルに過ぎない。そこで生きた者がどうなろうと、どうして神が矮小な者どもの事を考えねばならんかね??」
帰ってきた答えは、やはり何処までも理解出来ない。
ならばもう、戦うしか無いのだろう。
ネオは黙って武器を構えた。
フォリー壊は静かに話し続ける。
「世界は再び原初の坩堝に戻り始めてきた。」
ーーーー2人の周囲の根が揺らぐ。そして光り、境界が曖昧になっていく。
(根が……変化してく…?)
足裏の感触が、硬いのに柔らかくなっていく。また、何かが起ころうとしているのだろうかーーーー??
「最期の審判はいよいよ大詰めだ。ーーーー
ーーーーパシャッ!!
フォリー壊の言葉と共に、セラムの根の表面を突き破って無数の魚達が姿を表す。
「?!ーーーー魚?」
いや、魚だけじゃ無い。虫、獣、鳥ーーーーあらゆる生命の魂達が、そこにあった。
そして、全ての魂は星の花を目指し動き始める。…還っていく。
地が壊獣に埋め尽くされると同時に天に溢れ出した、嘗て地上に生きた生命達。
星の支配者が完全に壊獣に変わった瞬間だった。
◇◆◇
最期の審判最終段階。ーーーー楽園支配シフト。
ソレの始まりは、全ての魂の具現化及び〈星の花〉への回帰である。
まだしぶとく地に残り続けている
死んだ人間の魂は星の花へと吸収され、そしておそらくはもう二度と生まれる事を赦されないだろう。
ーーーー恐るべき、最期の審判の最終段階。
その脅威は、イースター達にも様々な形となって降り掛かる。
「ーーーーくそっ……数が益々増えやがる…ッ!」
全身から血を流しながら、セラムの根の上に膝をつくバサラ。
目の前には、未だ健在のエリミネイターが立ち塞がっており、更に彼の周囲を壊獣達が包囲していた。
(…コレで……終わりか……俺は。)
満身創痍のバサラは、微かにため息を吐くとエリミネイターを睨みつける。…唯の負け惜しみだが、今はもうコレしかバサラには出来なかった。
『ケケケケケケ。』
負け惜しみの様なバサラの眼光を受けたエリミネイターは、獰猛な笑みを浮かべると、その骨の様な腕を彼目掛けて振り下ろすのだったーーーーーーーー
◇◆◇
一方、絶級イデアと戦いを繰り広げていたアビスも、遂に限界を迎えていた。
「…はぁ……はぁ…はぁ…。」
肩が激しく上下し、膝は笑って覚束無い。
体はズタボロになり、流れ出した血が光る根の表面に飛び散っていた。
(やはり…絶級は……理外の存在ーーーー。強すぎる…。)
そう心の中で呟きながら、アビスは自分の上に浮かぶイデアを見つめる。
深淵の力は、イデアの前に殆ど役に立たなかった。ダメージを与えられなかった訳では無いが、力の差は歴然。
現に傷は有れど、イデアはまだ健在である。
『ーーーー。』
見上げる彼女の前で、イデアはそっと腕を動かした。…その腕の先端に、輝く光が生じる。
その知性を感じさせる透き通った瞳が、『良くやった。だが、ここまでだ。』と言っている様に見えて、アビスは顔を顰めた。
(ごめんなさい。みんなーーーー私は、ここまでみたいです。)
心の中で仲間達ーーーーそして、嘗て自分と共に過ごした『少年』に向かって謝ったアビス。
そして、イデアから放たれた光の暴風が彼女に迫るーーーーーーーー
◇◆◇
ーーーーカラーーーーン…………
クサナギブレードが、手からこぼれ落ちて根の表面に突き刺さる。
「…はぁ…はぁ…ーーーーコレが絶級か…。」
目の前に立ち塞がる絶級トリシュナを睨みながら、荒い息を吐くハレルヤ。
周囲には、彼によって倒された無数の壊獣達の屍と、それの倍以上の数の壊獣達が佇んでいる。
『ーーーーキュオオオオオオン!』
大きな口を開き、満身創痍のハレルヤに迫るトリシュナ。…開かれた口の奥の深海の様な暗闇が、ハレルヤの視界いっぱいに広がった。
(ーーーー『死』……か。いや、それでもーーーー!)
明確な死の気配を感じたハレルヤ。しかし、最後の最後まで足掻いて見せようと、彼はクサナギブレードを構え直す。
そんな彼にトリシュナが襲い掛かったーーーーーーー
ーーーー益々力と数を増す壊獣。
迫る終焉に抗う者たちを嘲笑う様に、壊獣達は地に跋扈する。
もはや、世界の終わりは決定的に避けられないモノとなったのだ。
ーーーーーーしかし、一度考えて欲しい。
今、この世界には明確な意志を持つ魂が存在している。
そして楽園支配シフトによって、その死者の魂達は今この世に具現化した。彼らは最終的には星に還る定めを背負っているが、果たして彼らはあっさりとこの世を捨てるのだろうか?
一度還ってしまえば、輪廻の輪から放逐されて二度と生まれられないのだ。
しかも、
死者は生者に干渉できない。
ソレは星のセラムがこの世に現れても、絶対的に不変の真理だった。
しかし今、世界の最後の最後で、死者が生者に干渉出来る様になったのだ。
後に遺して来た者達を憂う死者達に、最後の最後に与えられたチャンス。
ソレは、神からのほんの僅かな温情なのだろうか?いや、別にどうだって良い。チャンスなら、掴もうとするのが人間ってものだ。
ーーーーーーー死者達は、生者の為に動き始めた。
◇◆◇
『ーーーーーーしっかりしろ。アルスラーン。』
朧げな意識の中、アルスラーンの耳に威厳ある声が響く。
同時に、ニルヴァーナ廻が構えていた銃がその腕ごとスッパリと斬り落とされた。
「がっっ?!」
驚くニルヴァーナ廻。そんな彼の体に、
「ぐはぁッッッ?!?!?!」
飛び散る血と、赤いスパークの残滓。
ーーーーアルスラーンの前に立ち、彼女が取り落としたスレイヴエッジを持っている『男』を見た瞬間、アルスラーンは目を大きく見開いた。
彼女の唇から、震える声が漏れる。
「師、、匠……?」
ゆっくりと、しかし力強く彼女は手を引かれて起こされた。
目の前に居るのは、アルスラーンのより少し色が濃い赤髪の男。険しくも優しい真紅の瞳が、アルスラーンを真っ直ぐに見つめていた。
『久方ぶりだな、アルスラーン。……背も伸びて、立派になったじゃねぇか。』
「師匠………!」
信じられないモノを見た、と言わんばかりに何度も首を振ったアルスラーン。その目に、抑えきれない涙が滲んだ。
「あぁあぁぁぁぁッ!!クソが!いきなり何なんだよてめぇ!!誰だ?!」
遂に両腕を切り落とされてしまったニルヴァーナ廻だったが、それでもしぶとく起き上がり、怒りに血相を変えて『男』に向かって叫ぶ。
『…我か?』
男はスレイヴエッジをアルスラーンに返してから、ニルヴァーナ廻へ振り返った。
その体を赤黒い雷が包み込み、周囲の小石が浮かび上がる。
溢れんばかりの雷鳴を纏いながら、男は名乗りを上げた。
『知らぬのならば、その身に刻んでおけ。我が名はライオーーーー獅子王ライオ・アルスラーン。ーーーー我の弟子が世話になった様だな??』
そう。彼こそが嘗てのアルスラーンの師であり、反連邦団体ニュースターの創設者。ある意味では、全ての始まりでもある新人類の英雄ーーーー『ライオ・アルスラーン』その人だったのだ。
「んだと……??テメェは死んだはずだろ…。ずっと昔、連邦に討たれた筈だ!」
ニルヴァーナ廻はライオを睨みつける。
そんな彼に、ライオは首を振ってみせた。
『ーーーー確かにそうだ。だが、最期の審判の前には生も死も無い。何故か分かるか?ーーーー最期の審判では、全ての死者が蘇るからだ。蘇り、皆平等に裁かれる。だからこそ、俺は戻って来れたのさ。』
そう言って、彼はアルスラーンの肩に手を置いた。
赤黒い雷が彼女の体に流れ込み、アルスラーンは目を見開く。
『ーーーーさぁ、お前が倒すんだ。出来るな?』
久しく聞くことのなかったライオの問い掛けに、アルスラーンは笑顔で頷いた。
「はい…!師匠!!」
そして、アルスラーンは走り出す。
一歩一歩が、大地を砕き割るほどの重さとなって、彼女はニルヴァーナ廻へと向かっていった。
「ざけんな!!死者は大人しく寝てろってんだ!!ーーーー後ちょっとで、俺はお前に勝てたってのによぉぉぉぉ!!!!」
火がついた様に叫ぶニルヴァーナ廻。そして、彼の両腕の傷口から炎が噴き出すと、赤々と燃え盛る焔の両腕を作り出す。
それを迫るアルスラーンに向け、ニルヴァーナ廻は叫ぶ。
「死者も生者も、纏めて燃えちまえ!!バレット・オブ・デカダンスッッッ!!!」
焔の腕から撃ち出されたのは、無数の揺らめく巨大な火炎弾。
しかし、アルスラーンは避けるそぶりを見せない。何故ならーーーー
「ディスアセンブル・アイライト!!!」
「マスクド・パーム・グラインド!!!」
「ロックオン
ーーーーアルスラーンの頼れる仲間でもあるフェムト、ハクビ、サクアが、その火炎弾を打ち消してくれるのだと、信じ切っていたからだ。
「んなっ!!」
3人の放った技で、ニルヴァーナ廻の火炎弾は全て爆散して消えた。
立ち込める炎の中から、その身に真紅と
「ーーーーーーーコレで、
雷撃を浴びて放たれるは、決着の一撃。混ざり合った黒と赤が、ニルヴァーナ廻に襲い掛かる。
対するニルヴァーナ廻は、燃え盛る両腕を交差させて叫んだ。
「ーーーー掛かって来いよぉぉ!!!アルスラァァァァァン!!!」
次の瞬間、アルスラーンの渾身の一撃がニルヴァーナ廻の焔の腕を断ち切り、その肉体を切り裂くのだったーーーーーーーー
◇◆◇
『諦めないで!!アビス!!』
ーーーーそんな声と共に、不意にアビスは自分の体が持ち上げられるのを感じた。
「え?」
ーーーードギュンッッッッ!!
音を立てて破壊の光が足下を通り過ぎる。
そして、直ぐ傍に感じる確かな暖かさと、静かな声。
『間一髪だったね。…良かった。』
アビスは、その声に聞き覚えがあった。
自分を抱きかかえる、その『少年』の姿にも。
「………ゆ、夢?ーーーーどうして、貴方がーーーー」
抱きかかえられたまま、呆然と『少年』の顔を見つめるアビス。
『少年』は、ニコッと笑いかけた。
『戻って来たんだよ。ーーーーキミが心配でさ。』
「……!!」
その言葉に、気を張っていたアビスの顔がクシャリと崩れた。
「ーーーー私、もう……もう2度と…会えないと思ってた……。」
涙が血に濡れた頬を伝う。
『会えるさ。…俺はいつでも近くにいた。本当だよ?』
イデアが静かに見つめる中で、少年はアビスをそっと抱きしめる。
ーーーーそう。アビスを助け出した彼は、嘗てアビスを守り連邦との戦いで命を落とした『少年』本人だったのだ。
「…ッ!!」
確かに感じる暖かさに、アビスの体からフッと力が抜けた。
そして彼女はいつの間にか、深淵の先導者としての姿から元の姿に戻っていた。
しかし、胸に宿る深淵の光は消えていない。
今の彼女は、深淵を封じている姿のまま、深淵を行使する事が出来る様になっていたのだ。
それは、かつて永遠の別れに隔たれた少年と再び出会った事で、彼女の心に急速な安定が齎された為である。
セラムの力をコントロールするのは意思の力。
アビスの意思が強く安定した事で、溢れんばかりだった深淵の力にコントロールする余地が生まれたのだ。
「……あ。コレは、いったいーーーー」
『大丈夫だアビス。』
自分の身体に起こった変化に気付いたアビスに、少年が優しく話しかけた。
『アビスは今、深淵の力を完全に制御出来る様になっている。ーーーーもう、深淵をその身に『封じる』必要は無いし、もう深淵を『導く者』へ変わってしまう事も無い。』
「……!」
キィィン……と甲高い反響音と共に、アビスの手の中に音叉が現れる。
しかし、その音叉は今までのアビスの音叉では無い。
その証拠に、銀色に輝く音叉には若干の鋭い意匠が見受けられ、どちらかと言えば『槍』の様になっていた。
それを驚きと共に握りしめるアビス。
少年の声が辺りに響く。
『君はもう、深淵を『制し使う者』だ。深淵の力は君を蝕む物ではなく、君の力に完全に変わる。そして、その力はーーーー』
音叉が光り輝いた。
『ーーーー世界を救える力だ。』
瞬間、アビスの周囲に無数の音叉が顕現する。
『ーーーーーーーー!』
まるでソレを賞賛する様な目を、アビスへと向けたイデア。
その視線を受けながら、アビスは光を宿す音叉の槍を構える。
隣に、大切な大切な存在の暖かさを感じながらーーーーーーーー
◇◆◇
『しっかり立ちやがれバサラァ!!!』
「あ?!」
唐突に聞こえて来た叫びに、バサラが弾かれた様に顔を上げる。
次の瞬間、バサラに剛腕を振り下ろさんとしていたエリミネイターが、巨大な腕で殴り飛ばされた。
『ゲッ?!』
よろめいて後退りするエリミネイター。そして、バサラの直ぐ隣に
バサラはその2人に見覚えがあった。と言うか、バサラ的にはつい3週間前に会ったばかりの姿でーーーーーーー
「…お…お前らーーーーコクウと、トコヨか!?」
『あぁ。3週間ぶりだが、息災な様だな。お前は。』
コクウがバサラに振り返る。相変わらずの仏頂面だったが、その瞳に闇は無かった。
『ボロボロだねバサラ。ーーーーでも、もう大丈夫だよ!私達が来たからねっ!』
そう言って、若草色の髪の少女ーーーートコヨがバサラの頭を撫ぜる。
「トコヨ…!」
その暖かさと優しさ(ついでに可愛らしさ)に、思わず顔が弛んだバサラ。
『ーーーー気色悪いんだよ。顔を弛ますな。』
「はっ!もしお前が俺なら、顔グニャングニャンにしてんじゃねーのか??」
『………しないな。』
「嘘つけ。その間はなんだ?」
コクウの言葉に反論しつつ、バサラは立ち上がった。……なんだか、2人の顔を見たら力が湧いて来た気がする。さっきまで諦めてたのが、馬鹿みたいだ。
どうして死者である2人がここに居るのかとか、そんな事は深く考えない。そもそも、死者が蘇ったのは旧東京で経験済みだ。あの時と同じ様な事が、また起きたんだろう。ーーーーーー〈最期の審判〉によって、生と死の境が曖昧となった今の世界では、もう何でもありなのだから。
こうして立ち上がったバサラを見たコクウは、話題を変える様に呟いた。
『なんとか元気になったみてーだな。…お前はそれで良い。』
バサラは黙って肩を竦め、真斬魔刀ヴァラクを構える。
コクウが、その隣で身構えた。
『色々疑問も有るだろうが、説明する暇が無い。ーーーーー行くぞ。』
その呟きと共にコクウの霊体が揺らぎ、光が辺りを満たした。
同時に、トコヨも自らの霊体を光と共に変化させる。
ーーーーバサラの両隣りに生まれた光は、互いに溶け合う様に集まり、そして1つになった。
「なーーーー!?」
驚くバサラの前で、コクウとトコヨの声が重なって聞こえる。
『『ーーーーーー式神降臨〈金剛如来〉!!!』』
そして、光の渦の中から多腕の巨人が姿を現した。
「ーーーーんな!?死神如来ーーーーじゃない!?何だよソレ!」
驚きに目を見張り、顕現した多腕の巨人を見上げるバサラ。
その巨人ーーーー金剛如来は、嘗てコクウが使役していた〈死神如来〉に良く似ていた。
しかし、首から上が無かった死神如来とは違い、金剛如来には鬼の様な顔がついている。
更に、全身が真紅に染まり、炎が羽衣の様に体に纏わり付いていた。死神如来の時は細めだった腕も、より筋肉が付いてマッシブに変化している。
そういった特徴は、トコヨの魂が変化した姿である式神〈金剛〉に良く似ていると言えよう。
『驚くのも無理はないか。ーーーー〈
そんなコクウの声が金剛如来から聞こえる。
「いやいやいや…合体てお前。てか、死神如来は何で使えるんだよ?アレは、〈
コクウの声が少し誇らしげになった。
『いや。使えるのさバサラ。ーーーー確かに、嘗て死神如来は〈
そう言って、金剛如来は逞しい腕を大きく広げる。…体を纏う火が、赤々と周囲を照らし出した。
湧き上がる火の中で、コクウの誇らしげな声が聞こえる。
『ーーーーそれこそが、俺自身が死神如来になる事だ。』
「……まじか。」
それで良いのか?それって出来るのか??ーーーーとバサラは一瞬思ったが、現に目の前に式神金剛と一体化した死神如来改め、〈金剛如来〉が居るのだから、それで良いのだろう。
なんとか納得するバサラの前で、コクウが金剛如来の姿のまま笑みを浮かべた(ーーー気がした)。
『兎も角、コレで俺はトコヨと文字通り『合体』し、更なる力を得る事が出来る様になった訳だ。どうだバサラ。コレはお前には出来ない芸当だろう??』
なんか嬉しそうなコクウの言葉に、バサラは苦笑しながら茶化す様に応える。
「ーーーーはっ。三十代男性が十代の少女と合体とか、文面だけ見たら相当マズいぞ?」
瞬間、バサラに向かって金剛如来の巨大な腕が振り下ろされた。
「うおっ?!危ねぇ!殺す気か!!」
ギリギリで避けるバサラ。
『チッ。』
「舌打ちしたなテメー?!今舌打ちしたよなぁ!?死ぬとこだったぞ!!」
『…死ねば良かったんだがな。』
「お前に殺されるのだけはゼッテー嫌だね!!」
『ま、まぁまぁ2人とも。…テンション上がってるのは分かるけど、今はこの状況を切り抜けよ?ね??』
ーーーーバサラとコクウの言い合いに、トコヨの声が割り込んだ。どちらの声も同じ〈金剛如来〉から聞こえるせいで、ちょっとだけ混乱しそうなバサラ。
「お、おぉ。……まぁ、確かにそうだな。」
そう言って、彼は周りを見渡す。
ーーーー周囲に浮かぶは、数多の壊獣。絶級エリミネイターも、未だ健在のままだ。
『ったく………。まぁ良い。戦いを始めるぞバサラ。ーーーー死ぬなよ??』
コクウのその声に、バサラはニヤリとした笑みを返した。
「お前からそんな言葉が聞けるとはなぁ。お互い様と言いたいが、生憎お前はもう死んでるしーーーーーーま、善処するとだけ言っとくぜ!!」
そう叫んで、勢いよく真斬魔刀ヴァラクを構えたバサラ。
周囲の壊獣と、立ち塞がる絶級エリミネイターが殺気立つ。
そしてバサラと金剛如来による、壊獣達との最終決戦が始まるのだったーーーーーーーー
◇◆◇
『ーーーー大丈夫か!!ハル!!』
ハレルヤの耳に、そんな声が飛び込んできた。
「えっ???」
目を見開くハレルヤ。
そんな彼の前で、迫り来るトリシュナが真横に吹き飛ばされた。
ーーーー
「コレは……!」
目を見張ったまま呟くハレルヤの前に、鎌を持った青年が姿を現す。
『よ。また会ったな!』
「ーーーー暁!!!」
現れた青年ーーーー『暁』は、ハレルヤに向かって軽く片手を上げた。
ふらつきながらも、彼の隣へ足を進めるハレルヤ。
「暁……!意外と早く会えたね!ーーーーでも、今度はどうやって?」
その問いに、暁はただ星の花を指差した。
今や、殆ど炎に包まれている巨大な花は、まるで灯火の様に北の空に浮かんでいる。
『最期の審判さ。言っただろ?また会えるって。ーーーーこの星は今、神話新章序文の地となった。生も死も、この星の上ではもう無いのさ。』
そう言って、暁は鎌をハレルヤの隣で構える。
『俺達は皆、星に裁かれるために再び蘇った。ーーーーだが、ハル達が星の裁きを拒むのならば、俺達はソレに手を貸そう。だって、お前達には生きていて欲しいからな。』
「暁…!」
ハレルヤは小さく微笑むと、彼の隣でクサナギブレードを構えた。
暁が構える鎌の赤紫色の煌めきと、ハレルヤのクサナギブレードの青色の輝きが辺りを照らす。
『キュオオン…!!』
ーーーーソコに、暁の重力操作で吹き飛ばされたトリシュナが戻ってきた。
『行くぞ、ハル。世界の黙示録を越えるんだ!』
「うん!!行こう暁!!」
こうして2人は、水面を泳ぐかの様に光る根の表面を這って迫るトリシュナに向かい、同時に駆け出すのだったーーーーーー
◇◆◇
場面は、ネオとフォリー壊の戦いへ戻る。
「ぬぅぅううんッッッ!!!」
ーーーー振り回される、閃光を纏った破壊の一撃。
ソレを
「ふははは!!見ろ!全てが、原初混沌の坩堝へ還っていく!!コレが世界の終わりかぁ!」
ネオと切り結びながら、狂った様に笑う
お互いの周囲には、空を覆うセラムの根から溢れ出し、星の花を目指し進んでいるあらゆる生命の姿があった。
ーーーー鯨とペンギンが空を飛び、何匹もの鹿の群れが雲の上を駆ける。そんな不思議な光景の中で、ネオとフォリー壊は戦っていた。
「全ての概念が一つになる。世界誕生の瞬間まで、全ては戻る…!そして、新たな世界が生まれるのだ!それこそ〈創星〉!!君も目指しているんだろう??」
「ーーーー!!」
ぶつかり合う互いの攻撃。
ーーーーズドンッ!
ーーーーガキンッッッ!
ーーーーカァーーンッッッ!
剣と剣が交差するたび、辺りに波動が振りまかれる。
雲海の上で、空飛ぶ鯨の上で、或いは鳥たちの群れの中で、ネオとフォリー壊は何度も何度も攻撃をぶつけ合った。
(ーーーーおかしい…!フォリーの力が、どんどん増していく…?!)
何度目かも分からない鍔迫り合いを繰り広げながら、ネオは少しずつ威力が増していくフォリー壊の能力に驚愕していた。
そして遂に、ネオの力をフォリー壊が上回り始める。
ーーーーーーーーバキィィンッッッ!
「くっ…!?」
弾かれる
「ーーーー〈破裂斬撃〉!!」
隙を晒したネオに向かって、フォリー壊が素早く追撃を放つ。
「
ーーーーーーーガキィィィィンッッッ!!!
ネオは再構築で生み出した盾で、なんとかフォリー壊の攻撃を防いだ。
しかし、フォリー壊の攻撃は止まらない。
「素晴らしい!世界の概念が原初の混沌に戻るに従って、我々の力も等しくなっていく!!ーーーー全てが文字通り1つになっていくのだ!!」
そんな叫びと共に、ネオの盾が光り輝くフォリー壊の剣で切り裂かれた。
その剣は、ネオの
「
驚くネオの前で、フォリー壊が振るった赤い
「全てを断て!!〈終星ノ大剣〉!!ーーーーストライクショット:シザリアン・セクション!!」
放たれたのは、全てを断つ時空の歪みにも似た一撃。
「…!どうして私の
ネオは驚きながらも、空中で素早く
「ーーーーストライクショット:シザリアン・セクション!!」
2つのシザリアン・セクションが空中で激突し、大気が揺れる。
「くっ……」
「ぬぅ…!」
天空に発生した波動で、同時に吹き飛ばされる2人。
なんとか体勢を立て直して空飛ぶ鯨の背中に着地したネオは、自分の周囲を回る武器達の形が、いつの間にか変わっている事に気づいた。
「……何これ…?いつの間に……武器が
ーーーーなぜかハレルヤのクサナギブレードが、彼女のそばに浮遊している。
更にジャック・ザ・リッパーのハサミや、バサラの真斬魔刀ヴァラクまでネオの周りに浮かんでいた。
アビスの音叉や、アミダのインフィニティソードもある。
「坩堝の諸相さ。ネオ。ーーーー全てのセラムキューブは〈星の花〉と高次元で繋がり、ソコから力を得ている。つまりセラムキューブをもつ全新人類は、元を辿れば同じ力の源を持つ訳だ。そして今、星の花の力は最も強くこの世界に満ちている。」
そう言うフォリー壊の周りに、ネオと鏡合わせになったかの如く、全く同じ武器達が顕現し始めた。
赤いクサナギブレード。
赤いアビスの音叉。
赤いインフィニティブレード。
赤いポラリスのレーザー銃。
無数の真紅の武器達に囲まれながら、フォリー壊は壊星ノ翼を広げた。
「全ては1つになる。文字通りだ。セラムキューブの力も例外では無い…!星の花によって全ては1つに統合される!ーーーー新しい世界の為に、古い世界は一度1つに纏まるのだ!!」
全てが星の花へ回帰していく。
命も、力も、概念も、何もかも。
ゆえに今、世界中の全ての新人類達の力が1つに統合され始めていた。
そして、フォリー壊は自らの内に力を溜め始める。
体から溢れ出した余剰エネルギーが、真紅の銀河となって彼の周囲に渦巻き出した。
彼の胸にあるケテルの心臓が、早鐘の様な鼓動を刻み出す。
ーーーー間違いなく、必殺クラスの一撃が放たれようとしているのだ。
「そして終わりにしよう…!ネオ、〈創星〉の為に私には、まだやるべき事がある。ーーーーそれこそが、
「…?!」
首を傾げたネオ。
フォリー壊は、狂気に満ちた眼差しでネオを見つめた。
「何故、タルタロスで私が君を攫おうとしたか分かるか?ーーーー私の覚醒新人類としての力は、天聖ケテルがベースとなっている。たが、その肝心のケテルが不完全な覚醒者だったのだよ。」
話は続く。
「ーーーー嘗てケテルは、君のほんの僅かなーーーー髪の毛一本足らずの肉体を媒体として、覚醒の条件を満たし〈覚醒新人類〉となった。……しかし、それでは不十分だったのだよ。当たり前の事だがね。」
フォリー壊の周囲の武器が、ネオにその切っ先を向けた。ーーーー彼の肉体から溢れ出す破壊の力が、武器一本一本に宿る。
「……だから、君の肉体が要るのだ。私が君の肉体の一部を取り込む事で、間接的に私の心臓となったケテルに力を送る。ーーーーこうする事で、ケテルは不完全な状態から完全な状態となり、それに伴って私も完全な神となれるのだよ…!ーーーーそうすれば、創星も可能になる!!」
ーーーーフォリー壊の周囲に渦巻く破壊と破滅の輝きが、どうしようも無いほど強くなった。
「ーーーーさぁ!!私の礎となれ!!!ネオ!!」
そして、ネオに向かって破滅の力が解き放たれるーーーーーーーー
「フルバースト・オブ・マッドネス!!!」
一斉にネオに向かって放たれる幾千万もの武器。
それは、圧倒的な超連続波状飽和攻撃となって全方位からネオに襲い掛かった。
「ッッッ…!!コレはーーーー」
ネオは自らの全武装で相殺を試みるものの、完全には相殺しきれず、迫る刃で右腕を切り裂かれてしまう。
「ーーーーッ?!」
激痛と共に、鮮血が宙に舞った。
自分の視界に、
ーーーー更に、体勢を崩したネオの左足を巨大な斧が奪い攫って行った。
「あがっっ…!?」
熱と共に、左足の感触が無くなる。
「獲ったぞ!!!その血肉ッッッ!!」
狂気的なフォリー壊の叫びと共に、彼の〈星の腕〉が伸びて、ネオの斬り落とされた右腕と左足を掴んだ。
そして、彼は掴み取ったネオの足と腕を、自分の胸元ーーーーいつの間にか剥き出しになっていたケテルの心臓に、直接突き刺す。
ネオの手足が溶ける様に吸収され、ケテルの心臓を中心に迸った虹色の光が、フォリー壊の全身を駆け巡る。
彼の機械の肉体が、内側から膨れ上がる様に巨大化し、オーロラの様な光が激しく渦巻いた。
広げられた壊星ノ翼の皮膜に、虹色の血管のような紋様が浮かび上がり、天を貫かんばかりに翼が大きく伸びていく。
「ふふっ!ふははははっっ!!!素晴らしい!素晴らしいぞッッッ!!!私の力がこれ以上ない程高まっていく!!」
天に響き渡る、フォリー壊の歓喜の声。
覚醒者たるケテルの心臓を有し、星の子であるネオの力さえも取り込んだ彼は、遂に紛う事なき『真の神』へと至ったのだーーーーーーーー
「ーーーあぁ!分かる!!解るぞ!!世界の全てが!星の運命が!!コレが……コレが神の知識!!ーーーー最後の審判も、間も無く終わるッ!!コレで、私は遂に創星を成し遂げられr」
狂喜に嗤っていた
「あ……??」
突然首を折られたフォリー壊は、何が起こったか分からず硬直する。
ボコッ……ボコボコッッッ…!!
「こ、コレはーーーーーーーー」
彼の剥き出しになった心臓が、蠕動している。
ボコッ、ベキッ、ズリュッ………
そして、みるみる内に心臓を中心として肉の芽が出現し、成長して2本目の腕となった。
そしてそれが、フォリー壊の顔を掴む。
……ボコボコボコッッッ……!!!
ーーーー続いて、2本の腕の間から
「ーーーー貴様……まさかーーーー!!」
驚きに目を見張るフォリー壊の前で、まるで寄生蜂が宿主の身体を突き破って生まれるが如く、『全裸の男』がフォリー壊の胸から腹部を突き破って現れる。
「ーーーーそう……その『まさか』ですよ。ドクトゥール・フォリーィ……。」
現れた男は、フォリー壊の頭部を掴んだままニタリと微笑んだ。彼を睨みながら、フォリー壊が叫ぶ。
「貴様ァ!!ーーーー何故、何故肉体を手に入れられたのだッ!!
ーーーーフォリー壊の内部から出現した男……『天聖ケテル』は、フォリー壊へ軽蔑の籠った視線を向けた。
「何故って……貴方がしてくれたのですよ??ネオの血肉をくれたのは、貴方じゃないですか。くくくく………。」
ケテルは笑いながら、フォリー壊の目と鼻の先で勝ち誇った様に曰う。
「貴方は知っていた筈。ーーーー心臓こそが生命の象徴であり、自己の存在証明なのだと。……貴方は1つ失敗を犯した。心臓の存在価値を知っておきながら、自分の
フォリー壊の虹色に輝いていた瞳が、大きく見開かれる。
「ッ!ーーーーそうか…!ネオの力が、お前を呼び覚ましたーーーー」
「その通りです!ネオの血が、肉が、私に再び甦る力を与えてくれたのですよぉッッ!!」
ーーーーいつの間にか、フォリー壊の全身を包んでいた虹色の光が、ケテルの身体へ移っていた。
彼の後頭部に浮かぶ
その体も、嘗ての様な屍肉の色では無く、血の通った艶やかな肌色へと変わっていた。ーーーーこれに関しては、元に戻ったと言うべきか。
ーーーーーーーーバサッ!!
ケテルの背中から、七色に輝く12枚の天使の翼が伸びる。
同時に、フォリー壊の背中から〈壊星ノ翼〉が消失した。
「カハッ…。なるほどな……コレは、確かに私の失敗か…っ。」
心臓と神の力を奪われ、反動で息も絶え絶えとなったフォリー壊が、消え入りそうな声で呟く。
「……だが……サンプルと、データは採れた…!科学とはトライアンドエラーの繰り返しによって成り立つ…。ーーーーこのーーーー実験結果もーーーー次に活かせーーーーーーーーーーーー」
…カーーーーーーーーーーンッッッッッッ!!!
次の瞬間にケテルが神々しい虹色の波動を放ち、フォリー壊の身体を内側から完全に破壊した。
科学を持ってヒトを超える事に取り憑かれた男は、自分が手に入れた筈の神の力によって屠られると言う、哀れな最後を迎えたのだ。
砕け散り、バラバラになって雲海に消えるフォリー壊の肉片を見つめ、ケテルはそっと呟く。
「次なんてありません。……貴方は私に負けた。ーーーーコレが、敗者に相応しいエンディングです。そもそも、偉大なる神が創りたもうた世界を、貴方の様な不敬なるゴミクズが好き勝手しようなど、烏滸がましいのですよ。」
そう言ってから、ケテルは燃える星の花を背にして、虹色の翼を広げた。
空が急速に暗くなっていく。
………夜が、朝を呑み込んでいく。
「ーーーー
燃える星の花と、これから永遠となる夜空を見上げながら、ケテルは崇高な物を拝んでいるかの様に両手を合わせた。
「
ケテルの顔が、醜悪な笑みに歪む。
「さぁ、世界を終わらせましょう…!!新しきの為に!」
世界を自在に操ろうとしたフォリー壊は死んだ。しかし、世界を取り巻く現状は何も変わっていない。
世界の命運を握る者がフォリーからケテルに変わったとて、世界の滅びは止まらない。
むしろ、ネオが倒れた事で事態は酷くなっている。
ーーーー右腕と左足を失って、気絶したまま空から落ちていくネオ。
遥か上空で、フォリー壊より神の力を取り戻したケテルーーーー否、『シン聖・ケテル』が世界に向かって宣告した。
「
…お疲れ様です。
次回で最終回にする予定なので、よろしくお願いします。
…キリの良いところまでやろうとしたら、書きすぎた………