そんなにモンストが好きになったのか。ウルトラマン。
…足元には虚空が広がっている。
…吹き付ける風に、羽織った黒い上着がはためく。
頭に掛けたヘッドホンから、心地の良い音楽が耳朶に響く。
掌に浮かび上がる、
(……暖かい。だんだん肌が光と一つになって行く……)
ーーーーーーー陽の光を浴びるのは好きだ。…古い記憶を光の中に葬り去ってしまえるから。
…こうしていると、時々
…♬♫♩♩♬♫♩……
「……聴こえた。…歌。」
ヘッドホンをして居ても、そこから流れる音楽を貫通して直接脳裏に響くかの様な、微かな歌。
ずっと昔から、自分にしか聴こえない歌がこの空を漂っている事を、私は知っていた。
…一体何の歌なのだろう?………この問いに答えが来る日は、きっと来まい。
「……はぁ。」
ーーーーーー歌は一瞬にして聴こえなくなった。いつもそうだ。…ため息を一つ吐いて、私は立ち上がる。
ちょうどその時、上着のポケットが振動した。…電話だ。誰から掛かって来てるかは、画面を見なくても分かる。
「……
私は電話に出た。その瞬間、
「もっしもーーーし!!ネオちゃーーーーん!?」
電話の奥から、明るくて活発な気配を漂わせる女の子の声が大きく響いて来て、私は思わず通話の音量を3段階ぐらい落とした。
「聞こえてる。…そんなに大きく叫ばなくても大丈夫。」
電話の主は快活に笑った。
「えっへへ〜。でも、そうやって大きな声で叫んで現実に引き戻しとかないと、ネオちゃんどっかに行っちゃいそうだからね。」
「…………………。」
軽く肩をすくめて、歩き出す。もちろん、通話は繋いだままで。
自分を見下ろすのは、青い空と、今自分が居る〈工業区域〉の細長いタンク達。
…この場には、今は自分一人しか居ない。
「ーーーーーーーと言うかさぁ…。前から思っているんだけど、
電話の向こうのやや心配そうな声に、私は軽くさっきまで居た場所を振り返ってから、返事を返す。
「…心配ありがと。落ちない様にはしてるから大丈夫。…それに落ちても、平気だよ。」
何なら、落ちても良いぐらいだ。
ーーーーーーーーーこの
私がそう考えたのを知って知らずか、電話の向こうの声がちょっとキツくなった。
「ーーーーーーーーーそうやって思っていても、もしもの事があると行けないじゃん!?……命は大事にしてね?」
「…分かってる…
そう言うと、電話の向こうで
「………ん。取り敢えず、帰って来てね〜。ーーー朝ご飯は出来てるよ。今日は何と!私が作っちゃいました〜!!偉い?」
「………えらい、えらい。」
「……テキトー言ってない?」
「言ってない。」
「ーーーーーーーーーま、良いや。じゃ、待ってるからね〜〜!」
……その声を最後にして、通話は終わった。私は携帯を上着に仕舞い込むと、歩き出す。ーーーーーー今の自分にとって、帰るべき場所へ。……
◇◆◇
ーーーーーーーーーXXXXX年。 この星は、未曾有の災害に包まれた。
…少なくとも、人間にとっては。
突如として地中、即ち星の中心より現れた巨大な自然構造物〈星の花〉と、その〈星の花〉から放たれる実体化して質量を持つに至った魂の残滓〈星のセラム〉が、この星の大部分を埋め尽くしたのだ。
〈星のセラム〉は、自然を急速に蘇らせ、動植物に進化と再生を促す。
ーーーそれだけなら良かった。……しかし、〈星のセラム〉にはもう一つの効果が有ったのだ。
それが、
この効果により、〈星のセラム〉に覆われた土地では、人間は一切住む事が出来なくなった。
また、一説では〈星のセラム〉が地上を覆った〈大災害の日〉に、この毒に侵されて死んだ人間の数は、30億にも及ぶと言う。
…更に、更にだ。
ーーーーーー〈星のセラム〉には、また別の効果があった。
それが、人類に対して敵対的な存在である〈壊獣 ノーマン〉を生み出す事……である。
〈ノーマン〉は、
目や鼻、口に心臓など、生命維持のための器官が存在せず、ただ人間を駆逐する為に生み出されたに等しい〈ノーマン〉を、人類は恐れ、同時に敵視した。……長い戦いの歴史の始まりである。
…一方で未だ星に留まり、広がり続けている〈星のセラム〉。人類はそれでも何とか生き延びようと、セラムの濃度の薄い場所や、空気よりもセラムの方が質量が重いという性質を利用して、地上から離れた所に〈空中都市〉を建設するなど、生き残るための知恵を絞り出した。
ーーーーーーーーーしかし、〈星のセラム〉は年々広がり続けている。一定範囲のセラム濃度が濃くなると、標高の高い場所にもセラムが漂って来る事になるので、何時迄も空中都市が安全…と言う訳では無い。
故に人類は生み出した……〈
空中都市と同じ高さを維持しながら、都市そのものが移動するので〈星のセラム〉の濃度が濃くなり次第、直ぐに場所を変える事が出来る様になる。…これによって、人類は高い安全性を獲得するに至った。
…そして、
ーーーーーーーーーこの物語の舞台も、数ある〈移動要塞〉の内の1つの上で繰り広げられる事になる。
◇◆◇
ーーーーーーーーー朝の光に照らされながら、ごちゃっとしたスラム街らしき地区を歩く、青年が1人。
ちょっと軍服風の白っぽい格好に身を包み、同じ様に白い色のワークキャップを深めに被って居る。
帽子の影から覗く瞳の色は紫。顔はまだ微かに少年らしい幼さが残る。
……彼は、特に何の目的もないかの様にフラフラと歩いていた。ーーーーーーーいちおう、目的はあるが。
そんな彼に背後から声が掛けられる。
「ハイハイハイ。そこのおにーさん…止まりなさい。」
青年が振り向くと、そこには警官らしき格好をした二人組が彼を指差して立っていた。
「…警察の方ですか?」
青年が口を開く。静かな、しかしどこか物憂げな声の響きだった。
「ーーーーーーーーー警察って程大した組織じゃないがな。…俺たちはこの移動要塞都市〈オーステルン〉の自警団だ。…おにーさんココの人じゃないよね?……何しに来たの?観光?」
青年は軽く笑った。
「…よく分かりましたね。ぼk……俺がココの人じゃないって。」
自警団の1人が肩をすくめた。
「ま、いっつもこの道通るのは似た様やつばっかだからな。……もし観光なら、ココをほっつき歩くのはやめた方が良い。ーーーーーーココはスラム街だ。見ての通り、治安は最悪だからよ。」
ま、観光な訳ないかーーーーーーと言って笑う自警団の2人。
青年は辺りを見渡して、成る程と頷いた。
「…確かにそうですね。ーーー実は昨日の深夜…日付的には今日か…ココに来たばっかりなので、まだ区域とか分からなくて。」
自警団の2人が頷く。
「…成る程。ーーーもしかして、マジで観光?こんなとこ来ない方が良いぞ?…この移動要塞都市がどんな都市か…分かってるのか?」
青年は首を縦に振った。…それは分かってる…十分過ぎるぐらいに。
「分かってます。ーーーーーーーーー連邦政府非加盟移動要塞都市〈オーステルン〉…かの有名な反連邦組織〈イースター〉の主な拠点として、世界にその名が轟いてますから。」
自警団の2人は顔を見合わせた。
「何だ。…知ってんじゃん。マジで何しきたんだよ…?ま、良いや。手荷物検査だけ協力してくれるかい?…ウチは入管とか無いからさ。ヤバイもん持ってないかだけ、確認させてくれや。」
「あぁ、良いですよ。」
青年は両手を上に挙げて、自警団のチェックが終わるのを待った。
「あ、そうだ。身分証明するモノ持ってる?」
青年は自分の服の胸ポケットを顎で指した。
「ーーーーーーーーー胸ポケットにありますよ。」
「…じゃ、失礼。確認だけするな。」
自警団の1人が、彼のポケットから一枚のカードらしき物を取り出した。
「………普通二輪車免許。…へぇ、免許持ってんだ。珍しい。」
自警団の1人がそう言って、免許証に書いてある名前を読み上げる。
「N…E…W。…『ねぅ』?ーーーコレがお前の名前か?変な名前だなぁ。」
「ーーーーーーどういう言い間違えしてるんですかぁ!?」
あり得ない良い間違えに、思わず青年は突っ込んでしまった。
返された免許証を2人に見せる様に持って、彼は自分の正しい名前を2人に教える。
「Nーeーw。…
自警団1:どっちにしろ変な名前じゃね?
自警団2:それな。
ニュウ:名前についての文句は俺にこの名を与えた人に言って下さい。
追記2023.6.1 タイトルを変更 文章をごく僅かに修正