モンスターストライク 〜星ノ呼ビ聲〜   作:犬社長

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…最初に言っておきます。最終回じゃないです()無理でした()

あと、今更気付いたんだけど、アルセーヌの存在忘れてた()
104話を最後に、彼女登場してないよ。どうすんのコレ。

まぁ…描写してないだけで、壊獣達とちゃんと戦ってたって事にして下さい。……ユルシテクレメンス。





108話〈HOPE OF THE WORLD 〉

 

 

 

 

 

「ネオさぁぁぁぁぁんッッッッ!!!!」

 

 

 

終焉の黄昏に響く、ニュウの声。

 

 

 絶級達との戦いを放り出し、ニュウは死にもの狂いで空から墜ちるネオに向かって飛んでいた。

 

 空を飛ぶ鯨を交わし、鹿とペンギンの群れを押し退けて、ニュウは墜ちるネオの身体をキャッチする。

 

抱え込んだ彼女の体は、驚く程冷たかった。

 

「不味い…!出血が!ーーーーネオさん!死んじゃダメですっ!!目を開けて下さい!!」

 

ペチペチと彼女の頬を叩くが、反応は無い。

 

 足と腕を一本ずつ失い気絶した彼女は、瀕死状態に陥って居たのだ。

 

「……ウソだ…嘘だ…こんな事ッ…!」

 

 目を震わせながら歯を食いしばるニュウの遥か頭上から、ケテルの声が降ってきた。

 

「ーーーーおやおや…。ニュウではありませんか……。」

 

「ッッッ!!」

 

 顔を上げたニュウの前に、虹色の翼を広げたケテルがユラリと現れる。

 

「ケテル……?!何でお前がーーーーフォリーはどうなったんだ!!」

 

 壊獣との戦いを繰り広げていたニュウは、ケテル復活を知らない。

 

ーーーー傷ついたネオを抱き、混乱しているニュウに向かって、ケテルは静かに腕を伸ばした。

 

「愚かなフォリーは私が殺しました。ーーーー奪われていた神の力も取り返したので、もう私を止められる者は居ません。……さぁ、ネオを此方へ。」

「…っ!」

 

ニュウは、反射的にネオを庇う様に抱きしめる。

 ケテルは静かな微笑みを浮かべながら、ニュウに語りかけた。

 

「良いのですか?ネオはこのままでは死んでしまいますよ??ーーーー私なら、神の力を持つ私なら、ネオを回復させる事が出来ます。如何ですか?私に渡してはくれませんか??」

 

 ニュウは微かに躊躇いを見せたが、すぐに躊躇いの感情を打ち消してケテルを睨み直した。

 

「………断る。ーーーーそうやってネオさんを手に入れて、何をするつもりだ。ーーーーお前は世界を如何する気なんだ!」

 

ケテルはため息を吐いた。

 

「はぁ……。全ては貴方達のためだと言うのに、聞く耳を持ちませんねぇ。ーーーー不敬なるフォリーを殺し、私は世界に最後の審判を下す権利を手に入れました。権利を手にしたからには、やるべき事が有るのですよ。」

 

彼は静かに話し続ける。

 

「先ず前提として、神は滅びを望んでいます。ーーーーそれが神の意思ならば、私たち〈天聖〉はそれに従いましょう。………しかし、滅びが執行された後の世界については、『創星を成す者(新しい神と成った者)』に一任されている………」

 

ーーーーケテルの顔に、悦びの笑みが宿った。

 

「ーーーーならば、私は私の願う世界を創りたい。……私が願い創星する〈新世界〉ーーーーーー()()()()()()()()()()()を。」

「は……?」

 

 呆気に取られたニュウの前で、ケテルは語り続ける。

 

「連邦に殺され、蘇った後で貴方達と戦って負け、惨めな心臓だけの姿となった私ですが、それでもずっと思考だけは巡らしていたのですよ。ーーーーそして、ある時一つの答えに辿り着いたのです。」

 

 そう言ったケテルは、両手を大きく広げた。彼の背後の星々が力強く輝く。

 

「ーーーーソレこそが、生きる事こそ悲しみであると言う結論なのですよ!ニュウ!ーーーー旧人類と新人類の争いも、お互いが生まれてきてしまったから起きた事!ならば、もう誰も産まれない様にして仕舞えば、悲しみは生まれない!苦しみも生まれない!ーーーーまさに、楽園の到来です!!」

 

ケテルは笑い続ける。

 

「星の花に集まった魂達を星の内に封じ、魂の坩堝の中で、全ての生命は1つの集合意識として永遠の眠りにつく……。ーーーーソレこそが、私が望む世界のカタチ。そうすれば皆んな1つになれます。……私とネオもね。」

 

 彼の最後の呟きに籠った、燃え上がる様な執着心を感じたニュウは、ケテルをジッと睨み付けた。

 

「ーーーーそれがアンタの望みか。…ネオさんを、諦めていないのか。」

 

 ケテルは微笑んだ。ーーーーそれはそれは喜びに満ち溢れた(かお)で。

 

「えぇ…!もちろん!!なかなかあのヒトは、私の元へやって来てくれない……こんなにも私は彼女への想いで、身を焦していると言うのに…!ーーーーしかも、せっかく前回は良いムードに成りかけたにも関わらず、貴方と言う邪魔まで入って…!!」

 

ケテルの顔が、喜びから怒りへと変わった。

 

 その蛇の様な双眸にぎらつく真紅の光が宿ると、彼の前に霊柩ノ大剣(コフィンブレード)にそっくりな大剣が現れる。

 

 それをケテルが握り締めると、真紅の光が剣に宿った。

 

「私にネオを渡して、死になさいニュウ!ーーーーネオの事……私の方が、先に好きだったんですからねぇぇぇぇぇッ!!!!」

「…!?」

 

 そして彼は、怒りのままに神速の薙ぎ払いを放つ。

 

 破壊と破滅の光を宿した刃が、ニュウの首を断ち切ろうと迫りーーーー

 

 

「ーーーーさせんぞッ!!」

 

 

ーーーー次の瞬間、その刃が横から弾かれた。

 

 

「む!?」

「えっ。」

 

響くケテルとニュウの呆気に取られた声。

 

 ケテルの剣を弾いた『人影』が、ケテルに向かって『杖』を向ける。

 

 その瞬間、杖からホーミング弾が放たれ、ケテルの体に命中して爆炎を噴き上げた。

 

 

ーーーーズドドドンッッッ!!

 

 

ケテルの身体を派手な爆発が包み込む。

 

ーーーー同時に、ニュウの直ぐそばに別の人影が現れた。

 

「ネオさんを此方へ…!私が治します!」

 

 現れた()()()()()()()()()()()、ニュウはほぼ反射的に瀕死のネオを手渡していた。

 

 

 一方で、立ち込める爆炎と煙の中から、()()のケテルが姿を現す。

 

 

 そしてケテルは、目の前に立ち塞がっている()()を睨むなり、嘲笑うような声を上げた。

 

「くっくっくっく………まさか貴方にまた会えるとは。生きて居たんですね?………()()()。」

 

 ケテルに話しかけられた老人ーーーー改め『()()()()()()』は、ケテルを険しい顔で睨み付ける。

 

「……久しぶりだのぉ。…ケテル。相変わらずの狂人ぶりだな。お主は。」

 

 ダアトのゆっくりとした声に、ケテルはニヤニヤとした笑みを浮かべながら口を開いた。

 

「くくくく……貴方も変わっていない様ですね、ダアト。……しかし、本当に驚きましたよ…。ビナーと共に俗世を捨てて、遠くへ行った事は存じていましたが………一体、今まで何処に隠れていたのです?」

「…自然の中で、穏やかに余生を過ごせる所じゃよ。もう出来なくなったがな。」

 

 ダアトは油断なく杖を構えたまま、ケテルにそう返事を返す。

 

……2人の間の空気が、次第に歪んでいく様な気さえした。

 

 

 

「ーーーーニュウさん。今のうちに此処から離れましょう。…ケテルとダアト様の戦いに巻き込まれる前に。」

 

 ふと、呆気に取られながら2人を見ていたニュウの隣から、桃色の髪の女性が静かに囁いて来る。

 彼女の腕の中には傷付いたネオが抱かれており、桃色の暖かな光が、ネオの身体を包んでいた。

 

「…そ、そうですね…。」

 

 ニュウは頷きながら、その場から離れた。ーーーー桃色の髪の女性に手を引かれる様にして、直ぐ近くのセラムの根の上へ降り立つ。

 

 根はだいぶと輪郭がぼんやりとしていたが、それでもちゃんとニュウ達を上に乗せてくれた。

 

 着地するなり、ニュウは女性に頭を下げて礼を言う。

 

「…あの、ネオさんを…ありがとうございました。ーーーーでも、貴方達はいったい…??」

 

 その問いに、女性は空に浮かぶケテルとダアトを見つめながら答える。

 

「私はビナーと申します。ーーーーそして、あの方はダアト。…どちらも、嘗て〈天聖〉と呼ばれていた者です。」

 

 その名前に、ニュウは聞き覚えがあった。……行方不明だった間の事をネオが話してくれた時、この名前が話に出てきたからだ。

 

「ビナー…ダアト……。樹海で、ネオさんを助けてくれた元天聖ですね…!?」

 

ビナーは静かに頷く。

 

「はい。」

 

ニュウは、納得が行ったかの様に何度も頷いた。

 

「そうか…!貴方達が、あのネオさんの命の恩人だったんですね……ありがとうございます。会ったら、いつか御礼が言いたいと思ってたんです。」

「…いえ。私は大それた事はしておりません。あの時の礼なら、是非ダアト様に。」

 

ビナーは謙遜する様に首を振った。

 

一方で、ニュウはふと浮かび上がった疑問を口に出す。

 

「ーーーーあれ?しかし貴方達は、樹海の奥地である渓谷に居た筈ですよね…?ーーーーどうやって〈浮遊大陸〉の元まで?」

「その事ですがーーーーーーーー」

 

 ネオを能力で治療しながら、ニュウへ説明を始めたビナー。

 

 

ーーーーそれと同時期に、天空でダアトと向かい合うケテルも、ダアトに同じ問いを問いかけていた。

 

 

「ーーーーダアト。…なぜ、貴方は此処に来れたのです?貴方は、人の手の届かない未開の大地の奥深くへと身を隠した筈。……貴方が此処に近づいて来た気配すら無かった。どうやったのですか??」

 

それにダアトはサラリと答える。

 

()()()()()()()()()()()()()()()()()。……今の世界は全てが1つになり始めておる。概念や魂はもちろん、力さえも。…全ての力が星の花の元に統合されるのならば、星の花にアクセス出来る我々新人類は文字通り()()の力を引き出せる筈。…それに賭けたのだ。」

 

ーーーーそう。今の世界は、文字通り何もかもが〈星の花〉へ集中し始めていた。

 

 ネオが使う武器にアミダやハレルヤの武装が混じった様に、或いはフォリー壊がネオと同じ必殺技(ストライクショット)を使えた様に、今まで個々に宿っていた力が、全て1つに纏まって星の花へと回帰している。

 

 それをダアトは世界の誰よりも早く理解し、それを利用した〈ワープアビリティ〉を発現させて、〈渓谷〉から浮遊大陸まで一瞬でビナーを連れてやってきて見せたのだ。

 

 

「……なるほど。流石ですね。頭の回転の速いお方だ。」

 

ケテルが、微かに微笑みを漏らす。

 

 ワープを使えない筈のダアトが、ワープを使って此処まで来た。

 同じように、世界中の新人類達にも〈力の統合〉の影響が及んでいる筈だ。

 

しかし、それに気付くかどうかはまた別の話。

 

 ネオとフォリー壊(ケテル)は戦いの中でそれに気付いたが、ダアトはそうせずとも気付いた様だ。…その理解力の高さに、ケテルは素直に彼を賞賛していた。

 

「…虫の知らせさ。僕はちょっとばかし、勘が鋭いんだよ。」

 

 嘗てネオに言った事と似たような事を、ケテルへ言ったダアト。

ケテルは嘲笑うように笑った。

 

「くくくく……。ええ…その感の鋭さは確かに素晴らしいです。ーーーーしかし、正直言って今の貴方では私を止められませんよ??何故なら、私は神の力を持っているのですから。……ただの人間の貴方が、私を止めれる筈もありません…!無駄死にです!」

 

 戦う前から、既に勝ちを確信しているかのようなケテルに、ダアトは杖を向けて言い放つ。

 

「やってみなければ、何も分からんだろう?ーーーー僕の力は物理的な能力じゃない。ーーーー君の『肉体』は確かに神になったのかも知れないが、果たしてその『心』はどうかな??」

 

そうダアトが言った瞬間、杖が明るく輝いた。

 

……そして、その光がケテルの双眸にも映し出される。

 

「…………ほぅ?」

 

その時、自分の体にケテルは違和感を覚えた。

 

ーーーー自分の剣を持つ腕が、意思に反して勝手に上がっていく。

 

……そして、ケテルの腕は彼自身の首に剣を向けていた。

 

「…これは……私を操っているのですか…??」

 

 ケテルの少し驚いたような声を他所に、ダアトが杖をケテルへ向けながら口を開く。

 

 

「ケテル。『自害しろ』。」

 

 

 ビクンッ!ーーーーと剣を持ったケテルの腕が痙攣したように動き、首筋を真横に薙ぎ払った。

 

 

「おやーーーーーーーー」

 

 

ーーーーーーーーザクッ

 

 

ケテルの首が、ケテルの胴体から切り離される。

 

 

 彼はダアトの術によって精神を洗脳され、自らの手で自らの首を切り落としたのだーーーーーーーー。

 

 

 

 

 

◇◆◇

 

 

 

 

 

 

 ケテルが強制自刃した時、そこから離れたセラムの根の上では、ビナーが傷付いたネオを治療していた。

 

 淡い桃色の光がネオの体を覆っている。ビナーは彼女に両手を向けて目を閉じ、彼女の回復に集中している様だ。

 

 ネオは未だ目覚めない。ーーーーその切り落とされた右腕と左足には、特に強い治癒の光が纏わりついていて、少しずつ傷口が盛り上がるように手足が再生し始めている。

 

「……かなり失血が酷い。ーーーー切断された手足は、断面が非常に綺麗なので直ぐ治ると思いますが、失った血の回復には少し時間が掛かりそうです。…手足が治っても、暫くは目覚めないかもしれません。」

 

 ビナーがネオに癒しの力を送りながら、ニュウにそう話しかけた。

 

「……そうですか…。」

 

暗い顔で俯くニュウ。

 そんな彼を安心させる様に、ビナーが語り掛ける。

 

「ーーーー大丈夫ですよニュウさん。安心して下さい。少なくとも、ネオさんが死ぬ事はありません。それは保証しますから。ーーーーそれに、失った血液も、私の癒しの力で回復出来ます。何も問題はありません。」

 

 そういう彼女の顔は、確かな自信に満ちていた。…ならば、その言葉を信用しても良いのだろう。

 

そうニュウは思って、ビナーに頷いて見せた。

 

 ダアトがケテルとどれだけ戦えるか分からないが、ネオが目覚めればダアトやビナーと協力してケテルと戦える筈だ。

 

「ーーーーあと、今のうちに貴方にも癒しの力を与えておきましょう。…連戦で消耗している筈ですから。」

「…!」

 

 そうビナーが言って、ニュウにもサッと片手を振って見せた。

 

「これは……暖かい……!」

 

 ビナーの癒しの力に包まれたニュウは、目を見開く。

 

 重機関銃(ヘビーマシンガン)モードの連続使用による疲労や、絶級との戦いで受けたダメージが、あっという間に癒やされるのを感じていた。

 

…流石は回復特化の能力と言えよう。

 

「おそらく貴方はそれで大丈夫でしょう。あとは、ダアト様がどれだけケテルを足止め出来るかに懸かっています。」

 

ビナーは実に真剣な顔をしていた。

 

「一瞬見ただけですが、今のケテルの力は恐ろしく高まっている…。ダアト様でも、危ないかもしれません。」

 

 そう言ってビナーは、癒しの力を注ぎ込んでいるネオに目を向ける。…既に、切断された手足は殆ど再生している様だ。

 

「ーーーー貴方とネオさんは、文字通り世界最後の希望となろうとしています。もしもの時は、頼みましたよ。」

 

 彼女の途轍もなく真剣な顔に、ニュウは強く頷いた。…未だ戦いを繰り広げているであろう、自分の仲間達の事も頭を過ぎる。

 

 此処でケテルに自分達が敗北してしまえば、ケテルが星の花に辿り着く者となってしまい、彼の理想の世界ーーーー誰も産まれない世界が完成してしまうのだ。

 

 今の仲間達、オーステルンやアステールの人々ーーーーひいては世界中の人類達の抵抗が無意味なモノになってしまう事。

 

ーーーーーーーそれだけは、何としてでも避けなければならない。

 

そうニュウは改めて覚悟を決めたのだった。

 

 

 

ーーーーそして、場面はダアトの元へ戻る。

 

 

 

 

◇◆◇

 

 

 

 

 

ーーーー斬られた首が、空を落ちていく。

 

 

 それをダアトは黙って見詰めていたが、やがて崩れ落ちるケテルの胴体に背を向けた。

 

「……さらばだ。ケテル。君が狂気の道へ進んでしまったのは、止められなかった僕の責任でもある。……でも、ソレも此処までだ。さようなら。ーーーー本当は君達と…もっと良い世界を作りたかった………。」

 

 そう呟いて、ビナーの元へと行こうとするダアト。

 

 彼の呟きを聞く者は、誰も居ないーーーーーーーー筈だった。

 

 

 

「ーーーー何処へ行こうと言うのです?」

 

 

 

「なッ?!」

 

 

ーーーードスッッッ!!

 

 

 ダアトの胸から、鮮血に染まった剣の切っ先が突き出す。

 

ーーーー手から滑り落ちる杖。そして、彼の口から赤黒い血が零れ落ちた。

 

 

「かは……ッ!」

 

 

 『信じられない』と言わんばかりに目を見開くダアトの背後では、()()()()()()()()がニヤリとした笑みを浮かべていた。

 

「ーーーーなん、だと……!?確かに僕は、君の首をーーーー」

「……えぇ。確かに私は首を斬られました。」

 

ケテルが笑みを浮かべたまま口を開く。

 

 その首には、確かに斬られたと思わしき傷が付いていた。しかし、みるみる内にその傷も消えていく。ーーーー首と胴体が繋がっていくのだ。

 

「しかしねぇ、ダアト。ーーーー()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()。」

 

 ケテルが、片手で首の位置を微調整しながら、そうダアトに告げる。一方のダアトは、視界が急速に闇に閉ざされていくのを自覚していた。

 

(ーーーーマズい……意識が……。彼は……僕の想像以上に、世の理を超越してしまっていたーーーーーーーー)

 

 後ろから剣で心臓を貫かれたダアトの耳元で、ケテルは勝ち誇った様に囁く。

 

「……神に人の常識など通じませんよ。ーーーーさぁ…星に還り、安らかに眠りなさい。そして、もう2度と、生まれて来ないでくださいね??」

 

 

ドシュッッ!!!

 

 

 

ーーーーそして彼の胸から、ケテルは素早く剣を引き抜くのだった………

 

 

 

 

 

 

 

◇◆◇

 

 

 

 

 

「ーーーーダアト様……!!!」

 

 

 ネオを治療していたビナーは、突然弾かれた様に顔を上げた。その目は大きく見開かれている。

 

 彼女は、ダアトの気配が、たった今消えた事を知覚したのだ。

 

「え…?」

 

 状況を掴めないニュウが首を傾げた時、上空から虹色の流星がコチラに向かって降ってきた。

 同時に、忘れたくても忘れ難い、あの粘つく狂気的な声が聞こえて来る。

 

「ソコのお二人さぁぁん!!なぁぁぁにをしているのですかねぇぇ〜?!」

「んな…!ケテルかっ!?」

 

ーーーー空を見上げ、顔を歪めるニュウ。…ココにケテルが来るという事は、つまりダアトが負けたという事に他ならない。

 

 

 身構えるニュウの直ぐ前に、ケテルが勢い良く着地した。

 

 虹色の衝撃波が辺りに吹き荒れ、ニュウとビナーの髪を揺らす。

 

 そして、ケテルは徐に片手に持っていたモノを、根の表面に投げ捨てた。

 

 ドサッーーーーと音を立てて落ちたソレは、心臓を貫かれ息絶えたダアトの屍でーーーーーーーー

 

「ダアト様ッッッ!!」

 

 ビナーが顔を歪めながら叫ぶ。…気配の消失から薄々察していたのだろうが、実際に息絶えたダアトを見た衝撃は大きかったのだろう。彼女の瞳には涙の粒が浮かんでいた。

 

「……ご覧の通り、ダアトは死にました。貴方達も、その後を追うのです。ーーーー抵抗しないのなら、痛くはしませんが…どうします??」

 

 そう曰うケテルに向かって、ビナーは手を突き出した。ーーーー片手はネオに向けたまま、もう片方の手でパチンと指を鳴らす。

 

 すると彼女の前に、彼女にそっくりな《分身》が2体現れた。ーーーーアルスラーンと同じ、分身弾の能力だ。

 

更に、ビナーはもう一度指を鳴らす。

 

 すると更に分身が2体出現し、全部で分身の数は4つになった。

 

「…《クロス分身弾》ーーーーですか。しかも、2回同時発動。…流石ですね。」

 

少しビナーを褒める様に呟くケテル。

 

「ーーーー行きなさい!!」

 

 ビナーが片手を振ると、4体の分身が一気にケテルに踊りかかった。

 

ーーーー四方から迫る、ビナーの分身×4。

 

しかし、ケテルは驚かない。

 

「ーーーー無駄ですよ。有象無象が寄ってたかって……。」

 

彼は小さな欠伸を1つして、片手を上げた。

上げた手の指先に、虹色の光が収縮する。

 

 

ーーーーそして、指を鳴らしながらケテルは呟いた。

 

 

「ーーーーーーーー()()()()()()()()()()()。」

 

 

 次の瞬間、ケテルの指先を中心にして、虹色の輪が周囲に広がっていく。

 

 輪に呑み込まれたビナーの分身は跡形も無く消え去り、虹色の輪は止まる事なくビナーとニュウに迫った。

 

 

「マズいッ…!」

 

 

 咄嗟にスピードモードの翼を広げ、ビナーと眠るネオを両脇に抱えてニュウは飛ぶ。

 

 さっきまでニュウ達が居た場所をサークルが通り過ぎ、そのまま広がった輪は、周囲のセラムの根すらも破壊して消失した。……軽く1、2キロは薙ぎ払われた様だ。

 

 

「なんて範囲の攻撃なんだ…!」

 

戦慄を覚えたニュウ。

更にケテルは追撃を放つ。

 

「ーーーー空を飛んだって無駄な事。……穿てーーーー()()()()()()()。」

 

ーーーー瞬間、ビナーが叫んだ。

 

「ニュウさん…!上ですっっ!!」

「上っ?!」

 

 空を見上げたニュウの瞳に、あたかも月から降り注ぐが如し虹色の閃光が映る。

 

「くそ…!!」

 

 翼を動かし、虹色の閃光を回避するニュウ。ーーーーしかし、降り注ぐルナミス・レイは1つだけでは無い。…空に浮かぶ金環日食の、あの黒い月の影から、雨の様に幾重にも降り注いでくるのだ。

 

「ーーーーまだ来ます!」

 

 ビナーの警告を聞きながら、ニュウは死に物狂いでルナミス・レイを回避し続けた。

 

………コレはもう、ランページ・ルナミス・レイとか、そういう類いだろう。

 

 そして遂に、彼の前に避けきれなかった虹色の極光が迫る。

 

 

「一か八か…!!ーーーー〈シールド〉ッッッ!!!」

 

 

 避け切れないと判断して咄嗟に展開した、何枚もの青紫の盾。

 

 しかし、何重にも重ねたはずのその盾は、薄氷を破るかの様にルナミス・レイに貫かれて、粉々になって消滅してしまった。

 

「嘘だろーーーーーーーー」

 

 迫る破壊の極光がニュウを包み込もうとした直後、()()()()()()()()()()()()()()

 

「えっ。」

 

ネオと一緒にビナーの元から弾かれるニュウ。

 

 お陰でネオとニュウはルナミス・レイからは逃れられたが、ビナーはその破壊の奔流に呑み込まれてしまった。

 

「ビナーさーーーー」

 

 思わず手を伸ばしたニュウの耳に響くのは、彼女の()()()()()

 

 

「……世界を、頼みましたよ。」

 

 

ーーーーズドォーーーーーーーンッッッ!!!

 

 

爆ぜる極光。

 

 

 大気が灼け、ビナーの影が一瞬にして消え失せる。後には、チリ一つ残らない。

 

 

「ビナーさぁぁぁんッッッ!!!」

 

 

ニュウの慟哭が空に響いたーーーーーーーー

 

 

 

 

 

 

◇◆◇

 

 

 

 

 

 

「……これで2人目。ーーーーあとは貴方だけです。」

 

 

ーーーーケテルの声が、ビナーが消滅した場所を呆然と見つめるニュウの耳に聞こえた。

 

「ーーーーくっ……ケテルッ!!」

 

 容易く2人の命が奪われた事に、湧き上がる怒りを隠せないニュウ。しかし、ケテルに迂闊に手は出せない。

 何故なら、自分は未だ目覚めないネオを抱えているのだから。

 もしもケテルの攻撃に被弾すれば、せっかくビナーに治療してもらった事が無駄になる。

 

(ネオさんの手足は、ビナーさんが完治させてくれた…!後は、失った血さえ戻ればーーーー)

 

 もう少し、もう少しでネオは目覚める所だった。しかし、頼みの綱のビナーが消されてしまったので、後はネオが自然に目覚めるのを待つしかないのかもしれない。

 

(くそ…撃つ手がこっちには無い…!今はーーーー逃げるしか……!!)

 

ーーーー逃げれるのか??

 

…そんな考えが一瞬チラつくが、ニュウはその懐疑心を押し殺して機械の翼を広げた。

 

 翼が青紫の光を帯び、凄まじい速度でニュウを空の彼方へ運んでいく。

 

(ネオさんが目覚めるまで逃げる!ーーーーそれしか、方法が無い!!)

 

 その胸にネオを抱きしめ、ニュウはケテルから遠く離れた所まで飛んでーーーーーーー

 

 

「遅いですねぇ。欠伸が出ますよ?」

「んな?!」

 

 

 遥か彼方に引き離したと思ったケテルが、すぐ隣に居た。最早ホラーだ。

 

そして、ニュウの翼が一刀の下に斬り飛ばされる。

 

「なッッッ!?」

「遅いとは言え、目障りですよその翼。死になさい。」

 

 そんな言葉と共に振るわれた剣の一撃を、何とか右足でケテルの腕を蹴る事で軌道を逸らし、更に片手に生成した〈拳銃(ハンドガン)〉でケテルの頭部を撃ち抜くニュウ。

 

 額を撃ち抜かれたケテルは仰け反ったが、直ぐに立ち直る。……ノーダメージだった。

 

「死なないのかよ!!」

「神を殺す弾丸などありませんよニュウ!!」

 

そう誇らしげに叫ぶケテル。

 

その時ーーーーーーーー

 

 

「ならコイツはどうだ?」

「おや?」

 

 

ーーーーズドドドドドドドンッッッ!!!

 

 

……唐突に、ケテルを火花の如し弾丸の雨が襲った。

 

 飛んで来たのは、火の属性光を纏った《ソリッドバレット》と、木の属性光を纏って緑色に光る《パラージショットガン》。

 

それを、ケテルは虹色の翼を盾の様にして防いだ。

 しかし、その隙にニュウが()()()()()()でケテルの元から引き離される。

 

「わっ…!?」

 

 突然、重力の向きが変わったかのように、空を()()()()()()()ニュウ。

 

 驚く暇すら無く、彼はドサリ…と誰かに受け止められた。

 

 

「よっと……。ーーーーギリギリセーフだな。その子が星の子で、アンタが星の子の守護者か。」

 

 

 ニュウをケテルから引き離した張本人が、ニュウを受け止めながらそう口を開く。

 

ーーーー背中に大きな鎌を背負った、ニュウの知らない青年だった。

 

「ーーーーあ…貴方は??」

 

 ニュウの問い掛けに、大きな鎌を持った青年は軽く名前を告げる。

 

「俺は(あかつき)。ハルーーーーハレルヤの、昔馴染みってヤツだ。」

「ハレルヤさんの??」

 

 ニュウが疑問を呟いた時、ニュウの側にハレルヤが飛んでやって来た。

 

「ーーーー大丈夫かニュウ!!」

 

驚くニュウ。

 

「ハレルヤさん!!ーーーーそれに……()()()まで!?」

 

ーーーーそう。ニュウの近くにやって来たのは、ハレルヤと暁だけでは無かったのだ。

 

「間一髪だったなニュウ!ネオは無事か?!死んじゃいねぇよなぁ??」

「バサラさん!!」

 

 空飛ぶ巨大な炎を纏った巨人ーーーー〈金剛如来〉の上に乗ったバサラが、ニュウに向かって手を振る。

 

「ネオ!ニュウ!遅くなってすまない!ーーーー我も加勢する!!」

 

 更に、金剛如来の手の上にはアルスラーンも乗っていた。隣に居る濃い赤髪の男(ライオ・アルスラーン)も、ニュウに向かって親指を立てている。

 

(いや、あの男の人誰!?)ーーーーそうニュウは思った。

 

「ーーーーあらあら。どうやら大変な事になっている様ね。…アレは天聖ケテルかしら?随分と色とりどりになったわね……ゲーミングPCじゃない。」

 

 そう言いながら、シールドンの上に優雅に腰掛けているのは、怪盗アルセーヌだ。

 

「あっはは〜♪言い得て妙かも〜♪♪」

「確かに派手ね…。目が痛いわ。」

 

 側には、同じようにシールドンに乗っているジャック・ザ・リッパーとポラリスも居る。

 

 

もちろん、それだけじゃ無い。

 

 

「ーーーーお二人とも、大丈夫ですか!?」

「ん。遅くなったけど、手遅れじゃ無くて良かった。」

「ニュウ君、大丈夫〜??遅くなってごめんねー!」

「援護に来ました!ーーー力になれるかどうかは、分かりませんが…!」

「ボクも頑張る!」

「サクアも〜!」

「…私もだ。共に戦おう。」

 

 アビス、カノン、アミダやキラリにetc……共に〈星の花〉を目指したニュウの仲間たちが、全員勢揃いしていたのだ。

 彼らは、みな其々の戦いを終え、ニュウの援護の為に集結したのである。

 

ーーーーなんなら、暁やライオのように、復活した嘗ての死者達が合流して、人数が増えていた。

 

 

(ーーーーなんか……増えてね…??)

 

 

 ニュウは暁に支えられたまま、呆然と集まった仲間達を見つめていた。

 

ーーーーその心に真っ先に浮かんだのは、深い安堵。

 

 たとえ敵が強大な力を持とうとも、決して自分は一人で戦っている訳では無いのだーーーーと、そう実感出来たのだ。

 

 

 

「ーーーーおやおや。有象無象が集まって……ご苦労ですねぇ。」

 

 

 

ーーーーバサリ……と翼のはためく音と共に黒煙の中から現れたケテルが、集まったイースター達を睥睨する。

 

 〈ソリッドバレット〉と〈パラージショットガン〉を受け止めた筈のその翼には、傷も微かな痕すらも付いていない。恐るべき耐久性だ。

 

「そー言うアンタは随分と偉そうだな。ケテル。…生きてたとは、嬉しく無いサプライズだぜ。」

 

 ケテルを睨み付けながら、煽る様な返事を返すバサラ。対するケテルは、ニヤニヤとした笑みを絶やさない。

 

「偉そう、ではありません。偉いのです。私は神ですよ?神。ーーーーその言葉の意味が分からないアナタ方では無い筈。…今すぐその場に跪けば、苦しみの無い慈悲ある死を与えましょう。…どうです??」

 

 そんなケテルの戯言を、バサラは『下らない』と言わんばかりに一笑した。

 

「はっ!何を言ってんだテメーはよぉ?…俺たちは神の下した最後の審判とやらを、止めに来たんだぜ??そんな俺達が『神』に従うとでも思ってんのか??」

「…おや?不敬ですよ。只の人間如きで。」

「何が人間如きだよ??人間の価値も分からない様な、お前に言われたか無いね。」 

「ーーーー言ってくれるじゃありませんか。滅びゆくだけの無価値な人間の分際で。」

 

 

突然始まったケテルとバサラの舌戦。

 

 暁に支えられたまま、それを見ていたニュウの隣にハレルヤが近付いて来る。

そして、彼はニュウの耳元でそっと囁いた。

 

 

「ーーーー今、どう言う状況か教えて貰えるか。ニュウ。」

 

 

 バサラがケテルと問答して時間を稼いでいる間に、ニュウから状況を聞き出して、作戦を練るつもりなのだろう。

 

「…はい。えっと、今はーーーーーーーー」

 

ニュウは、今の状況を彼に手短に伝えた。

 

 一通り彼から状況を聞き出して飲み込んだハレルヤは、理解したかの様に頷く。

 

「了解。……ならネオは、アルスラーンに託そう。ーーーー彼女が目覚めるまでの時間は、俺達で稼ぐんだ。」

 

ハレルヤの力強い声に頷いたニュウ。

 

「了解です。ーーーーしかし、ハレルヤさん達は大丈夫なんですか?その…体力とかは。」

 

 壊獣の群れや、絶級との戦いで消耗しているであろうハレルヤ達を気遣った言葉だったが、ハレルヤは静かに首を振って見せる。

 

「大丈夫さ。…世界が滅ぶか残るかの瀬戸際なんだ。何がなんでも、俺達は戦い抜いてやるさ。みんな、そのつもりだ。」

「そうですか…。」

 

 よく見れば、ハレルヤの服はボロボロで、身体は生傷だらけだ。

他のメンバーも、大体似たようなモノである。

 

ーーーーそれでも、彼らの瞳から光は消えていなかった。

 

世界の為に戦い抜く覚悟。

 

 此処にいる全員が、それを確かに持っていたのである。

 

 

ーーーーそして、それがケテルは気に食わなかったらしい。

 

 

 

「ーーーー止めましょう。…バサラ(貴方)と、こんな下らない会話などしていても、なんの意味もありません。」

 

ケテルは、吐き捨てる様に口を開いた。

 

「もう星の運命は決まったのです。貴方達に希望など無い…。なのに、なのに何なんですか!()()()()!ーーーーこの私に勝ち、世界を救う事が出来るなどと……思い上がりも甚だしいですよ!!」

 

 その叫びと共に、ケテルから噴き上がる激しい虹色のオーラ。

 

 彼の怒りと殺意が篭ったそのオーラは、強い精神の持ち主でなければ発狂してしまう様な、脅威的な威圧感を周囲に振り撒いた。

 

「「「…ッ!」」」

 

 ビリビリと大気が震えた気がして、ニュウ達は顔を顰める。しかし、誰も引き下がる事はしなかった。

 

それが、ケテルの激情にますます火を付ける。

 

「あぁ…もう良いでしょう…!ーーーーそこまでと言うのならば、見せてあげますよ!圧倒的神の力を!!」

 

 ケテルの虹色の翼が、空を覆い尽くさんばかりに広がった。

 周囲に七色の雷鳴が轟き始め、夜空に浮かぶ天の川が歪み出す。

 

 雲が渦巻き、突然台風の様な暴風が吹き荒れ始めた。

 

 一瞬にして悪天候へと変わった空の下で、ケテルが両手に剣を持ちニュウ達を見下ろす。…背後から差し込む虹色の後光が、ケテルの周囲を照らし出した。

 

 

「……貴方達の希望…。遍く全てを破壊してあげましょう!ーーーーそして星に還りなさい!!私の世界の為に!!!」

 

 

轟くケテルの怒りの声。

 

 

 そして身構えたニュウ達に向かって、虹色の破壊神が襲い掛かって来たーーーーーーーー。

 

 

 

 

 








…おかしいな。今回の話はダアトがケテルを足止めして、その間にネオが復活して最終決戦からの完結ーーーだった筈なのに、終わらねぇんだが!?

私の想像以上に、ダアトが瞬殺されてしまったのが悪い()
…コレでええんか???

多分この感じだと、次回では収まらない可能性が大なので、最終回は次々回に持ち越しですね。
(……サブタイのネタが切れそうなんだが??)

では、また次回!
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