モンスターストライク 〜星ノ呼ビ聲〜   作:犬社長

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19話 〈地上へ〉

 

 

 

◇◆◇

 

 

……浮かび上がる数多の仮想ディスプレイに、空の映像が映し出されている。

 

「…前方、異常なーし。」

 

誰かがその映像をザッと眺めながら、呟いた。

 

「了解。…進路このまま。」

「ラジャー!」

 

 別の誰かがソレに答え、仮想ディスプレイが部屋のあちこちへ散っていく。

 

 

…ソコは、まるで船の操縦室の様な場所だった。

 

 

 ズラリと並べられた幾つもの計測器や、操舵輪。室内に居る人達も、皆ピシッとした青っぽい隊服の様な物を着ている。

 

 

 

………ここは、〈オーステルン 中枢部 移動要塞操縦室〉。

 

 

 

 万を超える人命を乗せ、〈星の瘴気(セラム)〉に満たされ棄てられた大地を航行する移動要塞都市。その進路を決定する重要施設である。

 

 そんな部屋の真ん中に、一際目立つ格好をした白髪の男が堂々と鎮座していた。

 

 彼の傍らにあるのは大きな操舵輪。…彼が被る帽子には、〈艦長〉の2文字。その帽子の上にはサングラス。

 

 

……彼の名は〈ゼウス〉。

 

 

 移動要塞都市〈オーステルン〉の全権を握る、事実上のトップである。

 

 

「ーーーー!!……ゼウス艦長!!」

 

操作室にいる1人が、彼に声をかけた。

 

「…お?なんだ??どうかしたか?」

 

 首を傾げた彼の前に、仮想ディスプレイのウィンドウが開く。

 

……オレンジに点滅するソレは、外部から何かしらの通信が〈オーステルン〉に向かって送られている事を示していた。

 

「……不明信号…発信源は?」

 

「南西に20キロ。……地上からです。」

 

「…ほぉ?ーーーなら、遭難信号の可能性が高いな。…どっかの航空艇が不時着したって感じか。」

 

 髭の生えた顎をさすりながら、ゼウスは呟く。彼の部下の1人が口を開いた。

 

「…信号の発信源近くには、高濃度の〈星のセラム〉が滞留しています。ーーー我々では、接近が困難です。」

ゼウスはため息をついた。

「…ああ、そうだな。まったく……旧人類にとっては、生き難い世界になったモンだ。じゃあーーー…」

 

 

…ピロリン♬ーーーその時ゼウスの服の中から、携帯の鳴る音が聞こえて来た。ゼウスの顔がビクッとなる。

 

「げ、(ヘラ)からメール来ちまった。…1分以内に既読つけて返信しないと殺される。ーーーーーーーあ〜…遭難者はなんとかしといてやれ。」

 

(((……束縛強い嫁持つと大変だな。)))

 

 若干冷や汗をかきながら携帯を忙しく弄り始めるゼウスを見て、誰しもがそう思った。

 

 

 

◇◆◇

 

 

 

星暦XXXX年 10月 2日

 

 

場所:〈オーステルン〉 繁華街郊外〈イースター本部〉

 

 

 

 その日、〈イースター本部〉にとある人物が訪れていた。

 

 

 

「バサラせんぱーい。……こんにちは〜〜。居ますか〜??」

 

本部一階にて、幼い少女の声が響いている。

 

ソレに答えるはバサラのダルそうな声。

 

「あぁ。…居るぞ、此処にな。ーーーーーーー何の用だサテライト。」

 

 階段の上で、頭だけを突き出したバサラが、訪問客……サテライトの方を見て呟いた。サテライトは小さく笑って階段へ足を踏み入れる。

 

「あ、居たーー。えへへ…別に、特に何も無いけどさー。暇だったから遊びに来たの。」

 

バサラがため息をつく。

 

「…はぁ。…此処にはお前の暇潰しになる様なモノなんて、何も無いぞ?」

 

…そう言いつつも、バサラはサテライトが2階に上がるのを止めはしなかった。

 

「別に良いよ〜。ずっとカノープスのトコ居るのも健康に悪いから。」

 バサラの脳裏にカノープスの薄暗い、ピザの箱が散乱した汚部屋が過ぎる。

「…あぁ、確かにな。」

 

 否定はせずに、バサラは呟いた。……此処だって、綺麗かと問われれば微妙なラインだが、アッチよりかはマシだろう。

 

「お邪魔しま〜す。」

 

 サテライトが足を踏み入れた2階の大部屋には、ニュウとカノンが居た。後からバサラが入って来て、コレで〈イースター〉組は3人になる。

 

「あれ〜?アミダ先輩とかは?」

 

「アミダ達なら繁華街に行ってるぞ。……ネオは知らんが。」

 

バサラが床に腰を下ろしながらサテライトに告げた。

 

「ふーん。…なんか1人初めて見る人が居るけど……誰ですか?」

 

ーーーサテライトにそう訊かれたニュウは、頭を下げた。

 

「こんにちは。俺はニュウって言います。…大体一ヶ月ほど前に此処に来ました。……貴方はーーー…もしかして、サテライトさん?」

 

少女ーーーサテライトは、頷いた。

 

「そうだよ〜。私のこと知ってるの?」

「…名前だけですがね。」

「ふーーん。そうなんだ。……ニュウ先輩ね。覚えとく!」

「ありがとうございます。」

 

 ニュウは再び頭をピシッと下げた。……サテライトがバサラにササッと近付くと、耳元で囁く。

 

「…なんでニュウ先輩は私にも敬語なの??…私小学生だよ?逆に調子狂うんだけど??」

「…真面目が服着て歩いてんだ。慣れろ。」

…バサラがそう囁き返した。

 

 

 

◇◆◇

 

 

 

 

 

「………しかし、もう随分寒くなったな。なぁサテライト。」

 

 バサラが、机の上に出してある煎餅を齧りつつサテライトに話しかける。

 

「そうだね。…特に今からはキツくなるよ。…〈オーステルン〉が北側に進路をとるから。」

 

 同じく煎餅を齧りながら、サテライトが返事した。横からコレまた同じ様に煎餅を頬張っているニュウが、口を挟む。

 

「…なんで今、北に進路をとるんですか?」

 

バサラが煎餅を噛み砕いてから答える。

 

「物資の補給だよ。……いかな〈オーステルン〉と言えども、全てを移動都市内で完結させる事が出来る訳じゃねぇ。都市機能の維持には、外部からの補給が必要不可欠なんだ。」

 

バサラの説明にニュウは納得して頷く。

 

ーーーーーーーー移動要塞都市内では、なるべく自給自足を行える様、生産システムが構築されている。しかし、全てが都市内だけで賄えるわけでは無い。……資源の潤沢な地ーーー即ち、地上からの定期的な補給が都市の維持には必要なのだ。

 

…特に石油、鉄鋼、天然ガスなどの地下資源は、高所を行く移動要塞都市では手に入り難い物モノ故、地上からの補給が必要である。

 

「あぁ、なるほど。…何処の移動要塞都市でもそうですね。…因みに〈オーステルン〉は何処で補給を?」

 

 それに答えたのは、黙って煎餅をちびちび齧っていたカノンだった。

 

「星屑の街〈アステール〉。……彼処が、私たちの生命線だよ。」

 

「〈アステール〉か……。」

 

ニュウは呟いた。

 

 

ーーーーーー星屑の街〈アステール〉。…世界で一番最初に、連邦の主導で興された〈新人類共同居住区〉である。

 

 

 そもそも、〈新人類共同居住区〉とはなんなのか?

 

 

 ざっくりと言えば、連邦政府が新人類の管理を容易にし、旧人類を遥かに凌ぐ力を持つ彼らをコントロールする為に作り出した街である。

 

 作った理由が理由ゆえ、〈隔離地域〉と言う蔑称で呼ぶ者も多い。今では地上だけで無く、連邦政府管轄の移動要塞都市にも存在する〈新人類共同居住区〉システムは、全て〈アステール〉から始まったのだ。

 

 

 ただ、現在〈アステール〉は最早連邦の管理下には無い。

 

 約一年前、〈新人類優生思想事件〉によって、〈アステール〉は連邦から解放されたからだ。

 

…しかし、〈新人類優生思想〉達による〈アステール〉の管理は、長くは続かなかった。連邦による反撃が始まったからである。

 

 結果、〈新人類優生思想〉達は連邦との戦争に敗北し、〈アステール〉は管理者が居なくなった。………もちろん、連邦は直ぐに〈アステール〉を取り戻そうとしたが、その間に割って入った者達が居る。

 

 

 

 それが、〈イースター〉であり、移動要塞都市〈オーステルン〉である。

 

 

 その時、少し連邦との間で一悶着あったが、〈新人類優生思想事件〉によって力が削がれ、疲弊していた連邦政府は、〈アステール〉の管理権を破棄し、退却した。

 

…こうして星屑の街〈アステール〉は、現在この星にある唯一の新人類の、新人類による、新人類の為の街となっている。

 

…昔、ニュウも住んでいた事があった。

 

 

「…でも、確かあそこって〈星のセラム〉に覆われ始めて存続が危ぶまれていた気がするんですが…。大丈夫なんですか?」

ニュウの疑問に、バサラは煎餅を皿に足しながら頷く。

「ああ……大丈夫さ。ネオが居るからな。」

 

「ーーーーあ!……なるほど…〈浄化する力〉か…。」

 

バサラは頷いた。

 

「その通り。ーーー俺たち〈イースター〉が〈アステール〉に歓迎された理由がソレだ。」

 

 バサラが手に持った煎餅を左右に振りながら、話を続ける。

 

「確かに〈アステール〉がヤバいのは事実だ。…だが、ネオのセラムを浄化する力は、〈アステール〉が高濃度の〈星のセラム〉に覆われる事態を食い止める事ができる。……アソコのネオ人気はすげぇぞ。…ネオの信者で新興宗教が一個できるな。」

 

カノンが、横でコクコクと頷いて口を開く。

 

「……彼等からして見れば、ネオは街の守護者でもあるから。…崇める人も多いよ。」

 

…そう言えば、〈オーステルン〉にも1人信者がいたなぁ…と、ニュウが思っていると、サテライトの背負っているランドセルから、何やら着信音の様な物が鳴り響いた。

「あれれ??……〈中枢〉からだ。なんだろ?」

 サテライトはランドセルの中から携帯を取り出すと、通話に出た。

 

「…もしもし〜。サテライトでーす。」

 

〈中枢〉ってなんだ……?と、ニュウが思っている間にも、話は進んで行く。

 

「うん。…うんうん。ーーーなるほど。…りょーかい、今〈イースター〉のトコに居るから、お願いしてみまーす。」

 

 ピッ…とサテライトが通話を切ったタイミングで、バサラが口を開いた。

 

「〈中枢〉……ゼウスの爺さんから頼みか?」

「うん。ーーー地上から救難信号を受信したから、救助に向かって欲しいって。」

 

バサラが片眉を上げた。

 

「ーーーーーほぉ?地上かぁ。…なら、助けに行ってやらねぇとな。〈ノーマン〉や、地上の動物達にヤられる前にな。」

 

そう言って、彼は立ち上がる。

 

「……行くぞ。ニュウ、カノン。いきなりだが、救助任務だ。行けるか?」

 

 ニュウは手についた煎餅の粉を払い落として立ち上がる。カノンも後に続いた。

 

「了解です。…行きましょうか。」

「…私も行ける。」

 

「オッケー。なら、私はここに残って、皆んなのサポートするね。」

 

そうサテライトが言って、ランドセルの蓋を開く。

 

ーーーすると、中から小さな丸いドローンが飛び立ち、ニュウ達の周りを回り始めた。

「おお。……これって、ドローン???」

「その通りだよ。ニュウ先輩。」

…いつの間にか、ランドセルの中からPCを取り出していたサテライトが、皆に説明を始める。

 

「…コレは私の目。先立って地上の情報を集めて、バサラ先輩達の携帯端末に送っとくから、救助者探しに役立ててね〜。」

 

バサラは強く頷いた。

 

「あぁ。…頼んだ。ーーーーーー行くぞ。」

 

「頼まれた〜!じゃ、いってらっしゃ〜い。」

 

 手を振るサテライトに見送られながら、ニュウ達は外へと向かったーーーーーーーーー……

 

 

 

 

◇◆◇

 

 

外ーーー〈イースター本部 駐車場〉にて。

 

 

「…バサラさん。一つ疑問が。」

 

 眩しい真昼の光に照らされ、目を細めながら、ニュウが先を行くバサラに問い掛ける。

「お?どうしたニュウ?」

「目指すのは地上ですよね?どうやって行くんです?…航空機とか無いのに……。」

 

ーーーニュウの疑問とは、どうやって地上に行くか…と言う物だった。移動要塞都市は高所に存在する。…一応、〈脚〉を伝って下に降りれなくも無いが、時間が掛かるし、危険だ。

 

 普通、こういう時はもっぱら飛行機などが役に立つが〈イースター〉が航空機を所持している様には、ニュウには思えなかった。

 

ーーーーー故の疑問だったのだが、バサラはニヤリと笑って人差し指を立てそれに答えた。

 

「ふっ。良い質問だな。……良いもん見せてやる、ニュウ。」

「……??」

 

 首を傾げるニュウに、バサラは両手を広げて無駄に広い駐車場を指し示す。

 

「なぁ、何でこんなに駐車場が広いと思う?ーーー俺たちは誰も、車なんて持ってないのに。」

 

 

ーーーーーーーーーゴゴゴゴゴゴ……

 

 

 ふと何処からか、地鳴りの様な音が聞こえて来た。…まるで、何かが下から迫り上がって来る様な……。

 

「…え。ーーーまさか……!」

「そこは危ないかもなニュウ。……一歩下がりな。」

 

ニュウはサッと一歩後ずさった。

 

 

 彼の前で、だだっ広い駐車場が左右に音を立てながらスライドして行く。

 

……やがて駐車場の中心に、大きな四角い空間が生じた。そしてその空間の下から、何かが迫り上がって来る。

 

「うそぉ………。」

 

唖然とするニュウの前で、ソレは姿を現した…

 

 

ーーーーーーー赤く点滅する警戒灯に、照らし出されて鎮座する鋼鉄製の機体。ニュウはソレがなんなのか、知っていた。コレは…………

 

 

「………オ、オスプレイ??…こんな物が駐車場の地下に格納されてたのか?!」

 

 

 ニュウの驚愕の表情を見たバサラが、満足げに笑って言う。

 

「その通り。ーーーコイツの名前は〈イースター号〉。俺達が所有する、唯一の大型航空輸送機だ。……あぁ、名前のセンスは気にするな。」

 

 最後の一言を小さく呟いたバサラは、ニュウに手招きした。

 

「乗りな。……地上まで連れてってやる。」

 

 

 

 





移動要塞都市が都市として機能している以上、トップと言うかリーダーと言うか、指導者は必要だと思ってましたが、誰にするかは最後まで決めかねてました。

……結局、トップなら最高神さまでいっか、って言う結論に至りましたとさ。

……絶対名前負けしてるよ。

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