……奪うモノ
ーーーーーーーーー1年と少し前。
連邦政府が所有する極秘研究施設に、1人の新人類の少女がいた。
少女の名はネオ。
その身に〈星のセラム〉を浄化する力を秘めた、唯一の新人類である。
さて、ここで疑問が生じる。ーーーーーーー即ち〈星のセラム〉の浄化とは、如何いう事なのか?…と言う疑問が。
答えを簡潔に言えば、『魂を再び概念的な存在に戻す事』……である。
本来、魂は存在すら不確定な概念的存在であり、目に見えず、触れる事も出来ないはずだ。そんな魂が〈星のセラム〉として実体化しているのはどう考えてもおかしい事なのである。
実体化した魂によって、この世界は大きく変わった。……人類の居場所はこの星から消えたのだ。
故に、魂を再び概念的なものに戻し、この世界を取り戻す事が可能な力たる〈星のセラムを浄化する力〉の持ち主であるネオは、生まれた時から世界の命運の全てを背負っていたと言っても、全く過言では無い。
連邦政府は、彼女に大きな期待を寄せていた。
当時から既に社会問題となっていた〈新人類〉達への差別、非人道的な人体実験などの数々。…ネオの存在は、〈新人類〉に対するあらゆる問題を過去の物にする事ができた。
『ネオさえ手中に収めておけば、世界は我々のモノとなる。』
政府はそう思っていた。
ーーーーーーーーーネオが連邦の手を離れるまでは。
始まりは、連邦政府加盟弩級移動要塞都市〈レシアル〉と同じく弩級移動要塞都市〈ブリタニア〉、そして新人類共同居住区(俗称:隔離地域)〈アステール〉、更に〈連邦政府極秘研究施設〉………この四ヶ所が同時に襲撃された事件である。
事件を引き起こしたのは〈星の花〉を神と崇める〈新人類優生思想〉……その中でも強大な力をもち、〈天聖〉を名乗る幹部達である。
後世において、〈新人類優生思想事件〉と謳われる様になるこの事件は、連邦に大打撃を与えた。
襲撃を受けた二カ国は半壊し、復興には時間が掛かった。更に〈アステール〉と〈極秘研究施設〉の襲撃の際には、数多くの新人類が連邦政府を裏切って〈新人類優生思想〉側に加入したのだ。
…これに関しては、新人類を同じ人とも思わない政策等を強行していた連邦政府の落ち度だろうが。
この時、襲撃を受けた〈極秘研究施設〉には…ネオがいた。
ーーーーーーーそしてその時、ネオは〈新人類優生思想〉の手に渡ったのである。
これが何よりの大打撃だった。……新人類こそが正当な星の支配者であり、旧人類は滅ぶべしーーーという思想の持ち主達が、『完成された新人類』であるネオを手に入れた時如何なるのか…誰にも予想が出来なかった。
連邦はすぐさま〈新人類優生思想〉に対し、反撃の狼煙をあげた。
そして激しい戦争の末、連邦は主犯たる〈天聖〉の征伐に成功したのだ。
連邦の情報によると、天聖の数は11人。…内、2人は方向性の違いから事件の前に〈新人類優生思想〉を去り、実際に事件を引き起こしたのは、9人であった。
この9人中、連邦は8人の死亡を確認している。
また、行方の分からない1人に関しても一年以上音沙汰が無い事から、死亡したと言う説が主流である。
……しかし、ネオは消えていた。ーーーーーーーーー彼女は、〈新人類優生思想〉から既に離れていたのだ。
ーーーーーーーーー連邦は彼女を見失った。…新年1月1日の事だった。
それから連邦政府がネオを再び見つけ出したのは、だいぶと時が経ってからだった。
……その頃彼女は反連邦政府団体〈イースター〉に所属していた。
反連邦団体〈イースター〉は〈新人類優生思想襲撃事件〉以降、急速に台頭し始めた組織である。
少数の団員からなる組織でありながら、個々の持つ力が非常に高く、常に世界を騒がせ続けている。……そんな一癖も二癖もある様な者ばかりが集う組織にネオが加わっていたのだ。
コレに連邦は手を出しあぐねた。…〈イースター〉が拠点と定める移動要塞都市〈オーステルン〉もまた、巨大な都市であり、簡単に戦いを吹っ掛ける訳にもいかない。
とは言え、〈オーステルン〉を刺激しない様な小さな兵力では、ネオを〈イースター〉から奪取できなかった。……ネオ個人の高い戦闘力に加え、彼女のバックには〈イースター〉の面々が控えて居るのだから。
以来、連邦は諦めたのか大きく出る事も無く、今日までネオの日常…新しく手に入れた日常は続いている…。
◇◆◇
「ーーーーーーーま、そんな感じでネオは俺たちの仲間として、今まで此処で過ごしてる…って感じだね。」
ハレルヤは話をそう締めくくった。
ニュウは無言で頷く。…話は余り長くはならなかった。
「…流石に全て知ってる訳じゃ無いけれど、ネオから直接聞いた話とかも合わせたら大体こんなものかな?……長話は苦手なんだけど、ちゃんと伝わった?」
「ええ、充分っす。」
なら良かったーーーと、ハレルヤは笑った。そして途中だった歯磨きの続きをしに、洗面台の方へ去って行く。
……朝の光が差し込む二階の大部屋で、ニュウは空を見上げた。
(ネオも長い間、不自由の中で苦しんでいたんだ…………)
…差し込む光は眩しいのに、彼の顔は夜の様に暗くなった。
(…………俺は、そんな人に
ーーーーーーーーーさて、本当に連邦は諦めたのだろうか?ネオを取り戻す為に、〈新人類優生思想〉と大規模な戦争まで始めたあの連邦政府が?巨大とは言え、たった一機の移動要塞都市が陥せないからと言って指を咥えて眺めるだけだろうか?
ーーーーーーーーー違う。
ーーーーーーーーー全く持って違う。
……正面から上手くいかないのであれば、裏をかけば良いのだ。ーーーーーーーーー連邦は既に次の手段を考案していた。
……………それこそが、
新人類の中でも高い能力を買われ、〈連邦政府新人類部隊〉に編入されていたニュウに、政府は取引を持ちかけた…………。
連邦はきっと、ニュウが自由を求めていたのを知っていたのだろう。
…誰かの自由を奪って自分達の自由を手に入れる……それは良い事なのか、ニュウは迷えど断れなかった。
…彼は自由を渇望していたのだから…他の誰よりも、みんなが自由の下で生きる事が出来る日を。
ーーーーーーーーーでも、それは今は
…
……
…………誰かの自由を奪って、俺たちは自由になる…それしか、道は無いんだ。
2階に差し込む朝の光に照らされて、彼の姿は影の様に浮かび上がっていたーーーーーーーーー
設定は余り膨らませないほうがいい。…風船みたいに弾け飛んでしまうから…………
モウオソイケドネ。